今年のばんえい記念を勝ち、今期も北斗賞、旭川記念と古馬重賞を連勝したばんえい競馬の現役最強馬メムロボブサップ。その鞍上を務める阿部武臣騎手が、7月9日に通算2000勝を達成しました。
2000勝おめでとうございます。1998年にデビューして2017年に1000勝を達成。そして2023年に達成です。ペースが速まりました。
ありがとうございます。自分は気にしないように目の前のレースに集中していましたが、周りが「あと何勝」って言ってきました(笑)。昔は2000勝まで行けると思っていなかった。騎手がいっぱいいて、乗れない時代が長かったから。
転機はありますか。
先輩騎手の乗り馬が重なったため乗ることになった馬が、引っ張る(走る)ようになってから。調教をつけて、癖のある馬でも結果を出したことだと思います。負けてもレースの内容を良くすればチャンスが出てくる。いろいろな馬に触って身についたものもあります。
強い馬はいつか勝つが、弱いといわれる馬でも、1回は勝つチャンスが必ず来る。それをいかにつかめるようになるかです。能力を頭に入れて、ベストにもっていく。チャンスを逃したらなかなか勝てないから、このメンバーで勝てそうだな、と気づくようにならないといけない。馬主も調教師も、弱くても1回は勝ちたいんです。
2021年ばんえい記念 ホクショウマサル
その思いが信頼につながっているのですね。さて、ホクショウマサルの連勝や、メムロボブサップの三冠など、これまで多くのプレッシャーを経験してきました。2020年度は初のリーディングも取りました。
これらの経験で、大きいレースで本命でも余裕を持てるようになりました。
ホクショウマサルは、厩舎での体調管理が大変だった。気を配って小さな変化を見つけないといけない。調教も担当しているので、厩務員ではわからない変化もあります。えさの量、力量、くせ、すべて頭に入れている。生き物なので、体調が悪かったら引っ張れないから。(2021年の死は)急だったから......種馬にしてあげたかった。
メムロボブサップはいい相棒、かな。生まれて数か月の時に見ていたけど、小さかったし特別な印象はなかった。ただ、能力検査の前に、運動をしたあとでも走っていった。強い馬は調教後の回復が早いから、疲れても反応します。この時「もしかしたら引っ張るかな」と思いました。
2023年ばんえい記念 メムロボブサップ
ほかに期待している馬はいますか。
2000勝の区切りになったタイトルボスは、のちのちよくなってくると思う。カワノデッカーはもう少しスピードがつくといい。
ネオキングダムはマイペースなんだよな。2、3着が多いから上位クラスでレースをすることになってしまう。父のシベチャタイガーは牡馬はおっとりだけど、牝馬はそうでもない。
ジェイホースワンも似ているな。父はキタノオーロラだけど、シベチャタイガーの弟だから。
タイトルボス
現在、騎手会長です。ばんえいは若手騎手の活躍が目立ちます。
俺らの時代は今の倍騎手がいたので、今は乗る機会が多く恵まれている。数乗ればうまくなるから。上手になってくれないとね。昔の駆け引きはすごかった。
競馬場は、苦手な人もいるだろうけど、はまる人ははまる魅力がある。若い人が入るように競馬場全体で考えなくてはいけない。研修があるといいよね。厩舎の子の同級生で、昔から遊びに来ていた縁で入ってきた人もいる。研修をすれば自分に判断もできるから。
自分で馬を操れるようになったらおもしろい。調教を変え、えさを変え、考えていく。スポーツ選手がコンディションを上げていくのと同じです。
競馬場を訪れるファンも増えてきました。
観客が多いときは乗っていて楽しいです。帯広市民でもいまだに知らない人が多いから、いろいろな人に見てもらいばん馬の知名度を高めたい。
馬はものを言わないだけで人間よりも繊細です。粗末なことをすると体調に出る。傷や病気に弱いから一晩で死ぬ。だから手塩にかけて、家族以上に愛している。馬の魅力は、愛情をもって手を掛けたら、返してくれるところです。人間が育てないと太刀打ちできない大きさだから、きちっと手入れして、しかることも大切。共生です。競馬場の人間が、馬に愛着をもって接していることを理解してほしい。
今後の目標と、オッズパーク会員の方に一言お願いします。
馬に対して一番いいレースができるよう、心がけて乗ります。あと何年騎手を続けるかわからないけど、少しでも勝ち星を増やしていけたらと思います。
今年は長男が騎手試験を受ける予定です。一緒に乗れたら教えられるから、数年は一緒に乗りたいですね。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
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7月1日第9レースで通算1000勝を達成した、ばんえい競馬の阿部武臣(たけとみ)騎手(44)。1998年にデビューして20年、今までの思い出や苦労を伺いました。
