高松亮騎手は岩手競馬の7月終了時点で80勝を挙げ騎手リーディング1位(3月20日以降の岩手競馬のみの成績)。昨シーズンは103勝で4位、一昨年は96勝で3位だったが、シーズンの折り返し点を前にしての80勝は自身の過去最高勝利(2015年の135勝)をも大きく上回るペースだ。そんな活躍ぶりを見せる高松亮騎手の"変化"を探ってみた。
現時点でリーディングトップ。"騎手リーディングを獲る"という強い意志を感じます
今シーズンは"騎手リーディングを獲る"ことを目標に掲げて、全てにおいてそのために行動する。そういうスタンスでやってきました。
例えばこの冬に短期で行っていた高知からも、こっちの調教開始に間に合うように早く帰ってきて調教もしっかり積んだ。それもあって最初から良い馬にも乗せていただけた。もちろん自厩舎のバックアップ、お世話になっている馬主さんのバックアップもあります。シーズン開始前から準備をしてきた甲斐があって開幕からいい流れを作れたと思っています。
東北優駿をフレッチャビアンカで制し、自身二度目の"ダービーウイナー"に
ではシーズンもだいたい半分が過ぎようとしている今ですが、自分で目指してきた通りの結果になっている?
全然納得してないですね。もっと勝たないといけないと思っています。あと2開催くらいで今シーズンも半分ですか。折り返し地点に近づいてますけど、もっとしっかりしなきゃいけないなって。こうやって応援してくださっている人たち、自厩舎の調教師さんや厩務員さん、他の厩舎もそうですし、馬主さんにもですね、勝って結果を出すことが一番だと思っていますから。
それはレースの、というか勝ち方の質?量も?
どっちもですよね。こういうと語弊があるかもしれませんが何が何でも勝てばいいレースもあるし、どんなに質が良くても勝てないレースもありますし。自分の中でよく思ってるのは"勝てばいいって訳ではないんだけども勝たなければいけない"矛盾なんですけどね。
今季のここまでの結果は"気持ちで頑張る"みたいな単純な話じゃなくて準備の仕方からしっかり作って挑んできている結果、ということですか。
去年までの自分がやってきたことって、とにかく"自分を高めること"を目標にやってきたんですよね。JRAの堀厩舎に純粋に勉強したくて行ってみる、とか、南関東に2年連続で短期で行ったりとかも、自分を高めるためにそういう厳しい状況に身をおきたいから......ってやってきた。
そうしてきたことを今年は、"競馬で勝つためにはどうしたらいいか?"っていう考え方だったり準備の仕方に変えた......という感じですね。どうしたら勝ち星を増やせるか、増やすことができるかを以前よりもより一層考えるようになった。考え方としてはそうですね。
ファイト溢れる高松亮騎手の騎乗ぶりはファンも多い
そろそろ迎えるシーズン後半戦に向けての抱負を挙げてもらうとすると?
こればかりは相手もいますからね。自分は良い馬の騎乗依頼も頂いていますから、それにしっかり応えていく。一つ一つ、目の前のことに自分の全てを注ぐって感じですね。
前半後半に区切りはないんですけどね、今までやってきたことは変わらないですから、まず目の前のことに全力で頑張りたい。相手がどうこうでなくあくまでも自分との戦いだと思うので、しっかり目標を見据えて、自分を見失わないように......って感じですね。
じゃあ、相手との勝ち星の差とかではなく自分のやるべきことをしっかりやっていきたいと。そのやって行った先に結果はある、という考え方?
そこはやはりリーディングを獲るための数字っていうのはあるでしょうから、それに向かって。だとしても変に力むものでもないでしょうからね。自分が設定している目標の数字、それは一日一日だったり、一週間の三日間であったり、目の前のひとクラだったり。まずはそれをしっかりやっていこうと。
あとは、バックアップしてくれている厩舎だったり厩務員さんだったり馬主さんだったり、そういう皆さんに恩返ししたいっていう気持ちが強いので。やっぱり勝つのが一番恩返しだと思うんですよね。そういう気持ちで乗って行きたい。自分のやるべきことをしっかりやったその先にリーディングというものがあるんじゃないでしょうか。
高松騎手を見ていると、ここ何年かの、他地区の重賞でのスポット騎乗や期間限定騎乗であちこちに遠征したことが影響して、何か変わってきていると感じます。
自分で期間限定騎乗で行く時はそうですしスポットで呼んで頂く時もそうですけど、やっぱり"岩手の高松"という目で見られるでしょうから、岩手競馬の名に恥じない責任感......と言うと大げさかもしれないけど、少しでも岩手のアピールができればいいなと思っています。
他地区に行ってそこの、各地のトップジョッキーと戦うっていうのは良い影響があるよね。
そうですね、いろいろなジョッキーの話、その場所のトップジョッキーの話を、考え方であったり騎乗の感覚であったりを聞けたり肌で感じたりすることができるので、そこは自分としては大事にしていますね。今年の冬だったら高知競馬で赤岡さんや西川さん、倉兼さんたちを始めいろんな人にいろんな話を聞いて。今年は久しぶりに西の方に行ったから余計にね、良い経験ができたと感じました。
今年1月から2月には高知競馬で期間限定騎乗
今年はコロナの影響で無観客の競馬が続きました。騎手としてはどんな感じでしたか?
