今年4月にデビューした小林凌騎手。4月18日にデビューして翌々日の20日に早速初勝利を挙げ、順調なスタートを切った。
6月28日までの成績は60戦6勝で、今季の岩手は例年に比べ在厩頭数が少ないために少頭数のレースが目立ち、小林凌騎手もなかなか騎乗数を確保できないが、それでも勝率10.0%・連対率13.3%は立派な成績ではないだろうか。今回はその小林凌騎手にお話をうかがった。
では、騎手を目指したきっかけから聞いていきましょうか。
父が競馬が好きで、JRAのレースを父と一緒にテレビで見たり競馬場に行ったりしているうちに自分も好きになりました。小学校5、6年の頃ですね。
父はスペシャルウィークが好きだったのですが、自分が覚えているのは2006年くらいからでしょうか。ディープインパクトとかの頃ですね。
それで騎手を目指してみよう...と。JRAの騎手学校は考えなかったのですか?
JRAも受けたんです。でもちょっと厳しいだろうなって感じて。受験生がもの凄く多いし、自分のように競馬関係ではない家庭からではなかなか...っていうのもありました。受験に向けて1年間専門学校に通って乗馬等を勉強して、自分なりに準備をして挑んだのですが、やっぱりいろいろ難しいな、と。それに、JRAの騎手学校は合格しても卒業できるとは限らない。何年もかけて結局騎手になれないかもしれないより、少しでも早く騎手になりたかった。それで地方競馬の騎手を目指す事にしました。
そんな息子を、ご家族の皆さんはどんなふうに見ていたのでしょう?
そうですね、いろいろ考えてくれたように思います。アニベジ(アニマル・ベジテイション・カレッジ)にも通わせてくれましたし。
お母さんのフェイスブックを見ると、凌君のためにおかずを作って持ってきてくれたりしているようだけど? 栄養とかいろいろ目先が変わるようにとか、気を遣って作ってくれてるみたい。
え、母のフェイスブックを知ってるんですか(笑)。自分は減量をあまり気にしなくて良かったからわりと何でも食べる事ができて、母の料理などもそんなに難しく考えずどんどん食べていたんです。でも、そうやって考えてくれているのはありがたいですね。
初騎乗時。ちょっと緊張気味?
話を進めて、競馬学校を通過して今は騎手になっているわけですけども、本物の"騎手"になってみて、自分の思っていたのと違った...みたいな事はありましたか?
"思っているようには騎乗できない"でしょうか。小さい頃にテレビで見てカッコいいな、あんなふうにレースしたいなと思って騎手になったのですが、やはりそう簡単に、思っているようには乗れないですね。
それはテクニック面? 体力面で?
スタート、道中で息を入れる所、レース勘、体力...。全部ですね。まだまだなんだと思います。スタートがイマイチだからって焦って追っつけていったら後半自分がバテたりとか...。
見ている方としては、まずます順調に勝って経験も積んでいるんだな、って思っているけど。気持ち的には楽になってきたんじゃないですか?
いや、逆にまだまだだ、って感じがします。強い、勝てる馬に乗せてもらっているから勝てているけどそれに頼ってばかりじゃいけないですし。他の馬でも、自厩舎の馬ばかりじゃなくて他の厩舎の馬でも結果を出せるようになってこそ先生(板垣吉則調教師)に認めてもらえると。
2015年4月20日水沢第2レース、コスモリボンに騎乗して初勝利
デビュー前の小林凌騎手を見ていると、結構自信家なように感じたけども?
そんな自信家じゃないですよ。まだまだ全然です。デビューしてからいろいろ自分に足りないものも見えてきました。
凌君の所属する板垣厩舎は毎年リーディング上位を争っていて、良い馬・強い馬が多いですよね。自分の手で乗って勝ちたい...とか思ったりしませんか? しますよね?
