JRAオープンクラスで5着に入った直後に地方に移籍し、当初からダートグレード競走での活躍が期待されていたアラジンバローズ。ついに佐賀・サマーチャンピオンJpnIIIでダートグレード初制覇を飾りました。ところが、距離はJRA時代に4勝を挙げた1700~1800mではなく、一気の短縮となった1400m。いったい何があったのでしょうか。下原理騎手にうかがいました。
アラジンバローズでサマーチャンピオン制覇、おめでとうございます。
ありがとうございます。レース延期の影響でJRA騎手が乗れなくなって地元騎手に乗り替わるなど、どんなレースになるのか全く想像がつかなかったですけど、JRAの馬が強いと思って乗って、掲示板に入れれば、と思っていました。向正面では馬がまだ自分から行こうとしていなかったのでちょっと促したら、急にハミを取りはじめました。3~4コーナーは進路をどこに取ろうか考えていて、一度は外に出す準備をしていたんです。でも、悩んでいる間にちょうどラプタスが内から上がって行くのが見えて、手応えも良さそうだったので、切り替えてすぐ内に行きました。何もかもが上手くいきました。
アラジンバローズはJRA時代も含めて1600~2100mのレースを使われていましたが、1400mに距離短縮したのは下原騎手の提案でもあったとか?
前走の盛岡・マーキュリーカップが距離は2000mでしたけど1周競馬。スタートからそんなに押して行かなくても自然といいポジションにつけることができました。全然掛かることはなくて折り合えたし、意外と乗りやすくて、4コーナーを回る時には「掲示板があるんちゃうかな」っていう手応えでした。最後は止まってしまって2000mは長いのかなと感じました。レース後にそういったことを新子雅司調教師と色々話す中で「ひょっとしたら1周競馬が合うかもしれません」と伝えたら、「そうかもしれない」とすぐに納得してもらいました。
たしかに、兵庫移籍初戦だった昨年の鳥栖大賞の時から折り合いが課題に挙がっていましたね。
地元の1870mだと掛かりすぎるんですよね。今年1月の新春賞もペースが遅くて掛かって掛かって、前の馬に乗り上げそうなくらいでした。「ヤバイ、負けるかも」と思いながら乗っていました。
西日本の小回りだと、1700m以上はコースを1周半。スタンド前でグッとペースが落ちることが多いですから、折り合いが課題の馬にはつらいですけど、1400mならその心配もない、と。サマーチャンピオンでは道中の追走はどうでしたか?
序盤から無理について行こうとは思っていなかったですけど、ダートグレード競走の1400mはちょっと忙しいかな、と乗っている感覚としてはありました。でも、結果的に前が引っ張っていて、ついていけないくらいのペースだったんでしょうね。
下原騎手の言葉がきっかけで1400mに矛先を変えたとなると、それなりに責任も感じていたのでは?
地元や西日本の地方交流とか、そういうところから試してみるのかな、と思っていたら、いきなり強い馬相手のサマーチャンピオンと聞いてビックリしました。「どうしよう、余計なことを言ってしまったかもしれない」とちょっと思いました(苦笑)。いきなりの距離短縮で全く結果が出なければ、責任を感じるな、と思っていましたけど、1400mで結果を残せて嬉しかったです。改めて、その判断をスパッとできるところが新子調教師はすごいなと思いました。
下原騎手にとっては佐賀競馬場でダートグレード3勝目でした。
運が良かったなと思います。2018年サマーチャンピオンを勝ったエイシンバランサーは強くて、小細工なしでレースをして勝ってくれました。地元では負けることがあっても、遠征に行くとよく走りました。2008年佐賀記念をチャンストウライで勝った時は今回のようにJRA騎手が何人か乗れなくて、4コーナーで気づくと「好勝負ができる!」という展開でした。
アラジンバローズはサマーチャンピオンの後、盛岡・マイルチャンピオンシップ南部杯(ダート1600m)へ。3コーナー少し手前から手が動いていたので心配になりましたが、直線も渋く伸びて5着でした。
あの場面は、周りの馬の動きを見て進路を確保するためのもので、まだ本気では追っていませんでした。掲示板がほしいと思っていて、ワンターンでもよく走ってくれて目標は一つ達成できました。
この後はJBCスプリントです。同厩舎でNARグランプリ年度代表馬のイグナイターもいますけど、楽しみです。
JpnIでメンバーも強いですけど、少なくとも掲示板には載りたいなと思っています。
下原騎手ご自身の話題で言うと、今年は3年連続の地元リーディング2位になりそうです。
数字にはそんなにこだわっていないですけど、有力馬に乗せてもらっているっていうのが嬉しいです。他場からも騎乗依頼をいただいて、今年はあちこち遠征に行かせてもらっています。大変ではありますけど、年齢的にもいつ依頼がなくなるか分からないですし、いま幸せです。
最後にオッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
アラジンバローズは2戦続けてJpnIとなります。JBCでは他馬と斤量が同じで難しさが出るかもしれませんが、展開や立ち回りで上手くカバーできたらな、と思っています。挑戦者の気持ちで精いっぱい騎乗するので、応援よろしくお願いします。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
