今井貴大騎手は昨年、2012年以来の3ケタ勝利となる123勝を挙げて躍進。2016年も引き続き好成績を挙げており、昨年以上の勝ち星が視野に入っています。
今年は昨年よりも成績が上がっていますね。
そうですね。7月と8月はすこし勢いが弱まったかなという感じはありますが、それは乗せていただく馬との巡りあわせもありますからね。今年の名古屋での成績は2位をキープできていますので、その地位をなんとか守っていきたいです。もちろん、本当は1位がいいんですけれど(笑)。
騎乗回数も昨年に比べると伸びていますね。
本当にありがたいです。これからもその数字を上げていきたいし、JRAでも乗りたいですね。そのためにはそういう馬に出会うことが必要。だからこそ、まずは名古屋でしっかりと土台を固めないといけないと思っています。
でも、東海ダービーを2勝した騎手って、なかなかいませんよ?
あまりそこは自分で意識していないところなんですけどね。今年は春先の時点では、ダービーで乗るのは厳しいかなと思っていたんです。でもキタノシャーロットが3月から6連勝してくれたので、ダービーに進むことができました。ダービーでは人気をわりと集めていたようなのですが、やっぱりカツゲキキトキトは強かったなあ。あの馬も今年になっていきなり連勝が始まったわけですから、馬って本当にわからないものだと改めて思わされました。
昨年は東海ダービーをバズーカで勝利(写真:愛知県競馬組合)
今年は通算800勝を達成。1000勝も見えてきましたね。
そこは次の目標ですね。そして名古屋の騎手も世代交代をしていかなければと思っていますよ。でも、先日引退された安部さん(幸夫騎手。地方3055勝、JRA24勝)が現役のうちに、安部さんを超えられるような騎手になりたかったとは思います。個人的にこれから伸ばしていきたいと思う点は、技術的な部分はもちろんですが、内面的な部分。精神面、それからやっぱり経験値を増やすこと。まだ判断ミスをしてしまったと感じるときがありますし、まだまだ勉強です。ただ、ひとつひとつのレースについて、終わったあとに深く考えても仕方がないんですよね。そう考えられるようになったのは5年目ぐらいからかなあ。うまくいかないことが多い世界ですが、それをバネにしていかないと。
経験値を増やすためには、「名古屋以外」というのもキーワードのひとつになりますね。
僕がよく乗せていただいている厩舎は、笠松にはあまり行かないんですよ。確かに名古屋以外ではあまり乗っていなくて、行ったことがあるのは、大井と浦和と、園田、金沢、高知、盛岡......ぐらいかなあ。園田と金沢以外はそれぞれ1回とか2回とかですし。だからこそ今の順位を守って、来年のSJTに出場したいですね。絶対にすごく勉強になる舞台だと思います。
それを目指してという意味を含めて、何か変えてみたところなどはありますか?
上半身を強化したいなと思ったので、ジムに行くようになりました。ポイントは胸筋と背筋ですね。あと、なんか最近になってちょっと太ってきたような気がするので、それを解消させるという意味もあります(笑)。
名古屋は一時期よりも騎手が増えてきましたね。
そうですね。新人騎手と、そして復帰された先輩と。岡部さんも韓国から戻ってきました。でも、やっと10年目にして、たくさんのかたがたに声をかけていただけるようになったわけですから、その信頼を失ってしまわないように頑張っていきたいですね。これまで大きなケガがなかったのもラッキー。そこはこれからも気をつけていきたいと思っています。
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※インタビュー・写真 / 浅野靖典
2006年にデビューした愛知所属の今井貴大騎手は、『日本で初めての平成生まれの騎手』。2012年には東海ダービーを勝利して、最近2年は年間100勝前後と愛知のリーディング争いを狙える位置まで来ています。
マイネルセグメントで東海ダービーを勝ったとき、ものすごくフワフワしている様子でしたが、実際はどうだったんですか?
