毎年高知リーディングトップ10に入る活躍を見せている、デビュー16年目の上田将司騎手。中堅ジョッキーとして高知を支える存在となった今、これからの抱負をお聞きしました。
上田騎手といえば人気薄の馬を持って来るイメージが強いのですが、ご自分でそういう意識はありますか?
そうですね。どんな馬に乗る時でも一発狙ってはいますよ。ただ、それが成功するかどうかは......馬に聞いて下さい(笑)。レースを見てもらったらわかりますけど、僕は逃げが少ないんですよ。現実的に、能力の抜けた馬にはあまり乗っていないので、その中で勝とうと思ったら最後の直線まで力をいかに温存できるかなんです。もちろん、その馬に合わせた騎乗を心掛けていますけど、3~4コーナー回ってまだ手応えがあったら「勝負になる!」と思いますね。
今年でデビュー16年目になりますが、新人の頃から勝ち星も多かったですし、ここまで順調に来ていますね。
たくさん乗せていただいて、関係者の方々には本当に感謝しています。高知の中でも騎乗数はトップクラスなので、そこは本当にありがたいですね。ただ、現状には満足していません。比べるわけではないですけど、僕の同期はみんなすごいんですよ。金沢の吉原寛人、去年調教師になった笠松の尾島徹、高知に移籍して来た三村展久、それに去年大ブレイクした金沢の藤田弘治もいますからね。厳しかった教養センター時代を一緒に乗り越えた仲間たちが頑張っているので、僕も負けてられないなと思っています。
確かにすごいメンバーが揃っていますね。でもデビュー2年目に重賞(2002年南国桜花賞・スマノガッサン)を勝ち、5年目に高知優駿(2005年・スマイルリターン)を勝った上田騎手もすごいと思いますよ。
ありがとうございます。スマノガッサンは当時のリーディングだった北野真弘さん(その後兵庫へ移籍し、現在は調教師へ転身)のお手馬だったんです。北野さんには教養センターの実習時代から可愛がってもらって、一緒に併せ馬をしたりいろいろ教えてもらいました。北野さんが関係者の方に、「将司に乗せてやって」って頼んでくれて、それで乗せてもらえることになったんです。すごく強い馬で、3コーナーから勝手にハミを取って走ってくれました。僕にとってレースを教えてくれたのはこの馬ですね。
高知優駿はたまたまだったんですよ。所属の國澤輝幸厩舎にトップアオバという強い馬がいて、その馬は乗せられないけど、國澤先生が「将司のために」って用意してくれたのがスマイルリターンだったんです。だから高知優駿を勝てて恩返しができたと思ったんですけど、実はトップアオバがその時2着で、高知優駿を勝ってたら三冠達成だったんですよね......。なので、ちょっと複雑な気持ちもありました。
上田騎手とのコンビで重賞4勝(2013年金の鞍賞、2014年土佐春花賞、黒潮菊花賞、土佐秋月賞)したニシノマリーナとのコンビも印象的でした。
あの馬は本当に強かったですね。ただ、勝気がありすぎるし揉まれると弱いしで、難しい部分もありました。田中譲二先生が、厩務員さんと一緒に好きなようにやっていいと言ってくれたので、2人でいろいろ相談しながら試行錯誤しました。その中で結果を出せたのはすごく自信になりました。
一時期は脱臼に悩まされて長期休養を余儀なくされましたが、もう完全復活ですね。
はい! 今はもう大丈夫です。脱臼に関しては......、本当に長年悩まされましたね。最初は4年目に脱臼したんですけど、すごく単純に考えていたんです。でも、200勝達成の時に鞍上でまた脱臼してしまって......。そこで1回目の手術を受けました。でもその後も脱臼することが続いてしまって。パドックで馬に乗ろうとしただけで脱臼してしまったこともあるんです。このままじゃ騎手を続けられないと思って、一時期は辞めることも考えました。その時、赤岡修次さんが有名な病院があるからって調べて来てくれて、2回目の手術をすることになったんです。これでダメなら騎手を辞めるしかないと腹を括っていましたが、その手術が上手くいって今続けていられるんです。本当にたくさんの方のお蔭です。
脱臼は相当痛いと聞きますが、気持ち的にも落ち込んだんじゃないですか?
本当に痛いですよ! 僕は骨折の経験もありますけど、脱臼の痛さの比じゃないです。騎手を辞めるしかないところまで追い込まれましたから、落ち込んだ時期もありました。でも、赤岡さんや倉兼育康さんが毎日誘ってくれて、いつも一緒にいてくれたんです。お蔭でなんとか踏ん張ることができました。
では、2016年の抱負をお願いします。
まずは700勝までもうすぐなので、そこを早く達成したいです。あとはケガをしないで乗り続けることですね。本当にいろいろな厩舎の方に声を掛けていただいて、たくさんレースに乗せてもらっているんです。2013年には年間騎乗数が800を超えて高知1位だったんですけど、すごく嬉しかったですね。常に一生懸命仕事して、今年もたくさんの馬たちに乗りたいです。
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:浅野靖典)
デビュー15年目を迎える兵庫の吉村智洋騎手。早い時期からトップ10圏内に入る活躍を見せていましたが、2015年は兵庫第4位と自身最高の順位を記録しました。さらなる飛躍が期待される今年、その胸の内をお聞きしました。
2015年はこれまでで最高の勝利数(146勝・12月27日現在)を挙げていますが、何か飛躍のキッカケがあったんですか?
