板垣吉則調教師は2015年度にシーズン127勝という大記録を打ち立ててから3年連続で調教師リーディングを獲得。今シーズンもここまで1位を守り続けている。オッズパーク地方競馬応援プロジェクトのマリーグレイスでは8月の若鮎賞を勝利。昨年はキングジャガーが3歳重賞を4勝するなど重賞戦線でも存在感を示し続ける。その秘訣はどこにあるのかを改めてうかがってみた。
まずマリーグレイスについてうかがいます。若鮎賞では8番人気ながら1着と見事な走りを見せてくれました。
厩舎に来た当初は小柄ですが気が良い馬だという印象で、仕上げにはそんなに手間取らないだろうなと思っていました。実際能力検査もすぐ合格してくれましたね。
デビュー戦のマリーグレイス
結果的にはデビューから3着→2着→1着で重賞制覇ということになりましたね。
デビュー戦の時は期待していたんですけど、ちょっと外に膨らむようなレースになってね。その時は3着という残念な結果でしたが、2戦目には好スタートを切って先頭を進んだらよく粘ってくれた。現時点ではそういう形のレースが理想なのかなと、その時から感じていました。若鮎賞は、1600メートルという距離がどうなのかなと思って挑んだのですが、頑張ってくれました。
普段のマリーグレイスはどんな馬なんですか?
調教なんかでもちょっとピリピリした所がありますね。競馬場に来る前からそういう面があったそうなんですが、牝馬らしい気が勝った感じというかね。でも悪さはしないですよ。素直です。
若鮎賞を制したマリーグレイス。8番人気での勝利
では話題を変えて。今年もここまで調教師リーディングの1位を守ってきています。今年も、馬の回転とかいろいろうまくいっているように見えます。
自分としてはもっと上手くやれた部分があるような気もするのですが、欲を出してもキリがないですし。今一番上にいるというのは、良くやって来たということにしていいかな。
過去との比較ですが、2015年のペースにはさすがに届きませんが2016年よりは良くて、去年と比べるとちょっと遅れてきたという感じです(夏の水沢開催終了時点で比較すると、2015年は79勝、2016年は49勝。2017年が61勝で、今年は53勝)。
相手があることですし生き物を扱っているわけだし、良い時悪い時の波があるのは仕方がないですよね。毎週コンスタントに勝てるというものでもない、そういうものだという覚悟はしながらやっています。
今年ここまでの手応えとしては? 手駒の揃い具合とかは。
だいたいシーズンの半分が終わった所になりますが、そうですね、例年は2歳馬の成績がもうひとつなのですが、今年はわりと良く走ってくれる馬が揃っていますし、古馬も勝つべき所は勝ってくれている。あと、自分の所は3歳馬が多いから、このあとは有利な戦いができるのではないかな。
今年は古馬の強い手駒がちょっと少なくて、古馬の重賞なんかはなかなか手が届かないなとは感じているんですけど、その代わり2歳や3歳の若馬に良い馬が多いのでね。そこは楽しみにしています。
毎年感じるのですが、板垣厩舎は馬の入替が早いというか柔軟というか、どんどん入れ替わっていく印象があるんですけど、そこは調教師の意向や指示なんですか?
いや、その辺は全て馬主さんの意向ですね。馬主さんが諦めようかという馬を、力があると思うからもう少し頑張ってみましょうと提言することはもちろんあるけど、基本的には馬主さんの考え通りかな。そこは"馬主ファースト"ですね。
板垣厩舎というとですね、厩務員さん達がずっと同じ顔ぶれですよね。良い厩務員さんが長く勤めているのも良い成績が安定している要因なのではと思いながら見ています。
うちの厩舎は、例えばどういう飼い葉にしようとかどういうケアをしようとかいう部分はほとんどをそれぞれの厩務員に任せています。もちろん自分が指示を出すこともあるんですが、ほとんどの場合は厩務員自身の判断でやってもらっています。自分は気になる馬を自分で調教で乗って確認したりするくらい。
厩務員さんの自主性に任せるわけですね。
やっぱり自分の考えでやってみないと腕が上がらないし、上から"今日はこれだけ食べさせろ、これだけ調教しろ"と指示されてやっても楽しくないと思うんですよね。自分の考えで馬を仕上げてそれで良い結果が出ればやりがいにもなるでしょうし。自分はそういうスタンスでやっていますね。
あともうひとつ聞きたいのがですね、以前、所属する厩務員さん全員が、担当馬が重賞を勝ったということがありました。そういう馬の分配のようなのは調教師が決めるんですか?
それはほとんどの場合は"手が空いている順"です。ごく稀に、例えばこの馬の性格ならこの厩務員が合いそうだなと思って任せることはあるし、馬主さんの希望で担当者を決めることもありますが、ほとんどは馬が来たその時に馬房が空いている厩務員が担当するようにしています。
じゃあ本当に運というか公平というか。厩務員さんもやる気になりますよね。
任せてみてどうしても合わない、どうしても結果が出ないという時は担当を変えることもありますけど。でも"良い馬は全部この厩務員に"ということはないです。
さて、これから楽しみな馬とか注目の馬とかを挙げていただくとすると?
マリーグレイスは、そうですね、小柄な馬なので芝とかの方が良いのかもしれませんが、粘り強いレースをしてくれるので楽しみにしています。それからミラクルジャガー。まだ馬体に緩さが残っていて成長途上なのですが、良いものは持っていると思う。良くなるのが2歳のうちなのか3歳になってからなのかはまだ分からないですけどね。兄(キングジャガー)もそういう所があったので、いずれ変わってくると思っていますよ。
2017年、3歳重賞で4勝を挙げたキングジャガー
30代のうちに騎手を引退し調教師に転身した板垣吉則調教師は今年がまだ9年目のシーズンなのだが、すでに通算605勝(9月27日現在)を挙げしっかりとした足場を築いているように見える。何よりも衝撃的だったのは2015年に叩き出したシーズン127勝という岩手競馬の調教師歴代最高となる勝利数で、そう簡単には破れないと思われていた旧記録(113勝)を大きく超えた所に調教師としての手腕の凄みを感じさせられたものだった。9シーズン目ながらもまだ40代の若い板垣調教師だけに、その覇権の時代はまだしばらく続くのではないだろうか。
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※インタビュー・写真 / 横川典視