2013年に29歳という異例の年齢で騎手デビューを果たした山下雅之騎手。4年目の昨年は通算100勝も達成しました。騎手になるまでにはどんな経緯があったのか、今に至るまでを聞きました。
騎手を目指すきっかけから教えてください。
お父さんが競馬ファンだったので家のテレビでよく見ていたんです。最初は興味がなかったんですが、競馬場に行ったりするうちに格好いいなと思うようになって。それで中学生の時に乗馬を習いだしました。この乗馬クラブでは吉井友彦騎手と一緒だったんですよ。
当時、騎手試験は受験したんですか?
しましたよ。最初にJRAを受験して不合格、地方も受けたのですが落ちてしまいました。ですので、厩務員として牧場に行ったり園田競馬で働いていました。20歳くらいの時にもう一度、騎手試験を受けたんです。今度は一発試験で。でもダメで、もうあかんと思いました。
それからの仕事はどうしたのですか?
地元の京都に帰って普通の仕事をしました。馬とは全く関係ない仕事です。建築関係だったり、営業だったり一般の会社員。でも、こちらの仕事も上手くいかなくて、笠松で騎手をやっている吉井騎手に連絡したんです。どこか厩舎を紹介してくれないかと。そして、後藤保厩舎で働かせてもらうことになりました。
そして再び、騎手へ挑戦することになったんですね。
はい。騎手が足りないということもあって、一発試験で受けてみようと。1回目は2次試験までいきましたが不合格でした。その時はゲートが全然できていなかったので、それから調教の時に練習させてもらい、2回目の受験で合格することができました。
ということは、騎手を養成する学校に入ってないんですよね? 騎乗技術はどのように学んだのですか?
調教で勉強する感じですね。学校と違って教官に教えてもらうわけではなく、こちらの先輩たちから学びました。もちろん模擬レースもしたことないですし、能力試験は騎手でないとできませんから、実際のレースがまさにぶっつけ本番でした。
騎手試験に合格してすぐにデビュー。初騎乗のレースは覚えていますか?
めちゃくちゃ怖かったです! なんせ初めてなので距離感も分からない。調教の時は並走するくらいですからね。馬群の中にいて、前の馬がすごく怖いんですよ。横を見てもすぐ近くに馬がいるし、「近い!近い!近い!」って思いながら必死でした。直線も追えていたかも覚えていないです。恥ずかしくてその映像は見られません(笑)。
でも、その日のデビュー2戦目で見事初勝利を決めましたね。
奇跡としか言いようがないです。自分は何もせずにそのままゴールでした。馬が運んでくれましたね。
これまでに思い出に残っている馬やレースはありますか?
やはり、初勝利の時のテイエムカルチェですね。デビューの日、親も来ていてこのレースを見て泣いていました。親孝行ができて馬には感謝しています。この馬で5勝させてもらいましたし、ずっと乗っていたいなと思わせてくれました。
騎手になってから3年が経ちます。昨年は通算100勝も達成しました。ここまでのご自身の評価はいかがですか?
勝たせてもらっていると思います。少しずつ成績も上がっていければなと。たくさん乗せてもらっていますし、歳をとっている分、若者よりがんばらないといけないですからね。
でも、違う世界で色んなことを経験してきた強味もあると思うのですが?
そうですね。若い子を見ていると、落ち着いていないなと思うことがあります。僕は年齢の分、周りが見えるのかなというのはありますね。緊張もあまりしませんし。
精神面が落ちついている分、緊張もしないのですか?!
いや、デビュー戦が衝撃的すぎて、それ以上のものはないのかなと(笑)。あの時の恐怖はなかなかのものでしたよ。
好きな騎手や目標とする騎手はいますか?
若い時は、岩田康誠騎手が好きでした。園田競馬で厩務員をやっている時期に、担当していた馬に乗ってもらったこともあるんです。
今は騎手目線になっているので、折り合わせるのが上手いのはこの騎手、姿勢がきれいなのはこの騎手、などと部分的に見るようになりましたね。
通算100勝セレモニー。吉井友彦騎手(右)と
ちなみに、吉井友彦騎手はどんな存在ですか?
この人には感謝しかないですね。もちろん、今でも良き相談相手。愚痴も聞いてくれるし、飲みに連れていってくれるし、プライベートの話もできますし(笑)。
今後の目標を教えてください。
笠松でリーディング5位になること。それと、いつか笠松の馬でJRAに行きたいです。遠征も任せてもらえるような騎手になりたいですね。
最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
どんなに人気のない馬でも一生懸命乗っていますので、温かく見守って頂けると有り難いです。
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※インタビュー / 秋田奈津子 (写真:岐阜県地方競馬組合)