1993(平成5)年6月1日生まれの深見勇也騎手(井上哲厩舎所属)は、21歳を目前にした今年4月に初騎乗。そして20歳のうちに初勝利を挙げることができた。名古屋競馬場には同時にデビューした騎手が2人いる。そのライバルを視野に入れながら、自分自身に磨きをかけているところだ。
深見騎手は、ほかの同期より年齢が上ですね(村上弘樹騎手が1995年生まれ、八木直也騎手が1997年生まれ)。
ぼくは家庭の関係で、小学校2年生のときから児童養護施設で生活していまして、そこにいた人が井上哲厩舎に厩務員として採用された、そのつてで16歳のときに騎手見習いでトレセンに入れていただきました。自分自身、中学生のときから騎手になりたいと思っていたんですが、視力が一気に悪くなってしまいました。それで矯正手術をしようと考えたのですが、基本的に未成年は手術してもらえないものなんですよね。それもあって、(地方競馬)教養センターの試験を受けるのが遅くなりました。でも最初の試験は落ちてしまったんですが。
受験できるまでが長かった上に、失敗もあったのですか。
騎手見習いのとき、体重が50キロぐらいありまして......。それで試験のときに46キロに減量していったらフラフラで、まともに動けなかったんです(笑)。 2回目のときは合格できましたが、体験入所中に体重が47.9キロになってしまいました。入所の説明書には「48キロになったら強制退所の可能性がある」と書いてありましたから、本当にギリギリで踏みとどまれてよかったです。今は49キロを維持できていますよ。
デビューは今年(2014年)の4月14日。初めてのレースは4着でした。
他の厩舎のチャンスがある馬に乗せていただいたのですが、コーナーで外にふくれてしまって......。学校にいるときから、隣の馬との間隔には気を付けるようにしていたのですが、やっぱり緊張していたのかなあ。その日に同期の村上が勝ちましたし、最初のころは焦りみたいなものがあったようにも感じます。自分も1つ勝てば、そういう気持ちから解放されると思っていましたが、実際はそうでもなかったですね。
待望の初勝利は、デビューから1カ月弱で挙げることができました(5月2日)。
自厩舎の馬で勝つことができてよかったです。3番手から直線で抜け出しましたが、勝つときってこういう感じなのかなという感覚がありました。それと、馬が教えてくれるっていうのは、こういうことなのかなとも。
ただ現時点(9月25日)では、ほかの2人のほうが、勝ち星が多くなっています。
デビューのころは、同期には負けたくないという気持ちがあったんですが、だんだんと変わってきましたね。今は、何年かあとに彼らより上に行けていればいいかなと。デビュー当初に焦って結果が出なかった人なので......。それに「お前は考えすぎだ」と、よく言われますから。それでも以前よりは周りがよく見えるようになったと思いますし、コーナーリングも多少は上達したかなと感じます。将来は丸野(勝虎)騎手のように、ロスのない競馬ができるようになりたいですね。
勝負服(胴赤・黒菱山形一本輪、袖白・赤一本輪)のデザインは、自分で決めたものですか?
最初は、自厩舎に以前いた騎手がピンクを使っていたので、それを基本にと考えていましたが、(井上)先生に自分で決めていいと言われたので赤にしました。自分は施設育ちなので親と一緒に暮していないんですが、父の好きな色が赤なんですよ。
そういう気持ちがこめられているのですね。
施設にいたときは、施設自体にあまりいい印象を持っていませんでしたが、そこを出てからはそう思わなくなりました。実は、高校に1年だけ行ったんですよ。施設のかたに「高校には行っておけ」と言われたからなんですが、それも今になって考えれば、自分のことを親身に思っていてくれていたからなのかなあと。
その人たちのためにも成功したいですね。
デビュー前はなんとなく順調にいくのかな、なんて勝手に思っていましたが、全然そんなことなかったですね。1勝の重みってすごいなと、今さらながら実感しています。同期や年が近い人は目標や励みになる部分がありますが、自分は自分というところを忘れずにやっていきたいです。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 浅野靖典
8月24日、3歳三冠の一冠目『ばんえい大賞典』をカイシンゲキで勝利し、重賞2勝目を挙げた菊池一樹騎手(27)。初めての1位入線による重賞勝利でした。
おめでとうございます。2012年のナナカマド賞をショウチシマシタで勝った時は、1位入線馬の降着による繰り上がりでしたものね。
