長年に渡り、名古屋のトップジョッキーとして活躍を続ける安部幸夫騎手。2015年は久しぶりの重賞制覇に始まり、激しいリーディング争いの一角を担いました。地方通算3000勝達成を目前に控えた今、その心境をお聞きしました(取材は12月中旬、その後12月24日に3000勝達成)。
2015年は重賞2勝。年明けから新春盃を勝って、幸先のいいスタートでしたね。
新春盃はパッと乗せてもらって、印はそんなについてなかったんですけど、中団から進んで4コーナーではいいところが開いて、「勝ったな」と思いました。お正月開催で重賞が勝てたので気分が良かったし、いいスタートになりました。ハナノパレード(スプリングカップ)も代打で乗ったんですけど、馬の調子がすごく良くて。強いレースをしてくれましたね。
さらに、昨年を上回る勝ち星を挙げました。
たくさんいい馬に乗せてもらっているので、その結果ですね。周りの方々には本当に感謝しています。それに、岡部(誠)くんが南関東期間限定騎乗と韓国遠征で長期間いないこともありますね。そのお蔭で回って来た馬もいますし。
岡部騎手が抜けて、安部騎手をはじめ4人(丸野勝虎騎手、大畑雅章騎手、今井貴大騎手)が激しいリーディング争いを繰り広げています。
もう暮れも迫っていますから、リーディングを意識してないって言ったら嘘になりますけど、あんまり意識してもいいことないので(笑)、なるべく気にしないようにしています。今年はたまたま4人で争う形になりましたけど、今は本当にライバルとかはいないです。人がどうこうよりも、結局は自分自身ですから。他の人のことはなるべく意識しないようにしてます。昔はね、吉田稔さんていう偉大なジョッキーがいて、ものすごく憧れていたので意識して乗っていました。稔さんのすごさは言葉で言うのは難しいんですけど、とにかく特別なんです。長い間ずっと一緒に乗っていて、いろいろなことを教えてもらいましたね。
具体的にはどんなことを教えてもらったんですか?
技術面もそうですけど、精神的な面が大きかったです。いろいろな言葉を掛けてもらいました。稔さんはけっこう急に引退したんですけど、僕はその時韓国遠征中だったんですよ。だから、韓国から帰って来て、すぐに北海道に会いに行きました(吉田稔さんは、現在北海道で育成牧場を経営)。稔さんが辞めたのはショックでしたけど、辞め際のこととかいろいろ考えてたっていう話を聞かせてもらいました。
2012、2013年には韓国で短期免許で騎乗
以前お話を伺った時、長く騎手を続けるために青汁と香酢を飲んでいると仰っていましたが、今も続けていますか?
今も青汁は続けてますよ。あと香酢じゃなくてにんにくしじみに替えました(笑)。僕はもともと体が軽くて減量がないですから、それはかなり大きいと思います。それに、入院するほどのケガをしたことがないことも大きいですね。アバラの骨折くらいはありますけど、大きいのはないんです。
ジョッキーはアバラの骨折を軽く言いますよね?
そうですね(笑)。入院しない骨折はかなり軽く見てますよね。でもね、あれ意外と痛いんですよ! くしゃみしただけでもめちゃくちゃ痛いですから。軽い骨折でも辛いですよ。
食生活以外で、長年騎手を続ける秘訣は何でしょう?
ストレスを溜めないことですね。僕は馬に乗ることが大好きですから、馬に乗っていられれば楽しいです。特に勝った時の快感と言ったら、他のものには代えられないですよ。名古屋は賞金安いですけどね、そんなのは関係なく勝ったら本当に嬉しいですね。
韓国ではコリアンダービーにも騎乗
もうすぐ3000勝に手が届きますね(12月11日現在、2989勝)。
もう近づいてますか? まだまだかなと思っていたんですけど、近づいてたら嬉しいですね。やっぱり3000勝は大きな目標ですから。デビューした頃はまさかこんなに勝たせてもらえるとは思ってなかったですけど。昔は騎手が多くて、リーディングでも年間100勝できない時代でしたからね。今は騎手が少なくなって、岡部くんなんか200くらい勝つでしょう。僕でも100勝くらいさせてもらっているわけですから。それでも、3000という数字は自分だけではとても挙げられない数字なので、乗せてくれる関係者の方々、そして応援してくれるファンの皆さんに感謝ですね。
安部騎手は名古屋と笠松で騎乗することが多いですが、それぞれの攻略法というのは?
