園田・姫路競馬初の女性騎手として4月13日にデビューした佐々木世麗騎手。中学生の頃は落語家を目指していたこともあるという一風変わった経歴の彼女は、当地リーディングの新子雅司厩舎に所属し、デビュー2日目にメインレースで初勝利を挙げました。
小さい頃から色々な習い事をしていて、落語も習っていたそうですね?
小学1年生から落語塾に通い始めて、年に1回、発表会で落語を披露していました。中学1年生の時には文化祭で独演会をやろうと思って校内にポスターを貼っていたら、学校に取材に来ていた地元番組の方から「密着させてください」と声をかけられて、「勉強と落語の二足の草鞋を履いて頑張る」みたいな感じで取り上げていただきました。
落語でテレビの密着取材を受けながらも、当時はすでに乗馬も習っていたんですよね?
はい、習いはじめていました。ジョッキーになろうと思って乗馬を始めたわけじゃなくて、両親から勧められてやっていた時なので、まだ落語家を目指そうかなと思っていた時期でした。
落語家ではなくジョッキーになりたいと思った一番の決め手はなんですか?
馬に乗るのが楽しかったからです。落語も楽しかったんですけど、趣味の一つだな、と感じました。
佐々木騎手の鞍には扇子に名前が入ったロゴマークが描かれていますが、落語を意識してですか?
そうなんです。父がデザイナーなので、ロゴマークやサイン、所属する新子厩舎のキャップやポロシャツなど全部作ってもらいました。腹帯にも別のロゴマークが入っているんですが、落語の芸名の「いねむり亭オーロラ姫」にちなんで、ティアラのマークが入っています。
父がデザインしたという腹帯のロゴマーク
4月13日にデビューを迎えました。改めてデビュー日を振り返っていかがですか?
ふぁ~って過ぎていきました(笑)。初日はたくさん騎乗依頼をいただいて忙しくて、1日が早かったです。
デビュー翌日のメインレースでは単勝1.5倍のワシヅカミに騎乗し、逃げ切って初勝利を挙げることができました。
デビュー戦より緊張しました。緊張すると、口角が上がって笑顔になって、唇がぷるぷるするんですが、まさにそうなってきて「緊張してるやん」って自分で思いました。デビュー前はあんまり出遅れたことがなかったんですけど、初日はすべて出遅れてしまって「こんなに難しいんだ......」と心が折れていましたが、ワシヅカミでやっとスタートに成功して勝てて、気持ちがすごく楽になりました。
単勝1.5倍のワシヅカミで逃げ切り初勝利(写真:兵庫県競馬組合)
続く最終レースもタガノオボロで逃げ切って2連勝でしたね。
それまではゲートを出そうと思っていたから上手くいかなかったんですけど、ワシヅカミをきっかけに馬について行こうと思ったら、ちょっと気が楽になりました。タガノオボロも楽な気持ちで乗れましたし、最近は最後にゲートに入る馬を見て「あ、もう出るな」と確認しています。
初勝利の翌日にはゴールデンバレットで3勝目を挙げますが、ゲートの中で馬がゴソゴソしていました。焦ったりしませんでしたか?
デビュー初日の最終レースのバジガクレオーネのように首をガンッと下げられると焦って声が出ますけど、ゴソゴソしている分にはゲートが開こうとする時に体勢を整えられるので、まだ大丈夫です。
デビューから3週間が経ち、(5月6日現在)6勝を挙げています。印象に残るレースは?
やっぱり初勝利を挙げたワシヅカミです。ゴールするまでは他の馬の脚音がバタバタ聞こえて「嘘やん!待って、待って」と焦りましたが、ゴールした瞬間、「やったー!」と思いました。
当時は有観客でご両親も応援に駆けつけていて、一緒に口取り写真に収まることができて喜ばれたのではないですか?
「やったね!」と声をかけられました。親はずーっと「ワシヅカミ、ありがとう」と言っていました。
プライベートでは、最近ウサギを飼い始めたとか?
