騎手の大記録が続く今年の岩手競馬。7月の関本淳騎手(地方通算2000勝)、9月の高松亮騎手(同1000勝)に続いて、10月1日に齋藤雄一騎手が地方通算1000勝を達成した。
その齋藤雄一騎手は今シーズン開幕直後の4月、調教中に負傷して3カ月も戦列を離れていた。そんなアクシデントを乗り越えての大記録達成でもあった。
1000勝達成おめでとうございました。さて、達成前も達成後も"1000勝は凄い記録だ"みたいな事を自らはあまり言わなかったんだけど、達成した今になってもそうですか?少し変わってきたりしていない?
特に変わっていないかな。1000勝を達成したからと言って自分が大きく変わったわけではないですし。そもそも自分が1000勝できるような騎手だとも思ってなかったですからね。達成する前も、達成した後も、今まで通り自分の仕事をするだけ、でしょうか。
そうなんだ。今までもね、厩舎の皆と一緒に仕事をして、それが良い結果につながればそれでいいんだ......と言っていたじゃない。1000勝を達成してもそれは変わりないんだ?
そうですね。ここまで来れたのは自分だけの力じゃないですからね。厩舎のためとか家族のためとかと力むのじゃなくて、みんなで力を合わせてやって来たのが良い結果につながれば"やって良かったな"って後から振り返れるし、そういうのが良いかなと。
10月1日、地方通算1000勝達成。ご家族だけでなく小西重征調教師夫妻や関本淳騎手とともに
今シーズンは開幕早々に大きな怪我をして3カ月ほど戦線離脱。1000勝を達成してその勢いで昨年以上の結果を......と期待していたシーズンだっただけに残念でした。
この春の怪我はね、そんな先の楽しみがあって仕事も楽しくできていた時の怪我でしたからちょっとね、気持ち的にガックリきたところはありましたね。でもそれ以上に、自分が怪我をして厩舎の成績が落ちたのが申し訳ない気持ちでした。
一昨年も怪我をしたことがあって1カ月ほど乗れなくて成績を落としてもしまって。もったいない感じが、どうしてもしてしまう。
でも怪我をしないと気が付かないこともいっぱいあるから。
というと?
毎日の仕事で疲れてくるとモチベーションが下がったりもするのですが、怪我をして3、4日入院しているだけで"早く仕事に戻りたい"って思うようになる。やっぱり自分は馬が好きなんだなって再確認できる時間になったりするんですよね。だから怪我する事はポジティヴに考えています。ただ今年の怪我はね、調教師や厩舎の皆に申し訳ないという気持ちが強いですね。
3カ月の戦線離脱後の復帰戦(7月8日・盛岡第2レース)を意地の勝利
改めて振り返ってみると、やはりここ何年かの、リーディング上位を常に争う成績を続けているのは立派だと思う。自身ももっと上を目指せる。自厩舎で調教師リーディングを獲るのも、昔から目標にしているけども、それもまだ諦めてほしくないと思うんだよね。
デビューしたての頃は乗せてもらえない時期が続いて投げやりになった事もありました。そんな中で結婚したり、廃止騒動があったり。自分より若い騎手がデビューしはじめたら今度は若手を引っ張る立場で、お手本になろう、周りから一目置かれるくらいの騎手にならないとと思って頑張ってきた。自分で言うのもなんだけどよくやって来たと思います。一方で勝ち星を稼ぐという事にこだわりすぎて周りに迷惑をかけていたんじゃないかなあと思う時期もあった。自分はそういう騎手じゃないなと今は思っているし、自分に力があるのなら厩舎の成績を上げる事に注ぎたいとも思うようになりました。
まだ老け込むには早いよ(笑)。では1000勝を達成した事を受けて、次の目標とすると?