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昨年度、ばんえい記念を含む196勝を挙げて14回目のリーディングに輝いた鈴木恵介騎手が、7月28日第5レースをレイリーキングで勝ち3500勝を達成しました。ばんえい競馬史上3人目、現役3人目で、デビューから26年6カ月での達成は藤本匠騎手の30年8カ月を更新しばんえい競馬史上最短。騎手生活27年目を迎えるトップジョッキーに話を聞きました。
3500勝、重賞も99勝の鈴木騎手ですが、この中でも思い出に残る馬、レースを教えてください。
うーん......、ばんえい記念のニシキダイジンかな。重賞を勝てばいつもうれしいです。オレノココロはテスト(能力検査)からずっと乗っていましたし。いい馬ばかりだった。
ばんえい記念は勝てなかったけどミサイルテンリュウは、障害に先に行って、どこまで逃げられるか、という先行型。それで勝つのは難しく、勉強になりました。それは、降りてからゴールまでが近く、先手を取らなくてはいけない今の帯広の勝ちパターンでもあります。
名馬が多すぎて、私も誰の話にしようか絞れないです。今でこそばんえい記念の第2障害を一腰で上がる馬も増えましたが、私はナリタボブサップ(2010年)を思い出します。
今よりも重い馬場で、ばんえい記念を一腰で上げた時は自分でもびっくりした。
いろいろなタイプの馬がいます。センゴクエースはデビュー時から強かった。オレノココロは、最初は上位10頭に入ると感じてはいたが、あとで成長する馬だと思っていた。
キングフェスタもうるさいところがあったが、休ませながら大事に使っている。大事にしすぎるくらいで、もまれ方が足りないかも。少し体重が減りましたが、今は戻って動きも良くなってきました。今後、メムロボブサップなどの引退が近くなった時に盛り上げる馬がいないと、ファンもおもしろくないので活躍してほしいです。
2024年3月17日、ばんえい記念をメジロゴーリキで制した
恵介騎手に乗せたい、というオーナーも多く、その魅力ってなんなのかな、といつも考えています。
馬のハミざわりは普通の人よりは敏感だと思います。サラブレッドより手とハミまでの距離は何倍も遠いけど、手綱をつかんで伝わるものがある。
ハミと手綱を持つ手は、1馬身ほどの距離があると思います。しかも手綱はピンと張らず、緩んでいますよね。指に伝わるんですか。
指、手のひらに感覚が来る。ゲートを出た瞬間、馬が行きたがるくらいのちょうどいいハミざわりがあるんです。ほかの騎手がハナ行かない馬でも自分は走らせることができる。言ってできるもんじゃない。「鈴木恵介のハミ」って感じ。
ハミざわりは義父の鈴木勝堤元騎手に教わった、という話を以前聞きました。それをずっと大切にしているのですね。敏感なのは、鍛えたからでしょうか。
手綱で叩いただけで勝てるなら、誰も苦労しない。感覚は、何歳くらいかな......リーディング獲って何年もたって......30代半ばにすっごく感じるようになった。平地競馬と同じくらいの感覚で、長い手綱でも同じような感覚で伝わる。
すごいです、横から見てわかるもんですか。
馬がハミに頼ったときは、横で見ていてもわかります。
さて、これからは重賞100勝のメモリアルに期待できる馬たちが控えています。
マルホンリョウユウは、馬場が軽くなったら他の馬が出てくる(有利になる)から、重くなれば期待しています。2歳のときから見たら大人になった。油断はぜっっっったいできなかった。
若い馬など、気性の激しい馬への対処法というのはあるのでしょうか。
勝ちにいくのはもちろんだけど、まず、レースを覚えさせる。レースでは止まって、下がって、まっすぐ、を覚えさせていく。小さい子どもに何かを教える感じ。大事にして、何回か教えてやれば、他の人も乗りやすい。これを覚えたら、レースでも無理がきいて、勝ちにつながる。
ツガルノヒロイモノもあと一歩です。
同世代が強いからね。いいものは持っている。普段触るより、レースの方がまじめ。攻め馬しても「やる気あるのかな?」って。レースに来て、ゲートに入ったらやる気がでる。テストの時からそうだった。最初は目立たなかったけど、いざテストになったら、思ったよりいいじゃない、って。中にはこういう馬いる。
ライジンサンは障害と2障害を降りてからの脚が魅力。今はハンディ(収得賞金で負担重量が重い)もあって休養しているけど、レースを使わないとレースボケにもなる。でもそこは大河原調教師だから、ちゃんと考えているんだろう。
2024年3月16日、イレネー記念を勝ったライジンサン
2歳馬では、マツサンブラックで牝馬オープンのいちい賞を勝ちました。牡馬では、オレノココロの産駒のココロノニダイメの活躍がうれしいです。
マツサンブラックは障害が上手になった。ココロノニダイメはまだ体が小さいので、徐々に育てたい。
ココロノニダイメ
以前、時計を読む話をされていました。
時計も読みます。重賞は特に。この馬で、この荷物(重量)、このタイム(馬場)ならこのくらいでいくんじゃないか、と。全頭まではいきませんが、ライバルもこのくらいのタイムだな、と考えます。
3500勝の表彰式が8月末に行われましたが、けがで一度延期になりました。
