金沢競馬でキャリア25年目。リーディングトップを5回獲得している2000勝ジョッキーが
中川雅之騎手だ。
今回は本人が「記憶にないなあ」という、1日5勝を達成した日に話を伺った。
まずはホームグラウンドである金沢競馬場の特徴から教えていただいた。
■ここは雨が多い土地なので、砂がとても流れやすいんです。その影響で、時期によって砂の深さが
違うのですが、ここ最近(取材日は5月14日)は内も外も平均的になっている感じです。
だから今は以前とは違って、あまり内をあけて走らせていません。この競馬場の砂は粒が粗いので、
サラッとしないんですよ。だから雨が降ったあと、路盤近くの足跡がそのまま固まって凹凸ができることも
あります(二重蹄跡とよばれる現象)し、表面だけが良馬場になっていることも多いように思います。
でも、金沢はとても乗りやすいコースだと思いますよ。カーブの傾斜も少しありますし、多少早仕掛け
しても残ることが多いように感じます。ですから、3コーナーあたりから勢いをつける乗り方をすると
好成績につながる感じがありますね。
中川騎手の父も騎手(現調教師。中川雅之騎手は厩舎所属騎手)。「ホクリク」の西村さん
曰く、『体で時計を刻める騎手』だったということだ。
■うーん。父とぼくとでは感性というものが違うような気がするんですよね。ぼくの場合、頭では理解
できていても体が自然と動いていかないことがあります。この年(44歳)まで現役をやっていますが、
なんとなく長いこと乗ってきただけという気もしますし、まだまだ超えられないなと。
今も親方(中川調教師のこと)は毎日2頭くらい攻め馬をしているのですが、67歳なのに乗る姿が
ものすごくやわらかいんです。
肩やひじのあのやわらかさ、そういうところは似なかったなあと思いますね。それにぼくは学生のときに
馬術をずっとやっていたんですよ。そのときに体にしみこんだ「型」というものの影響があるようで、
それは競馬の動きと少し違いますから、そのあたりのクセというか、そういうところも含めて、頭と体が
一体にならないというようなところで若い頃はすごく悩みました。早くそれに気づいて、とっとと馬術を
やめておけばよかったと、今でも思っているくらいです。
それでもここまで現役を続けていられるのは、トップジョッキーである証だろう。
■ぼくらの若い頃は、同世代の騎手が十数人ひしめき合っていて、そのなかでの争いがすごかった
んです。そしてそこを抜けてこられたから、今でも残れているのかなという気がしますね。
ぼくは競馬に出るときには、気持ちだけは負けないでおこうと、ずっと思っているんですよ。
もう引退とかそういうことを考えなきゃいけないくらいの年齢ですが、乗る以上は辞めるその日まで
気を張って乗っていたいので。食えないから辞めるとか、体力的にきつくなってやめるというのはイヤ。
そういうこともあって、ここ2、3年は気持ち的に開き直って乗れているように自分でも思います。
若いころも今もそうですが、父の厩舎に所属している騎手ということで、チャンスは数多くもらえる
けれども、結果を出さないと迷惑をかけるという思いも強かったですね。親方が馬主さんに
「乗り役は息子さんで」と言ってもらえるようにならなければ、とずっと思っていましたから。
そんな中川騎手は騎手会長。だからこそ言いたいこともある。
■今の若い騎手は根性やモチベーションがいまひとつという気がします。もまれる強さというか、
精神的な部分が物足りないかなと。ぼくは娘にも「勝負に勝とうと思うならば、根性を出さなければいかんよ」
とよく言っているんです。そうじゃなければ勝ち残れないでしょう。
それに若い騎手は、基礎体力もぼくらの世代に比べたら明らかにないですよね。ぼくはずっとこの
競馬場に住んでいて、小学校のときは片道1時間くらい歩いて通学していました。そういう体力的な
貯金が残っているから、十分に勝負ができているような感じもありますね。
また、若い騎手は自分の体にお金をかけていないようにも思えるんです。ぼくは接骨医なども含め、
体はしっかりチェックしていますよ。馬乗りは全身運動。少しでも痛いところやしっくりこないところが
あると、バランスが崩れますから。自分の身はやっぱり自分で守らないと。
まだまだ前向きな中川騎手。実戦での勝負ポイントはどのあたりになのだろうか。
■今の競馬はスタートがカギ。とにかく『普通に出す』ことが重要ですね。そして、今の馬場では特に
ですが、1コーナーで外を回ったらまず勝てません。馬も昔にくらべると根性がないですし、クセが
悪い馬も多いですから。1300メートル戦では特に外を回ったらダメですね。
でも、内が深い馬場になっているときは内枠だと損になりますし、あえて外を回すという競馬でも間に
合ったりします。それでも基本的には、好位置からの競馬がいちばんの理想ですね。スッと2、3番手
につけられたら最高です。
昔は広い馬場を広く使ってレースをしていたのですが、今は標準的な競馬になっている感じもします。
とにかく「自分の競馬」ができた馬が勝てる競馬場だと思います。
「金沢競馬場は残していけるし、これからもやっていける競馬場」と熱く語る中川騎手。活性化を
訴えて県庁で発言したこともあるそうだ。「もう少し競馬をとりまく環境がよければ、2、3年前に
引退していたかも」というが、「頼まれたら期待にこたえたい」という思いも強いそう。
インタビューの後半は金沢競馬のありかたについての持論をいろいろ聞かせてくれた。騎手紹介
のキャッチコピーは「頑張れマーちゃん」なのだが、「もう少しうまく生きられたらいいと思うんだけど」
というくらいのストレートな熱さに、「兄貴」と呼びたいくらいの気持ちになったのだった。
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中川雅之(なかがわまさゆき)
1963年1月31日生 みずがめ座 A型
石川県出身 中川一男厩舎
初騎乗/1983年4月16日
通算成績/13,641戦2,388勝
重賞勝ち鞍/サラブレッド大賞典2回、北日本
新聞杯、ヤングチャンピオン、JTB賞3回、中
日杯3回、百万石賞、北國王冠2回、日本海ダ
ービー2回、北國アラブチャンピオンなど54勝
服色/胴赤、そで黄
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※成績は2007年5月24日現在
(オッズパーククラブ Vol.6 (2007年7月~9月)より転載)