今の時点では具体的な物は思い浮かびませんが、怪我をしないようにして、体のケアも気を付けて、1日でも長く乗れるように・・・でしょうか。最近は怪我が続いたし、ここまで身体を酷使してきたのは自分でも感じていますからね。先の事はもうちょっと時間をかけて考えてみます。
若駒賞(10月15日・盛岡)をニッポンダエモンで制し、今シーズン重賞初勝利
最後にオッズパーク会員の皆さんにメッセージを。
自分だけでなく若い騎手達も頑張っていますので、ぜひ競馬場にも来て応援してください。
「自分の若い頃は」「最近の若い騎手は」。インタビューの際、齋藤騎手は何度もそんな言葉を口に出す。今年まだ34歳なのに、とその度に「まだ若いでしょ。老け込むには早いよ」と口を挟むのだが、齋藤騎手に言わせると「若い騎手、新しくデビューする騎手ほど新しい技術とか自分たちの世代に無い考え方を持っている。だから若い騎手ほど伸びしろが大きいし、先々も長くやっていける可能性がある」。それゆえに自分たちは"年寄りの世代"なのだそうだ。
一方でそれは、齋藤騎手が20代の頃からリーダー格を目指し、やり抜いてきたという自負の現れとも感じる。佐藤雅彦騎手(現調教師)引退後、長く水沢所属騎手ばかり、水沢所属の調教師ばかりがリーディング上位を占めていた状況を、自身の騎手ランキング、所属する小西厩舎の調教師ランキング、共に上位に押し上げて打ち破ってきた彼だからこそ言える台詞なのかもしれない。
度重なる怪我の影響が徐々に蓄積されているんだから、とも口にする齋藤雄一騎手だが、何度も言うがまだ老け込むには早い。これからもベテラン騎手としての貫禄を見せ続けてほしい。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
8月29日、金沢競馬第4レースのバトルオサンナの勝利で、地方通算1000勝を達成した松野勝己調教師。その想いとこれまでについて聞きました。
地方通算1000勝達成おめでとうございます。お気持ちをお聞きかせください。
ここまで長かったですね。1000勝は目標でした。達成したら引退しようと思っていたくらいです。以前の面接試験の時に試験官が「1000勝までがんばれ!」って言ってくれたんです。応援してくれる人がいるんだなと思ってがんばってきました。これまで、生え抜きの馬で重賞は全部獲ってきましたし、ほかの調教師には負けていないと思っています。
調教師として25年。どんなことを大切にこの仕事をされてきましたか?
一番大切なのは馬です。ケガをさせないように、勝てるような調教をしてレースに勝つ。これが仕事ですからね。昔は喧嘩っ早かったし厩務員とも良く口論しましたが、今は良いのか悪いのか穏やかになりました(笑)。
これまで特に印象に残る馬は?
それはもう、トゥインチアズが一番ですね。出会った時は、他の馬と比べても小さかったし、こんなに強い馬だと全く思いませんでした。ただお尻だけが大きかったんです。それでデビューからぶっちぎりで3連勝。これは走ると分かって中央に挑戦しました。初参戦のダリア賞は出遅れて、しかも前が詰まって3着で残念でしたね。
2002年2月6日、園田クイーンセレクションを制したトゥインチアズ。鞍上は吉原寛人騎手。左が松野勝己調教師(写真:兵庫県競馬組合)
そして、京都競馬場で行われた『もみじステークス』を見事に勝利。当時のことを教えてください。
その時、ちょうど吉原寛人騎手が新人で所属していたんですが、ダリア賞の後、「次はお前で行くから!」と言って連れていきました。レースのことは今でもはっきりと覚えています。先手を取って進めましたが、4コーナーを周る時に後続と5馬身くらい差があったんです。そこからは人目をはばからず飛び回って応援しました。周りには中央の調教師がいましたが、関係なくそこら中走り回って「いけー!いけー!」って(笑)これまで地元でも重賞をたくさん勝たせてもらっていますが、こんなに興奮して応援したのはこの時一回だけですね。勝った後は、「桜花賞はどうしますか?」などとマスコミの取材もすごかったです。
トゥインチアズが秀でていた部分はどんなところですか?