達成おめでとうございます。1000勝はいつから意識していましたか。
残り10くらいからかな。小5と中1の息子が「今日1着獲った?」って言ってきたから、気にしていたのかな。下の子なんて3年くらい前、2着が続いたら「お父さんアヒル飼ってるの?」って。2がアヒルってことだよね(笑)。
デビューして20年、(1000勝まで)時間がかかったなー。1000勝するとは思っていなかった。10年目までは、騎乗依頼が少ない辛い時代だった。当時は賞金が高いし乗るのもランキング上位の騎手ばかり。騎手の数も今の倍で40人くらいはいたからね。1開催で6~8頭乗ったら多い方。今の若い人より揉まれている。俺らの世代は騎手が多かったけどみんなやめた。俺もやめようと思ったことはある。
それでも踏みとどまった理由はなんでしょうか。
ここの世界しか知らないから、やるしかないのかな、と。少しずつ乗り馬増えてきた時だったし、レースで1着獲ったりすると、やっぱり...ね。負け込むと嫌になるけど、自分が調教をした馬が頭(1着)獲るとうれしいし、次の糧になる。
義理の父である、坂本東一さん(現調教師)には怒られて、怒られて...(笑)。坂本さんは早い時間から調教する人だったから、自分も午前2時とか3時から調教していたよ。それでも11年前は、手当も下がってきたのに我慢していたら『廃止になるかも』だもんね。やめておいた方がよかったのかな、って思ったよ。今はだいぶ売り上げが上がって手当も上がってきたけど、なんだかんだいって馬が好きなんですよね。
一から馴らして、能検やって育てて、オープン馬、というのを育てたいな。馬は子どもと同じで勝手に育っていかないから、一つ一つ教えて作っていく。
7月9日に行われた1000勝達成セレモニー(写真:ばんえい十勝)
レースや調教で心がけていることは。
馬は『前に行きたい気持ち』があってそれで競走している。障害でいかに嫌な思いをさせないで上らせるか。その馬の気持ちと能力を把握して、流れをみながら嫌な思いをさせないようにする。
調教は、馬に適した方法や、力も一頭一頭違うので考えながら行う。
馬との出会いについて教えてください。
宮城県大崎市(旧古川市)で、祖父が山から馬を使って材木出しをしていました。俺らは「馬車追い」って言ってた。
馬でやると山が痛まないんだ。トラクターは、通るために道を作らないといけないから。馬はその必要がない。
俺も中学、高校の時は手伝っていたよ。草ばん馬にも乗っていたから、本場の乗り方や馬の手入れなどを覚えるのに行ってみよう、と高校卒業後にばんえいに来ました。
思い出に残る馬や、今注目している馬を教えてください。
ホッカイヒカルは特殊な馬だったよね。ゲートは出ないしスタートも走らない。手間がかかった。その分思い出深い。来年産駒がデビューするから、うちの厩舎に来たら乗りたいな。シベチャタイガーやイケダガッツのような、ひとくせある馬に乗ることが多いかもね。その時、焦らないことを覚えたかもしれない。
1000勝を達成したミノルシャープはこれから良くなるね。今は休み休み使っているけど、秋になってスピードを生かす競馬ができれば。昔は細かったけれど体が出来てきたし、将来的にオープンになれる馬。障害を降りたら速いし、障害が良く瞬発力がある。
キサラキクは、男馬の中に入るとちょっと辛いけど、軽いといいレースをする。この馬なりに頑張っている。春はあまり調子がよくない方だけど、今年は動きがいいよね。
バウンティハンターは昔は腰が悪く、(障害で)寝てばっかりだったが、それが解消されてきた。
2016年ドリームエイジカップをキサラキクで制した
今のばんえいについて思うことはありますか。
売り上げは伸びているけど、大事なのは人材育成だよね。馬の触り方を覚えないと。騎手になっても、馬の調子を見極められないといけない。それには5、6年はかかるかな。
若い人が少ないよね。生き物相手だから休みがない。馬優先だからね。それを理解して、我慢ができないとだめ。馬主さんの財産を預かっているわけだから。
若い騎手は、昔よりは騎乗できるようになっているけど、自分でレースを考えられるかが重要。
今後の目標を教えてください。
一つ一つ大事に乗って、その馬にとって一番いいレースができるよう心がけたい。それが自然と勝ち星につながっていく。
イレネー記念もばんえいダービーも(ともに2014年ホクショウマサル)獲ったし、今後一番勝ちたいのはばんえい記念だね。あそこまでたどりつく馬がなかなかいない。駆け引きが重要で、乗ってておもしろいから毎年乗りたいレース。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
今シーズンばんえいリーディング4位(12月21日現在)、大躍進の阿部武臣(あべ たけとみ)騎手です。