やっと周りに「タナボタだ」と言われなくなるのでほっとしました。それまで、あだ名が「タナボタジョッキー」ですよ(笑)。 レースの1週間前くらいから、どう乗ればいいのか考えていました。緊張していたんでしょうね。(カイシンゲキの)槻舘調教師に、「なるようになる」と言われて楽になりました。(2着のハクタイホウ騎乗の)赤塚健仁騎手は勝てば重賞初勝利。それに比べたら、重賞を1つ勝っているので気持ち的には楽だったと思います。
その名の通り、カイシンゲキの快進撃ぶりはすごいですね。ここまで急成長する馬は珍しいと思います。
カイシンゲキは、デビュー前の馴らしからやっていた馬です。この時から引っ張る力はそれなりにあったのですが、悪い癖があったからか、レースでは案外でした。2障害の下に着いたら、左に逃げるんです。(トップ騎手の鈴木)恵介さんが乗っても、逃げたままぐるっと1周してしまうくらい。さぼろうとするのかなぁ。 これからオープンや重賞に出ることになるし、他の馬に迷惑をかけたら危ないので、昨年の秋くらいから強いハミに変えて、しかりつけながら矯正しました。今年度初めのレースでやわらかいハミに戻したら、やる気まんまんになったんです。障害の下につけても抑えないといけないくらいがらっと変わって、行く気になりました。大外枠に入った時、左に寄れたら落ちるのではと心配していたのですが、よれずにレースができました
ばんえい大賞典ではハクタイホウに勝ちました。ゴール前、接戦でしたね。
5月の『とかち皐月賞』(特別)はハクタイホウの2着でしたが、ゴール後おしっこをしていたのは、かなりきつかったからだと思います。この時、ハクタイホウにはかなわないかな、と思いました。でも、やっとライバルと言えるようになりました。カイシンゲキの良さは、切れ味と粘り。 ばんえい大賞典は、先行したハクタイホウを見ながら障害をかけて、先に降りられたので楽でした。ゴール前、しっかりぼえ(追え)ば勝てるかな、と思いました。
3・4歳の重賞はまなす賞(2着)も惜しかったですね。
ゴール前、後ろから(勝った)コウシュハウンカイが来ているのが見えたから、どこまでもつか、と思いながらレースをしていました。もう手応えはなかったのですが、予想以上に頑張ってくれました。 カイシンゲキの性格はマイペース。急に引っかかるところがあるけど、普段はゆっくりゆっくりで、カメみたい。これからは重量が増えますね。まだ(馬体重は)1000キロないので少しずつでしょう。まだ成長の余地があります。
菊池騎手は、馬を追う時に膝を大きく上下させているフォームが印象的です。
そうですか? 無意識のうちに、そのように動いているのですね。いろいろな人の追い方を真似して試してきたら、今のフォームになりました。目標の騎手は鈴木恵介さんです。ぼったら一番。馬の反応を見て、タイミングを読むのがうまい。身長が同じくらいなので参考になります。
プライベートでは、釣り好きですよね。
先日、大津でアキアジ2本釣りました。自分でさばいて、料理しますよ。大友調教師と行くことが多いですが、最近若手騎手の中で釣りがブームなんです。西将太や島津新もやっています。
所属厩舎の田上(忠夫)調教師はどのような先生ですか。
優しいです。とても馬を大事にする。馬を叩くことを嫌がります。厩舎に入りたてのころ、調教で馬を叩いたら、その痕を見てすごく怒られました。
次の目標は、通算200勝でしょうか。(9月15日現在192勝)
特に数にはこだわっていません。騎乗している馬が勝てるところで勝ちたい。 目標のレースですか? BGIII(ばんえい大賞典)を勝ったので、BGII、BGIかな。
菊花賞、ダービーで達成できますね。では、ファンに一言お願いします。
競馬場の来場者が増えて、ありがたいです。『銀の匙』効果なのか、若い人が増えましたね。これから帯広では、収穫の秋にちなんだ食べ物のイベントが多くあります。それに合わせて本場にばんえい競馬を見に来てほしいです。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 斎藤友香
デビューから10年の月日が流れ、現在女性騎手最年長のベテランとなった、佐賀の岩永千明騎手。今年は、日本の女性騎手として初めてイギリス(5月31日、ニューベリー競馬場)で騎乗するなど、現在進行形で進化を続けています。そんな岩永騎手に、イギリスでのこと、これからのことをお聞きしました。
まずはイギリス遠征ですけれども、レディースワールドチャンピオンシップ第8戦に招待された時は、どんなお気持ちでしたか?
