兵庫のジョッキーは良い意味での調子乗り。中でもその代表格的存在が坂本騎手。
先日、門別競馬で行われた『道営記念』に騎乗依頼を受けて参戦。そのときはホッカイドウ競馬の最終日。ファンと騎手とのふれあいセレモニーでマイクアピールをしたんだそうです。
坂本:呼ばれてなかったんですけど、出て行ったんですよ。主催者のマイクを奪って兵庫の坂本でーす!って。せっかく行ったんですから、何かしないと。
竹之上:あはは、やっぱり調子乗りやな!
坂:でも、兵庫には変な奴がおるなと思われても、それがアピールに繋がるんですよ。あそこで何もしなかったらぼくの名がすたるんです。
竹:そこまで言うとは、さすが代表格や!
来年、デビュー20年を迎える坂本騎手は、昨年初めて100勝(104勝)の大台を突破。前年の37勝から超ド級の躍進です。昨年末の怪我で今年は2ヶ月のブランクがありながらも、11月24日現在78勝。その実力を証明しています。
竹:勝ち鞍が一気に増えたけど、何が変わったの?
坂:何か分からないですけど、周りの人たちのお陰であるのは間違いないです。乗せてもらってなんぼの商売ですから、ただただ乗せてくれる人たちに感謝です。
乗せてもらえるようになるには、その信頼を勝ち得なければなりません。"逃げの坂本"や"マクリの坂本"と言われるように、個性的なレースぶりで結果を残し、次第に信頼度も高まっていくのです。
坂:先輩騎手の意見を聞いて、それを自分に活かそうとしましたね。逃げに関しては松平さん(逃げ先行の名手)に良く聞きました。でも、それを聞いてそのままやってたんじゃいつまでたっても松平さんを超えることはできません。そこに自分なりのアレンジを加えていかないとダメだと思うんです。
竹:逃げている馬がペースを握っているんじゃなく、2番手の馬がペースを握っているんだといつも言うよね。
坂:2番手の馬の動き方次第でペースは変わりますからね。そのかけ引きでレースが変わります。それがうまくいくかいかないかで、結果は大きく違ってきますからね。
逃げやマクリなど、一見派手に映る坂本騎手のレースぶりですが、その中には緻密な計算があることに気付かされます。それが証拠に、将棋は有段者級の腕前だとか。何手も先を読んでの騎乗が、好結果をもたらしているとも言えます。
坂:竹之上さんやったら歩三つで勝てますわ(笑)
竹:なんやて!腕に覚えはないけど、歩三つやったら勝負したるわ!
坂:あっ、その時点で負けですよ。歩三つだけやったら勝負しようって思った時点でもうぼくの勝ちですわ(笑)平手で勝とうというぐらいの気じゃいないと。
なぬっ!もう勝負は始まっていたのか!しかも既に負けていたとは...。心理戦にも長けているというのも、好成績に繋がるひとつの要因でもあるようです。それにしてもナメられ過ぎてる...。
実は坂本騎手は二世ジョッキーで、父も兵庫で活躍するジョッキーでした。30年以上も前、泥んこ馬場の姫路競馬場で落馬、還らぬ人となったのです。
坂:ぼくが4歳になったばっかりのころでした。父が乗っているところを観に来た記憶がありますけどその程度です。
竹:じゃあ、ジョッキーになろうと思ったのは?
坂:叔父さんにあたる戸田山先生(所属厩舎)が誘ってくれたんです。思いっきり食べても太らなかったし、これならいけるかなって。
竹:でもご主人を亡くしているお母さんにとったら、反対したいところだったんじゃないの?
坂:母親は、危ないからって勧めませんでしたけど、その裏では騎手になって欲しいっていう思いもあったと思うんです。口には出しませんでしたけどね。父親が息子にはJRAの騎手になってもらいたいって言うてたらしいですから。
父の密かに抱いていた夢を、その遺伝子を受け継ぐ息子が目指すというのですから、止めることなどできなかったのでしょう。
11月12日、ひとつの夢が叶います。初めてJRAで騎乗するチャンスを得たのです。
坂:JRAの騎手になったわけじゃないですけど、JRAのレースに乗れたことで、父親に良い報告ができたと思います。でも今回は初めてだったので、次はしっかりと結果を残して帰りたいと思います。新しい目標ができました。
常に前向きな考えの坂本騎手。くよくよしたり、嫌な思いを引きずったりはしないそうです。
坂:それでも、失敗すれば反省しますよ。それが次に活かすための糧になるかも知れませんしね。それに、緊張でガチガチになるってこともないですね。緊張して馬が走ってくれるんならなんぼでも緊張しますけど、そんなことはないですもんね。
竹:ところで、最近重賞レースの勝利からずいぶん遠ざかってると思うんやけど?
坂:それはあまりこだわっていません。ひとつひとつのレースで、馬の力を十分に出させるのが騎手の仕事ですから、レースの格で変わるものじゃないです。しっかり乗って勝てて、結果的にそれが重賞であれば嬉しいですけどね。
竹:そう言えば、99年の『アラブクイーンカップ』は涙の初重賞制覇やったよね。
坂:ちゃいますよ!あれはみんな泣いてたって言いますけど、ぼくは泣いてないですよ。レース前は勝ったら号泣するんやろなぁって思ってたんですけど、実際は全然でしたよ。本気では泣いてないんですよ!
泣いてるやん!
とにかく明るく元気な坂本騎手。取材中も喋り出したら止まりません。まだまだ書きたいことはいっぱいあるのですが、ひとまずこれで終えておきます。最後に彼が明言を吐きます。
坂:ぼくはいつも明るいからアホやと思われてるんです。でもそのアホも計算なんです。笑われるんじゃなく、笑わせないと。
芸人か!と突っ込ませるほどのこだわりを見せる坂本騎手。関西人らしくてとてもいい!しかもレースで結果を残しているんですから、文句のつけようもありません。レースでファンを魅了するパフォーマンス、馬を下りてからの振る舞いも全て計算し尽くされたものなのです。
ですが、ただひとつだけ誤算がありました。彼は知らない。ぼくが小学校6年生のころ、将棋クラブの部長だったということを。むはは!いつでも勝負してやるぞ!
やっぱり、歩二つでお願い...。
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※インタビュー / 竹之上次男
写真:齊藤寿一