2005年のデビューから13年目を迎えた桑村真明騎手。昨年はシーズン自己最多の101勝を挙げ、2013年以来2度目となる北海道リーディングジョッキーの座に輝きました。"若手"というフィールドから一歩先へ進み、さらなる飛躍を遂げる桑村騎手にお話を伺いました。
2012年のインタビューでは「リーディングをとってみたい」とお話されていたと思いますが、その後実際に2度リーディングを獲得されて、心境面での変化はありましたか?
リーディングというのは自分だけの力ではなく、馬主さんや調教師さん、厩務員さんなど、周りの方々のバックアップがあって初めて取らせていただけるものだということに気付きました。あらためて、自分の環境であったり、周りの人たちへの感謝の気持ちを意識するようになりましたね。
昨年は自己最多の101勝を挙げられましたが、この数字に関してはご自身でどう捉えられていますか?
いい馬にもたくさん乗せていただきましたし、もうちょっと伸ばせてもよかったと思います。
リーディング争いは終盤までもつれましたね。
その頃になると、周りの調教師さんや馬主さんもリーディング争いを気にしてくださって、いい馬を用意してくれたんですよね。最後に頭ひとつ抜け出すことができたのは、そのおかげだと思っています。
所属先の角川秀樹調教師は、最近の騎乗ぶりについて「勝ち星を積み重ねていくうちに自信がついたのか、咄嗟の判断ができるようになってきた」と評されていましたが。
昔に比べてだいぶ周りが見えてきたというのはあると思います。大きな舞台でもけっこう乗せていただけたので、そういった経験も糧になっていますね。
いま「大きな舞台」というお話があったと思いますが、昨年はリンダリンダで東京プリンセス賞(大井)を制しました。かつてのお手馬と、南関東のクラシックで再びコンビを組んでの勝利だっただけに、感慨もひとしおだったのではありませんか?
2歳時に乗ったときと比べても、馬がさらに力強くなっていましたよね。僕らは基本的に南関東などへ移籍した馬に乗る機会はないんですが、3歳の全盛期、クラシックシーズンを迎えた馬の成長力を感じられたことはとてもいい経験になりました。個人的にも、ホッカイドウ競馬開幕の日に(スティールキングで北斗盃を)勝った次の日にまた重賞を勝てて、勢いをつけることができました。
タイニーダンサーとも、ブリーダーズゴールドカップで2歳時以来のコンビ(2着)を組みましたね。
もう少し引っかかるのかなと思っていましたが、2歳時よりも落ち着きが出てきて、折り合いも結構ついて乗りやすくなってきました。今年もまた門別に来てくれたらいいですね。
北海道スプリントカップでは、負傷したジョッキーに替わって急遽JRAのノボバカラに騎乗することになりました。
騎乗依頼をいただいたときは素直にうれしかったですね。レースではゲートの出もよかったので、自分のペースで行こうかなと。けっこう流れも速かったんですけど、「これだけ速いペースで行ってもまた直線伸びるんだ」と、心肺機能の違いを感じましたね。
最後は惜しくも2着に敗れましたが、ミルコ・デムーロ騎手が操るダノンレジェンドとの叩き合いは見応えのあるものでした。
そうそうないチャンスだったので、結果を出したかったというのは正直な気持ちですが、強い馬の背中を感じることができたので、本当にいい経験をさせてもらったと思います。
2016年北海道スプリントカップ、ノボバカラで2着
今シーズンも始まったばかりですが、ここまでの戦いぶりを振り返っていかがですか?
いい馬に乗せてもらったおかげでポンポンっと勝つことができているので、いいスタートを切れていると思います。
今年の目標として具体的にイメージされていることはありますか?
昨年同様、年間100勝以上を目標に頑張っていきたいです。門別だと開催期間も短いですし、最初のうちはレース数も少ないので、なかなか難しいですけれど。
ホッカイドウ競馬は冬場の休催期間も長いですが、冬期間の2歳馬の調教から実戦モードへ切り替えていくときに心がけていることはありますか?