本当に急だったので、びっくりしました。その前の第7戦に(別府)真衣ちゃんが招待されて、ドイツで騎乗すると聞いて、「すごいなぁ~」と思っていたんです。まさか自分に声が掛かると思わなかったので、本当にびっくりしましたね。知らせが来たのが2週間くらい前だったんですけど、実はパスポートの期限がギリギリで......。あと1か月後だったら、行けなかったんですよ! 前にパスポートを取得したのが、2009年の韓国(KRA国際女性騎手招待競走3着)遠征の時で、その時はパスポートの申請期限を10年にしようか5年にしようか迷ったんですけど、おそらく結婚して苗字が変わるんじゃないかと想像して、5年にしたんです(笑)。パスポートのせいで、危うく行けないところでした。
危ないところでしたね! 実際に行ってみてどうでしたか?
通訳さんと2人で行ったんですけど、本当に急きょだったので、競馬に詳しい方ではなくて、観光系の通訳さんだったんです。一生懸命やってくれたんですけど、競馬は専門用語も多いし、初めての環境で、もう何が何だかわからなかったですね。レースの何日か前から来て下さいと言われていて、「何でそんなに早く行くんだろう?」と思っていたら、なんか発表会?みたいなのと、表彰式?みたいなのと、パーティーがありました。もうホント、何が何だかわからなかったですけど(笑)、楽しかったです。
競馬はどうでしたか?
ニューベリー競馬場は、なんていうか、何もない山というか、草原という感じでした。直線だけのレースだったんですけど、かなり起伏が激しくて、日本のような平地ではなかったですね。レースの前に他の女性騎手たちと馬場を歩いたんですけど、1レースだったので他のレースも見れなかったし、VTRも見れなかったしで、よくわからないうちに終わってしまいました。いい結果が出せなくて悔しいですけど、実際に体験出来たことは、すごくいい経験になりましたね。
芝に乗ったのは初めてですよね?
そうなんです! それをすごく楽しみにしていました。もうすごく気持ち良かったですね! 草原を走ってるみたいで。ただ、なんか硬い芝で、昔を思い出しました。騎手になる前に乗馬をやってたんですけど、その頃はあんまり砂の入ってない馬場で乗っていたので、「あ、硬いな」という感覚が似てましたね。
他の女性騎手たちとは話しましたか?
周りの女性騎手たちは、完全に遠征慣れしてました。堂々としているし、英語もペラペラなので、特に不自由はなさそうでしたね。私は何がどこにあるかとかがわからずに、かなり戸惑いました。レースは、騎乗馬がゲートが悪いということは聞いていたんですけど、ゲート裏に行ったら発走委員から「馬から下りろ」みたいに言われて。通訳さんもいないし、言葉もよくわからないし、日本のルールではゲート裏で馬から下りるってけっこう大きいことじゃないですか! だから、そのまま乗ってたら、相当キレられました(苦笑)。結局、"馬から下りて馬だけ先にゲートに入ってから、騎手が乗る"ということだったらしいんですけどね。あと、私が乗った馬はいい馬だったみたいで、負担重量がかなり重かったんです。64キロくらいかな? だから、鞍に鉛を入れて調整したんですけど、20キロ近く入れることになって......。レースが終わって鞍を下す時、持ち切れないほどでした(笑)。
なかなか大変な遠征だったようですが、それも実になったというか、今年はかなり好調ですね。
そうですね。佐賀に来て3年目になりますけど、いいリズムになって来ています。たくさん乗せてもらってますし、いい馬にも乗せてもらって、勝たせてもらって。荒尾がなくなった時には、騎手を辞めようかなと思ったこともありましたけど、こうやって佐賀で迎えてもらって、イギリスでも騎乗できて。本当に有難いし、感謝の気持ちでいっぱいです。
では、今後のお仕事面とプライベート面の目標を教えて下さい。
今は282勝(8月28日現在)なので、節目の300勝が目標です。ケガなく、1頭1頭一生懸命に乗っていれば、超えられる数字なので。いつもファンの方には応援していただいているので、期待に応えられるよう頑張ります! プライベートは......いい人がいれば、そろそろ結婚したいです(笑)。好きなタイプはゴミのポイ捨てをしない人! 常識のある人が好きですね。外見ですか? そこはあんまり気にしないです。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 赤見千尋 (写真:佐賀県競馬組合)