
3月16日、ばんえい競馬の大一番、第57回ばんえい記念が行われ、1番人気のメムロボブサップが優勝。前日に主戦の阿部武臣騎手が怪我のため、ばんえい記念初騎乗となる渡来心路騎手に乗替り。メムロボブサップは、ばんえい競馬史上8頭目の賞金1億円獲得となりました。
おめでとうございます。今の気持ちを聞かせてください。渡来騎手は珍しくガッツポーズでした。
渡来:すごくほっとしているし、うれしいです。ばんえい記念なので(ガッツポーズしました)。すごく嬉しかったですし、本当に武さん(阿部騎手)と坂本調教師と馬主さんと、そして応援してくださるファンに、すごく感謝しています。
坂本:ありがとうございます。(感動で)言葉がでないくらいです。帯広記念以降は、これにレースを絞ってきました。前走のチャンピオンカップ(トップハンデで勝利)は、『ちょっと無理しすぎたな』という気持ちはあったのですが、後遺症も残らず、今日のレースでも前へ進んでくれた。阿部騎手が、馬の筋肉が痛まないようにトレーニングを重ねてやってくれた。すごく感謝しています。
(通算収得賞金)1億円については、気にしてはいなかったです。放送などで言われて厩舎では話題になったのですが『いや、そこを考えるな』と。一歩ずつ進んで前に行く、という気持ちを常に考えていました。
昨年の借りを返したというよりは、敗戦がすごく良い経験になりました。馬が冷静になっていた。レースを馬が心得ているんです。すごい馬です。
最高のレースで、騎手時代にはなかったくらい緊張しました。見る方が疲れます。
直前で、阿部騎手の怪我がありました。
坂本:突然で、ちょっとパニックになりました。渡来騎手も冷静に馬を持ってくるタイプなので、一番いい乗り方ができるかな、と思い、その通り冷静に乗ってきました。
いつもとはちょっとゲートの出が違ったんです。過去のビデオを見たらわかると思いますが、メムロボブサップは、出る瞬間を馬が決めているんです。渡来騎手は、手綱に力が入って下げ気味にしていたのが、阿部騎手と違うところでした。馬も阿部騎手との違いを感じ取ったと思います。
私はハナを引っ張るつもりで見ていたのですが、(いつもとスタートが)「あ、違う」と。渡来騎手もそこで気がついて冷静でした。それは重賞を乗りこなしている騎手の勘。素晴らしいものがあったと思います。
渡来騎手は、騎乗が急遽決まりました。
渡来:本当に俺でいいのかな、と。心臓バクバクで、プレッシャーでどうしようかな、って感じでした。プレッシャーを感じすぎて、一周回ってやるしかないな、という気持ちになりました。自分に声がかかるとは思っていなかったです。(これまで乗ったことのない)ばんえい記念ですし。
(阿部騎手が怪我をしたとき)救急車が来ていたのは聞こえたのですが、乗替りも発表で知り「どうしようかな」って、プレッシャーがすごくて。
坂本:そう言いますが、(渡来騎手は)わりに図太いですよ。
渡来:緊張はしなかったのですが、プレッシャーで。でも、前日の夜は思ったよりぐっすり寝れました。
レースについて教えてください。
渡来:雪が降りましたが、荷物が1トンなので焦ることなく慎重に、しっかり溜めていこうと思っていました。
強い馬で、武さん(阿部騎手)がしっかり仕上げてくれていました。スタート出た瞬間に「完璧な馬だな」というのがわかったので、馬に任せ、呼吸を見ながら乗りました。初めての1トンで、どのように乗ったらいいのか全くわからなかったですが、もうボブサップが走りたいように全部任せました。この馬が一番レースをわかっているから。
完璧な馬、とは具体的には。
渡来:スタートの良さ、1トン引っ張っても道中しっかりハミを取って騎手の言うことを聞いてくれるところ。前に行きたがる闘争心もあるし、障害力もあるし、降りてからの脚、全てがそろっている馬だと思います。
第2障害を一腰で上げたいと思い、障害の下でしっかり息を入れることを意識していました。障害は先に他の馬が越えましたが、馬が完璧だったので焦ることはなかったです。降りた時の勢いがあったので勝てるな、と。ゴール前もまだ余裕がありそうだったので、このまま止まらずに行ってくれるな、と思っていました。1トンですし、追い詰めてもつらいかなって思って(無理に追わなかった)。
初めてのばんえい記念はいかがでしたか。
渡来:急遽決まったので初めてというより、プレッシャーの方が大きくて。観客の多さなどは気にしなかったです。
直前の乗り代わりでしたが、短い間に準備したことはありますか。
渡来:何もしていません。坂本調教師が当日の朝仕上げてくれて、それまでも武さんが仕上げてくれていた馬です。
坂本:渡来騎手は一回も触らず、レースで初めて乗せたんです。これまでほとんど阿部騎手が調教を付けていて、私は健康管理に回っています。私が調教をつけたのは過去4、5回くらいかな。当日の朝は、渡来騎手も『攻め馬をする』と待っていましたが、私がやりました。馬は完璧ですから、あとはレースでの乗り方次第だと。