気性が荒い馬でした。その代わり調教に耐えてくれました。普通だったら1周か2周しかしないところを、この馬は5周半くらい乗っていましたから。中央は坂路があったりプールがあったりと色々なことができるから馬が強くなります。でも、金沢ではそれがありませんから、地元の馬と同じ調教をしていてもかないません。ですから2倍くらいの調教をして負担をかけていました。それに耐える体力と精神力を持っていた馬でしたね。この馬を管理できたことは本当に誇りです。
松野厩舎の代表馬には、金沢三冠馬のノーブルシーズもいます。この馬についてはいかがですか?
デビュー前、もともとは違う厩舎にいたんですが、ゲートがどうにもならないからと馬主さんから連絡をもらって預かることになったんです。デビュー戦の時、その馬主さんがちょうど入院をされていて、電話で勝利を伝えたらすごく喜んでくれました。実は、その後に亡くなったんです。息子さんが引き継いでくれましたが、三冠を獲った時も本当に喜んでくれましたね。この馬に関しては騎乗した中川雅之騎手の力が大きいです。レースの時に遊ぶところがある馬だったんですが、中川君が上手く乗ってくれて能力を引き出してくれました。
2008年10月12日、サラブレッド大賞典(金沢)を制したノーブルシーズ(写真:石川県競馬事業局)
今や地方競馬のトップジョッキーとして全国区の活躍をしている吉原寛人騎手は、松野厩舎からデビューしていたんですよね。
見習いの時は、家から毎日走らせて鍛えました。仕事が終わった後も、毎日追い方の練習をしましたね。やはり初めからセンスがありました。だから今みたいになったんだと思います。当時は、自分の子供だと思って一生懸命に怒りましたが、彼もまだ若かったし反発もありましたよ。今の活躍を見ると本当に頑張っているなと思います。
ほかに、注目している騎手はいますか?
中島龍也騎手は上手いですよ。まだ若手ですが、おそらく金沢競馬の看板を背負って立つ人間になるでしょう。乗り方は頑固で荒い部分もありますが、馬を動かしますから。何より、一生懸命に乗っていることが伝わってきます。他の騎手には負けないぞっていう気持ちが。やはり競馬は勝ち負けの世界です、気持ちで負けてはダメですからね。
これからの目標はいかがですか?
今は目の前のレースを勝ちたいです。勝って、また次の馬を入れてもらえるように。とにかく結果を出したいです。
最後にオッズパークの会員のみなさんにメッセージをお願いします。
お話したように、特に中島騎手の騎乗には注目する価値があると思いますのでぜひ応援してください。そして、自分も結果を出せるようにがんばっていきたいと思います。
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※インタビュー / 秋田奈津子
1986年にデビューし、32年目のシーズンを迎えている坂下秀樹騎手。8月30日の門別第4レースでオイランドウチュウに騎乗し、地方・中央通算1,500勝を達成しました。ホッカイドウ競馬では5番目の年長ジョッキーに、これまでの歩みと今シーズンの戦いぶりについて伺います。
デビューから32年目での1,500勝達成となりました。率直なところ、デビューした当初はこれまで続けられるとお思いでしたか?
正直、この年齢まで乗れるとは考えていなかったですね。同期で今でも現役で乗っているのも、浦和にいる吉留(孝司)と愛知の宇都英樹くらいになりました。
この年齢まで現役を続けてこられた要因とは何なのでしょうか?
やっぱり好きじゃないとやれないですよね。小さなレースでも大きなレースでも、やっぱり勝てば面白いし。あと、独身の頃は考えたこともなかったですけれど、結婚して子どもができてから、家族を背負っているということを考えるようになりました。それが一番大きいです。
これまでのなかで印象に残っているレースを教えてください。
ホーエチャンピオンでアラブの重賞を7勝したこともそうでしたが、やっぱり初騎乗のことは今でも鮮明に覚えているかなあ(1986年10月1日札幌4R・ギャラントエイコウで初騎乗初勝利)。いまお世話になっている(米川)伸也先生もまだ現役だった頃でね。たしかあまり人気もなくて、乗っているだけでいっぱいいっぱいだったけど、道中で最後方だったのを3コーナー過ぎから上がって行って、直線でごぼう抜きでしたね。山中(静治)先生が乗っていた馬を交わしたんだと思います。須藤三千夫元調教師の馬だったのですが、須藤厩舎の馬には他にもいろいろ乗せていただいて、道営記念も勝たせてもらいましたからね(98年ハセミイホー)。本当にお世話になりました。
今のデザインの勝負服は、2008年から使われていますね。
前の年にケガで4カ月ほど休んでしまい、当時所属していた原(孝明)先生と「今の服はもう合わないんじゃないか」という話になって、占い師に見てもらったんです。それで「あまりよくない」と言われて、じゃあ替えるかと。黒とピンクは好きな色ですね。デザインも自分で考えました。デビュー4年目くらいに一度デザインを替えているので、今の勝負服は3代目です。
デビュー当初は各地の競馬場(旭川・岩見沢・帯広・札幌)をまわる形式でしたが、2010年から門別に開催が一本化されました。レースの面で何か変化はありましたか?