自分としては、この数字は物足りないというか、欲を言えばもっと勝てたと思っています。数字自体が伸びたのは、去年は(田中)学さんも木村(健)さんも休んでいた時期がありましたから、そのぶん(勝ち星が)転がって来たのかなという感じですね。ただ、僕は本当に人に恵まれていると思います。所属の橋本忠男調教師をはじめ、周りの方々に助けていただいたお蔭で勝ち星を重ねることが出来ているので。
橋本忠男調教師はどんな師匠ですか?
調教師としてはもちろんですけど、人間としても尊敬できる先生です。勝負に関して言えば、めちゃくちゃシビアですよ。レースに行ったら結果がすべてなので、負けたら次はないんです。だから、1戦1戦気を引き締めて乗るようになりました。でも、毎日頑張っているところも見ていてくれるので、それでチャンスをくれるんです。2013年に中央未勝利から移籍して来たエーシンプレジャーという馬がいるんですけど、その馬に関しては、毎日の調教だけではなくて、追い切りも装蹄する時期とかも含めてすべて僕と厩務員さんに任せてくれました。脚元の弱い馬で、調整が難しい面はあったんですけど、その馬に10連勝させてもらいました。
10連勝というのは大きいですね。
そうですね。なかなかそこまで連勝できる馬はいないですよね。本当に強い馬で、レースはいつも掴まっているだけで楽勝なんです。でも脚元が弱いから調整が本当に難しくて、毎日1週間先までの天気予報をチェックして、馬場のいい時に追い切りができるように調整していました。途中で長期休養もあったんですけど、去年の春に10連勝できた時はすごく嬉しかったです。この馬に巡り会うことができて、しかも先生に任せてもらえて、本当にいい経験になりました。
吉村騎手といえばマクリのイメージが強かったんですけど、以前よりも先行するイメージに変わりました。
前はマクリが好きだったというか、きっちりマクれると気持ちいいし、カッコいいと思うんです。でも地方の小回りの中で、その戦法だけではトップは獲れないということに気づきました。マクって行っても勝ち切れなかったり、ゴール板過ぎてからスピードに乗っていたり......。脚を余して負けることがあって、マクリ一辺倒ではダメなんだと。結局、前々で進められた方が得だし、コーナーも1頭分でも内を回った方がロスがないですから。今は意識して前で競馬をするようにしています。
お手本にしているジョッキーはいますか?
園田には、木村(健)さん、(田中)学さん、川原(正一)さんというすごい人たちがいますからね。3人のそれぞれのいいところを盗もうと研究しています。3人とも持ち味が違うのですごく勉強になりますね。例えば木村さんだったらゴリゴリ剛腕で押し切れるじゃないですか。学さんはすごくキレイに乗ってくるし、川原さんは馬のリズムに合わせた騎乗をする。そういうところを盗んでいけたらと思っています。実際は言うほど簡単ではないですけどね。
今年デビュー15年目を迎えました。ここまで順調にステップアップしていますね。
本当に周りの方のお蔭なんですけど、僕自身、朝の調教を一番大切にやって来ました。頭数が一番多い時には、日付が変わったらすぐ、夜中の12時から乗り始めるんです。多い時で1日26頭乗るので、そのくらいの時間から始めないとお昼前に終わらないんですよ。
26頭?!20頭を越えると相当大変だと思いますけれども。
そうですね。でも、馬にたくさん乗らないと上手くならないですから。数をたくさん乗せてもらうためには、毎日の調教で頑張らないと。それに、園田の若い子たちはけっこうみんな乗ってますからね。頑張れるうちは、誰よりも多く乗っていたいと思っています。
でも、寒い冬の朝なんて...心が折れそうになる時はないですか?
もちろんありますよ。寒い日も嫌だし、雨の日も嫌だし。でも、そうやって毎日頑張っていると、見ている人は見ていてくれますから。そう思うと頑張れます。
本当に真面目ですね。
バカ真面目なんですよ(笑)。朝の調教というのは、レースと同じくらい大切だと思うんです。馬を仕上げることもそうですけど、例えば僕が寝坊して時間に遅れたら、26頭分のスタッフに迷惑を掛けるし、そのスタッフが担当している他の馬たちにも迷惑が掛かってしまう。そうすると一日大変だし、信用もしてもらえませんから。寝坊しないっていうことも大事にやっています。こうやってコツコツやって来たことが成績に繋がっているので、これからも体力が続く限り頑張ります。
では、今後の目標を教えて下さい。
今年は1000勝を達成するのが目標です(12月27日現在、935勝)。あと、最近重賞を勝てていないので勝ちたいですね。重賞はみんなが目指してくるレースなのでなかなか難しいですが、そういうところでも結果を出して、いつか園田のトップを獲りたいです!
