いよいよ3月11日(日)に、今シーズンが幕を開ける金沢競馬場。開幕に合わせて、金沢リーディング常連の、吉田晃浩騎手にスポットを当てました。
赤見:まず騎手になるきっかけから教えていただけますか?
吉田「僕の場合は、中学を卒業して、北海道の静内にある育成技術者の養成学校に入ったのがきっかけです」
赤見:なんでその学校に入ったんですか?吉田騎手の生まれは神奈川県ですよね?
吉田「そう、神奈川です。実は小学校6年生の時に、北海道の過疎化が進んでる町に山村留学に行ったんですよ。僕の親がそういうのがあるって聞いてきて、面白そうだから行ってみようと思って
一年間、町の寮みたいなところに住んだんですけど、その時に馬に乗せてもらえる機会があったんです」
赤見:小学生で一年も親元を離れるなんて、すごい経験ですね。
吉田「う~ん、あんまり深く考えてなかったというか(笑)。勢いで行く行くって感じでしたけど、実際いろいろ体験出来て楽しかったですね」
赤見:その時の体験で、馬の仕事をしたいと?
吉田「いや(笑)、すぐには思わなかったです。
中学生になって地元に帰ったんですけど、学校があんまり面白くないというか、勉強がしたくなくて...。馬の仕事したいって言ったのは、実は勉強をサボる口実だったんです(笑)」
赤見:正直ですね(笑)。それで中学を卒業して、静内で育成の養成学校へ?
吉田「そうです。そこの装蹄師さんから、背が小さいから騎手になってみないか?って言われて、現在の所属調教師(佐藤茂先生)を紹介してもらったんです。騎手っていう職業自体あんまりよくわかってなかったんですけど、面白そうだなと思って挑戦しました」
赤見:地方競馬教養センターの生活はどうでした?
吉田「キツかったです!!静内の時がゆる~い感じだったんで、センターでの自由のない生活は本当に辛かったです。僕は短期生で半年間だったんですけど、けっこうイヤでしたね(笑)」
赤見:よくわかります!辞めようとは思わなかったですか?
吉田「辞めても後がないっていうか、することがなかったので耐えました。
センターを受験する時から佐藤先生にいろいろお世話になったので、辞めるわけにはいかなかったっていうのも大きかったですね」
赤見:佐藤先生は、もともとは上山所属でしたね。
吉田「そうです。廃止になってしまったけど、上山はすごく楽しかったですね。 僕は初騎乗初勝利をさせてもらったし、いろいろな思い出があります」
赤見:2003年の廃止は、とても残念でしたね。
吉田「本当に残念です。あの頃はまだ若くて、よくわかってなかったというか、あまり実感がなかったんですけど。浦和に移籍出来ることが決まったし、新しい場所でまた頑張ろうと、前向きな気持ちでした。
でも実際、浦和に移籍してみて、甘くないなと痛感したんです。
「あ、乗り馬いねー...」って思いました(苦笑)。
今まで乗れたのは、佐藤先生がいてくれたお陰だったんだって、初めて気付きました。感謝の気持ちというか、有難みというか...失ってみて、初めて気付いたんです。
浦和で2年やったけど全然お金にならないし、ちょうど落馬して怪我をしたんで、もう辞めちゃおうって免許を返上しました」
赤見:その後はどうしていたんですか?
吉田「その頃父親が定年間近で、母親だけ先に北海道に移住していたんですよ。うちは行動力だけはある家系なんです(笑)。
それで僕も北海道に行って、ふらふらしてました」
赤見:ふらふらとは?
吉田「まぁ、フリーターですね。色んなバイトしましたよ。引越し屋さん、コンビニ、居酒屋、パチンコ屋...あと、漁師になる!って言って、和歌山まで体験しに行ったこともありましたね。どれも続かなかったけど」
赤見:フリーター生活から、競馬の世界にもどったきっかけは何だったんですか?