今年は名古屋の馬場改修があって、笠松と同じ砂になりました。それでも、名古屋の方が2秒くらい時計が掛かりますよね。どちらも先行有利なので、いかに楽に先手を取るかですけど、笠松の方がよりスピード重視というイメージで乗っています。
馬場改修後のコースはいかがですか?
クッションはだいぶ良くなりました。硬い馬なんかも走りがいいですから。ただ、まだそれほど時間が経っていないので、1~2コーナーの辺りは完全には馴染んでいないんですよ。あそこが改善されればもっと良くなると思います。
安部騎手と言えばキングスゾーンのイメージが強いですし、そのせいか逃げのイメージが強いです。
若い頃から強い逃げ馬によく乗せてもらっていたので、そういう風に言ってもらうんですけど、自分ではそんなに意識したことないんです。必ず逃げないと行けないと思うとそれがプレッシャーになるし、ゲートを出る時は馬の邪魔をしないということを最優先にしていて、出していくようなことはあんまりしていないんですよね。キングスゾーンもそうですけど、乗せてもらった馬たちが速いんであって、僕の力ではないです。それに、一番好きな位置取りは番手ですから。逃げ馬を見る形で運べるので、一番競馬しやすいです。
では、今後の目標を教えて下さい。
まずは3000勝を達成することです。あと最近はJRAに行っていないので、認定を勝って遠征に行きたいですね。認定の数もだいぶ減ってしまったし、前ほど遠征に行く馬もいなくなってしまったんですけど、やっぱりJRAに行くのはいい刺激になりますから。少ないチャンスを掴んでいきたいです!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:浅野靖典)
10月30日笠松競馬第9レースで、地方通算1000勝を達成した佐藤友則騎手。取材に訪れたこの日(11月26日)は、1日5勝の固め勝ちで年間100勝にも到達し、絶好調の様子。他地区への遠征も多く、その明るい性格からも全国にファンが多い騎手です。今年の活躍の理由などを聞きました。
地方通算1000勝達成おめでとうございます。率直なお気持ちはいかがですか?
今までこんなに良いペースで勝てたことがなかったですし、900勝から1000勝までの100勝は、周りの方のバックアップというのをすごく感じて、とても嬉しかったですね。うまい具合にいい馬にたくさん乗せていただいたり、他場でも乗せて頂いたり、JRAでも乗せていただいいたりと、これまでとは全然違う100勝の内容でした。
デビューから16年目でのこの数字はどう感じますか?
遅いですよね。900勝達成の時は全然納得していなくて、900勝までこんなにかかったのかと。インタビューの際、今の気持ちは?って聞かれて「特にない」って言ったことを覚えています。それまで1年間を通して納得して終われた年がなかったんです。それなのに一回腐ってしまって、騎手もやめようと思ったこともあります。でも、よく考えたら、大した努力もしていないし、何もしていないなって。だから納得して1年が終われるように努力したいと考えてやって結果が、この1000勝なのではないでしょうか。
どんな努力をしたんですか?
これまで体重調整の時、けっこう減量をしていたのですが、普段から体重を2キロ減らしてキープしたり、食生活も自炊で野菜を多く食べたり、トレーニングをしながらも、とにかく体重調整をしっかりするようにしました。
それと、笠松競馬場は調教をしっかり乗っていればレースも乗せてくれる競馬場なんです。それなのに調教にあまり乗っていなかったんですね。騎乗依頼は来るというプライドもあって。でも今のリーディングの吉井(友彦騎手)を見ていると、朝早くから遅くまで調教もこなしているし、挨拶もちゃんとしているし、レース後のコメントもしっかりしている。まず吉井を認めて、そういうところから見習っていこうと決めたんです。自分のプライドやスタイルを捨てて、考え方を全て変えましたね。
そんな中、この1000勝までに印象に残っているレースはありますか?