今シーズン、上位で健闘されています。
夏頃、乗り替わりや癖のある馬で結果を出したのがあるかな。最近、ひと通り厩舎(義父の坂本東一調教師)の馬を調教するのに、春頃おおざっぱに1年間の計画を考えている。2歳の痩せている馬は秋になって体ができてからにするとか、体ができていない馬の調整とか。一緒に走る馬の能力を見極めなくてはいけないから、相手関係も全て確認する。今までもやってきたけれど、騎乗にばかり集中していたころよりは、違う目線で見られるようになった。そうやって馬を作っていかないと、自分の乗り馬が増えていかないし。自分がいい結果を出さないと、厩舎がだめだと言われてしまう。最初はプレッシャーもあったけど、馬にとっていいレースをするように考え、その中で結果を残す。ゆとりを持って乗らないと。
他の厩舎でも、ミスをおかさずにいかに1着を獲るか。そのためには普段から調教をつけるようにして、一番いい能力を発揮できるようにする。本番と練習の癖が全く違う馬もいるから、そのような癖も見極めて。
レースではどのようなことに気をつけていますか。
負けてもきれいなレースになるようにしたい。きれいな、というのは、膝を折ったり、障害で寝かせたり、大きく離されて負けないように。その馬のベストを尽くす。それがいい結果につながったのかもしれない。
あとは、自分が乗っていないのも含めて、レースを見ることだね。この騎手は、この馬に乗ったらこのようなレース運びをするんだ、この馬はこのような馬場の時はこういうレースをしているとか。自分が乗りそうな馬はもちろん、そうではない馬も頭に入れておく。
騎手は勝ってナンボの世界。1着を獲っていい成績を出さないと、騎乗依頼は来ない。最初からいい馬なんて回ってこないので、それをいかに結果を出していくか。勝てない馬でも数乗っていれば、馬主さんに、強い馬を乗せてやるか、と言われることもある。
馬に対してはいかがですか。
一番は健康管理かな。馬房からつなぎ場まで歩く音一つにしても、気を遣う。きつい調教をした後は、飼い葉の食べ方を見る。残していたらやり過ぎていたかな、とか。一番の調教を見極める。耐えられればえさも食べるけど、やり過ぎも良くないけど、レースでいい能力を出せるようにしたい。
阿部騎手といえば、個性的な馬に乗ることが多いように思います。
ホッカイヒカルとかね。どちらかというと、ハナ(スタート)遅い馬が多かったよね。だからそういう馬の騎乗依頼は来る。道中の行き方を考えて、スタートでは焦らなくなった。
思い出の馬を教えて下さい。
初めて重賞を勝ったキタノコクホー(2002年銀河賞)。強い馬たちがたくさんいた世代の中、小さな牝馬で頑張った。
そして、乗り馬が少ない時に活躍してくれたホッカイヒカル(2013年チャンピオンCなど重賞3勝、2015年3月に引退)。夏が弱いので、手間がかかった。餌を食べなくなる。でもオープンだから、重い荷物を引いて調教しなければならない。それでも怪我なく頑張ったよね。来年初仔が生まれるよ。
ホッカイヒカルの引退式。右が坂本東一調教師
レースで大事にしていることはありますか。
まっすぐ走らすこと。半歩でもいいからゲートを早く出ること。いかに、2障害まで負担かけないように行かせるか。そこで無理すると体に負担がかかって、障害で止まったり膝を折ったりする。
ゲートについては、ばん馬は立ち上がったりするのはそんなにはないけど、暴れていたらスタートは切られない。ばん馬には、脱糞(馬がゲート内で糞をするときは、騎手が手を上げてスタートを待たせる)で待つことがあるからね。
先日は、ゆるキャラのレースに出走しましたね。乗りにくくないですか?
ふなっしーね。ブシャブシャ言ってたよ(笑)。邪魔ではないよ。普段の調教は荷物の後ろに乗っているから同じ感覚。面白いよ。お客さんを見たり、楽しみながら乗れる。荷物も軽いから馬に負担はないし。ふなっしーパワーで、あんなに人来るんだね。
今後の期待馬について教えてください。
ホクショウマサルはダービー(2014年)を勝って、ハンデがきつい状態だからこれからだね。
2014年度最多勝(15勝)のカンシャノココロは、2歳のころから活躍はしていたけれど、若馬のレースだしスピードが足りなかった。4歳になってペースが落ち着くレースが増えてから良くなった。今シーズンは古馬と走りながら4勝しているからね。障害降りてから歩ける馬。シンザンボーイも同じく自在性に優れている。最近タナボタチャン(芦毛っぽい栗毛の牝馬)が人気だよね。
ファンに、ばんえいの見どころを教えて下さい。
障害かな......。馬場が重い時期なら、1障害と2障害の間の駆け引きやゴール前の接戦が面白いけれど、12月はまだペースが速いかもしれない。3月になればだいぶ重くなっている。白熱したレースを見られると思うよ。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香