僕は能検である程度気持ちを入れて、開幕に向かっていく感じですね。3月に能検が始まる時期に徐々に体重が落ちてきて、スイッチが替わっていくというか。
「今年はこれで上へ行きたい」という馬がいれば教えてください。
開幕日のスーパーフレッシュチャレンジを勝たせてもらったキタノシャガールですね。距離ももつと思いますし、調教や実戦でもう少し折り合いを覚えていけば、まだまだ上を目指せると思います。まずは栄冠賞(6月29日)まで順調に進んでほしいですね。
スパーフレッシュチャレンジを制したキタノシャガール
桑村騎手個人としても、6月にはスーパージョッキーズトライアルが控えています。前回出場時(2013年)は惜しくも1ポイント差で次点という結果でしたが。
前回は初戦でシンガリ負けになってしまい、「ああ、ダメだな」と思ったら、かえってリラックスできたので(笑)。デビュー前から知っている人たちと一緒に乗れたこともあって、楽しんでレースに臨めました。もちろん、自分自身も巧く乗らないとポイントは稼げませんが、乗り馬次第の面もあるので、今回もまずは楽しんで乗って、その上で結果を残せるよう頑張りたいですね。
ワールドオールスタージョッキーズは札幌競馬場で行われます。
比較的乗り慣れている場所なので、もし出られたら面白いと思いますけどね。
普段から師匠の角川調教師を尊敬されていることが我々にも伝わってきます。桑村騎手にとって、角川先生はどんな存在ですか?
先生のおかげでここまでいい結果を出せるようになったと思っているので、感謝してもしきれないですね。人としても尊敬できる先生です。例えば僕がよその厩舎の馬で勝ったときも、うちの先生が「よかったな」ってその調教師さんに連絡してくれたりするんですよ。
弟弟子の阿部龍騎手の活躍もめざましいですね。
すごく刺激になりますね。龍が活躍すればするほど、自分も頑張んなきゃいけないなという気持ちも強くなります。お互いに高め合っていける存在です。
では、最後にオッズパーク会員の皆さんへメッセージをお願いします。
今年も北海道から全国区になる2歳馬が多く出てくると思うので、特に2歳戦に注目しながら観ていただければうれしいですね。出世する馬たちを早くから見つけられるのが、ホッカイドウ競馬の楽しみだと思います。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 山下広貴
若手騎手の台頭が目立つホッカイドウ競馬の中でも、ここ数年リーディング上位に入る活躍をみせている桑村真明騎手。今年8年目の25歳で、435勝をあげています(10月27日現在)。10月25日には、エーデルワイス賞をハニーパイで制しました。
斎藤:エーデルワイス賞、おめでとうございます。前回は先行しましたが、今回は好位につけて抜け出しましたね。
桑村:ありがとうございます。流れが速かったので、そのまま流れに乗っていきました。もともと臆病なところがある馬ですが、今回は周りにも動じず、折り合いを取ることができました。状態も良かったのもあるのでしょう。
斎藤:では、騎手になったきっかけを教えてください。
桑村:出身は東京の神田です。父親が競馬ファンで、小学生のころから競馬中継を見ていて、中学の時に騎手になりたいと思いました。中学3年の時にJRAの試験を受けたのですが、落ちてしまって。北海道の大地に憧れたこともあって、高校1年の時に、競走馬の牧場にアルバイトに行きました。牧場に片っ端から電話して、競走馬のふるさと案内所に紹介してもらった牧場を経営していたのが、中村光春調教師の息子さんだったんです。「地方はどうだ」と聞かれて地方競馬のことを知り、翌年教養センターに入所しました。しんどかったですね。仲がいいのは高橋悠里(岩手)です。一昨年南関東に行った時には、町田直希(川崎)とよく遊びました。
斎藤:そして中村光春厩舎からデビュー。中村先生がその年に定年を迎え、清水日出夫厩舎に移籍しましたが、翌年清水先生が他界されて、角川厩舎へ。
桑村:勝負服はナイターでも目立つようにと考えました。
最初は生活が慣れなくて。朝早いのが辛かったです。仕事は多いし。
光春厩舎時代の兄弟子は服部さんで、今でも目標です。また、騎手時代に光春厩舎に所属していた角川先生の話をよく聞かされていました。「調教がうまい」と。
斎藤:角川厩舎に所属した3年目から、リーディング8位と成績が伸びましたね。
桑村:いい馬に乗せてもらっているからです。よく角川先生に言われるのは、「スタートが大事」「人間の気持ちが馬に伝わる」ということ。先生は、2歳の馴致でも、他の人がやっても動かせない馬を動かすし、おとなしくなり、折り合いもつく。
斎藤:角川厩舎の2歳の活躍の理由がみえた気がします。冬の馴致は大変ではないですか。
桑村:先生も一番大事にしているので、辛いけど頑張ります。ここでしっかりやらないと、翌年走らないので。
斎藤:活躍していた2歳が道営離れたら寂しくないですか?