(尾島)徹が引退して調教師になる時に「僕がトモ君をリーディングにする」って言ってくれたんです。だから、シンゼンライカーという馬で徹の厩舎で初めて勝った時はすごく嬉しかったです。あの言葉を言われた時に思ったのは、絶対に2人でリーディングを獲りたいということ。良い目標ができましたね。
佐藤騎手といえば、遠征をたくさんしているイメージがありますが、大変ではないですか?
休みもないですが、全然大変じゃないです。2、3日競馬がないと体がなまりますし、毎日乗っていた方がリズムもいいんですよ。移動中にすぐに寝られる体質なので、飛行機が離陸するのも気づかないくらい(笑)。それである程度疲れもとれます。
他地区はもちろん、最近はJRAでも多く騎乗されていますが、刺激を受けることはありますか?
JRAですと、多頭数で位置取りの厳しさをとても感じています。笠松だと少し馬がよれても被害を与えることは少ないですが、JRAだと被害が大きくなる。そういう経験もあって、最近では笠松でも常にまっすぐ走ることを心がけています。だから今年は制裁がないと思います。
いろんな競馬場にファンも多くて、横断幕も出ていますよね。気づいていますか?
もちろん、見ていますよ! 本当に嬉しいことです。遠征が増えてから多くのファンの方の応援を感じていて、他場に行った時はすごく励みになります。
来年の目標を教えてください。
まずは、東海リーディング。笠松だけというより、東海といえば佐藤友則と思われたいです。そして、JRAでも二桁勝ちたいです。
これからの目標は?
ワールドオールスタージョッキーズに出て優勝したいです。今は以前と違って予選のワイルドカードがあって、自分にもチャンスがありますよね。その時に言う言葉は決まっているんですが、(2位で出たならば)「予選を優勝して、本戦に出場して下剋上してやる!」って。それでワールドオールスタージョッキーズで優勝して、シャンパンファイトをやりたいです!
では最後に全国の佐藤友則ファンにメッセージを。
最近は、毎週どこかの競馬場で乗っていると思われていると思いますが、乗っているんじゃなく、毎週どこかで勝っていると思われるよう、全国で勝ち鞍をあげていきたいです。周りの支えのおかげで、やっとリーディングを狙えるところまできているので、来年はリーディングを獲ります。全国のみなさんの期待に応えられるようがんばりますので、応援よろしくお願いします!
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※インタビュー / 秋田奈津子
現在全国リーディング2位を走る、兵庫の川原正一騎手。デビューから39年、笠松と兵庫でダブル2000勝を達成するなど、数々の記録を打ち立てて来ました。56歳になった今でもパワフルな騎乗は健在。長きに渡って活躍し続ける要因をお聞きしました。
現在全国リーディング第2位(227勝/11月28日現在)と、今年も活躍していますね。
いい馬に乗せてもらっているのでそのお蔭です。56歳になった今でも十分体が動くし、兵庫では木村(健騎手)や田中(学騎手)が体調を悪くして休んだりしている中で、僕は減量もなくて体には恵まれていると思っています。1つ1つのレースを大事に乗っていることが結果に繋がっているんじゃないですかね。自分ではたいそうなことをしているとは思いません。
デビューから39年です。長く続ける秘訣というのはありますか?
やっぱりもともとの体重が軽くて減量がないっていうのは大きいと思いますよ。もちろん、日々の生活の中で体重が増えないように気を付けてはいます。あとは大きなケガをしないことですね。ケガは後遺症があったり、治っても後々ガタが来たりしますから。
騎乗に対してのポリシーというのは?
