長年の活躍が認められ、日本プロスポーツ大賞功労賞を受賞した、笠松の向山牧騎手。笠松移籍後は低迷した時期もありましたが、現在は毎年リーディングを争う活躍を見せています。御年50歳。第一線で居続ける秘訣をお聞きしました。
日本プロスポーツ大賞功労賞受賞、おめでとうございます!
ありがとうございます。人生の中でこの賞をもらえるチャンスはなかなかないですから、本当に光栄だし嬉しかったです。騎手を長くやってて良かったなと思いましたね。授賞式は盛大に行われると聞いていたので、何を着ていったらいいのか迷いました。この年なので緊張はしませんでしたが、競馬以外のプロスポーツ選手の方々にお会いできて、すごく新鮮でした。
どなたが印象に残っていますか?
特別にこのスポーツが好きっていうのがないんですけど、去年はやっぱりラグビーが盛り上がりましたから、選手に会えるかなと思って楽しみにしていました。でも、授賞式には選手は一人も来てなくて、ちょっと残念でしたね。でも、普段テレビで見ている方々と一緒に表彰されて、これからもっとがんばろうと刺激を受けました。
以前インタビューした時に、「3000勝が目標」と仰っていましたが、一昨年見事達成されました。その時のお気持ちは?
やっぱり重みがありますよね。ずいぶん長いこと、いっぱい乗せてもらったんだなとしみじみしました。騎手は自分がどんなにがんばろうと、乗せてもらえなかったら仕方ないですから。新潟、笠松と所属してきて、本当にたくさんの方々に助けられたんだなと実感しました。
今年はデビュー34年目です。長く騎手を続ける秘訣は何でしょうか?
一番はケガをしないことです。もちろん、気を付けていてもこればっかりはどうにもならない時もありますし、生き物相手なので突然何が起こるかわからないというのが現実です。でもだからこそ、自分がケガをしないこと、人をケガさせないことを常に心がけています。騎手のケガというのは一生を左右することもありますし、馬の命を奪うこともあります。そこはこれからも気を付けていきたいです。
笠松といえば、去年トップジョッキーだった尾島徹氏が、若くして騎手から調教師に転身しました。向山騎手は調教師転身を考えたことはありますか?
まったくないと言ったら嘘になりますけど、あんまりないんですよ。自分が調教師になって仕事をしているところを想像すると......、向いてないなということをヒシヒシと感じて(笑)。前にも言いましたけど、僕は口下手で営業ができないし、馬主さんとの関係も上手く作れないと思うんですよね。騎手としても営業ができなくて騎乗馬が集まらなかった時期がありましたから、調教師になったらもっとそういう部分が大切でしょう。馬に乗ることが大好きだし、僕はこのまま生涯騎手でいきたいですね。尾島くんは騎手としても成功して、調教師としても一生懸命がんばっていてすごいと思います。笠松の看板ですしね。でも、人と比べても仕方ないので、僕は僕の道を行きますよ。
2013年に笠松で初リーディングとなり、その後も2年連続第2位。現在50歳ですけれども、年間100勝以上の好成績が続いていますね。
これはもう、自厩舎のお蔭ですよ。川嶋弘吉先生が主戦としてほぼ乗せてくれて、いい馬がたくさん入ってくる厩舎なので、チャンスもいっぱいもらっています。営業できない僕にとっては、結果で返していくしかないですから、これからも勝負にこだわっていきたいです。
騎乗面で大切にしていることはありますか?
いくつもありますけど、この年になると誰も何も言わないので、自分で考えて研究するということです。何も言われないからって今のままでいいっていうわけではないし、実力社会なので、乗れなくなったら必要ないですから。そうならないように、1頭1頭この馬にはどんなアプローチがいいのか真剣に考えています。若いうちはガミガミ言われて煩いなと思ったこともありましたけど、実際に年齢を重ねて何も言われなくなると、それはそれで怖いものですよ。自分で努力しなくなったら、もうそれで終わりですからね。
では、今年の目標を教えて下さい。
ここ何年か重賞を勝っていないので、そろそろ勝ちたいです。去年は東海ダービーで2着に負けて、本当に悔しい想いをしました。やっぱり騎手をしている以上、ダービーは目標のレースです。今年は何頭か重賞で勝負できそうな馬がいるので楽しみです。
具体的な馬名を教えていただけますか?