吉田「佐藤先生は金沢に移籍してたんですけど、ある日突然電話をくれたんですよ。「お前、今何やってんの?騎手やる気はないのか?」って。
それで、戻れるならもう一度挑戦してみたいと思ったんです」
赤見:金沢の内規では、再度騎手免許を取得するためには一年間の厩務員経験が必要だったんですよね?
吉田「はい。その一年は、全然苦じゃなかったですよ。改めて、自分は馬が好きだったんだなと感じました。騎手とは違う側面から競馬に携わってみて、面白かったし勉強になりました」
赤見:一見遠回りしたように見えますが、得るものも大きかったんですね。
吉田「本当にそうですね。再デビューした時は、「今度こそ絶対に乗り役で食べて行くぞ!」って思って、前よりもずっと真剣に仕事に取り組むようになりました。
前は甘く考えていたところもあったし、せっかく恵まれた環境があったのに、その有難みもわかってなかった。
今は調教でもレースでも、ひとつひとつ真面目に向き合うようにしています」
赤見:その甲斐あって、現在は4年連続吉原寛人騎手に続くリーディング第2位ですね!
吉田「もう本当に佐藤先生のお陰ですよ。再デビューしてからずっと乗せ続けてくれたので、他の厩舎の方々にも、少しずつ認めてもらえるようになりました。
今の僕があるのは、佐藤先生をはじめ周りのみなさんのお陰です。あの時電話をもらわなかったら、多分今もフリーターをやっていたと思いますから。本当に救われました。」
赤見:では、現在の目標を教えて下さい。やはり、打倒・吉原寛人!ですか?
吉田「もちろん、それもあります。ここのところ、ずっと2位という成績ですから、上は目指しています。
でも一番は、今を一生懸命生きるってことですかね。あんまり数字とか先のこととか考えてないです。今すごく楽しいし、怪我をしないでこのままずっと騎手を続けていたいなって思ってます」
赤見:いよいよ今シーズン開幕です。ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
吉田「やっぱり、競馬場に見に来て欲しいですね。僕たちは、精一杯面白いレースを作れるよう努力します。金沢みんなで一丸となって、今年も頑張ります。ぜひ、生でレースを見て下さい!!」
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※インタビュー / 赤見千尋
2011年1月8日の初騎乗初勝利後、29日には減量特典のない特別戦でも勝利。10月には重賞初騎乗初勝利のほか1日5勝(1日最多勝利タイ)など、ばんえいの新人騎手記録を次々と塗り替えている島津新(あらた)騎手(21)。いずれもばんえいからは4人目となる、2011年度日本プロスポーツ大賞新人賞、NARグランプリ2011の優秀新人騎手賞を受賞。デビュー年にばんえい新人史上最多の86勝、3月5日現在通算95勝を挙げており、100勝目前だ。
斎藤:2つの新人賞受賞、おめでとうございます。引っ張りだこですね。
島津:あちこち行って、正直ちょっと疲れましたね。白鵬は大きかった! 内藤大助選手は、同じ北海道出身だからか、世間話をずっとしゃべっていました(笑)。東京でご飯も食べましたが、混んでるし、帯広の方が美味しいかもしれません。
斎藤:新人賞はデビュー時からの目標でしたね。いつ頃獲れると思いましたか。
島津:重賞獲ったとき(10月16日クインカップ、重賞初騎乗で4番人気のキタノサクラヒメで勝利)。重賞に乗りたいなぁとはずっと思っていました。勝ててほっとした。キタノサクラヒメは、ここを勝ってクラスが上がり、重量も増えて苦戦しています。
斎藤:新人賞受賞のインタビューでは「勝利数には満足しているけど、内容に満足していない」とコメントしていましたね。満足できない点を具体的に教えてください。
島津:レース運びですね。勝てるレースで勝てなかった。今、悩みどころです。キタノサクラヒメのように、今まで勝ってきた乗り馬たちが、クラスが上がって勝てなくなっています。なんとか勝てない馬を勝たせたい。負けても、馬に山を上げる自信をつけさせるような、次につながるレースをしたい。最初からそうしたいとは思っていましたが、最近は実際に考えられる余裕が出てきました。