これは皆さんも言われているのですが、こういう状況でも競馬ができているという点に感謝しています。自分達もしっかりやらなきゃなって改めて思いながら競馬に臨んでいました。無観客の競馬は寂しい気持ちもありましたけど、それよりはまず競馬ができるっていうことに感謝しないといけないですからね。
岩手競馬もお客さんに来ていただけるようになって、やっぱり久しぶりにお客さんの前でレースに乗れたのは嬉しかったですね。"これが競馬だよな"って。
まだ手放しでは喜べない状況ですけども、お客さんもこのコロナ禍の中、競馬場に来て少しでも暗い気持ちを解消してくれたら、楽しい気持ちになってくれれば、僕たちもやっている甲斐があります。
改めてなんですが、騎手の仕事、厩舎の仕事の中での感染防止策はどんな事に気をつけてますか?
もちろん毎日・毎朝検温していますし、手洗い等もこまめにして。ほとんど屋外でやる仕事ではありますがソーシャルディスタンスはなるべく気をつけて。調整ルームの中でも密にならないように気をつけています。やっぱり神経は使いますね。
スポット騎乗なども声をかけていただけるようになってきたのですが、今はお断りしていたりするので......。ちょうどお盆の時期にいくつか重賞の騎乗の声をかけて頂いたんですけど、どうしても混む時期なので、調教師さんともいろいろ相談した結果、お断わりして。本当に残念です。でもやはり感染を未然に防ぐのが一番でしょうからね。
では最後にオッズパーク会員の皆さんに一言。
おかげさまで今年は本当にネットでの売り上げが好調ですからね。ネットの中でお客さんにレースを見てもらってる、だから自分達も良いレースを見せたいと思って一鞍一鞍乗っていきたいと思っているのでね、厳しくも優しい目で見ていただきたいですね。
高松亮騎手本人は"頑張る"っていう気持ちだけでリーディングが穫れるとか、そんな簡単な話じゃないですよ。という。そう言える所が今年の変化を表しているのではないだろうか。デビューから17シーズン目、変革期に入ったのか? それともベテランとしての円熟期を迎えつつあるのか。今年このあとの高松亮騎手の戦いぶりから目がが離せない。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
高松亮騎手は今年デビュー13年目。昨シーズンは岩手リーディング4位に付けたように、近年は騎手リーディング上位を安定して確保している。また、東海地区や兵庫など冬期間の期間限定騎乗にも積極的だ。今回は2年連続で挑んだ園田競馬場での冬季遠征の話を中心にうかがってみた。
この冬も園田競馬で期間限定騎乗をしましたね。短い期間ながら成績も良くて、あちらでの評判も上々だったと聞きました。
小牧毅調教師が良い馬を用意して、自分に勝たせたいって待っていて下さったので、自分はそれに何とか応えようとがんばっただけですよ。去年行った時にも凄くお世話になったので今年は少しでもお返しって言うか、自分の力で何かできないかと思いながら行ったんですけど、結局今年もお世話になりっぱなしで。もう"感謝"という言葉しかないです。
その園田競馬に行ってみて、どんな事を感じましたか?レースの流れとか。
そうですね。例えばですけど、たいていの競馬場は"いいポジション"というのがそれぞれあると思うんですよね。馬場状態とかにもよるでしょうが、"ここの競馬場なら道中はこの辺にいて、どこから動けばいい"というのが比較的はっきりしていると。園田の場合は、それがレースによって変わってくるんですよね。それを素早く感じ取らないと良い結果にならないですね。
園田は自分も見ていて感じるんですが、ホント海千山千の騎手ばかりで、意外な展開になることも多いですよね。
ベテランの方も多いですしね。お世辞抜きで皆さん腕が良い。だから乗っていて少しでも注意をそらすと......みたいな緊張感がありました。難しい競馬場だと思いますよ。それもあっていかに素早くレースの流れを読み取るか?がカギだとも感じました。
そんな中での1年目と2年目の違い、変化のポイントとすればどんな所が挙がりますか?
