地方競馬での歴代最多勝利記録(記録の残る1973年以降)を更新し続けている雑賀正光調教師(高知)。1月29日には地方通算3500勝を弟子の永森大智騎手で達成しました。「目標は4000勝」と前人未到の数字を掲げ続ける雑賀調教師。あと500勝に迫ったいまのお気持ちや、かつて管理したグランシュヴァリエ産駒での重賞初制覇などについて伺いました。
地方通算3500勝達成おめでとうございます。以前から4000勝が目標とおっしゃっていましたが、あと500勝となってのお気持ちはいかがですか?
ありがとうございます。うーん、実は3500勝というのはあんまりピリッとは感じていないんです。3500勝を目標にこしらえていたら、4000勝までが遠いので。4000勝を目指していたら、この数字は誰でも通る道だと思っています。
地方通算3500勝をセキセキで達成。鞍上は永森大智騎手
(写真:高知県競馬組合)あくまで通過点で、意識はされていなかったんですね。
そうです。騎手でも2000勝を目指していたら、達成した後は油断して乗れなくなるので。2000勝を目指す人は目標として3000勝を置きますし、3000勝の人は4000勝を目標に進んでいます。だから長続きもするし、乗れます。それは下原(理騎手、兵庫)に言ったこともありますし、うちの永森にも「2000勝を目指すんやったら、3000勝を目標にせんかい」って言っています。
下原騎手はたびたび重賞のスポット騎乗で雑賀厩舎の馬に乗っていますが、そういうお話もされるのですね。他地区のジョッキーで言えば、昨年は高知優駿で御神本訓史騎手(大井)がナンヨーオボロヅキに騎乗し、見事勝利。大井のトップジョッキーを高知に招聘するなんて、雑賀調教師の偉大さが伝わってきました。
何の気なく、「御神本、乗れるか?」って言ったら、ちょっと考えよったけど、「乗ります」って。そしたらみんなから「高知に乗りにくるなんてビックリした」と言われて、私もあんなに騒がれるとは思わなくてビックリしました(笑)。
御神本訓史騎手で2019年の高知優駿を制したナンヨーオボロヅキ
(写真:高知県競馬組合)御神本騎手は2010年、騎乗停止・自粛明けに高知で3カ月の期間限定騎乗を行い、その時の所属が雑賀厩舎でしたね。
預かってほしいと言われた時、「(元騎手の)私より腕もセンスもある一流ジョッキーで、教えることは何もありません」と一度は断ったんです。騎乗に対しては全然言うことはありませんでした。御神本と本橋(孝太)は今でも母の日には私の妻に胡蝶蘭を贈ってくれます。
管理馬の話題では、重賞4勝を挙げ、マイルチャンピオンシップ南部杯JpnI・3着のグランシュヴァリエの産駒が昨年デビューしました。雑賀厩舎にも昨秋以降、門別から移籍してきましたね。
やっぱり姿、形、気性面がよう似ています。3頭がうちに来て、それぞれ違いますが、それでもやっぱりよう似ています。
中でも門別で2勝を挙げて移籍したリワードアヴァロンは先日、土佐春花賞で重賞初制覇を果たしました。
ええ勝負根性のある馬です。前の馬を抜くと止めるような悪い面もお父さんから引き継いでいますけど(苦笑)。土佐春花賞ではソラを使いかけましたが、永森が上手いこと乗りました。スピードはあるし、ジョッキーも父仔二代で乗っています。高知で父仔二代で乗る騎手って永森くらいじゃないですか!?
リワードアヴァロンで土佐春花賞を制覇
(写真:高知県競馬組合)調教師で父仔二代を管理というのもなかなかないケースのように思います。
そやからね、やっぱり他の馬と違って、「もうちょっと...!」って気持ちが出てきますね。リワードアヴァロンはお母さんもうちの厩舎やったので、孫みたいなもんで嬉しさも倍です。スピードがあるので脚元に気をつけながら、王道の3歳路線でいこうと思っています。永森は「距離延長が課題」と話していますが、私は大丈夫だと思っています。全弟も4月に入ってくる予定です。
兄弟ともども楽しみです!ところで、ここ数年は地元や全国リーディングから少し離れていますが、奪還への思いは?