脚にできものができて、腫れて膿を抜いたのですが、予後が悪くて、ずっと寝ていました。今はもう大丈夫です。普段は睡眠を大事にしています。質が大事。若い時はいつでも寝られたけどな......。
若い騎手も増えてきました。
騎手もある程度受かっていかないと、バランスが悪くなる。いつかは裏方で、強い馬を作れるような調教師をやってみたい、というのも考えています。
食べ歩きがお好きだそうですね。
ラーメンが好きです。毎日食べてもいいくらい。しょうゆ派です。お薦めは、旭川だと、つるや、大吉ラーメン。ホルモン朝吉という焼き肉屋のラーメンもおいしいです。帯広だとラーメン村、とん平、久平食堂。
自分で作ることもあります。鶏ガラからだしとって。でも最近ちょっと体重をしぼらないと......。そばに変えようかな。
温泉も好きです。登別がいい。帯広は、厩舎の銭湯が新しくなってからは、ここでいいや、と思って行ってないです。サウナもありますし。
最後にオッズパーク会員の方に一言お願いいたします。
本場に来て、エキサイティングゾーンで迫力があるばんえい競馬を見てほしいです。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
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2024年7月4日、笠松第8レースをヒナアラレで勝利し、地方競馬通算1000勝を達成した後藤正義調教師(笠松)。29歳という若い時期に開業し、45歳で1000勝に到達。ここまでの想いを伺いました。
地方競馬通算1000勝達成、おめでとうございます。
ありがとうございます。ここまで思い返すと感慨深いものがありますし、周りの方からも「おめでとう」とお声がけいただきました。頑張ってくれた馬たちや、関わってくれた方々に感謝の気持ちでいっぱいです。あまり数字にはこだわっていないので、目の前の1頭1頭を丁寧にという想いでやってきました。その積み重ねで今回こういう大きな区切りを迎えることができたんだと思います。
29歳で開業と、かなりお若い年齢で調教師になられたのですね。
祖父、父と調教師をしていまして、自分も競馬の道に進みたいと考えていました。ただ体が大きく騎手にはなれなかったので、厩務員としてこの世界に入って、やるからには調教師になりたいと思っていました。調教師試験を受けられる年齢になってすぐに試験を受けたので、20代で開業することになりましたが、当時を振り返ると親に甘えていたというか、すべて親父のおかげでスタートすることができたなと。人も馬も、今でもそのつながりがあるからやっていけるので、とても感謝しています。
調教師として大事にしていることはどんなことですか?
先ほども触れましたが、1頭1頭丁寧に接することです。競馬の世界は上手くいかないことの方が多いです。思い通りにいかないことが多いから面白いという部分と、だからストレスが溜まるという部分と。馬を育てるのもなかなか思い通りにはいかないですし、人を育てることに関しても思い通りにはいかないですね。
スタッフの方々に対しては、どういうスタンスで接していますか?
うちはベテラン厩務員が多く、経験豊富で任せられますから、あまり深く干渉しないようにしています。ただずっとベテランの方々に頼っているだけではダメなので、若手も育てていますが、なかなか難しいですね。1カ月前から24歳の子が入って来て、今頑張っていろいろなことを吸収しています。馬に接するのが初めてという子なので、本人も大変だとは思いますが、せっかくやる気を持って入ってきてくれたので、大事に育てていきたいです。
今後の目標というのはいかがでしょうか?
特に数字にはこだわらないので、具体的な目標というのは思いつかないですが、体調がベストな状態でレースに出す、ということを大事にしていきたいです。以前の賞金諸手当が安い頃は、どうしてもレースを使ってカバーするという状況がありましたが、今はおかげさまで賞金諸手当が上がって、馬のためにしてあげられることが増えています。とてもいいサイクルなので、馬のためにできることを最大限やっていきたいです。
最近の活躍馬に昨年の中京ぺガスターカップを勝ったスタンレーがいますが、どんな特徴の馬ですか?
性格はまあまあやんちゃです(苦笑)。だいぶ最近は落ち着いてきて、大人になってきましたね。これからという時に骨折してしまって、順調に行かなかった時期もありました。今も脚元に不安を抱えているので調整が難しいのですが、能力の高い馬なので、しっかりしてくればまた重賞を勝つ力はあると思います。
2023年3月14日、名古屋・中京ぺガスターカップを制したスタンレー(写真:愛知県競馬組合)
では、オッズパーク会員の皆様にメッセージをお願いします。
開催自粛期間があったにも関わらず、今また馬券を買っていただけること、とても感謝しています。競馬を続けられることが本当に幸せです。みんなで頑張ってやっていきますので、これからも笠松競馬をよろしくお願いいたします。
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:岐阜県地方競馬組合)
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