4月24日に地方競馬通算2500勝を達成した、高知の中西達也騎手。デビューから30年目を迎えた今年もすでに重賞2勝! 46歳のベテランとして、強い存在感を放っています。
まずは2500勝達成、おめでとうございます。
ありがとうございます。長く乗っていればいつかはと思っていましたが、区切りの勝利なので素直に嬉しいですね。若い頃にはここまで乗っている自分を想像できなかったし、まさか2500勝もできるとは思っていなかったです。大きなケガもあったし、騎手として戻って来られて本当に良かったなと思いますね。
去年大きなケガをされたんですよね。
そうなんです。これまでそれほど大きなケガをしたことがなかったんですが、去年1月のケガは相当酷かったですね。股関節の脱臼骨折だったんですけど、とてつもない痛みと、足がおかしな方向に向いているのを見て、「これはただごとじゃないな」と思いました。お医者さんからも「元のように乗れるかわからない」と言われてしまったので、覚悟はしなきゃいけないなと思いました。さすがに凹みましたね。
どうやって気持ちを保ったんですか?
保ったというか、ずっと不安はありました。リハビリで体を動かしても、馬乗りの感覚と違うじゃないですか。だから、乗ってみないとわからないなと思っていました。年齢的にもそろそろ辞める時期なのかもしれないというのは頭をよぎりましたし、まだ乗っていたいという気持ちと、どっちもありましたね。もし復帰して思うように乗れなければ騎手を続けることはできないですから、とにかく早く乗りたいという気持ちでした。
実際に復帰してみていかがでしたか?
久しぶりに乗れた時には本当に嬉しかったです。騎乗に関しても問題なかったので、戻って来られてすごくホッとしました。勝つことができた時は、ジョッキーっていい仕事だなって改めて思いましたね。家族や周りの方々、ファンの方々に支えていただいて本当に感謝しています。でもケガからの復帰というのは自分自身で乗り越えなければいけないことなので、なんとか乗り越えられて本当に良かったです。
福永洋一記念表彰式
5月にはニシノファイターと共に福永洋一記念を勝ちましたけれども、あのレースは特別な雰囲気がありますよね。
もう本当に特別なレースですよ。ずっと勝ちたいと思っていたレースだったので、勝ててすごく嬉しかったです。福永洋一さんもいらっしゃいますし、ファンの方もマスコミもたくさん来てくれて注目度も高いですから。表彰式は感無量でした。
レースは逃げてかなり渋太く粘りました。
ニシノファイターは逃げて早めに叩かれると一気に失速してしまうんですけど、並ばれている状態ならば渋太いんですよ。この時も3コーナーくらいから並ばれたんですけど、途中で息も入ったし、被せられなかったので最後まで粘ってくれました。その次のA級選抜戦もいい形で勝てたし、まだまだがんばってくれると思います。今は休養しているので、夏はゆっくり過ごして今後が楽しみですね。
さらに5月はブラックビューティで黒潮皐月賞も制しましたが、残念ながら高知優駿には出走しませんでした。
そうなんですよ......。唯一三冠を獲る権利のある馬だし、チャンスも十分あるので期待していたんですけど。脚元が少し気になったので、大事を取って回避ということになりました。辞めることも勇気が必要だったんですけど、出走すれば確実に人気になりますから、中途半端なことはできないなと。ただ、休ませたぶん馬は良くなると思うので、今後の成長に期待しています。
黒潮皐月賞を制したブラックビューティ
では、今後の目標を教えて下さい。
ケガなく休まず乗る、これに尽きますね。体はもちろん若い頃と同じではないですが、その分若い頃にはできなかったことを身に付けたと思っています。それに、同期の西川(敏弘騎手)ががんばっているので、自分だけ落ちぶれるわけにはいかないです。西川とは今でも調整ルームで同室なんですけど、悩んだ時とか、人に言えないことでもなんでも相談できるんですよ。まだまだ一緒に高知を盛り上げたいですね。ファンの方からも「アーサーがいないとつまらない」と言ってもらえると嬉しいですし、応援してくれる方がいる限りがんばります!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:高知県競馬組合)
長年高知のトップジョッキーとして活躍を続ける、中西達也騎手。2011年2月に行われた、第19回ゴールデンジョッキーカップでは、初出場で総合優勝という素晴らしい成績を残しました。
2011年も年間100勝を達成し、リーディング4位。現在42歳の、高知のアーサーの素顔に迫ります。
赤見:九州は福岡県出身の中西騎手。まずは騎手を目指したきっかけから教えて下さい。
中西「そこから聞きますか。ベタだねぇ(笑)。僕の場合は、母親の勧めです。競馬好きだったんで。ボートもいいんじゃないって言われたけど、身近にそういう場所がなかったんで、競馬になりました」
赤見:お母さんに勧められて、すぐにいいなと思ったんですか?
中西「いやいや。馬に乗ったこともなかったし、怖かったからなりたくなかったですよ(笑)。高校に進学したいなとも思っていたので。
地方競馬教養センターの試験受けたら受かっちゃったので、それならやろうかなって感じでした。」
赤見:人生、わからないものですね。
中西「本当ですよ。僕はメカとか好きだったので、近くに競艇があったらそっちに行ってたと思います。バイクも好きだしね。
今になってみれば競馬で良かったけど、あの頃は競馬のイメージがすごく悪かったから。なんか、オヤジのギャンブルってイメージで。友達にも恥ずかしくて言わなかったですから」
赤見:競馬のことを全く知らないで飛び込んだ厩舎社会はいかがでした?