リーディングを取ろうと思ったら、脚元の丈夫な馬を預かった方がいいと思うんですが、脚元に不安を抱えた馬をやりたいんですよね。ここ3年、それこそリーディングからちょっと離れたくらいの時から故障馬を触るのがさらに好きになりましてね。年を取った人が盆栽を触る感じで、脚元を治しながら走らせるのは本当に楽しいんです。
手をかければかけただけ応えてくれる醍醐味があるのでしょうか。2018年の黒船賞を制覇したエイシンヴァラー(当時は兵庫所属)も脚元に不安を抱え、今年はじめに雑賀厩舎に移籍してきました。
少しレースから離れたので、脚元も良くなってきています。高知に来て1回使ってから良くなって、こないだ勝ってくれました。この馬とは縁があるんです。黒船賞を勝った時、厩務員さんはゲートで、新子(雅司調教師)は取材の人に囲まれちゃって、馬を迎えに行く人がいなかったので、私が飛んで行って、採尿検査まで連れて行ったんです。それも少し頭の中にあって、オークションに出てきた時に馬主さんに勧めました。
改めて4000勝への思いを聞かせてください。
言った以上、4000勝を達成するまでは現役を辞めず、精一杯やります。
最後にオッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
高知競馬は一番先に潰れるところやったのに、ホンマによぉ残ったと思います。馬主も調教師もみんなよぉ我慢したけど、それ以上に主催者が偉いです。恥も見栄もすべてなくして、商売に徹しました。そして、こうして高知競馬のファンがついてくれてありがたいです。これからも応援よろしくお願いいたします。
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※インタビュー / 大恵陽子
5月27日に通算3016勝を挙げ、地方競馬通算勝利数の日本記録を達成した、高知の雑賀正光調教師。1985年の調教師デビューから32年。常にトップとして走り続けて来た競馬人生を振り返っていただきました。
まずは通算勝利数の日本記録更新、おめでとうございます。
ありがとうございます。自分としてはあんまり意識していなかったんですけど、記録に近づいて来た頃から、3014勝くらいからかな、うちの乗り役たちがそわそわしだして、いつも以上に力が入っていましたね。
弟子の永森大智騎手で見事達成しましたね。
そうですね。記録よりも、弟子が一生懸命がんばってくれたことが嬉しかったです。
ズバリ、何でこんなに勝てるんですか? 地方競馬の年間の最多勝利記録(2012年・290勝)も持っているじゃないですか。
あの時は何が何だかわからなかったですけど(笑)。とにかくいい馬を預けてもらっているということです。それが一番ですよ。オーナーの皆さんには本当に感謝しています。それに、弟子たちも一生懸命がんばってくれますし、スタッフのみんなも真面目にやってくれますから。そのお陰でこうしてたくさん勝たせてもらっているんです。わたしよりすごい先生がまだまだたくさんおられますし、自分は普通のことをしているだけだと思います。
普通のこと、と言われますが、その中で大切にしていることは何ですか?
馬の調子のいい時を持続させる、くらいかな。それは結局やれることをやるだけなんです。例えば、追い切りの後、レースの後に馬の脚の確認を慎重にすることですね。走った後の確認、レースが終わったら次の競馬のための確認、1頭1頭丁寧に確認することが大事です。
管理する40頭を全部先生が確認するんですか?
