2015年4月にデビューした山口以和(もちかず)騎手。昨年は45勝と勝ち星を伸ばし、通算勝利数でも2月25日現在97勝と、100勝が間近に迫っています。
騎手デビューして、新年度から4年目に入ります。
ここまで3年、山あり谷ありという感じで来ていますね。うーん、いや、山はあったかなあ。昨年の秋、(ヤングジョッキーズシリーズ・トライアルラウンドの)園田で山が来たかなと思ったんですが......。あのときのことは一生、悔やむと思います(トライアルラウンド園田では2戦とも4着。どちらかで勝利していれば、ファイナルラウンドに進出できた)。それを含めて『なんか持っていないなあ』と思ったりして。もちろん、こういうのって気持ちひとつだとは思うんですよね。ただ、そうならないときもあるんです。競馬自体は楽しくできているのですが。
ということは、壁に当たっているような感じなのでしょうか?
この間、先生(所属の手島勝利調教師)にも「心がめげてる」と言われました。それでも積極的な競馬をしようと心がけていますよ。1300メートル、1400メートルのレースの1コーナーで内から3頭目を回るとかはしたくないですから。でも流れによってはジッとしすぎたり、かと思ったら早すぎたり、もちろんうまく仕掛けが決まるときもあるんですが、いまひとつ一定しない感じがするんです。
それでも昨年は600回以上も騎乗しています。
たくさん乗せてくださるのは本当にありがたいことだと思いますし、佐賀に来てよかったと思います。でも自分の技術ってどうなんでしょう。上手くなったのかなあ。デビュー当初のほうがもしかしたら上手かったかも。最初のころは何も考えずに積極的に行っていましたからね。それがよかったのかもしれないなとも思いますし。
とはいえ、それだけ乗っていれば経験値は確実に上がると思うのですが。
競馬はちょっとの差で結果が変わりますからね。デビュー当初は多少のロスがあってもとにかく前を狙っていましたが、減量が減っていくにつれて、それでは勝てなくなってきました。そのあたりで、考えかたが少しずつ変わってきました。
でも現在はちょっと悩みがあるというか。
そうですね。個人的にはインを回る競馬が落ち着いて乗れるというか理想というか、そういう感じに考えているのですが、今の馬場は外が伸びますからね。それを頭に入れていても、仕掛けられる時と仕掛けられないときがあるんです。そのせいか、最近は"うまくハマった"というか、馬の力と自分の力が合わさってギリギリ勝った、みたいなレースがあまりないように思うんですよね。そういうレースができたときは、あとで何回でも見たいじゃないですか。でも今はそれが少ないので、最近はレースVTRを見まくっています。ふがいなかったレースも含めて。
それでもデビューから3年で100勝近くという数字を残しました。
うーん、最初のころの想像よりは遅いペースですね。でもそれは、競馬の難しさが分かってきたからこそ、こういう思いになっているのだと思います。考えることはとても大切ですし、今はガマンの時かなと。だから、そんなにへこんでいるわけではないんです。悩む自分には悩んでいないといいますか(笑)。
普段の生活は以前と変わりない感じですか?
調教は夜の12時半から。自厩舎の馬にはほとんど乗ります。休みは週に1日ですが、最近は自分の部屋でゆっくりすることが多いですね。そうなると考える時間も増えることになるわけですが、これを越えていかないと。越えたらきっと、新しいものが見えてくるんだと思います。
正月はエスワンノホシで佐賀若駒賞を勝ちました。あれは会心の騎乗ではなかったのですか?
それ以降の2戦がいまひとつの結果ですから......。でも、まだ伸びしろがありますし、飛燕賞は着差があっても、そこまでの差ではないと思いますので、エスワンノホシで大きいところを狙いたいですね。そして今年は50勝という数字を目標にしています。落ち込んでいるところは人に見せたくないですし、これからうれしいところをいっぱい見せていきたいと思っています。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 浅野靖典
今年4月にデビューした佐賀の山口以和騎手は、同期の93期生の中で最初に初勝利を挙げ、すでに6勝を挙げる活躍を見せています(5月15日現在)。これからの成長が楽しみな佐賀の新星に、お話を伺いました。
(写真:地方競馬教養センター)
以和(もちかず)というお名前はかなり珍しいと思うのですが、どんな由来があるんですか?
両親が付けてくれたんですけど、よく「珍しい」って言われます。聖徳太子が作った十七条の憲法の第一条に、『一に曰く、和を以て貴しと為し、忤ること無きを宗とせよ』ということが書いてあって、原文だと『以和為貴』となるんですよ。そこから来ているみたいですね。
さらにお名前に対してなんですけど、苗字が"山口"ということで、佐賀のリーディング山口勲さんと繋がりがあるんですか?
それもよく言われます(笑)。でも全く関係ないんですよ。僕は東京都出身なので。でも苗字が山口さんと同じで、兄弟子は鮫島(克也)さんなので、佐賀のツートップには可愛がってもらっています。
4月5日、デビュー5戦目での初勝利(写真:佐賀県競馬組合)
騎手を目指したきっかけは何ですか?