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※インタビュー / 赤見千尋
今シーズンばんえいリーディング4位(12月21日現在)、大躍進の阿部武臣(あべ たけとみ)騎手です。
今シーズン、上位で健闘されています。
夏頃、乗り替わりや癖のある馬で結果を出したのがあるかな。最近、ひと通り厩舎(義父の坂本東一調教師)の馬を調教するのに、春頃おおざっぱに1年間の計画を考えている。2歳の痩せている馬は秋になって体ができてからにするとか、体ができていない馬の調整とか。一緒に走る馬の能力を見極めなくてはいけないから、相手関係も全て確認する。今までもやってきたけれど、騎乗にばかり集中していたころよりは、違う目線で見られるようになった。そうやって馬を作っていかないと、自分の乗り馬が増えていかないし。自分がいい結果を出さないと、厩舎がだめだと言われてしまう。最初はプレッシャーもあったけど、馬にとっていいレースをするように考え、その中で結果を残す。ゆとりを持って乗らないと。
他の厩舎でも、ミスをおかさずにいかに1着を獲るか。そのためには普段から調教をつけるようにして、一番いい能力を発揮できるようにする。本番と練習の癖が全く違う馬もいるから、そのような癖も見極めて。
レースではどのようなことに気をつけていますか。
負けてもきれいなレースになるようにしたい。きれいな、というのは、膝を折ったり、障害で寝かせたり、大きく離されて負けないように。その馬のベストを尽くす。それがいい結果につながったのかもしれない。
あとは、自分が乗っていないのも含めて、レースを見ることだね。この騎手は、この馬に乗ったらこのようなレース運びをするんだ、この馬はこのような馬場の時はこういうレースをしているとか。自分が乗りそうな馬はもちろん、そうではない馬も頭に入れておく。
騎手は勝ってナンボの世界。1着を獲っていい成績を出さないと、騎乗依頼は来ない。最初からいい馬なんて回ってこないので、それをいかに結果を出していくか。勝てない馬でも数乗っていれば、馬主さんに、強い馬を乗せてやるか、と言われることもある。
馬に対してはいかがですか。
一番は健康管理かな。馬房からつなぎ場まで歩く音一つにしても、気を遣う。きつい調教をした後は、飼い葉の食べ方を見る。残していたらやり過ぎていたかな、とか。一番の調教を見極める。耐えられればえさも食べるけど、やり過ぎも良くないけど、レースでいい能力を出せるようにしたい。
阿部騎手といえば、個性的な馬に乗ることが多いように思います。
ホッカイヒカルとかね。どちらかというと、ハナ(スタート)遅い馬が多かったよね。だからそういう馬の騎乗依頼は来る。道中の行き方を考えて、スタートでは焦らなくなった。
思い出の馬を教えて下さい。
初めて重賞を勝ったキタノコクホー(2002年銀河賞)。強い馬たちがたくさんいた世代の中、小さな牝馬で頑張った。
そして、乗り馬が少ない時に活躍してくれたホッカイヒカル(2013年チャンピオンCなど重賞3勝、2015年3月に引退)。夏が弱いので、手間がかかった。餌を食べなくなる。でもオープンだから、重い荷物を引いて調教しなければならない。それでも怪我なく頑張ったよね。来年初仔が生まれるよ。
ホッカイヒカルの引退式。右が坂本東一調教師
レースで大事にしていることはありますか。
まっすぐ走らすこと。半歩でもいいからゲートを早く出ること。いかに、2障害まで負担かけないように行かせるか。そこで無理すると体に負担がかかって、障害で止まったり膝を折ったりする。
ゲートについては、ばん馬は立ち上がったりするのはそんなにはないけど、暴れていたらスタートは切られない。ばん馬には、脱糞(馬がゲート内で糞をするときは、騎手が手を上げてスタートを待たせる)で待つことがあるからね。
先日は、ゆるキャラのレースに出走しましたね。乗りにくくないですか?
ふなっしーね。ブシャブシャ言ってたよ(笑)。邪魔ではないよ。普段の調教は荷物の後ろに乗っているから同じ感覚。面白いよ。お客さんを見たり、楽しみながら乗れる。荷物も軽いから馬に負担はないし。ふなっしーパワーで、あんなに人来るんだね。
今後の期待馬について教えてください。
ホクショウマサルはダービー(2014年)を勝って、ハンデがきつい状態だからこれからだね。
2014年度最多勝(15勝)のカンシャノココロは、2歳のころから活躍はしていたけれど、若馬のレースだしスピードが足りなかった。4歳になってペースが落ち着くレースが増えてから良くなった。今シーズンは古馬と走りながら4勝しているからね。障害降りてから歩ける馬。シンザンボーイも同じく自在性に優れている。最近タナボタチャン(芦毛っぽい栗毛の牝馬)が人気だよね。
ファンに、ばんえいの見どころを教えて下さい。
障害かな......。馬場が重い時期なら、1障害と2障害の間の駆け引きやゴール前の接戦が面白いけれど、12月はまだペースが速いかもしれない。3月になればだいぶ重くなっている。白熱したレースを見られると思うよ。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香