疲れますけど(笑)。そこは大事にしています。もちろんスタッフも真面目にがんばってくれてますけど、最終的な判断はわたしがしています。
雑賀先生は勝ち星もすごいですが、ジョッキーも育てていますよね。現在所属は4人です。
なんでかわからないですけど、4人いますね(笑)。最初は永森大智で。中学生の時に見学に来て、何かの縁でうちに入ることになったんです。今はトップになりましたけど、あいつは這い上がって来たんですよ。本橋(孝太)や御神本(訓史)なんかもそうですけど、腕が立つ奴は気性が激しいのが多いし、腕がない奴は大人しいのが多くて、よそから来る子には細かいことも教えるんですけど。でも自分のところの騎手にはあんまり教えないんですよ。自分で考えて、ある程度のところまで育ってこないと。勝つっていう意識を強く持てとは言うんですけど、それ以外は言わないです。
3年前に、「今年は永森と心中するから」って仰ってましたね。
そうそう。それまではいい馬には他の乗り役を乗せていたんですよ。でも、ポートジェネラルという馬に乗せたら、勝ってきたんです。乗り役が少なかったんでたまたま乗せたんですけど、「お、だいぶ乗れるようになったな」と。そこから少し手を差し伸べたら、リーディングになってくれました。
2016年12月31日、高知県知事賞(リワードレブロン)。一番弟子の永森大智騎手とのコンビで高知県知事賞4勝を挙げた(写真:高知県競馬組合)
永森騎手は、「雑賀先生に褒められるとすごく嬉しい」と仰っていましたし、師匠と弟子のいい関係ですね。
まぁ今の時代は環境的に育てるというのは難しいですけどね。わたしは這い上がってきたら手を差し伸べますけど、そこまではほっときますから。這い上がってきた奴をそこから育てるんです。なかなかリーディングを育てるっていうのは、一生に一度あるかないかじゃないですか。それに、自分の厩舎でリーディングを育てるっていうのは今はないでしょう。他のリーディングの人たちを見ると、自厩舎だけじゃなくていろいろな厩舎に乗せてもらってという形じゃないですか。
永森騎手はトップに育ちました。下の3人(岡村卓弥騎手、松木大地騎手、塚本雄大騎手)はどうしましょう?
みんなで一緒にご飯を食べる時があるんですけど、「永森がもし乗れない時には、次は岡村、お前だぞ」って。「いつでも永森の替わりになれるよう努力しとけ」って言ってます。岡村が乗れない時には次は松木、塚本、と、うちは順番が決まっているんですよ。ただ、さっきも言いましたけど、自分で這い上がってこない限りは手を差し伸べるつもりはありません。
松木騎手、塚本騎手も金沢で期間限定騎乗をしましたが、先生の方針ですか?
そうです。永森も岡村も福山行ったり金沢行ったり、あっちこっち勉強に行かせたんです。他の競馬場を見てくることもすごく大事ですし、他に行くことで高知の良さも感じることができますから。2人とも、その経験を活かしてすごく成長しましたから、下の2人にもがんばって欲しいですね。
高知は今かなり売り上げが上がっていますね。
有難いことに、ファンの方に注目していただいて、こちらも張り合いがありますよ。全体的に出走頭数も増えましたし、賞金諸手当も増えました。どこの厩舎でも馬がたくさん入るようになりましたし、雰囲気はすごくいいですよ。いいスパイラルになっていると思います。でも、ここからですよ。お陰様でいい形になったので、これからもっとがんばって恩返ししていかないと。
32年間、第一線で競馬を引っ張ってきていますが、秘訣はなんですか?
秘訣なんてないですよ。わたしは親父が調教師だったので、親の引いた線路を歩いてきただけです。実をいうと、もともとは競馬が好きじゃなかったくらいですから。他の人は、競馬が好き、馬が好きってこの世界に入って来るけれども、たまたま生まれたところに馬がいて。若い頃はそれが嫌で嫌で仕方なかったんですけどね(笑)。でも気が付いたらこうなってました(笑)。血ですね。今はやりがいのある道に進ませてもらって、親にも感謝してます。
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
皆さまのお陰で、高知はなんとか盛り返すことができました。インターネットを通して買ってくれるお客様一人一人に、とても感謝しています。これからも結果を出して、皆さまの馬券に貢献できるようがんばりますので、どうぞよろしくお願い致します。
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※インタビュー / 赤見千尋