もともと父が競馬好きで、小さい頃からずっと見ていたんです。物心ついた時には自然と騎手になりたいと思っていました。印象に残っているのは、ヒシミラクルの菊花賞です。あの時ノーリーズンが落馬したんですよね。「競馬っていうのはこういうこともあるのか」と思いましたけど、騎手になりたいという気持ちは変わらなかったです。
地方競馬教養センターでの2年間はどうでしたか?
僕は小さい頃から騎手に憧れていた割には、馬に乗っていなかったんです。だから、センターでは初心者でした。最初のうちは馬に乗れることがすごく楽しかったんですけど、だんだん周りが見えてくると、乗馬経験のある同期との差が大きくて......。そこからは大変でした。辛いこともいっぱいあったけど、でもやっぱり終わってみれば楽しかったですね。
東京都出身ですが、佐賀競馬場を選んだ理由は?
親戚が福岡にいるので、九州という土地が身近だったことと、あと新人がいないんですよ。他の競馬場は同期か近い期でデビューしている新人がいるんですけど、佐賀はいないので、ここで頑張ってみたいなと思いまして。特にツテがあったわけではないのに、所属にしてくれた手島勝利先生には本当に感謝しています。鮫島さんが兄弟子だし、すごく恵まれた環境ですね。
(写真:佐賀県競馬組合)
4月4日にデビューして、5日にはもう初勝利を挙げました。同期の中でも一番乗りでしたね。
はい! 一番に勝てたことはすごく嬉しいです。やっぱり同期のことは意識していますし、絶対に負けたくないので。デビュー戦は、自分では緊張してないって思っていたんですけど、冷静になって振り返るとガチガチだったなと(苦笑)。初勝利は2日目で挙げられたんですけど、「勝ちたい!」という気持ちよりも「この馬のレースをしよう」と思っていたんです。上手く逃げることができて、向正面で田中純さんが来たら馬がハミを取ってくれて、その時もまだ落ち着いて乗っていられました。でも3,4コーナーの中間でチラっと後ろを見たら誰も来てなくて、そこで初めて「勝てるかも...」と思ったら急に体に力が入ってしまって...。そこからはもう必死すぎて、フォームがバラバラになってしまいました。本当に馬のお蔭で勝たせてもらったんです。
デビューからすぐに初勝利を挙げられたというのは、大きいんじゃないですか?
1勝できたことは本当に嬉しかったです。でも本当にまだまだなので......。実は、次の週のスリーバリアントという馬で初勝利するんだって思っていたんです。すごくいい馬で、厩舎としてもそういう期待を持っていて。僕としてはその前に初勝利ができて気持ちが楽になるはずですけど、「2勝目だ!」って意気込んでしまって。レース中は周りが見えなくなって、結局兄弟子の鮫島さんにハナ差で差されて2着......。次にスリーバリアントに乗った時にも気持ちが先行して、ゲートでびっくりするくらい引っ張ってしまってまた負けたんです。「勝ちたい!」「勝てる!」と思うと、どうしても気持ちが入りすぎてしまう......。自分が入れ込んではいけないと本当に思いますね。今、6勝させてもらったんですけど、スリーバリアントでは勝てていないので、この馬で勝つことが今の目標です。
デビュー1か月半で6勝というのは、かなりいいペースだと思いますけど。
ホントですよ。こんなに上手くいくというのは想定外でした。このペースではずっと行けないと思っています。今はいい馬に乗せてもらってたまたま勝たせてもらっているけど、ここで経験を積んで実力をつけて、自分自身の力で馬をサポートできる騎手にならないと。1つ1つを大事に、取りこぼさないように心がけています。
初勝利の口取り。右から2人目が手島勝利調教師(写真:佐賀県競馬組合)
憧れの騎手はどなたですか?
やっぱり兄弟子の鮫島さんです。一緒に乗っていると本当にすごいと思いますね。当たり前のことを当たり前にやるんですよ。実はそういうのって難しいじゃないですか。それに、引き出しの数が多くて、「こんなこともできるんだ」っていつも驚きます。自厩舎は本当によくしてくれて、実習の頃からほとんどの調教に乗せてくれたんですけど、エスワンプリンスだけは乗ったことがないんです。難しいところのある馬だし、佐賀の看板馬なので期待も大きいですから。今は、エスワンプリンスを任せてもらえるような騎手になりたいと思っています。
鮫島騎手は厳しいですか?
レースには厳しいですけど、普段は優しいですよ。デビューしてすぐ、けっこうな数に乗せてもらっているので、鞍が足りなくて。そうしたら鮫島さんが鞍をくれたんです。実はその前に鮫島さんの鞍を勝手に借りてしまって怒られたんですけど......。ちょうど鮫島さんがいなくて、事前に言えなかったんですよ。鮫島さんには本当にいろいろな面でお世話になっています。
では、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
ここまで順調に来ているので、なんとか新人賞を獲りたいと思っています! 佐賀は山口さんと鮫島さんというツートップの壁が厚いですけど、いつかそこを崩せるように精一杯頑張ります。ぜひ佐賀競馬に注目して下さい。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 赤見千尋