自分もレースで乗りたい、自分の手で勝ちたいと想像したりもしますが、今の自分じゃまだまだですから。一日も早く自分も巧くなって、厩舎の成績に貢献できるようになりたいです。
調整ルームでの生活にはもう慣れましたか?
慣れました。自分は菅原辰徳騎手と相部屋ですが、辰徳さんが怪我でしばらくいなかったりしてしばらくは個室みたいな感じでした。ルームでは、ビデオでレースを見直して、ごはんを食べて寝る...でしょうか。ゲームとかはしないです。
調教は何頭くらい乗っていますか?
だいたい15頭前後でしょうか。板垣先生や厩務員さんも乗って、ほとんどフル回転で調教しています。
では最後にファンの皆さんにひと言アピールをお願いします。
ファンの皆さんに納得して貰えるよう、期待に応えられるような騎乗ができるよう、がんばります。
盛岡でも勝ち星を挙げた
昨年の実習時の小林凌候補生の印象は「結構話し好き」だったが、4月のデビュー前後は、やはり緊張する所があったのか口数が減って表情もちょっと厳しい感じになっていた。しかしそれも、デビューから2カ月経ってだいぶこなれて、緊張が解けてきたように見える。
デビュー前に聞いた時には「30勝が目標です」と意気込んでいた小林凌騎手。今のペースだと20勝に届くかどうか...という感じだが、しかしそれだけ勝てれば全日本新人王争覇戦の出場も見えてくる。頑張ってほしい。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
デビューから25年目を迎えた、兵庫の永島太郎騎手。小牧太騎手・岩田康成騎手に継ぐナンバー3の時期があったり、兵庫リーディングトップ10に入れない時期があったりと、まさに山あり谷ありの騎手人生を送っています。そんな永島騎手に、現在の想いを語っていただきました。
今年ここまで31勝(6月16日現在)、リーディング8位につけています。激戦区の兵庫で、2010年からは常にトップ10に入っていますね。
もっと勝ちたいと思っているけど、なかなか結果が出せていないです。数年間はもっと良かった時代があったので、現状に納得はできていないですね。兵庫だけじゃなくいろいろなところで乗せてもらって、上手な人はたくさんいるし、上には上がいっぱいいます。競馬は結果がすべての世界なので、誰かを意識するよりも自分自身との戦いですね。
今年25年目になりますが、ここまでのジョッキー生活を振り返るといかがですか?
気持ちも体もデビューした頃と変わらないつもりですし、40歳過ぎたけど年老いた感じはないです(笑)。いろいろなめぐり合わせの中で生きてきましたけど、振り返るとあっという間でした。僕のような波の激しい、激動のジョッキー人生っていうのはなかなかないんじゃないですかね。普通は平坦だったり、上ってそのままだったり、落ちてそのままだったりしますけど、僕は上がって下がってまた上がってのジェットコースター人生ですから(笑)
その激しい波というのは、どんなことが影響していると思いますか?
自分自身は特に変わっていないと思うんですけど、人から見て評価されたりされなかったりという感じなんですかね。どんなに自分が頑張っていると思っても、人に評価されなければ上には行けない世界ですから。あとは、「よし!今から」という時に、2度大ケガをしたこともありました。腕じゃなく脚だったので時間が掛かって、半年休んだ時と4か月休んだ時がありましたね。こういうめぐり合わせもあるんだと思います。ただ、いろいろな出会いがあって、人付き合いは恵まれました。普通では出会えない人と会えたし、本当に有難い出会いが多いです。
永島騎手は地方の騎手には珍しく、かなり転厩が多かったですよね。
そうですね。最初は自厩舎の調教師が勇退して解散になったんですけど、当時はいい順位にいたので、勝負を賭けようとリーディングトレーナーの厩舎へ移りました。でも結果を出すことができなかったし、周りからもあまり良く思われなかったですね。
リーディング厩舎へ移籍というのはかなり目立つ行動ですし、そういう積極的な動きを良く捉えない人もいますよね?