中西「すごいところだなって思いました。もう、1つの村じゃないですか。 学校は辛かったけど、競走課程に入ったら面白かったですね。レースに乗り出すともっと面白くなって。
実際にデビューしてみたら訓練と全く違うんで驚いたけど、とにかく楽しくなりましたね」
赤見:デビューした頃は、2000勝以上も勝てると思ってました?
中西「まさか。全然思ってないですよ。よくここまで来たなと思いますね」
赤見:今年の2月には、園田のゴールデンジョッキーカップで優勝!あれはインパクト大きかったです。
中西「僕の中でも、今までの騎手人生の中で1番ですよ。昔から憧れのレースだったし。
どうしても、馬で遠征するとなると、他地区で勝負するのは難しいけど、ジョッキーレースならひょっとしたら勝ち負け出来るかもって思ってました。
初出場だったし、メジャーな騎手の中にマイナーなのがはいっちゃったなって感じでした(笑)。ファンの方が声かけてくれたり、サインを求められたりして...。僕なんかのサインでいいの?!って思いましたよ。
正直緊張したけど、最初のレースで勝てたから、優勝がチラついてました。もうドキドキでしたけど、本当に嬉しかったです。」
赤見:私も感動しました!
高知はナイターになってから、かなり盛り返していますが、実際に騎乗されてていかがですか?
中西「正直、ナイターは嫌ですよ。高知の場合、年中だから冬は寒いし見えづらいしね。 でも、生き残るためにはそれしかなかったんで、みんなで頑張ってる感じです。
僕は中津でデビューして、廃止前に高知に移籍したんですけど、中津が廃止になった時にはとても残念でした。なんだか、自分の帰る場所がなくなったと感じました。
生まれは九州だけど、高知も大好きなんですよ。競馬はもちろんだけど、生活していく上でもこの土地が好きなんです。だから、なんとか踏ん張っていきたいですね。」
赤見:高知のジョッキーたちはとても仲がいいですもんね。
中西「仲いいというか、まぁ和気藹々ですよね。特に誰と仲いいっていうのはないですけど。僕は基本一人でいるタイプなんで。 西川とは同期だし、調整ルームも2人部屋なんで、ずっと一緒にいる感覚はありますね」
赤見:いつも笑顔が印象的な中西騎手ですが、騎手を辞めたいと思ったことはありますか。
中西「しょっちゅうですよ(笑)。しょっちゅう思ってます。でも、本気で考えたことは一度もないです。落馬しても大きな怪我はそれほどないし、まぁ貧乏は辛いですけど(笑)。やっぱりこの仕事好きなんですよね。 2000勝以上勝たせてもらって、いい馬にもたくさん乗せてもらいましたから。」
赤見:特に想い出に残っている馬は?
中西「そうですねぇ。デルタフォースですかね。いつもポツンと最後方から豪快に追い込んで来るんですよ。高知のコースですから、すごいことですよね。今はだいたい逃げ・先行で決まっちゃうから、そういう意味でも面白かったです。
最近ではナロウエスケープ。高知優駿は負けてしまったけど、黒潮皐月賞と黒潮菊花賞を勝ってくれました。スピードもあって、すごくいいものを持っていましたね。
赤見:2009年に高知の三冠を達成したグランシングはどうですか?
中西「そうですよ!グランシング!!あの馬もいい馬でした。今競走馬としていないのがとても残念ですけど。
早い時期から三冠を目指していたんで、あの馬のお陰で緊張感のある時間を過ごすことが出来ました。三冠を達成するには、時間がかかりますからね。」
赤見:高知競馬場は、他の競馬場と違って南関東の若手を受け入れていますが、その辺りはいかがでしょう?
中西「すごくいいことだと思います。調教とレースは全く違いますから、チャンスの少ない騎手にとって、いい修行の場なんじゃないかな。ただ、高知は稼げないから、来るジョッキーたちはお金じゃなくて、本当に馬に乗るのが好きな子たちですね。実際高知は騎手が少ないので、助かっている面もあります。
毎年開催される、新人王もそうですけど、若手の子たちを見ていると、いい刺激になりますよ。」
赤見:中西騎手の今後の目標は?
中西「3000勝と言いたいところだけど、目の前のことをしっかりとやっていきたいですね。それが結局大きな記録に繋がると思ってますし。今は、年間100勝を常に頭に置いています。そのためには、怪我しないで乗り続けること。それが1番の目標です」
赤見:ちなみに、アーサースマイルの秘訣はなんでしょう?
中西「アーサーって(笑)。本当にそれよく言われます。『誰かに似てますね』って言われるから、『黒田アーサーさんでしょ』って自分で言いますもん。まぁ似てるかどうかは置いといて、常に笑顔でいようというか、明るくいようとは心がけてます。 たまに落ち込むこともありますけど、なるべく切り替えていこうと。」
赤見:一番の気分転換は?
中西「手軽なのは酒飲むことでしょ(笑)。僕はそんなに強くないんで、酔っぱらう前に帰るようにしてますけど。西川はけっこうめんどくさいタイプですよ(笑)。 あと、バイクが大好きなんで、年2回はサーキットまで行って乗ってます。なかなか行けないけど、本当好きなんで。」
赤見:それでは、ファンのみなさんに、高知競馬のPRをお願いします。
中西「高知は、新人王や黒船賞、福永洋一記念と面白いレースがたくさんあります。 みんな頑張ってるんで、注目してもらえたら嬉しいです!!」
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※インタビュー / 赤見千尋