すごく可愛いです!男の子で、名前はグラッブ。ワシヅカミが名前の由来です。
初勝利の記念撮影(写真:兵庫県競馬組合)
なるほど!「掴む」つながりですね。さて、これからの目標を教えてください。
馬主さんや調教師さん、厩務員さん、そしてもちろんファンの方たちから信頼を得られるレースをしたいです。勝てれば一番なんですけど、勝てなかった時でも最後までしっかり追って頑張っていれば、「コイツ、しっかり乗ってきたな」と思ってもらえると思うので、そういうところで頑張っていきたいです。
最後にオッズパーク会員のみなさんへメッセージをお願いします。
ファンの方たちには声を上げていっぱい応援してほしいんですけど、今は無観客なので、競馬場に来て声を出せるようになったら、たくさん「世麗ちゃん」って呼んでください。応援してもらえるようなジョッキーになれるように頑張ります。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
明け3歳によるイレネー記念をオーシャンウイナーで制し、ばんえい記念ではキタノユウジロウ(牡6)で2着と、活躍が目立つ菊池一樹騎手を紹介します。
ばんえい記念は乗り替わりで2着でしたね。
(前日)朝、調教師に乗り替わりを告げられました。ばんえい記念は、年度最後の目標。お客様の数も違うし、騎手として乗りたいレースです。不安よりは、調子が上がってきている、という思いで臨みました。障害を一腰で上がった瞬間、あっ!(勝てるかも)と。軽馬場の割に道中はみな慎重で、ゆっくりしたペース。(騎乗予定だった)松田(道明)さんならもっと強気に前に行ってたかな、と今になって思います。道中はコウシュハウンカイを見ながら行き、ゴール前で差せるかな、と思っていたら外からホクショウマサルが来て2着でした。
ばんえい記念2着のキタノユウジロウ
前日はイレネー記念を制しました。乗り替わり2戦目ですね。
挑戦者という気持ちで乗りました。ゴール前は、脚がもちそうだと思ったのでハミをあてながら進みました。乗りやすいいい馬です。真面目で行きっぷりがいいし、息も入れやすい。降りてからもしっかり歩いてくれる。性格は臆病なところがあります。キタノタイショウの子はみんな父に似て、臆病なところがある。
厩務員さんが喜んでくれてよかったです。「ありがとう」って握手を求めてきました。これからはクラスも上がるので、ゆっくりと使っていくことになると思います。
イレネー記念を制したオーシャンウィナー
乗り替わりでの勝利が多いですね。緊張はしないですか?
だいぶプレッシャーはなくなりましたね。一緒に走っているクラスの馬や、前走、前々走を見るようにしています。
クセのある馬に乗ることが多いように思います。それでもけがは少ないですね。運動神経がいいのでしょうか。
一度気性の激しい馬に乗ってから「菊池に乗せれば大丈夫」というようになったのでしょうか(笑)。他の馬に近づけない、クセを出さない、など事故が起きないよう気をつけています。運動神経がいいわけではないですよ。
ばんえいも新しいシーズンが始まりました。期待馬はいますか。
ヤマトタイコー(セン4)は重賞でどのようなレースをするか楽しみですね。フクフクライデン(牡3)はまだこれから、成長に期待。サクラダイチ(牡8)は年度が変わって、重量が軽くなってからが楽しみです。
2歳はいかがですか。第1回能力検査で時計上位のキョウエイハンターは楽しみですね。ヘッチャラも障害のうまさが目立ちました。
キョウエイハンターは自信を持って乗りました。馬体が大きく期待している。ヘッチャラはセンスがありますね。バネもある。顔に大きな流星があって魚目。見た目も注目してほしいです。
2歳は、デビューするまでにソリにならす馴致を行います。所属厩舎以外からも頼まれながらやっています。1日3、4頭はいるかな。1頭に4人ほどついて行い、私は足が速い方なので、引っ張って馬と一緒に走ることが多いですね。
キョウエイハンター
先行と追い込み、どちらが好きですか。
追い込み馬というのは障害が苦手な馬が多いからなぁ。逃げられるなら、障害力を生かして先行して降りて、歩いてくれる馬がいいですね。
菊池騎手は、もともと平地競馬のファンで、インターネットの求人を見てばんえい競馬の世界に飛びこんだんですよね。
馬ならなんでも良かったんです。平地のファンだったことがかえってよかったのかもしれない。ばんえいを知っていると大変さとのギャップに悩んでいたかもしれません。今は厩務員が少なくて大変です。試しでもいいから体験してばん馬に触れてみてほしい。それから考えてもいいと思う。最初から、人生かけようと思わなくていいんです。最近は、女性厩務員が頑張っていますよ。長く働いていますね。
騎手としては、結果が出なかったり、乗れなかったりするとやめたくなるときもありました。でもそういうときに限って調子が上がってくるんですよね。
オッズパーク会員の方に一言お願いします。
なかなかコロナが落ち着かないですね。ファンの方には体に気を付けてほしいです。今ではインターネットなどの画面でも見られるので、迫力が伝わるレースをできるよう頑張ります。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香