あの頃は精神的に辛かったですね。なんだか八方塞がりみたいな感じでした。これまでと同じ世界の中で勝負しているけれど、環境が変わると人の見る目も変わりますから。でもその時、家族をはじめ身近な人たちが助けてくれて。特に、妻の父から言われた言葉が今でも忘れられません。昔の人の言葉なんですけど、「過去と人は変えられないけど、未来と自分は変えられる」っていう。人が人がと考えていても仕方ないし、なるようにしかならないんだなと気持ちを切り替えられました。
激動のジョッキー人生を25年間続けて来られたモチベーションというのは?
やっぱり、結婚して家族ができたことが大きいですね。家族に対する責任もありますし。それに、僕は騎手という仕事が大好きなんですよ。まだまだ乗っていたいし、もっと上手くなりたいです。1レース1レース、まだまだ反省点がいっぱいありますから。
騎手・永島太郎の売りは何ですか?
技術的には負けてないと思っています。プロの世界なので、そこは負けたくないですね。
具体的なことを言うと、捌きです。馬群にいる時、(アクセルを)踏んでから詰まると控える力が大きくなってダメじゃないですか。同じ詰まるでも、踏んでから詰まるのと踏む前に詰まるのでは全然違うので。踏んで控えて踏んで控えてみたいなシーソーのようなレースはダメなので、そこは大事にしています。流れの中で今踏めば大丈夫というのはわかって来ました。そういう部分の技術では負けないです。ただ、結果がついてこないと負け犬の遠吠えになるので、もっと経験を積んでもっと上手くなりたいです。
昨年の六甲盃では、ハルイチバンに騎乗して逃げ切り勝ち。人気馬を抑えての勝利は気持ち良かったんじゃないですか?
そうですね。あの時は代打で騎乗のチャンスをもらって、積極的なレースをしました。逃げたので砂も飛んでこなかったし、本当に乗ってて気持ち良かったです。ああいうチャンスを物にして、自分のお手馬に繋げて行けるかがカギですから。
2014年3月6日、ハルイチバンで六甲盃を勝利(写真:兵庫県競馬組合)
では、今後の目標を教えて下さい。
2000勝という数字が見えて来たので(6月16日現在1820勝)そこに向かって頑張りたいです。今の流れだと、劇的に勝ち星が変わることはないけれど、1つ1つコツコツと積み上げて行きたいですね。園田では毎年2000勝以上のジョッキーが集まるゴールデンジョッキーカップがあって、2000勝というのはやはり意識しています。あのレースは誰もバタバタしないんですよね。個々に色んなアクションはしているけど、無駄な動きをしないんです。進路も甘くないし密集して走っている中で、ギアチェンジもしっかりしているし、完全に手の内に入っているから少しの隙間、一瞬の隙間を付いてパッと伸びて来られる。間近で見ていてとても勉強になります。
兵庫は常に激戦区と呼ばれますけれども、ここ最近も、若手からベテランまで揃っていますね。
みんな生き生きと乗っているんで、そういう中で僕も乗れて楽しいです。特に最近は若手が頑張っていますよね。その中でも僕が注目しているのは鴨宮祥行です。体が大きくてまだ無駄な動きが多いけど、すごく頑張っていますよ。乗り馬で成績が左右されるので、今後は技術を磨くことと、人間関係が大事。周りから信頼されて、可愛がってもらえるジョッキーになって欲しいです。
今年も『その金ナイター』が始まりました。4シーズン目ということで、かなり定着しましたね。
でも地元でもまだ知らない人がいるんです。競馬は衣食住には関係ない、なくても生きて行けるものなので、継続的に魅力を伝えていかないと。ナイターはまた違う視点で見てもらえるし、平日の昼間では見られない人にも見てもらえるので、たくさんの方に楽しんで欲しいです。どこの競馬場ももちろんですけど、その中でも兵庫のレースは激しいと思っています。ギリギリのところで戦っている、激しいバトルを見て下さい!
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※インタビュー / 赤見千尋