1頭はメモリーミリオンです。笠松デビュー馬でずっと乗せてもらっているんですけど、使いながらだんだんと成長して来てくれました。今はまだ前に行けないで後方からなんですけど、もう少し前に付けられるようになったら重賞でも十分勝ち負けできると思っています。なかなか、こういう若馬に出会えるチャンスは少ないですから、大切に育てていきたいです。
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※インタビュー / 赤見千尋
新潟リーディング9度の実績を引っ下げて、2002年に笠松競馬場へ移籍した向山牧騎手。移籍後にも順調に勝ち星を重ね、現在は地方通算2,896勝(12月9日現在)と3,000勝に迫る活躍を見せています。さらに今年は、自身初となる笠松リーディングを快走。48歳になっても進化を続ける大ベテランに、じっくりとお話をお聞きしました。
赤見:先日は、オッズパークプレミアムパーティーで笠松代表としてファンの皆さんと触れ合ったわけですけど、いかがでしたか?
向山:楽しかったですね。『頑張ってください』って声かけてもらって、すごく刺激になりました。思ってた以上に、詳しい人が多かったです。だって、1994年の平安ステークス(オーディンに騎乗して2着)の話とか、新潟の頃の話とか、かなり前のことまでよく知ってますからね。さすが、オッズパークのコアユーザーだと思いました。また機会があったら行きたいです。
赤見:パーティーでは仮面ライダーの変身ポーズも披露してましたけど、寡黙な牧さんがあんなことするなんて意外でした。
向山:いや、無理やりふったんでしょう! まぁ、仮面ライダーは好きですけどね。昭和の頃は本当に子供が見る話だったけど、平成のライダーはカッコいいし、大人も楽しめるストーリーなんですよ。特にハマったのはカブトと電王。今はあんまり見てないんですけど。今のマイブームは一人で家飲みですから(笑)
赤見:(11月27日)現在111勝を挙げ、笠松リーディング1位ですね!
向山:珍しいこともあるもんですね(笑)。今年はいい馬に乗せてもらっているし、自厩舎だけじゃなくて色んな厩舎に乗せてもらって、その馬たちが頑張ってくれてるお蔭ですよ。
赤見:笠松に移籍して11年、ここまで色んなことがあったんじゃないですか?
向山:そうですねぇ、色々ありました。新潟が廃止になった時、騎手を続けたいなと思ってて。でも僕だけ年齢制限で南関東に行けなかったんです。それで、安藤勝己さんが僕の親戚と仲いいんですけど、その縁で声を掛けてくれて。『笠松に来ないか』って。誘ってもらって嬉しかったし、選択肢はないですから、迷わず決めました。
赤見:実際に移籍してみていかがでした?
向山:正直、2005年に高崎から川嶋弘吉調教師が移籍して来なかったら辞めてると思います。なんていうか、僕は営業が苦手で。愛想も悪いし、僕のことを嫌いな人はいっぱいいると思う。本当はそういう部分も含めて騎手ってう仕事だから、営業上手にならなきゃいけないんだけど、なかなか出来なくて。川嶋先生はわかってくれるので、感謝してます。そういう人に出会って、少しずついい馬も乗せてもらえるようになったんでね。他の人たちも見ててくれて、それで今年の成績に繋がってるんじゃないかな。
9/10門別で行われたSJTワールドカード第1戦を勝利(写真提供:NAR)
赤見:今年はSJTへの出場を賭けたワイルドカードに出場しましたが、1ポイント差で惜しくも3位でしたね。
向山:そう! 1戦目勝った時には、『これはもしかして行けるんじゃないか』って思って。2戦目で8着になってしまって、1ポイント差に泣いたんですけどね。2位までしかSJTに出場出来ないのに、なんでか3位の俺まで表彰式に呼ばれちゃって。『帰っていい?』って言ったんだけど、離してくれなかったんですよ(苦笑)。アイツらだけプレート持ってて、俺だけ持ってないのよ? もうあの表彰式は本当に辛かったですね。来年はリーディング1位でSJTから出場出来るように頑張ります。
SJTワイルドカードの表彰式。向山騎手(右)は3位(写真提供:北海道軽種馬振興公社)
赤見:デビューから30年ですけど、騎乗に対してのポリシーというのはありますか?
向山:若い頃はとにかく勝ちたい勝ちたいでしたね。その気持ちが馬の邪魔をしていたこともあったと思うんです。今ももちろん勝ちたいですけど、もっと冷静になったというのかな。馬にも気を使ってますよ(笑)。それに、この年になると誰も何も言わないんですよ。ああしろ、こうしろ、とか。だから自分自身で考えていかないと、どんどん置いていかれるっていうのは感じてます。今でも必死ですよ。もっと上手くなりたいし、もっともっと乗りたいです。
赤見:では、ファンの皆さんにメッセージお願いします。
向山:笠松はここのところ辛いことが続いたし、次に何かあったら終わりだっていう気持ちで、みんなの意識もすごく高まっています。僕自身は3,000勝を目標にやってるんですけど、そこを越えたら次は4,000勝を目指したいですね。馬に乗るの好きだし、最終目標は60歳を超えても現役で乗る、年金ジョッキーです!
