昨年通算3000勝を達成し、NARグランプリ2014の特別賞を受賞。3月には、ばんえい競馬の大一番・ばんえい記念をキタノタイショウで制した大河原和雄騎手(55)です。
あらためて、ばんえい記念優勝おめでとうございます。1トンを曳きましたが、その後のタイショウの様子はいかがですか。
元気だよ。疲れもない。その後は荷物を積まずに、リフレッシュできるような調教をしています。
ばんえい記念を勝った時の気持ちをお聞かせください。
ほっとした。昨年は、アキレス腱を切ってレースに出られず服部先生をはじめとするスタッフの方々に迷惑をかけてしまった。ちょっとは借りを返せたのかな、という思いです。昨年はベッドの上で、すごい悔しかった。(弟弟子の)恵介(鈴木騎手)がゴールした後「兄貴、おめでとう。良かった」と言ってくれたことが、一番ほっとした。2月のNARグランプリ2014の表彰式でも、先生にばんえい記念獲らせるんだって宣言しちゃったからな(笑)。
(ばんえい記念は)朝の雪の影響で、水分含んでいるから昨年よりはちょっと速く、レースは3分半くらいだな、と思って進めた。自分のレースをするだけで、周りの動きは気にしませんでした。2障害はわりかし安心していたよ。馬と会話しながらね。レースについては、楽しかった、という気持ちだね。ゴール前は、(先行する)フジダイビクトリーより、ニュータカラコマの方が手応えがあった(から注意していた)。
ばんえい記念を制したキタノタイショウ
ばんえい記念はサカノタイソン(2001年)以来2回目ですね。
あの時は代打だったけど、この子(キタノタイショウ)は先生が見つけて、自分が若いうちから育ててきた馬だから、子どもの成長をみながらレースに向かっていくようでした。
キタノタイショウはどのような馬ですか。
ものすごく臆病。水たまりをよけたり、カメラのフラッシュに驚いたり。それだから、切れ味のあるレースができる。サラブレッドと同じで、逃げたがる性格を使ってレースをする。
それだけに、ばんえい記念だからといって、変わったことはしなかった。普段通りにやることに気をつけていた。人の緊張もビシビシと伝わる馬だから、人も平常心でいられるようにしなければいけない。スタッフがいつも馬に声をかけていました。ばんえい記念に向けた調教も、荷物は1000キロ以上は積んだけれどそれ以外は普段通り。ご飯食べているか、いい汗かいているか、体調面に気をつけました。
ばんえい記念後の記者会見。服部義幸調教師と
4月11日にはデビュー前の2歳馬を中心とする能力検査が行われました。大河原騎手は若馬が得意な印象があり、馬主からの信頼も厚いと思いますが、今年も21レース中、19レースに乗っていましたね。
雨が降って馬場が軽かったから、合格率が高く(95%)、厩舎サイドも生産者も、馬主にとってもよかったと思う。これからが大変かもしれないが、まずはレースに出る権利がなくちゃいけないから。今年産駒デビューの種牡馬には、自厩舎にいたハマナカキングがいる。切れ味があるね。カネサテンリュウの子どもも優秀かな。早熟タイプだと思うし、馬体が大きな馬が多い。
2歳馬の馴致で気をつけていることは。
気持ちを邪魔しないこと。相手の信号を把握する。会話できれば苦労しないけどね、触って、声がけして、コンタクトを取るようにしている。
2歳馬の能力検査
4月18日にリニューアルしたふれあい動物園には、騎乗していた服部厩舎のカツラアスリートが、新しく帯広市特別嘱託職員に任命され入厩しました。3連勝していたのでちょっともったいない気もします。
まだまだ上に行けたかな。でも、これからずっと大事にしてくれるのなら、と馬主さんも了承してくれた。あの子はリッキー以上に親しみやすいよ! 昔から人好きで、どこに行っても懐っこい。
動物園、きれいになったよね。一番良かったのは、子どもに触ってもらえるように馬房を作ったこと、服部調教師が、親しみやすい厩舎になるよう浦河などに行って調べてきた。馬は見て終わり、のところが多いけれど、馬に触らないことには意味がないから。たくさんの馬に触れていってほしい。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