ゴール地点では外の馬の勢いが上だったので、交わされたと思ったんですが、検量のところに戻ってきたら、厩務員さんが1着のところで待っていたんですよ。ですから「え? 勝ったの?」という感じでした。だからそのあとの出来事に自分の気持ちが全くついていけなくて。インタビューでも何を言ったのか、ぜんぜん記憶にないんです。
あのとき川西毅調教師は「そのうちジワジワとくるんじゃない?」とおっしゃっていました。
その日の夜、布団に入ってからレース内容を振り返って、「勝ったんだな……」という気持ちが改めて出てきました。競馬場でもうるっとしたんですが、そのときもまた。
2012年東海ダービーを制覇(写真:愛知県競馬組合)
ダービーを勝つと、周りの目も違ってくるんじゃないですか?
そうですね。いろいろなかたに声をかけていただいて、逆にそれがプレッシャーみたいな感じになったこともありました。でもそれを前向きな意識に変えられることができたかなとは思います。
そのあとマイネルセグメントとは、大井のジャパンダートダービー、盛岡のダービーグランプリにも参戦しました。
大井はパドックの人の多さに圧倒されましたし、初めてのナイターもいい経験になりました。盛岡は芝で乗ったことはあったんですが、ダートは初めて。大きいコースで坂もありますし、名古屋の競馬とは全然違いましたね。マイネルセグメントは移籍してきて2つくらい勝ったあたりで、この馬で重賞を取りたいなと意識し始めました。
それが自分自身にとっても初めての重賞勝利(2011年ライデンリーダー記念)につながったんですね。でも今井騎手は、デビューから1年以内に通算50勝を達成。日本プロスポーツ大賞新人賞を受賞しています。
デビュー前は「やってやろう」的な気持ちだったんですが、そう簡単にはいかなかったですね。ただ、名古屋は上手な騎手が多いので、見ているだけでも勉強になりましたし、厩舎のみなさんにもよくしていただいたので恵まれていたんだと思います。それでも騎手のレベルが高い場所で、ある程度の勝ち星を挙げられたということは自信になりました。
馬には小さいころから親しめる環境だったんですか?
いえ、ウチは両親が平日休みの仕事をしていまして、小学校のころから夏休みとかに、父に名古屋、笠松に連れて行ってもらっていたんです。それで中学に入ったあたりから、騎手というのは自分に合った仕事かなあと思い始めました。でも教養センターに入る前、当時は入所試験が年に2回あったんですが、春のときは1次試験に受かったのに、2次試験の直前に左手の甲を骨折して不合格。それで秋にも試験を受けたんですが、そのときも試験の1ヶ月前に左手首を骨折してしまったんです。それでもなんとか合格できたんですが、教養センターでも左手の指を骨折。左ばかりですね(笑)。
ということは、左利きなんですか?
箸や字を書くのは右ですが、包丁は左ですね。ムチも左のほうが持ちやすい感覚があります。でも、騎手になってからは大きなケガをしていないんですよ。馬にアゴを蹴られて骨折したのが唯一です。
ということは、デビュー前にかなりの厄落としができたのかもしれないですね。そして成績も徐々に上昇してきました。
今年の正月に「リーディング3位以内」という目標を立てたんですが、今年はちょっと調子が出てこないんですよね……。もっとがんばらないとダメだなと思います。
自分自身では、どのあたりがセールスポイントだと思っていますか?
えーっと、どこなんでしょうねえ。教養センターでは教官にスタートセンスがいいと言われましたけれど、競馬場に来てみたらそうでもないなあと感じましたし。そうですねえ、レースで乗る馬の癖などを把握することはいつも考えていますね。トップを守っている岡部(誠)騎手の域には、並大抵の努力ではとても追いつけないと思いますが、そこに少しでも近づけるようにしていきたいです。
自分自身の性格はどのように分析されていますか?
そうですねえ、負けずぎらいなのかなあ。カードが出てくるゲームをやると、いいカードが出てくるまで続けてしまうことがあったりして……。そういう意味ではあきらめも悪いですね(笑)。子供の頃はそんな感じではなかったと思うんですが、やっぱりこの世界に入ったからですかねえ?
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※インタビュー / 浅野靖典