同じ笠松の東川公則騎手(右)と
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※インタビュー / 赤見千尋
新潟競馬廃止に伴い笠松での再出発を決めてから8年、初めて年間100勝を挙げ、笠松リーディング3位で2010年を終えた向山牧騎手。笠松所属の現役騎手の中で唯一"競馬場廃止"を経験してるからこそ言える本音などを聞きました。
坂本:騎手になろうと思ったきっかけを教えてください。
向山:うちの親父が厩務員をやってたんですよ。で、子供のころから手伝ったりなんかしてたんですよ。
で、競馬とか見てるじゃないですか。それで『騎手ってかっこいいなぁ』って思って、まぁなれたらなろうかなって思って、試験受けたら受かったんで、騎手になったみたいなもんです(笑)。
坂本:騎手に憧れてた時と、実際に騎手になってからのギャップは?
向山:うぅん、それは別になかったけどね。勝ったときはホントうれしいし、なってよかったなと思う。
坂本:今までで一番印象に残ってるレースは?
向山:印象に残ってるレースですか? 結構あるんですけどね......デビューしたときに、まったく勝てなかったんですよ、十何戦くらい。で、そんなときにたまたま乗ったのがすごいいい馬だったんですよ。
本当は僕が乗る馬じゃなかったんだけど、主戦騎手が別の馬に乗ることになってて、ちょうどその厩舎をずっと手伝ってたこともあって『乗せたげるよ』って。ほんとに何にもせずに勝ったんですよね。
それから、その馬にずっと乗せてもらえて......まぁ、その馬に勉強させてもらったっていうか、ちょっとはうまくなったかなって思いますね。だから、この初勝利のときのレースが一番印象に残ってますね。
坂本:向山騎手といえば、新潟から移籍してきたわけですが......
向山:移籍っていうか、まぁ潰れたからね(苦笑)。
坂本:その新潟が廃止になるって聞いたときはどう思いましたか?
向山:長い間やってましたからね。もうちょっと何とかならないのかって思ったんですけど。(馬券が)売れないんじゃ仕方ないですからね。悲しかったですよ。
坂本:笠松に行こうって決めたのは?
向山:それはね、安藤勝己さんがいろいろやってくれてて、僕は本当は南関東に行きたかったんですけど、年齢制限でダメだってことで、ここしか僕の行くとこないんじゃないかなぁっていうのもあったんですよね。
坂本:笠松に来てみて印象は?
向山:結構みんないい人たちだったんで、それなりにすぐ溶け込めましたね。
坂本:乗った感じは?
向山:全然関係なかったですよ。僕、三条とかでも乗ってたんで、小っちゃいとこは全然気にならなかったですよ。
むしろ、乗りやすかった。三条のほうがもっとコーナーがきついですからね、ほんと急カーブみたいな感じでしたから。笠松のほうが乗りやすいですね。
坂本:笠松所属騎手で通算で2500勝を超えている騎手は向山騎手のみ。そしてその勝ち鞍をどんどん伸ばしていけるのには、周りのサポートの力も大きいですか?
向山:それはもう。ま、最初のころはあまり乗ってなかったですけど、だんだんと乗せてくれる厩舎も増えてきたんでね。
坂本:今後についての目標とかはありますか?
向山:今後ですか......その前に競馬場がどうなるかでしょうね。ま、ここで普通にやっていければ、3000勝くらいは狙っていきたいですけどね。
坂本:やっぱり、競馬場が存続していかない限りは......
向山:だからね、ほんとにそこが大事なんですよ。競馬場がこんな変なミスばっかり(レース中に走路整備車両が侵入した件)してるから、なおさらじゃないですか。
僕たちも賞金下げられても一所懸命やってるんですから。協力もしてるし、だから土台となる競馬場にはもっとしっかりしてほしいですよ。あんないい加減なことやってたら、潰れるのも目に見えてますよ。ミスしたらそこの会社の責任、で片づけるんじゃなく、競馬場側にも監督責任はあるんだから、競馬場側もそのあたりを重く受け止めてほしいし、一層の努力をしてほしい。
一度経験してるからこそ、人一倍『潰したくない』という思いが強い向山騎手。今がまさに正念場の笠松競馬を盛り上げるべく、今年もまたその剛腕ぶりでファンを魅了します。
※インタビュー / 坂本千鶴子