合図は人間が馬に伝えるのではなく、馬が出すもの。渡来騎手の乗り方もわかっていますし、馬の仕上げも私の中で考えているものがある。いちいち説明するようなレベルの騎手ではないですし、どうやって乗りこなすかを見ていました。
阿部騎手に伝えたい思いはありますか。
坂本:伝えなくてもわかっていると思います。
渡来騎手は、2020年にメムロボブサップに騎乗しています(阿部騎手がホクショウマサルに騎乗したためで、この時が過去唯一阿部騎手以外の騎乗)。
渡来:その時から強いなとは思っていたんですけど、やっぱり強いです。そのときよりは力は断然付いていますし、レースを覚えているというか、馬が自分でしっかりレースをわかっている感じですね。
坂本:それに気づいたということは、すごいジョッキーになってきたってことだ。
渡来:そんなことないですよ(笑)。
坂本:渡来騎手は追う回数は多くないけど、ああ見えて汗をかいているんです。ものすごい緊張感で、こんなに寒い日でもスタート前は寒くないんです。私も経験がありますから。
渡来:そうですね。(レースが終わって)表彰式の時は寒かったです(笑)。
成長を感じるところはありますか。
坂本:私と違って(笑)、成長が著しい。昔はやんちゃなところがあって、厩務員に危ない、と言われるくらいでした。今では、自分が歩くのを待っていてくれる。馬房に行ったら振り向いてくれるんです。私に対して優しい馬だと思っています。
まだ現役は続きますので、このまま健康を保っていきたいです。来年度は、目標を(まだ勝てていない)帯広記念に絞りたいと思います。今日のボブサップに感謝しています。皆さんの応援があったので、ボブも応えてくれたと思います。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
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2017、18年とばんえい調教師リーディングに輝いたのが坂本東一調教師(65)。騎手としてばんえい歴代5位の2681勝を挙げ、2007年には日本プロスポーツ大賞功労賞を受賞。調教師として12年目を迎えます。
ばんえいアワード2018特別賞の表彰式。白いスーツが似合っていて、騎手時代からのオーラは健在
リーディング、おめでとうございます。2018年度の勝利数は歴代最多の135勝でした。通算勝利数も7月22日現在915勝で、今年度中の1000勝も期待できますね。
調教師は陰の存在でいいんだ。表に出るのは騎手。周りは(リーディングだって)騒ぐけれど、騎手時代から数にはこだわってなかった。マイペース! 自分のレベルを超えたら失敗する。絶対壁にぶつかるから。
勝利数はもちろん、出走回数も1011とずばぬけている(2位は西弘美調教師の903)のはすばらしいですね。馬主からの信頼と、無事に馬を出走させていることが数字に表れています。
あまり営業することはないが、入れてくれ、と言われるから。気を付けているのは馬の健康管理。しぐさで判断する。今は通年走るから、勝てる場面が必ず来る。勝つ意志を持って出走させながら、そのチャンスを作っておく。人でさえ絶好調は何度もない。風邪、寝不足。それを管理するのが私の仕事。よそには作れない馬の作り方はあるよ。オリンピックに出る選手の筋トレが難しいのと同じだよね。
坂本調教師は騎手時代から、誰よりも早い時間に起きて調教していたそうですね。
今も午前2時くらいには起きて馬を見ている。昔は50人も騎手がいて、1頭乗るのも大変な時代だった。1勝するのはさらに大変。「果報は寝て待て」だよ。騎手になる前は、建設、船、トンネルを掘るなど、いろんな仕事をしてきた。船に乗っている時に疲れてカッパを着たまま寝てしまうんだ。「寝て」というのは、まさにそれだと思う。続けていけば、そのうち上の仕事を任されるようになる。
馬とはずっと話をしていたよ。「自分はこうしたいんだけど」というと「それ以上の力出せない」と馬が言うのがわかるから。厩務員と騎手では教えるポイントも違う。馬のことだけは人に指導されたくなかったから、オーナーにも「それはだめです」って屈しなかった。それで乗り替ったこともあるよ。
坂本先生は、ばんえい記念にも積極的に馬を出走させ、ともすれば頭数が少なくなりそうなレースを盛り上げてくれます。今年は重賞の常連シンザンボーイのほかに、ドルフィンとカンシャノココロを出走させました。出走馬の見極めについて教えてください。
頼むよ、と言われるからなぁ。あきらめないで、這うような馬を選んで、馬主さんに頼む。もう表舞台には立たないけれど、裏で協力できるならやる。
ドルフィンは、(馬場の重い)草ばん馬で使っていた。青森の草ばん馬はそりに乗らず、口元を持つために障害でよれることがあるので、真っすぐにさせるのがポイント。松田道明騎手には「俺ならゴールまで持ってこれる。絶対あきらめるな」と話した。「よくやった」と言ったよ。カンシャノココロも、耐えることができる馬だから出したんだ。