デビュー29年目を迎え、7月28日現在、通算2935勝のばんえいトップジョッキー、大河原和雄騎手。関係者やファンから高い評価を受けており、今年はキタノタイショウとのコンビで注目が集まります。
斎藤:出身は道東の別海町ですね。
大河原:実家は牧場で、中学生のころから家の馬でばん馬大会に出ていた。サラブレッドの騎手になりたかったけれど、体が大きくなったからばん馬にしました。今は、双子の兄が牧場を継いでいます。21歳で競馬場に入って、騎手になったのは25歳。当時でも遅めだったね。最初は晴披(はれまき)孝治厩舎に入って、久田(守、現調教師)がその時の先輩になる。
斎藤:キタノタイショウで今シーズン重賞2勝。どのような馬ですか。
大河原:臆病。何にでも驚くよ、水たまり、物音、カメラのフラッシュ。馬には、見て驚くのと音に驚くのと2種類いる。カネサブラックは物音に驚くタイプだったけど、タイショウは見て驚く方だな。臆病な馬の方が最終的に強くなる。サラブレッドでもそうだけど、逃げたがる性格を使ってレースをする。このくらいなら大丈夫だ、と。
タイショウは1歳の時から見ていたけれど、「違うな」というオーラがその時からあったよ。競馬場に入ってからは、俺が調教をつけていた。体壊したりしてテスト(能力検査)は良くなかった。それから体調を整えたからデビューは7月だったんだ。
北斗賞(7月14日、5着)は夏バテ気味だったのもあるかな、20キロ(差)は問題ない。今後はグランプリだね。
キタノタイショウ(2011年1月3日、天馬賞優勝時)
斎藤:騎乗停止中の1回を除いて、全て大河原さんが騎乗していますね。
大河原:ずっと乗せてもらえるのってばんえいでは珍しいから。(服部義幸)先生のおかげだ。服部さんは、気持ちを伸ばしてくれる先生だね。騎手でも、馬でも。我慢強いんだ。
斎藤:来年3月のばんえい記念については。
大河原:今年3着だから、それ以上は獲らないと。今年はばんえい記念の調教に時間がちょっと足りなかった。強い調教をしては休ませて、を繰り返すから。1カ月くらいはかかるんだ。時間があれば、もっと行けたと自分では思っている。
斎藤:数々の名馬に乗られていますが、一番思い出に残る馬は。
大河原:一番強いのはリキミドリだ。タイショウやカネサブラックにも乗ったけど、感度が違う。いい筋肉をしているし、センスの塊だった。イレネー記念を勝った時は、ゴール前手綱を持ったままだったんだよ。朝から「寿司取っとけ」って言ってたくらいだもの(笑)。残念ながら疝痛で、7歳の時に死んじゃったけどな。服部厩舎に入ったときに、ちょうどリキミドリが2歳だったんだ。リキミドリのオーナーは、タイショウと同じ木下英三さんなんだよ。
斎藤:明け3歳のイレネー記念を6勝し、能力検査でもほぼ毎年全てのレースに騎乗するなど、若馬での活躍も目立ちます。気をつけていることはありますか。
大河原:リラックスさせることかな。体を固くしては、能力が出せないからね。
斎藤:若い騎手に言いたいことはありますか。
大河原:あるとしたら、もう少し体をケアしろ、ってことだな。騎手として動きやすい体にしておけって。俺は年だから、トレーニングというよりは体をほぐしているよ。
斎藤:大河原騎手は、ゴール前ムチを入れずに馬を進ませている印象があります。
大河原:声をかけたほうがムチより効くんだ。叩くより、ハミをあてて「おら!」っていった方が行く。逆に、燃料なくなってアクセル踏んだって動かないでしょう。それと同じこともある。レースで大事にしているのは、馬が嫌がることはしない、ということ。
斎藤:ばんえいの魅力は。
大河原:子どもの目線でレースを観戦できるってことだね。子どもの足でもついていける。
斎藤:今後の目標を教えてください。
大河原:まずは目の前の3000勝です。
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インタビュー・写真 / 斎藤友香