今年名古屋でデビューした新人3人の中で、一番最後に初勝利を挙げた八木直也騎手。しかし、そこから大きな成長を見せて、すでに14勝(10月26日現在)を挙げています。初勝利までの苦しい道のり、そして、これからの目標をうかがいました。
どうして騎手になろうと思ったんですか?
中学3年生の頃にテレビで初めて見て、その時に初めて競馬というものを知ったんです。GIとかではなかったですけど、たまたま見てカッコいいなと思って。ネットで調べてみたら、僕は身長も小っちゃくて体重も軽かったので、やってみようと思いました。中学の卒業間際というか、みんながどこの高校を受けようかなっていう頃ですね。
ご両親は驚いたんじゃないですか?
かなりびっくりしてました(笑)。母はすぐに賛成してくれたんです。やりたいことはやらせてあげたいっていう考えで。でも父は、収入が不安定な世界はダメだって言って、なかなか認めてくれなくて。僕も両親も、普通に高校へ行くと思ってましたから。そこから1か月くらい、毎日家族会議ですよ。僕が寝ている間も、母が「やりたいことやらせてあげて」って説得してくれて、なんとかOKをもらいました。今になると、父の気持ちもわかりますけど。2人とも競馬を知らなかったし、見たこともなかったですから。
そこから、どういう過程で騎手になったんですか?
その時はもうJRAの応募が終わっていて、地方競馬はまだ募集していたんです。母も、「とりあえずどういう世界か1回試して来なさい」っていう感じだったので、一度受けてから改めて考え直せばいいよっていうことになって。そしたら合格出来ました。すんごく嬉しかったですね。
まさか一度も馬に乗ったことがないまま、センターに入所したんですか?!
そのまさかです(笑)。馬に初めて乗ったのは、入所してからですね。最初は高くて怖かったです。それに、周りは乗馬クラブに行っていたり、専門学校でみっちり乗馬を習って来た人たちばかりで...。ついていくのが本当に大変でした。先生からも、「下手くそ」「やめろ」ってしょっちゅう言われてて。全く乗ったことがない自分と、かなり乗れる同期の差があるので、最初の頃は、乗れる人のグループと、乗れない人のグループに分かれて訓練するんです。その時が一番辛かったですね。「いつか絶対乗れるグループに行くぞ!」と思ってましたけど、なかなか行けなくて。だんだんと、乗れないグループから一人ずつ卒業して行くんですよ。残っている時は本当に辛かったです。
名古屋の安部弘一厩舎所属になった経緯は?
地元がこっちなので、まず名古屋を勧められました。それで、安部先生が所属にしてくれたんです。先生にちゃんとお会いしたのは、競馬場実習の時だったんですけど、最初の印象はちょっと怖かったです。でも、実際は優しくて、時に厳しくっていう感じで。いろいろ教えていただいて、本当に感謝しています。
実際に騎手としてデビューする時は、どんな心境でした?
これからやっていけるかなって思ったりして、めちゃくちゃ不安でした。騎手免許を持って競馬場に帰って来る時は、「よし!やってやろう」って感じだったんですけど、実際に競馬場に来たら色んな人に圧倒されて、不安になりました。しかも、デビュー初日に同期の村上(弘樹騎手)が勝ったんですよ! 「ああ、もう勝っちゃったのか...」って、めちゃくちゃプレッシャーでした。自分が初勝利する頃には、村上は4勝くらいしてましたから、どうしようどうしようって、焦りしかなかったです。他地区の同期もどんどん勝って行って。「やべ...、俺こんなに乗せてもらってるのに、一番乗せてもらってるくらいなのに、勝てないな」って、すごく不安でした。
初勝利は72戦目だったとはいえ、期間はデビューから2か月ですもんね。
そうですね。本当にたくさん乗せていただきました。しかも2着はあったし...。その時はすごく悲しかったです。デビューしてみて、先輩たちとの力の差を思い知らされました。デビューした頃は、外に行ったり内に行ったり、みんなの邪魔になることばっかりしてしまって。馬も思うように動いてくれなかったんですけど、周りのジョッキーは経済コースを通ってるし、馬もスイスイ動くし。すごいなって思ってました。
苦しかった2か月を乗り越えて、6月9日に初勝利! この時のお気持ちは?
茫然としてました(笑)。本当に勝ったのかなって。1400メートル戦だったんですけど、「もう1周あるんじゃないか? ゴール板を間違ったんじゃないか?」って後ろ見ちゃいました(笑)。この1勝は本当に大きかったですね。そこからだいぶリラックスして乗れるようになって、けっこう勝たせてもらって。今はデビューした頃に比べると、少しは冷静に乗れるようになったのかなって思います。
憧れのジョッキーはいますか?
兄弟子の安部幸夫騎手です。毎日いろいろなことを教えてもらってます。自分なりのイメージですけど、幸夫さんは逃げてそのままペース作って、直線でもう一度伸びるんです。最初ハナに行こうとして馬の体力を使っているように見えても、その息の入れ方とか、どんな馬に乗ってもピュッと動くので、真似したいです。離して逃げた方がいい馬、引き付けて逃げた方がいい馬、馬体を併せたらもう一度伸びる馬、馬体を併せたら終わっちゃう馬、追い出してピュッと伸びる馬、同じ脚しか使えない馬......逃げにもいろいろあるんだぞって言われてます。逃げるのは好きですね。好きって言うか、逃げたいです!
勝負服も安部厩舎カラーの白と緑ですもんね。デザインは日本初のクローバーですか?
色はもちろん厩舎カラーで考えてたんですけど、周りと違うデザインにしたくて、最初はクローバーで申請したんです。そうしたら、「ハート散らしなら認める」ってことになったので、形はハートになりました。ハートは木之前先輩が日本初ですが、「ハート散らし」は僕が初です(笑)。
同期が3人ということで、ライバル視してますか?
今はライバルという感じでは見てないです。全く気にならないと言ったら嘘になりますけど、同期に勝とう勝とうっていうよりも、上の人たちみたいになりたいっていう気持ちの方が大きいですね。いつか幸夫さんのように、名古屋だけじゃなく、色んなところで乗れるジョッキーになりたいです。いつかはJRAでも乗ってみたいですね。
では、ファンの方へメッセージをお願いします。
これから1つ1つ大切に乗って、1つでも上の着順に来られるように、1つでも多くの勝ち星を挙げられるように頑張ります。いつかみなさんから、「逃げの八木」って言われるように努力していきますので、応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 赤見千尋