一番は砂質の違いですね。中央でも使っていた競馬場は、やっぱり地盤もよかったです。勝負服に付いた砂も、少し払っただけですぐ落ちましたし。今の門別は馬場も変わりやすく、雨が降ると泥がなかなか落ちにくいですね。冬場調教で使うときに塩化カルシウムを撒くと、馬場が負けてしまうんですよね。
2012年には、門別競馬場に屋内坂路コースができました。調教の面での変化はいかがですか?
やっぱり坂路ができたのは大きいです。脚元を気にせずに調教できますし、少し歩様の硬い馬でも、坂路に上げると馬が変わってきますから。ただ、やりすぎると今度はトモに疲れが出てきますから、難しい部分もありますけどね。デビュー前の2歳馬の調教も、基本的には変わっていませんけど、今は育成場で基礎を教わった状態でこちらに入ってくることが多くなりました。
今年の戦いぶりについても伺っていきます。これまで昨年よりも大幅に勝数や勝率を伸ばしていますが。
おかげさまで、勝ち負けできる馬に多く乗せてもらっていますからね。乗り鞍も決して多くはないですが、ひとつひとつチャンスがあると思って乗っているのは変わらないです。
9月28日の道営記念トライアル(ドゥラメンテ・プレミアム、勝ち馬ワットロンクン)など、人気薄でアッと言わせる逃げ切りも印象に残ります。
やっぱりワットロンクンは元々実績もある馬でしたからね。ただ、それまでの2走で乗ったときになかなかハミを取らず、少しズブくなっているのかなと感じました。先生とも相談して、1回叩いてハナに行ってみようと思ったんですけど、道中もなかなかハミを持って行かないですし......。ただ、それでかえって息が入ったんだと思います。マイナス10キロと体が減っていたのもよかったのでしょうね。本番も2,000mですが、距離の面では全く問題ないですね。
ドゥラメンテ・プレミアムを逃げ切ったワットロンクン
脚質的に好きな戦法は何ですか?
個人的な理想は先行や差しですね。レースを覚えさせていく感じが好きです。でもこれまで勝っているのは、逃げや先行がいちばん多いですかね。たぶん戦法的に合っているから勝っているんだと思います。
今後の具体的なビジョンについても教えてください。
いつまで現役を続けられるかは分かりませんが、これからもケガをしないで、少しでも長く、ひとつひとつ大事に乗っていきたいです。将来的には調教師になるための準備も進めていかなければならないですね。
競馬場を離れて、心が落ち着くのはどんなときですか?
近所の海に釣りに行くときですかねえ。趣味らしい趣味といえば釣りですね。今の季節は秋アジがいいです。あとは家で犬と遊んでいるときでしょうか。小型犬を1匹飼っています。
では最後に、オッズパーク会員の皆さまへメッセージをお願いいたします。
馬券を買うときは色々な楽しみ方があると思います。ジョッキーや馬で選んだり、分からない場合は例えば自分の誕生日で選んだり。たとえ最低人気の馬であっても、お客さんの大切なお金がかかっていることを忘れず、これからも馬券を買ってくださった方に納得していただけるようなレースをしていきたいですね。
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※インタビュー・写真 / 山下広貴