桑村:「勝ってるな~」って。離れれば気にしないんです。
斎藤:今年は春に怪我をされましたね。
桑村:調教中、ひっくり返って馬の下敷きになり、耳の骨を折りました。1年目の冬に骨折したくらいで、あまり大きなケガはないですね。休んでいた時に阿部騎手がかなり乗れていたので、負けてられないな、と思いました。
斎藤:弟弟子(阿部龍騎手)の活躍もすばらしいですね。
桑村:兄弟子っぽいことはしていないですよ。ものすごく刺激になっています。自分はせわしない乗り方をしますが、龍は落ち着いてるんです。
斎藤:勝負服もですが、乗り方が似ているように見えます。
桑村:勝負服は調教師と決めたみたいなので、僕のとは関係ないんじゃないですか(笑)。背格好が似てるんです。僕の身長は167cmありますが、今は減量は楽です。3~4年前は辛かったんですが、その時期を通り過ぎました。
斎藤:思い出に残る馬は。
桑村:やはり、イナズマアマリリスですね(2008年9月20日、JRA札幌2歳500万下を最低人気で勝利)。正直、期待はしていなかったです。この直後から、中央に行くと乗せてもらう馬が増えました。気は悪くて......。
桑村:それと、ビッグバン(2009年ブリーダーズゴールドジュニアカップなど)。とても素直な馬で、調教も思った通りに動くんです。道営に戻ってきましたが、以前のような活躍ができず、ちょっと残念ですね。
ストーミングスター(イノセントカップ勝利)は器用な馬なので、これから走ってきそう。そしてハニーパイですね。
斎藤:新しく競馬場にできた坂路馬場の成果は出ていますか。
桑村:うちの厩舎はあまり使わないんです。自分が調教をつける中では、佐久間厩舎や齊藤厩舎が使っていますね。追い出しの反応がいいような気がします。乗っている方はゆるやかで、そんなにきつくは思わないんですけど、馬はゼイゼイいってますね。
斎藤:普段の生活を教えてください。
桑村:2時半に起きて、3時に厩舎へ。それから12頭くらい調教をつけて、9時半に終わってあとは競馬やフリー、という生活です。
あまり趣味はないんですよね。たまに札幌に買い物に行くくらい。家では「ミー」という名前のポメラニアンを飼っています。
仲がいいのは(黒澤)愛斗、岩橋さん、(川島)雅人さんですね。ご飯食べに行くくらいですけど。甘いものが好きで、競馬場の近くにある「パサパ」というケーキ屋によく行きます。朝飯ケーキでもOK。一番好きなのはイチゴタルトですね。
自分の性格はネガティブ。周りに言われても気にしないけど、自分で追い詰めるんです。
斎藤:意外な気がしますが、追い詰めて力を出すタイプなのですね。さて、今年も12月3日から約2カ月、南関東(川崎・佐々木仁厩舎)の遠征ですね。
桑村:2年前初めて行きましたが、厳しかったです。流れが全然違う。シビア。大井の内回りはコーナーがきついし、川崎は左だし。門別は調教も右回りだから、左回りには自分が慣れていないんです。門別は広くて乗りやすいし、馬にも優しい馬場です。
なくなっちゃいましたけど、旭川は小さいけど乗りやすくて好きでしたね。町が近くて楽しかった(笑)。残ればよかったな。
斎藤:今後の目標を聞かせてください。
桑村:リーディングとってみたいです。今年は五十嵐さんがすごいですね。五十嵐さんも目標にしています。
ファンの方には、ぜひ2歳戦を見に来てほしいです。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 斎藤友香