今年4月にデビューした出水拓人騎手(佐賀・中川竜馬厩舎所属)は同期で2番目に初勝利を挙げ、以降も順調に勝ち星を積み重ねています。動物が大好きというアプローチから騎手という職業を知った彼は、デビューした今も毎日馬房に行って馬と触れ合っているといいます。8月11日のレース中の落馬による骨折で休養中ですが、デビューしてからの4カ月間について振り返っていただきました。
まずは出水騎手ご自身のことを教えていただきたいと思います。ご出身や騎手になろうと思ったきっかけは何でしたか?
出身は神奈川県厚木市です。小学2年生から中学3年生まで野球をやっていたのですが、背が低くてクラスで前から2~3番目でした。動物が大好きで、学校で飼育係をしたり、家では犬、猫、金魚、カブトムシなどいろいろ飼っていました。それを父が見て、僕に合った仕事を調べて、「騎手をやってみないか?」と言ってくれたんです。「騎手って何だろう?」と思って調べていくうちに「なりたい!」と思い、目指しました。
中学卒業と同時に地方競馬教養センターに入学しましたが、どんな思い出がありますか?
毎日怒られっぱなしでした。入学するまで馬に関わってなかったので、僕だけ何もできず分からないことだらけでした。辛いことばかりでしたが、馬が好きなので手入れが楽しかったです。
神奈川県の出身ですが、佐賀競馬所属を選ばれた理由は何ですか?
地元に近い南関東よりもレースに乗せてもらえて、チャンスがあるかなと考えました。実際、1日に9レースも乗せていただけたりと、すごく恵まれた環境です。とにかく数が乗りたかったんです。乗る度に自分の引き出しが増えていって、「この前はこうだったから、今回はこうしよう」ってレース中に考えてできるようになりました。乗ることで勉強になります。
2018年4月7日佐賀第2レース、アラロケでデビュー戦を迎えました。初めての実戦はどうでしたか?
「ハナを取りに行け」という指示でした。教養センターの競走実習で教わった通りにやろうと思って、ゲートを出てから追っ付けてハナを取りに行ったんですが、逃げることができませんでした。アラロケは小柄な馬であんまり外を回したくなかったので、3~4コーナーはなるべく内々を回りましたが、5着でした。ゴールして「これがレースなんだ」って思いました。それまでは画面上からしか見られなかった景色が、自分で見ることができました。パドックでは家族も応援に来ていて、レースでは実況やお客さんの声が聞こえたり、周りに先輩ジョッキーがいたり、とにかく新鮮でしたね。
初勝利は4月22日の佐賀第5レース、ダークガーランド。同期で2番目に初勝利を挙げましたね。
こんなにたくさん乗せてもらっているから、本当は最初に勝たないといけないんですけど、勝てそうで勝てないレースが多くて焦りがありました。初勝利の前のレースでも逃げたんですが、向正面で後ろから他馬が来たのにジーっとしていたので「それではダメだぞ」と怒られました。だからこのレースでは向正面の早い段階で岡村さん(健司騎手)が来たのが見えた瞬間に追っ付けました。そうしたらそのままスーッと後続を離して勝ちました。馬が強かったですね。31戦目での初勝利で結構遅かったので、「やっと勝ったんだ」とホッとしました。
その後も順調に勝ち星を積み重ね、8月17日時点で18勝です。
強い馬に乗せていただいていますし、プラン通りに上手くレースができた時にだけ勝っています。まだまだ腕がないので、勝てるか勝てないかのギリギリのレースで勝ちを逃すことが多いです。上手く乗って勝つっていうレースを増やしていきたいです。
レースではどんなポイントに気を付けて乗っていますか?
一つは馬場です。佐賀競馬場は内側を空けて走りますが、内が重い日もあれば、梅雨は内を通っても大丈夫だったりしました。半馬幅、通る場所が違うだけで勝ち負けが変わります。経験が浅いので自分では明確に判断できないですが、その日の1レースや2レースを見て、勝った人がどこを通り、どこを通れば伸びるかを考えたり、先生に教えてもらっています。ベテランジョッキーは一瞬で見抜きますし、すごい人は「向正面はそんなに重くないけど、直線は重い」とか細かいところまで分かっているんですよね。教養センターでは馬場状態を気にしてレースをしたことがなかったので、勉強することばかりです。
内ラチ沿いを空けて走る競馬場と言えば高知競馬場もそうです。ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)ではトライアルラウンド高知に参戦しましたが、どうでしたか?
佐賀と似ているかなと思ったんですが、仕掛ける場所が違いました。高知は馬場が重たい分、早めに仕掛けても勝てないと感じました。また、普段のレースでは3キロ減で乗っているので、やや速いペースで逃げても勝てることもあるんですが、YJSのように減量がないと「ここから伸びるだろう」と思っても伸びませんでした。いろいろ難しいです。
目標の騎手は誰ですか?
山口勲さんです。初めて見た時は「よく勝たれるな」くらいにしか思っていなかったんですが、僕もレースに乗るようになって少しづつ...と言ってもまだ全然なんですが分かるようになって、どれだけ繊細に乗ってらっしゃるかというのを感じています。馬場状態を細かく読んでいますし、騎乗馬の特徴だけでなく相手の馬の特徴や状態など全部頭に入っての計算されたような騎乗なのですごいと思います。僕もそういう騎乗ができるようにがんばります。
出水騎手は8月11日の第6レースで前を走っていた馬が故障したのに躓き、ご自身も落馬。いまの状態などはいかがですか? 勝負所でかなり勢いがついた状態での落馬だっただけに心配されているファンも多いと思います。
左鎖骨遠位端骨折で8月13日から約3週間の入院予定です。落馬したレースで馬券を買ったり応援してくださっていたみなさんには申し訳ないです。しばらく馬にも会えないので、入院する日の朝に馬を触ってきました。来月のYJS佐賀は乗れるか分からなくて、復帰はリハビリ次第になると思います。デビューして初めてレースで落馬して落ち込みますが、これも経験と捉えます。
しっかりと治していただいて、また佐賀競馬場での騎乗を見られる日を楽しみに待っています! 最後にオッズパークの会員のみなさまへメッセージをお願いします。
いつも応援していただいているおかげで今、佐賀競馬が良くなってきていると思います。僕も復帰をしたら全能力発揮でがんばりますので、応援よろしくお願いします。牛乳を飲んで、怪我を早く治します。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子