去年行った時は、他の騎手が作った流れに上手く乗って、他の騎手たちの隙を突いて・・・という形が多かったと思います。今年は良い馬・強い馬に多く乗せていただいたおかげで自分でレースの流れを作る事もできたのかなと。
さっきも話したように"この辺に付けていればだいたい大丈夫"。"こういう流れならこんな感じの展開になるだろう"というセオリーのようなものがない、他の競馬場の常識が通用しない競馬場ですから、強い馬に乗っていたおかげとはいえ、そういうところで自分のレースの流れを作る事ができたのは良い経験になった。勉強になりましたね。去年と今年で違うとすればそこかな。
では、また次回、園田競馬に乗りに行く機会があったら、その時はどんな"変化"を目標にする?
変化かあ。変化......。そうですね、ちょうど自分が帰る頃にあちらの騎手旅行があるんですよね。次はそれに参加したいです(笑)。
それはそれとして、そうですね。2年続けて行って感じたのは若手の騎手の成長、頑張りだったんです。自分もえらそうに言える立場ではないですが、自分より若い騎手たちが1年で凄く伸びていたのが自分にも刺激になったので、次行く機会があるなら、そんな若手の騎手たちに負けないように自分も成長していないとな、と思っています。
去年のシーズンとか今年のここまでとか、高松騎手の騎乗を見ていると園田に行った経験は活きているなと思う。
経験値を上げるのも遠征に行く意味って言うか、行った事による価値だと思うんですよね。勝ち負けとか騎乗技術だけじゃなく他の騎手の騎乗ぶりも見つつ、いろいろ感じたり考えたりして、地元ではできない経験を積んでくるという。その点自分は、園田では年齢的に年上のベテラン層と若手層の間くらいだったから、ベテランにも若手にも話を聞きやすい立場だったから良かったですよ。
ビュレットライナー(2015年5月11日盛岡4R・1着)
さて高松騎手にはもうひとつ聞きたい事があります。ビュレットライナーなんだけども。本当に凄い馬だよね。
14歳になりましたがそんな年齢を感じさせないですね。今でも調教では掛かるくらいの勢いを見せるし、レースでも自分から前に行ってくれるし。乗りやすい馬ですよ。今年も、まずは無事に過ごして欲しいんですけど、やっぱり勝てたらいいなと思いますね。
高松騎手にとってビュレットライナーというのはどんな馬ですか?
いろいろな事を教えてもらった馬ですね。ひとつひとつのレースだけでなく1頭1頭の馬への想いとか。うまく言葉にしづらいんですけど、あの馬に出会った事によって馬の見方、馬の状態の判断の仕方みたいなのが勉強できたと。
高齢馬ですし、なるべく良い状態でレースに出したい、無事に走らせてあげたいと思うじゃないですか。じゃあどうすればいいか?どう接してやればいいか?を考えて。それが他の馬に対する時にも役立っている。馬の状態を見る時の観察力とか判断力とか。
だから、最近自分の成績が少しでも上がっているとしたら、それはライナーと一緒に戦ってきて自分が学べた事が活きてきたから......だと思っています。
いろいろ教えてもらった、と。
そうですね。ただ、よく騎手が言うじゃないですか。"この馬にレースを教えてもらった"。"この馬にレースでの仕掛けどころを教わった"みたいな。それとはまた違うと思うんですよね。レース以前の調教とか普段の接し方、過ごし方。1頭の馬に対する見方。そういう部分をビュレットライナーに教えてもらいましたね。馬の観察力って言うんですかね。そういう部分は本当に勉強になっています。
筆者は、実は園田での高松騎手をまだ見た事がない。しかし現地からの高評価、好評はよく伝え聞いていた。
他地区への挑戦や馬との出会い、それが両輪となって彼の成長を促しているのなら、次の機会には園田へ足を運ばねばなるまい。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
6月3日に行われた岩手ダービーダイヤモンドカップをヴイゼロワンで制し、念願のダービージョッキーとなったのは、デビューして今年が10年目となる高松亮騎手。そのダービー制覇の喜びや、今後のことについてうかがいました。
横川:まずは『岩手ダービーダイヤモンドカップ』を制した時の、感想から聞かせてください。
高松:ゴールの瞬間は本当に興奮しました。ヴイゼロワンの陣営からは“この馬はダービーを勝つために連れてきたんだ”と言われて。そういう馬に自分を信頼して乗せてくれて、そして勝つ事ができましたからね。
横川:少しレースを振り返りましょう。道中は先行策、ハカタドンタクらライバルと見なされた馬たちを後ろに置いての戦いになりました。
高松:自分の考えではライバルを前に見ながらがいいのかなと思っていたのですが、相手の行き脚がそれほどでなくて、一方自分の馬は抜群のスタート。だったらヴイゼロワンのリズムを崩さないようにしようと。
横川:その先行策から積極的に動いて直線は自ら先頭に。
高松:それもあくまで馬のリズムを守って、ですね。スムーズな流れを作って自然に加速させてやるのがヴイゼロワンには一番いいと思って乗っていましたから、あそこはそれまでの流れのまま動いていった形です。
横川:最後の直線ではハカタドンタクが迫ってきて、いったんは前に出られたりもしました。あのあたりはかなりヒリヒリしたんじゃないですか?