斎藤:50勝して、減量特典がなくなったあとも苦労したようには見えませんでした。その余裕はどこから来るのでしょうか。
島津:そんなことないですよ。星(減量)が取れた後は苦労して、藤野さんにアドバイスを聞いたりしました。がむしゃらにやっていたら、秋ころには余裕が出てきた感じです。
斎藤:えんじ色の勝負服は、同じく道南出身の藤野俊一騎手を参考にしたそうですね。
島津:父が持っていたシマヅショウリキ(99、00年ばんえい記念など重賞9勝)に乗るなど仲がよかったので、昔から知っていました。今でも尊敬しています。酔っ払って電話かかってきたりしますが(笑)。
斎藤:さて、騎手になったきっかけを教えてください。競馬場に来て1年半、一発合格でしたね。
島津:祖父、父が馬主でした。北斗市は草ばん馬も盛んなので、子どもの頃からポニー引っ張っていました。騎手になろうと思ったのは保育園くらいの時かな。ばんえいの存続が危なくなった時にどうしようか悩んだこともありますが、父のつながりで岩本利春調教師にお世話になりました。
斎藤:1年たって変わったと思うことはありますか? ファンレターとか来るでしょう。
島津:ふけたなぁって...(笑)。写真撮られるのは慣れました。インタビューはまだちょっと...(笑)。ファンレターは来ないですよ。バレンタインのチョコもこなかったです...。(好きな)タイプはおとなしい子です。
斎藤:3月13・20日に放映されるNHKドラマ『大地のファンファーレ』には、主役のライバルとしてエリート新人騎手が出てきますが、モデルは島津騎手じゃないですか?
島津:いや...どうかな(笑)。ドラマには一瞬出ています。ちょっと笑ってますが(笑)
斎藤:普段はどうやって過ごしていますか。また、仲がいい騎手はいますか?
島津:厩務員作業があって遊ぶ時間がないから...釣りは好きです。夏は1人で海に行きました。普段は1人で行動しますが、謙(西謙一騎手)や幸太(長澤騎手)とよく話します。
斎藤:「ケン」や「コウタ」って...先輩ですが、そのように呼ぶんですね。厩舎で、みんなでご飯を一緒に食べたりはしないんですか?
島津:自炊しています。料理はそんなにしないけど...米は炊きます。カップラーメンは食べないです。体によくないから。170センチ60キロです。食べても太らないんです。寝たら元に戻る。弁当箱(騎手重量を合わせる重り)は、佐藤希世子元騎手にもらったものを使っています。
斎藤:よく特別で騎乗しているのはアグリミズキですね。
島津:かわいいですよ、まじめで。おでぶちゃん。1100キロくらいあります。めんこいです。今担当しているのは、父が持っているハヤテショウリキ、アウルメンバー、キュートエンジェル。キュートエンジェルかわいいですよ。でぶだけど。あとは、春にテスト受ける2歳馬。ニシキウンカイの下です。動物は全般好きで、イヌ飼ってます。名前はナナ。(レースでは)逃げるのは楽ですが、追い込みが好きです。
斎藤:乗ってみたい馬、レースはありますか?
島津:ニシキダイジンかな。本当のオープン馬というのがどのような馬か、乗ってみたい。レースでは、大臣賞(ばんえい記念)もですが、イレネー記念も勝ちたいですね。2歳の(最高峰)、っていうのはかっこいい。
斎藤:ばんえいの見どころを教えてください。
島津:馬の迫力や大きさはもちろんですが、そりの上で踊るような、騎手の動きを見てほしいです。僕は藤野さんの左パンチを真似します!
斎藤:扶助として、そりの上で体を揺らすんですよね。左パンチは右手に持った手綱で馬の左側のお尻をたたく時。
島津:はい、邪魔にならない程度に。藤野さんは独特のリズムがあって、きれいなんです。
斎藤:今後の目標を教えてください。
島津:馬を育てられる騎手になりたいです。左パンチ見てください(笑)。馬券、特に島津新の馬券を買って!
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香