2007年、トモエパワーでばんえい記念制覇
ばんえい記念といえば、トモエパワーですね(2007~09年に3連覇、坂本騎手は07年に騎乗)。
ばんえい記念は1回しか勝ったことないんだよ。ただ、勝ち馬には一番調教を付けたかな。一番強かったのはフクイチ(1995、97、98年ばんえい記念)。力が違う! 700、800キロならおもちゃ。馬の反発心があるから、厩務員がやっても動かないんだ。その次に強かったのがトモエパワーかな。牝馬のキヨヒメ(1979、81、82年ばんえい記念)も強かった。若い時には何人も怪我をさせた。それでも、調教をこなしたら馬も観念して「この人に逆らったらだめだ」ってわかる。
ばんえい記念も以前は4市で行っていたけど、帯広は楽。一番大変なのは、道中重い旭川。北見は晴れると重く、さらさらした馬場になる。水分でかなり違う競馬場なんだ。
騎手時代に大事にしていたことはありますか。
第1障害からの乗る位置。中央の騎手と同じで、まずゲートを出す。平地競馬は位置取りが大変なので、その点ばん馬は(セパレートなので)楽。200mには1頭1頭のドラマがある。
俺は鈴木恵介騎手と意見がぴったり合うんだ。どん底見てきてるからな。あいつ(娘婿の阿部武臣騎手)はだめ! 2着が多い。最近は(俺の考えに)気づいてきているみたいだが。
リーディング2位の騎手に厳しいですね(笑)。引退してからは一度、2014年の『マスターズカップ』に参加して久しぶりの『東一ジャンプ』(そりの上で飛びながら追う)を見ました。
やめたらもう絶対乗らない、って決めていた。草ばん馬でも乗らなかったのに、あの時は馬主に頼まれて断れなくってな。ジャンプはサービスだよ。
今の騎手はプロ意識が薄れてきているな。50代はじめの頃は、スタート直後に蹴られて腕を骨折して、手綱で腕を巻きながら騎乗したよ。レースでは必死でしゃくる(手綱を引く)から、手が真っ青で夜は湿布をしていた。今もこんなに曲がっているよ。
すごいですね...。さて、今はホクショウマサルが25連勝中の記録更新中です。
もともとパワーはあったからね。800キロまでは調教が間に合うが、これから重くなると(手術した喉に)無理がかかる。ここがぎりぎりかな、と思うと休んでいる。出るからには負けたくないしね。負ける時が肝心。悔いのない負け方をしたい。調教を増やせば負担がかかるが、時間をかけて、おいおいはばんえい記念の出走を考えている。
連勝中のホクショウマサルと
オープン馬のシンザンボーイも活躍中ですが、マサルと同じ牧場出身の幼なじみなんですよね。
シンザンボーイは真面目。体が小さく、まとまっているからね。柔道みたいに階級があればトップなんだけど。その壁をクリアする方法を考えている。若い頃はマサルの方が比較にならないほど抜けていたが、シンザンボーイは階段をゆっくり上っていったね。
メムロボブサップは絶好調だから、正直古馬とは戦わせたくない。マサルの若い時のようだけど、つぶれたら終わりだから、気を付けている。
2歳のトワトラナノココロは、むちゃしない限り、将来活躍できると思っている。いい意味で気性が激しい。馬は階段、エスカレーター、エレベーター、と成長する馬がいるが、できるだけ階段を上るように調教していきたい。2歳ではカイセドクターもパワーがある。ひそかに狙っているよ。
かわいくて人気のタナボタチャンかい? 特に性格がきついんだ。反発心が強く、波があるから調整が難しい。調教も機嫌が悪かったら馬房から出てこないよ。普段はおとなしいんだけどな。
2019年3月3日、イレネー記念を制したメムロボブサップ(写真:小久保巌義)
中学生のお孫さん(阿部騎手の長男)も厩舎を手伝っているそうですね。
「俺が教えてやる」と言っているんだ。部屋にいると「ジジ大丈夫か」って、毎日俺の様子を見に来るんだ。ババ(妻の美香子さん)が4年前に亡くなってからいつも来る。妻が亡くなった時は、俺が「(競馬)やめるかな」と言ったら「俺がやるから、もうちょっと頑張ってくれ」と言ったんだ。
素質あると思うよ。100キロの重りを1人で持つほど力があるが「今から無理すんな」っていうんだ。
「来たかったら友達を連れておいで」と言ってる。今の時代は危ないとかいうけど、痛い思いをして物を覚えることも大事。俺が教えられるのはそれしかないから。
楽しみですね。では、オッズパークの会員に、ばんえいの見どころを教えてください。
いろいろな騎手の駆け引きがあることを知って欲しい。ドラマがあることを考えてみれば面白い。いつも来る人はわかっているよね。考えれば考えるほど深くなる。そして、根強いファンが増えてくる。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香