高松:そうですね。これで負けたら“お前の仕掛けが早かったから”と言われるかもしれない…そう思わないでもなかったですけど、でも自分の馬の手応えはずっと良かったし、そこまでも思った通りに進んできていた。相手はずっと脚を使い通しで上がってきていたのが分かっている。それでもし交わされ突き放されたりしたとしたら、それはあっちがバケモノなんだ…。腹は括っていましたね。
横川:これで重賞は3勝目ですが、“ダービージョッキー”はやはりちょっとこれまでとは喜びの質が違うんじゃないかと思うけど?
高松:なんというか、少し時間が経ってから“こんな大きな出来事だったのか”と感じましたね。
横川:それはどんな事で?
高松:たくさんの人にネットやメールとかでメッセージを貰ったんですよ。もちろんいままでもいただく事はありましたが、今回はその数が段違いだったんです。それもこれまでにもいただいていた人ばかりでなく、初めての方なんかからもたくさん。自分は、正直それほど手放しで喜んではいなかったんです。自分のキャリアからすれば満足しちゃいけないですから。でももの凄くたくさんの方から祝福されて、自分はこんなにたくさんの人に支えられていたんだ…と改めて実感しました。
横川:今年は騎手生活10年目。区切りらしい勝利になったのでは?
高松:10年という区切りは、自分ではあまり気にしてないです。いや気にした方がいいのかもしれないけど、騎手としてまだまだだなと感じているから“10年やって上手くなった”とか“騎手としてのポジションが固まった”とかは思ってないですね。毎年同じように挑んでいるつもりですよ。
横川:でも今年は既に重賞2勝。順調なスタートを切ったように見えるけども
高松:今年は、そうですね、ここ何年かの中では、なんというか腹が据わったというか競馬に向かう気持ちが違う…とは自分でも思っていますね。
横川:それはどういう点で?
高松:今年の1月1日にケガをしちゃって、自分的にはちょっとキツいケガだったんですね。前もケガでシーズン終盤を棒に振ったこともあったけど、気持ち的には今年の方が数段重かった。いろいろ悩んだんですが、そんな中で馬に乗れる、レースに出ることができるのが自分はやっぱり好きなんだ…と再確認できたように感じるんです。
横川:“騎手・高松亮”的には2年前もけっこうなピンチだったと思うけど(※2011年終盤、高松騎手はケガで戦列を離れていたが、治療休養中に所属厩舎が解散してしまった)、あの時よりもキツかった?
高松:あの時もピンチでしたね。鎖骨を折ったんですが、あれだけ大きなケガをしたのは初めてだったからショックもあった。でも今年は、気持ち的にはあの時以上だったかも。ケガをしてしまうとどうしてもゼロからの再スタートになるんですが、今年はゼロよりもさらに“どん底”で、そこからはい上がっていくしかないのか…という気分でしたから。ただ、さっきも話したようにそれで逆に吹っ切れたというか。いい意味で悩まなくなりました。変なことで悩んでる場合じゃないだろ、って。
横川:そんな今年の“騎手・高松亮”はどんな目標を立てている?
高松:通算500勝が間近。とりあえず手近な目標なのでこれはしれっと達成しておきますよ。あとは年間100勝。毎年言っている目標なんですけどね。
横川:100勝というのはリーディング上位を争うために…ということ? 最終的に1000勝とか2000勝とかまで辿り着きたいから、そのための最低ラインだ…とかそんなことなの?
高松:ん~。それもないことはないけど、ちょっと違うんです。この先、自分で考えていることがあって、100勝達成はそのために必要なことなんですよ。
横川:んん~。気になるなあ。それは100勝できたらその理由が明らかになるの?
高松:いや、明らかにしないですよ。話さないと思います(笑)。
横川:気になるけど、100勝達成した時の高松騎手を見たら理由が分かる…ということにしておこう。それから高松騎手は過去によく他地区で期間限定騎乗していましたが、またどこかに行かないのか?と楽しみにしているファンも多いと思いますが。
高松:ここ2年くらいはケガのせいもあって行けなかったし来年もまだちょっと時間が取れそうにないんですけど、行きたい気持ちはあります。それに行くとなったら腰を落ち着けてまとまった期間乗りたいですからね。また行きますよ。
横川:楽しみにしています。
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※インタビュー・写真 / 横川典視