2005年の調教師デビュー以来、7月8日に通算1000勝を達成。騎手としてもスーパーペガサスなどで通算2085勝を挙げた岩本利春調教師(59)に話を伺いました。
1000勝おめでとうございます。
偉そうに1000勝っていっても、一つ一つの勝ち星は縁の下の力持ちである厩務員のおかげ。一癖ある厩務員ばかりだけど、それが逆にいい(笑)。
管理はどのようなことに気をつけていますか。
飼い付け、体重だね。これから涼しくなってくるけど、体重が増えない馬や、脚や爪を痛める馬が増えてくる。
今年は7月が特に暑かった。みんな状況は同じだが、36度とかが1週間続くと、馬はがくっと弱る。調教の時間を早めたり、荷物を軽めにしたりしてやってきた。
ばん馬の場合は古馬になれば、サラブレッドほど手をかけることはない。それでも、2歳馬やデビュー前の馬が環境に慣れるまでは気を遣うね。慣れるまで時間がかかる。
先生は道内各地の草ばん馬でも姿をお見かけします。
会場に馬主さんがいることもあるけれど、各地方のばん馬が盛り上がってほしいと思って、現役馬も連れていきます。これからは牧場で調教中の1歳もいるからね。
2017年7月8日第7レース、センショウニシキで通算1000勝達成
この世界に入るきっかけは。
出身は札幌の北側にある当別町で、父が牧場で繁殖牝馬や種馬を持っていました。子供の頃から周りに馬がいて、世話もやらされた。その影響で、中学卒業後に競馬場に入りました。
騎手時代の先生といえば、スーパーペガサスの印象があります。
そうだ。携わることができて最高だった。ばんえい記念はなかなか乗れるものではないし、勝ちたいと思って勝てるものではない。
ミドリゴゼンなど、松田昇さん(松田道明騎手の父)の馬にもお世話になった。ペガサスに限らず、馬にはいろいろと教わった。
厩舎でやることは単調だけど、体調や食欲は厩務員の方がわかっている。だから厩務員の性格を理解して、レース内容によっては担当馬を変えたりもする。せっかちもいればマイペースもいるからね。今は厩務員4人、騎手2人(藤本匠、島津新)で、午前2時半ころから調教をつけている。俺は逆に馬に調教つけられているよ(笑)。
騎手や厩務員に指導することはありますか。
初めての人には言うけど、厩務員は(経験が)長い人ばかりだし、匠にはもう言うことはない。見た通り、一生懸命でまじめ。真っすぐだから。常に1着を取りたがるところが4000勝に結びつくんじゃないか。
新もあえて言うことはないが、まだ若いからしくじることはあるな。もうちょっと考えて乗れば、と思うことがある。普段馬触っているわりに軽率だものな。
なかなか厳しいですね。
誰もが最初からトップジョッキーだったわけじゃない。新人の頃、周りには喜来光雄さんや水上勲さん、木村卓司さんなど、腕の立つ人が多かった。まねをしたり、見る角度を変えたりしてやってきた。兄弟子の金山明彦さん(現調教師)に教えてもらったりして、競馬場で培ってきたものがある。腹時計、みたいなものがね。
こういうのはセンスだから。どこかで気づいたり、攻め馬で、触って見抜く力というのがある。それぞれの個性や感覚があるから、自分のポイントを振り返って、常に平常心で馬に携わっていないと。
2011年(2010年度)のイレネー記念をニュータカラコマで勝利
調教師生活で思い出に残る馬はいますか。
今は転厩したけれど、2011年のイレネー記念を勝ったニュータカラコマ(2017年ばんえいグランプリなど重賞8勝)だね。能力はあるが、障害が気ままだったりと癖があった。手をかけた馬だったね。今はそんなところはないけれど。
フウジンライデンは、2、3歳の時に重賞を取ったから昨年は重量に苦戦していたけれど、今年は対応してきている。
ホンベツイチバン(牡10)は、大きな病気もなく、まじめな馬。こういうのも名馬といえるな。種畜検査も通ったので、来年から種馬になる予定。爪もきれいだし、健康なのは内臓がいいってことだね。
イレネー記念やナナカマド賞など、若馬での重賞勝ちが目立ちます。今後の期待馬はいますか。
それは、担当厩務員が手塩にかけたから。そのたまものだな。1000勝を達成したセンショウニシキ(牡3)は涼しくなれば楽しみ。2歳では、センショウブルーやブラックエースは馬格がある。ツガルノボブは障害がいい。
入厩する馬は、草ばん馬を経験して春から馬ができている馬が多いけれど、今から秋にかけては未経験馬の伸びしろがある。体も増えてくる。どんな馬でも、馬主からの指示はあるけれど、それぞれ作戦を考えているよ。
2016年のイレネー記念を制したフウジンライデン
馬主さんの相手、大変そうですが......。
ゴール入らないうちから怒りの電話が来る(笑)。早いから。仲間で話が盛り上がって、俺のところに「まだまだあんなもんじゃない」って電話してくる(笑)。
普段の生活は。
じーちゃん(笑)。タブレットで、孫とLINEだよ。3歳になって、しゃべるようになったから面白いよ。
釣りは普段はしないけど、これからシーズンのアキアジ釣りはするんだ。
今後の目標は。
目標はいろいろあるけれど、若馬がうまく成長してくれること。あせって仕上げてもだめだし。自然体でうまく仕上げていきたい。
馬は、人の手を借りないとえさをもらえない。レースは辛いかもしれないが、1日でも長く競馬場にいた方が幸せだと思う。
ばんえいは、最近売り上げもいいし、ファン層も若くなっている。もっと競馬場に足を運んでもらって、ばん馬をなくさないようにしたい。帯広は寒いけど、生活しやすい。学校も近いから帯広でよかったよ。
少しでも出走手当が上がってくれればいいけれど、一時より良くなっている。ぜいたく言えないよ。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香