1986年にデビューし、32年目のシーズンを迎えている坂下秀樹騎手。8月30日の門別第4レースでオイランドウチュウに騎乗し、地方・中央通算1,500勝を達成しました。ホッカイドウ競馬では5番目の年長ジョッキーに、これまでの歩みと今シーズンの戦いぶりについて伺います。
デビューから32年目での1,500勝達成となりました。率直なところ、デビューした当初はこれまで続けられるとお思いでしたか?
正直、この年齢まで乗れるとは考えていなかったですね。同期で今でも現役で乗っているのも、浦和にいる吉留(孝司)と愛知の宇都英樹くらいになりました。
この年齢まで現役を続けてこられた要因とは何なのでしょうか?
やっぱり好きじゃないとやれないですよね。小さなレースでも大きなレースでも、やっぱり勝てば面白いし。あと、独身の頃は考えたこともなかったですけれど、結婚して子どもができてから、家族を背負っているということを考えるようになりました。それが一番大きいです。
これまでのなかで印象に残っているレースを教えてください。
ホーエチャンピオンでアラブの重賞を7勝したこともそうでしたが、やっぱり初騎乗のことは今でも鮮明に覚えているかなあ(1986年10月1日札幌4R・ギャラントエイコウで初騎乗初勝利)。いまお世話になっている(米川)伸也先生もまだ現役だった頃でね。たしかあまり人気もなくて、乗っているだけでいっぱいいっぱいだったけど、道中で最後方だったのを3コーナー過ぎから上がって行って、直線でごぼう抜きでしたね。山中(静治)先生が乗っていた馬を交わしたんだと思います。須藤三千夫元調教師の馬だったのですが、須藤厩舎の馬には他にもいろいろ乗せていただいて、道営記念も勝たせてもらいましたからね(98年ハセミイホー)。本当にお世話になりました。
今のデザインの勝負服は、2008年から使われていますね。
前の年にケガで4カ月ほど休んでしまい、当時所属していた原(孝明)先生と「今の服はもう合わないんじゃないか」という話になって、占い師に見てもらったんです。それで「あまりよくない」と言われて、じゃあ替えるかと。黒とピンクは好きな色ですね。デザインも自分で考えました。デビュー4年目くらいに一度デザインを替えているので、今の勝負服は3代目です。
デビュー当初は各地の競馬場(旭川・岩見沢・帯広・札幌)をまわる形式でしたが、2010年から門別に開催が一本化されました。レースの面で何か変化はありましたか?
一番は砂質の違いですね。中央でも使っていた競馬場は、やっぱり地盤もよかったです。勝負服に付いた砂も、少し払っただけですぐ落ちましたし。今の門別は馬場も変わりやすく、雨が降ると泥がなかなか落ちにくいですね。冬場調教で使うときに塩化カルシウムを撒くと、馬場が負けてしまうんですよね。
2012年には、門別競馬場に屋内坂路コースができました。調教の面での変化はいかがですか?
やっぱり坂路ができたのは大きいです。脚元を気にせずに調教できますし、少し歩様の硬い馬でも、坂路に上げると馬が変わってきますから。ただ、やりすぎると今度はトモに疲れが出てきますから、難しい部分もありますけどね。デビュー前の2歳馬の調教も、基本的には変わっていませんけど、今は育成場で基礎を教わった状態でこちらに入ってくることが多くなりました。
今年の戦いぶりについても伺っていきます。これまで昨年よりも大幅に勝数や勝率を伸ばしていますが。
おかげさまで、勝ち負けできる馬に多く乗せてもらっていますからね。乗り鞍も決して多くはないですが、ひとつひとつチャンスがあると思って乗っているのは変わらないです。
9月28日の道営記念トライアル(ドゥラメンテ・プレミアム、勝ち馬ワットロンクン)など、人気薄でアッと言わせる逃げ切りも印象に残ります。
やっぱりワットロンクンは元々実績もある馬でしたからね。ただ、それまでの2走で乗ったときになかなかハミを取らず、少しズブくなっているのかなと感じました。先生とも相談して、1回叩いてハナに行ってみようと思ったんですけど、道中もなかなかハミを持って行かないですし......。ただ、それでかえって息が入ったんだと思います。マイナス10キロと体が減っていたのもよかったのでしょうね。本番も2,000mですが、距離の面では全く問題ないですね。
ドゥラメンテ・プレミアムを逃げ切ったワットロンクン
脚質的に好きな戦法は何ですか?
個人的な理想は先行や差しですね。レースを覚えさせていく感じが好きです。でもこれまで勝っているのは、逃げや先行がいちばん多いですかね。たぶん戦法的に合っているから勝っているんだと思います。
今後の具体的なビジョンについても教えてください。
いつまで現役を続けられるかは分かりませんが、これからもケガをしないで、少しでも長く、ひとつひとつ大事に乗っていきたいです。将来的には調教師になるための準備も進めていかなければならないですね。
競馬場を離れて、心が落ち着くのはどんなときですか?
近所の海に釣りに行くときですかねえ。趣味らしい趣味といえば釣りですね。今の季節は秋アジがいいです。あとは家で犬と遊んでいるときでしょうか。小型犬を1匹飼っています。
では最後に、オッズパーク会員の皆さまへメッセージをお願いいたします。
馬券を買うときは色々な楽しみ方があると思います。ジョッキーや馬で選んだり、分からない場合は例えば自分の誕生日で選んだり。たとえ最低人気の馬であっても、お客さんの大切なお金がかかっていることを忘れず、これからも馬券を買ってくださった方に納得していただけるようなレースをしていきたいですね。
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※インタビュー・写真 / 山下広貴