今年、デビュー10年目のシーズンを迎えた山本政聡騎手。その節目の年に岩手ダービーダイヤモンドカップをアスペクトで制した。昨シーズン限りで菅原勲騎手が引退し、岩手競馬の騎手は世代交代が進んでいるところ。まだ20代の山本政聡騎手は、その旗手になりうる位置にいる。
岩手ダービー馬との出会いは、偶然ともいえる縁がもたらしたものだったらしい。
これまで冬場は育成牧場に働きに行くことが多かったんですが、その年はたまたま行く予定がなくて、そうしたら櫻田浩三厩舎から手伝いに来てくれと言われたんです。それで、アスペクトとエスプレッソの調教も担当しました。そのときの印象は、エスプレッソは成長途上で、アスペクトは完成度が高いというイメージでした。
2011 年の岩手2歳戦線を牽引した2頭だが、対戦成績は山本騎手の印象どおり、アスペクトのほうが上だった。
ただ、気が弱いところがあるんですよ。慣れている盛岡では強くても、水沢でいまひとつなのは、その影響かもしれませんね。
2歳戦線の締めくくりである金杯で惨敗し、その後に移籍した南関東でも苦戦。しかしアスペクトは見事に立ち直った。
南関東から戻ってきたときは、馬に不安感があるような雰囲気でした。それでもだんだん調子が戻ってきて、ダービー前の追い切りのとき、普段は厩務員さんが調教を つけているんですけれど、その人が「すごい手ごたえで、オレでは乗れない」と言ってきたんです。ベテランのその人がそう言うなら間違いないなと思って、ダービーでは自信をもって乗れました。
晴れてダービージョッキーになった山本騎手。しかし2年前にはダービージョッキーになりそこねた経験がある。
マヨノエンゼルのときは、技術的にもまだまだで成績もいまひとつ。ダービー前のレース(七時雨賞)が、自分でもちょっとミスしたなと思える騎乗だったんですよ。それで本番は乗り替わり。経験と技術が伴わないとダメだと感じました。そういう苦い経験があったからこそ、アスペクトで結果を出すことができたんだと思います。
成績が向上していく騎手の多くは、それにつながる何らかのきっかけを礎にする。山本騎手の場合は、それがマヨノエンゼルでの経験だったのかもしれない。
僕がレースに臨むときに考えることは、馬の気分を損ねないようにしようということですね。馬が気持ちよく走っているときは反応が違うんですよ。先行馬に乗る機会が多いですけれど、いちばんに気をつけるのはそこですね。でも、本当に好きなのは差し、追い込み。後方からだと道中でいろ いろ考えながら乗ることができて、騎手としての面白みが感じられますから。
今シーズンは菅原勲騎手の引退後。次代のエースをめぐる争いは熾烈を極めている。
もちろん、自分たち若手が盛り上げていかないと、という意識はありますね。僕よりも若い騎手が攻める騎乗をしはじめていますし。以前は岩手の騎手は岩手だけで乗るのが普通でしたが、最近は外に出ていることもひとつの要因かもしれません。
山本騎手自身も岩手以外での経験が豊富にある。
初めて遠征した佐賀では、岩手とペース配分がまったく違いましたし、それにインコースから一気に追い上げることがあるというのもビックリしましたね。それで僕も岩手に戻って水沢でインからのまくりを一度だけやってみたことがあります。レース後に先輩騎手から「危ないぞ」と怒られましたけれど(笑)。
岩手には小回りで平坦コースの水沢と、広くて起伏がある盛岡という、違う表情を持つ2つの競馬場がある。
水沢では、本命でもコース適性的に微妙という馬がいる場合、その馬を内に入れないようにして力を出させなくすることができますが、盛岡だとそれは無理。盛岡では力量が下の馬を上位に持ってくるには、展開崩れを待つしかないというところがあります。だから、メンバー的にペースが速くなりそうと思ったときには、直線に賭けるという乗り方をするときもありますよ。でも最下級クラスになると、ほとんどが事前の予想ができないくらいの混戦。それなのに新聞紙上で本命印がたくさんあると、精神的にキツイですね。本命で負けると次のパドックでけっこうヤジられるんですよ。『学校にもう一回行ってこい』とか......。
そういったなかでも成績は確実に上昇。プロの世界の厳しさを乗り越えていくためには、やはり自身の努力が必要だ。
馬に乗ったのは教養センターが初めて。卒業するときも、卒業してからも、これで食っていけるという手ごたえはなかったですね。デビューしてしばらく低迷していましたし、もし所属調教師が引退することになるのなら、同時に僕も引退して牧場に就職しようかなと思ったこともあるくらいです。その頃がちょうど結婚のタイミングで、向こうの親から「騎手はちょっと......」とか言われたこともありますし。でもそこで、あと1年だけ乗らせてくれ、と頼んだんです。その1年間は、前の年に比べて本当にたくさん馬に乗りましたよ。冬は荒尾に行けることになりましたし、牧場でも仕事させていただいて。盛岡に戻っても他の厩舎を手伝わせてもらいました。それでだんだん結果が伴ってきましたが、これまで成績が上がってこなかったのは、努力が全然足りなかったからなんだと痛感しました。
水沢所属でデビューした弟に続き、末弟も船橋所属でデビュー。現役では日本唯一の三兄弟騎手である。
僕は子供の頃からあまりガツガツしているタイプではなくて。2番目(聡哉騎手)は僕がひとつ言う間に10 くらい言ってくるような感じで正反対。3番目(聡紀騎手)は僕と同じタイプという感じです。でも行ったのが南関東ですから厳しいですよね。ウチらが岩手で名前を上げれば、3番目にも貢献できると思いますし、2人でもう少し上位に行ければと思っているんです。
長兄らしく、弟を気遣う発言がいくつか。それでも立場はプロ同士。自分が岩手競馬を引っ張る気持ちで、そして一気に頂点まで到達するほどの飛躍を期待したい。
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山本政聡(岩手)
1985年6月28日生まれ かに座 B型
岩手県出身 大和静治厩舎
初騎乗/2003年4月19日
地方通算成績/4,318戦352勝
重賞勝ち鞍/阿久利黒賞、青藍賞、若駒賞、
南部駒賞、岩手ダービーダイヤモンドカッ
プ、オパールカップ
服色/胴紫・黄一本輪、そで紫黄縦縞
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※2012年8月21日現在
(オッズパーククラブ Vol.27 (2012年10月~12月)より転載)