自分のスタイルを貫くということです。自分と馬のリズムを大事にということですね。まぁ、基本中の基本ですけど。そこを大事にした上で、この馬にはこういう乗り方の方がいいんじゃないかとか、こういうアプローチがいいんじゃないかとか、スタッフと一緒に考えることも大切です。あとは、これまで培った自分の感覚もプラスαとして付け加える感じですね。
北海道のランランランで園田プリンセスカップ制覇(写真:兵庫県競馬組合)
川原騎手はテン乗りでも結果を出すという印象が強いです。今年で言えば、園田プリンセスカップのランランランがそうでしたね。
あの時は騎乗前から自信がありました。ただ、向正面に入ったところで掛かってしまって...。あれがなければもっと楽に勝てていたと思います。あのレースは馬に勝たせてもらいました。テン乗りの馬に関しては、まずは調教師や厩務員さんの話を聞きます。どういう性格をしているのか、どういうことが苦手なのか、聞かないとわからないことが多いですから。それで、返し馬で感触を確かめます。これまでのことを教えてもらうのは大事なことだし、それでも日々成長していますから、今日はどんな雰囲気なんだろうと感じることも大事です。固定観念で決めつけず、背中から感じた感触を大事にレースに挑みますね。
いつ頃からそういう考え方になったんですか?
そうですね、ある程度経験を積んで来てからです。最初はただただがむしゃらにやって来ましたけど、たくさんの馬たちに乗せてもらって、背中で教えてもらって。その分、たくさんの関係者にもアドバイスをもらっているわけですから、いろいろ考えるようになりました。30年前にJRAに遠征に行き出した頃ですかね。自分自身の感覚というのを感じられるようになったのは。ただ、それがいい方に出る時もあるし、悪い方に出る時もあります。それが競馬の難しいところで、面白いところでもありますけど。
長年騎乗していますが、「楽しい!」と感じる時はありますか?
もちろん、ありますよ。馬に乗るのが大好きですから。特に、自分しか乗れない乗り方ができた時は楽しいですね。周りから、『川原スタイル』『川原マジック』なんて言ってもらえると気分がいいです。先日の園田チャレンジカップ(ヒシサブリナ)で、久しぶりにそういうレースができました。どんなに経験を積んでも、会心のレースというのはなかなかできるものではないです。僕だって年に数えるほどですから。そういうレースができた時は、本当に嬉しいです。
笠松時代に2000勝、そして兵庫移籍後に再び2000勝を達成しました。そのメモリアルの勝利が園田チャレンジカップでしたね。
ずっとお世話になっている盛本信春厩舎の馬で、会心のレースで達成できたことは最高に嬉しかったです。振り返ってみると、本当にたくさんの馬や関係者のみなさんに助けていただきました。笠松時代も兵庫に移ってからも2000勝できるなんて、なかなかないことですからね。感謝の気持ちでいっぱいです。
会心の騎乗だったヒシサブリナの園田チャレンジカップ(写真:兵庫県競馬組合)
勝ち続ける秘訣というのは?
一番は強い馬に乗せてもらうことです。そのためには日々真面目に頑張ること、与えられた中できちんと結果を出すこと、関係者に「自分の馬を託したい」と思ってもらえる存在でいることが大事です。騎乗の中では、どこでギアチャンジをするのか。そこを間違えると強い馬でも負けてしまうこともあるし、そこが一番難しいです。
今後の目標は何ですか?
ケガがないよう1つ1つのレースを大切に乗るだけです。競走馬というのは、馬主が調教師に預けて、調教師が厩務員に託して、最後のバトンを受け取るのが騎手なんです。みんなの想いが詰まっているので、1つでもミスは許されないと思っています。僕は今56歳ですが、「年食ったな」とは絶対に言われたくないですね。今は体も昔と同じように動くし、いつまでも若々しくパワフルな乗り方を続けていきたいです!
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※インタビュー / 赤見千尋