鈴木麻優騎手は現在岩手競馬で唯一の女性騎手。2014年にデビューして3年目のシーズンを迎えた。このインタビューは自身の最近の騎乗の話を聞く事が多いのだが、今回はJRA・藤田菜七子騎手の盛岡参戦を受けて、鈴木麻優騎手から見た藤田騎手や地方競馬の女性騎手たちのお話をたずねた。
5月16日にJRAの藤田菜七子騎手が盛岡で騎乗して、その日はたくさんのファンで賑わいました。鈴木麻優騎手もイベントで一緒になったりレースでも一緒に騎乗したりしましたが、藤田騎手参戦はどのように感じましたか?
菜七子ちゃん(藤田騎手)が来るという事でたくさんのファンが来てくれたのは岩手競馬にとって良かったですし、自分も同じ女性騎手という事で比べられるじゃないですか。それも良い刺激になりました。
5月16日盛岡競馬場、藤田菜七子騎手と
彼女のレースを実際に見てどんな事を思った?
力強く追えるところとか、ステッキの使い方なんかも上手だなって思いましたね。
以前に会った事があるんですってね。
はい。私がまだ教養センターにいて、菜七子ちゃんはJRAの競馬学校に入る直前の頃かな。候補生同士の交流会で菜七子ちゃんが来ていて、"女の子がいる!"って。それ以来ずっと覚えていました。
やっぱり女性同士、女性騎手同士、なんというか感じるものはあった?
競馬の事で刺激になる、参考になるのもあるし、女の子同士っていう事で話したい事もあるし......。競馬場だと"同世代の女の子"が周りにいないじゃないですか。女の子同士で話したい時ってあるんですよ。今回は菜七子ちゃんが忙しくてあまり話せなかったけど、また来てほしいですね。その時はもっとゆっくりいろいろ話してみたい。
藤田騎手は今どこに行っても注目を集めているけれど、鈴木騎手もね、デビューした時は凄く話題になって、密着取材とかもされていたじゃないですか。そういう"取材される立場"を体験した者として藤田騎手の事はどんなふうに思う?
大変だろうなと思いますよ。絶対ストレスが溜まると思う。取材されているとムスッとした顔とか、したくてもできないじゃないですか。疲れている時でも受け答えしないといけないのは辛いと思うし、それをこなしているのが偉いなと。
今はこれだけ注目されているけど、何年か経った時にどうなっているかはちょっと心配になったりするね。
ギャップとかですか? でも菜七子ちゃんは上手いから大丈夫だと思う。たくさん勝てるようになって、女の子だからという事でなく普通に目を惹く騎手になるんだと思う。でも早く引退とかしないでほしいな。
ちょうど女性騎手ネタなのでもうちょっと聞いてみよう。あの、レディース系の招待競走あるじゃないですか。女性騎手が集まってね。ああいう時は女性騎手同士でどんな話をしているの?
レースの話もしますけど、いろいろな話をします。たわいもない話。ガールズトークですよ。他所の女性騎手は皆さん個性派揃いだから話していて本当に楽しいです。
昨年のレディス&ヤングジョッキーズでは大活躍
各地の女性騎手の、鈴木麻優騎手から見た印象とか話してもらえる? あたりさわりのない話でいいので。どんなふうに見えているか。じゃあ別府真衣騎手から。
真衣さんは、レースはすごく真剣じゃないですか。1レース1レースもの凄く真剣で、馬の実力を出し切ろうとしている。女性騎手として憧れる存在です。でも普段はすごく面白い。びっくりするくらい面白い方です。
へえ~。なんとなく分かる感じはするけども。同じ高知の下村瑠衣騎手は?
瑠衣さんも面白い先輩なんですが、自分の将来の事とかしっかり考えていて芯が通っているところがすごいなって思いますね。
同じ東北出身だしね。
そうなんです。同じ東北で(※下村騎手は青森県の八戸出身、鈴木騎手は宮城県の気仙沼出身)、同じ港街の生まれだから波長が合うって言うか。話しやすい先輩です。
佐賀の岩永千明騎手はどうでしょう?
まだあまり一緒のレースに乗った事がなくて、会った事もそんなにないですけど、印象は"大人のお姉さん"という感じです。自分から見たイメージは"綺麗な年上の女性"ですね。
名古屋の木之前葵騎手は? 教養センターでも同じ時期だよね。
葵先輩はちょっと気が強いところもあるけどおっとりした面もあって......。几帳面できれい好き。手先も器用です。
みんな"天然"なのね(笑)
そうなんですよ。みんな個性的なんですよ。だから集まるとすごく楽しいんですよ。女性騎手が増えて、またLJSみたいな女性騎手だけのレースをする機会ができればいいですね。
鈴木麻優騎手もデビュー当初は"東日本大震災の被災地から騎手を目指した女の子"という事で注目を集め、デビュー前後の長期間にわたってマスコミの取材を受け続けた経験を持つ。それだけに今の藤田菜七子騎手の境遇には共感する部分も多いようだ。
同時に、そうして取材を受け続けながらも変に舞い上がらず、自分の立場をしっかり理解している......という点でも似ているのではないかと感じる。
またいつか、この二人の、そして藤田騎手も交えての女性騎手の戦いを、見る機会がある事を願う。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
『岩手競馬10年ぶりの新人女性騎手』として、また東日本大震災では気仙沼・鮪立(しびたち)で被災して、被災地から生まれた騎手としてデビュー前から注目されていた鈴木麻優騎手。4月19日にデビューし、ちょうど1カ月後の5月19日に初勝利を挙げてその注目ぶりに応えた。今回はその初勝利の話を中心に鈴木騎手のインタビューをお伝えする。
4月19日のデビュー戦
最初はやはり初勝利の話からいきましょう。5月19日(盛岡第1レース、ホヤラー騎乗)に待望の初勝利を挙げました。
ホヤラーには調教にもずっと乗せてもらっていて、最初の頃は引っかかったりしていたんですけど最近はうまく乗れるようになって、もう"以心伝心"なんですよ。ホヤラー、いい仔なんですよ。大好きなんです。
レースの時は、調教師さんからしっかりと指示を受けていたと聞きました。
スピードがあるから前に行けるんですけど、行きすぎると最後に止まってしまう馬なんですね。だから前回の騎乗時には(佐々木由則)調教師から「無理に行こうとしないで我慢して、周りの動きをよく見て乗ってこい」と。自分も勝とうとか思わないで指示通りに周りの馬の動きを見て進んでいたら、そうしたら勝てる位置に来ていた......という感じでした。
最後の直線とかゴールの瞬間とか、覚えてますか?
覚えてます。村上騎手の馬(ドクトルバロン)を追いかけている間はずっと手応えが良かったので"あっ、もしかしてハナ(1着)獲っちゃうかも!? でもまだまだ(仕掛けるタイミングが)早いよ"って。南郷さんの馬(ラッキーアスム)が来ていたの分かっていて、間に入られないように詰めようかどうしようかちょっと迷ったんですが、詰めに行って。そうしていたら忍さんが動いたんで"ここで動けばいいんだ!"。そこも合わせて動いていったら最後まで馬の手応えが良くて......って感じでしたね。
初勝利のゴールへ(5月19日)
あのレースはホヤラーとしては完璧な乗り方だったよね。良いレースでした。
まだまだですよ。もっとうまく乗らないといけない所がありましたから。でも、ホヤラーには調教とかレースとかいろいろ教えてもらったから、これからも乗る機会があれば一緒に頑張っていきたいです。
ひとつ勝ったことで見えてきた課題、みたいなものはありますか?
そうですね、まだまだ追えないですね。追う力が足りないのは自分でも自覚しています......。
最初の頃なんか、直線でもう息があがってる感じだったものね。でも徐々に力も増してきたように見える。
先輩方がいろいろアドバイスしてくれるんです。ビデオを見ながらどこでどう動いたらいいかとか、どういうコースを取ればいいかとか。先輩方が本当に丁寧に教えてくれるので、自分も少しでも早く進歩しようと思っています。
初勝利のことは、ご家族はなんて言っていましたか?
「おめでとう」って。レースはネットで見ていたそうです。その日は地元でウニの開口があって来れない日だったから。
次の目標は?
まず自厩舎の馬で勝つことです。伊藤先生には実習中から心配ばかりかけていたので良い結果を出して恩返ししたい。
もうひとつくらい。もうちょっと大きめな目標を立てるとしたら?
そうですね~。10勝したいです! 今シーズン中に。勝って自分の力で減量が取れるようになりたいです。
デビューの日はたくさんのマスコミが取材に。新人騎手の囲み取材は前代未聞
さて、今回の初勝利でもそうだったと思うのですが、デビュー前からデビュー後、これまでと、マスコミの取材がね、引きも切らないじゃないですか。そういうのは自分でどう思っていますか?
岩手競馬をアピールする機会になっているから、凄く嬉しいです。
嬉しい?
そうですね。これで岩手競馬を知ってもらって、もっとたくさんのお客さんに来ていただけるようになればいいなと思っています。
あとは、何というか"被災地の復興のシンボル"みたいな扱いに、どうしてもなってしまうじゃないですか。震災から起ち上がる被災者......みたいな。そういう位置づけ方はどうですか? 鈴木騎手的にOK?
うーん、私よりももっと苦労している方のほうがずっと多くて、自分の苦労なんかは比べるとホント小さくて。それに自分はちょっと前向きなだけで、それでここまでやって来ただけだから、"こんなに大々的に取り上げられていいのかな?"と思ったりもします。それも岩手競馬とか地元の宣伝につながるならいいのかな、って。
4月の初騎乗の際もマスコミが"殺到"と言ってもオーバーではないくらい多数訪れ、今回の初勝利のニュースも「全国ニュースで見ました」という声が多い......というほど鈴木騎手のことは各種媒体で取り上げられている。
しかし彼女はそんな扱いに特に舞い上がるでもなく、ソツなく取材をこなす。被災地とあわせて取り上げられること、それが「岩手競馬の宣伝になればいい」という言葉も、分かってそういう役目を演じて、狙って言っている......というわけではなさそうで、ごくごく自然な彼女のスタンスから出てきているようだ。
競馬のこと、レースのことも大事だけど、「もうちょっと、ほっぺのあたりが痩せてスッキリ見えるようになったらいいな~って」「髪を伸ばしたいんですよ。伸ばしたくても伸ばせなかったから、"フワッ"ってなるくらい伸ばしたい」と気にするあたりは年相応の女の子。変に形にとらわれることなく"公・私"を使い分けられるのが彼女の他にない持ち味なのだろう。
競馬は厳しい勝負の世界......ではあるが、願わくばこの自然さを、いつまでも保ち続けてほしいと思う。既存の形に囚われないスタンスは競馬にもきっと活きる......と思うのだが、どうだろうか。
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※インタビュー・写真 / 横川典視