ホッカイドウ競馬の新人、石川倭(やまと)騎手(18)。7月16日現在10勝を挙げ、井上幹太騎手とともに新人らしからぬ騎乗で門別競馬を盛り上げています。
斎藤:騎手になったきっかけを教えてください。出身は富山市ですね。
石川:親と祖父が競馬好きで、家ではいつも中央競馬を見ていました。子どもの頃からずっと騎手には憧れていて、小学5年の時、将来の夢を書く時に、初めて騎手になりたい、と意識しました。家族に伝えた時は、一時期金沢競馬の厩務員をしていた祖父には一度だけ、危ないから、と反対されました。今は応援してくれています。中学時代はハンドボール部でした。父もしていたし、地元は盛んで強いんです。スキーもするし、体を動かすことは好きです。
斎藤:騎手試験には一発合格でしたね。
石川:中学2年で乗馬を始めましたが、乗馬クラブの馬はそんなに指示出さなくても勝手に動いてくれるので......。教養センターでは、周りは経験者ばかりで、自分はついていくのでせいいっぱいでした。負けず嫌いなので、人の乗り方を見て、いいところを盗んでやってきました。
斎藤:北海道に決めたのはなぜでしょう。
石川:北海道と金沢で悩みましたが、2歳や若い馬が多いことや、乗りならしからはじめられるところで北海道を選びました。また、中央や他地区に挑戦できたらいいなと思っています。
斎藤:所属は、騎手としても1438勝を挙げた米川昇先生の厩舎ですね。勝負服も受け継いでいます。
石川:先生は、教えてもくれますが、基本的には「自分で考えて乗るように」という考えです。勝負服は、先生に「いただきたいので、いいですか?」と聞きました。すると「それでいいのか」と。偉大な騎手ですので、恥じないようにと思っています。先生が騎乗しているレースのビデオを探しているのですが、なかなか見つからないんです(笑)。
普段は、先生のほか、齊藤(正弘)調教師や、手伝いに来る川島雅人騎手、松井(伸也)騎手が教えてくれます。五十嵐(冬樹)さんは間近で乗っていると迫力があり、目標にしています。いろんな人のいいところを取り入れたいです。
斎藤:身長は167.5センチありますね。
石川:会うたびに「またでかくなったんじゃないか」と言う方もいますが、伸びずにすんでいます(笑)。手足が長いことを生かした追い方をするようにしています。道営には、齊藤調教師もですが、桑村(真明)さん、阿部(龍)さんとか、背が高くて上手な人がいっぱいいますから参考にしたいです。体重管理のために走るようにしています。厩舎が坂路に近いので、坂路も1本登るんです。
斎藤:初日(4月24日)のことを教えてください。第1レースから、同期の井上幹太騎手が勝ちましたね。
石川:「持ってるな」と思いました。自分は、初日は思ったより緊張しなかったのですが、次の日のパドックから緊張しはじめて。周りをみる余裕ができたのでしょうね。
斎藤:初騎乗(第4レース)は3着、2戦目(第5レース)は、井上幹太騎手の2着でした。
石川:あと200というところで、(井上騎手の馬を)交わせるかな、と思ったのですが、近づくにつれて向こうも伸びていった。ただ、負けたことが悔しくて。特に幹太だから、というのはなかったです。
普段は幹太のことは意識はします。どれだけ数乗っているか、どんな乗り方するか。普段は厩舎が遠いのであまり会えませんが、調整ルームなどでは仲がいいです。
(他場の)同期も、勝ったのを聞くとどんな競馬をしているか気になりますね。笹川(翼、大井)も勝ってるな、って。仲が良かったのは、船橋の木佐貫(泰祐)と、幹太です。
デビュー6戦目、自厩舎のアラマサアルデで初勝利
斎藤:初勝利は5月3日(第4レース)でした。
石川:人気(2番人気)だったのでほっとしました。逃げ馬で、スタートダッシュもよかったです。強い馬がいたので、その馬が来るまでじっとしていよう、と考えていました。人気馬に乗った時、どういう競馬をするかを考えさせられました。これからもチャンスに応えられるようにしたいです。
斎藤:5月22日には、フジノジャガーで特別レースを勝ちました。
石川:ナイターは気持ちか高ぶりますね。わくわくする。緊張して、いろいろと想定しすぎてしまいました。それでも思っていたように位置を取れたし、道中はタイミングを間違えないように、と考えていました。馬が強かったです。返し馬の時にキツネが出てきて、怖かったですけど。
斎藤:2歳馬の騎乗も多いですね。
石川:乗せていただいていますが、乗りこなすのは難しいです。悪いこともすぐ覚えるから、より集中が必要なんです。
斎藤:一番思い出に残るレースは。
石川:負けたレースなのですが、6月18日、フジノジャガーでシセイカイカの2着に負けたレースです。競馬の難しさを感じました。馬の力を全て出し切るのは難しい。状況によって、瞬時に判断できるようになりたいと思いました。レースが終わってからや、調整ルームでビデオを見ていると、騎手の先輩方がみんな「ここがこうだから」と教えてくれます。
斎藤:10勝なので、重賞にも乗れますね。
石川:まだ重賞に乗れるだけの技術には足りないので、自信もって乗れるように努力したいです。乗りたいのは道営記念です。道営馬だけのレースだし、去年見ていて、雰囲気にぐっと来るものがありました。
斎藤:普段の生活を教えてください。
石川:2時半までに起きて、3時から攻め馬、10時までです。一度休んで、午後は厩舎作業です。先生は「手伝いに行ってやれよ」というので、齊藤厩舎や佐久間厩舎、山中厩舎などの手伝いをしています。
斎藤:倭という名前は珍しいですね。パドックでも「ヤマト!」と声がかかっていますね。
石川:ヤマトタケルノミコトからです。小6の弟はたける(傑)で、騎手になりたいと言ってますが、身長がちょっと高いですね。
斎藤:目標と、ファンに一言お願いします。
石川:今年の目標は30勝です。将来的には、リーディングを目指していきたいです。そして、怪我をしないように。ファンの方には、穴を開けられるよう頑張ります。人気にも応えて、穴も開ける。チャンスをもらっているので、生かしたいです。
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インタビュー / 斎藤友香 (写真:斎藤友香、小久保巌義)
6月3日に行われた岩手ダービーダイヤモンドカップをヴイゼロワンで制し、念願のダービージョッキーとなったのは、デビューして今年が10年目となる高松亮騎手。そのダービー制覇の喜びや、今後のことについてうかがいました。
横川:まずは『岩手ダービーダイヤモンドカップ』を制した時の、感想から聞かせてください。
高松:ゴールの瞬間は本当に興奮しました。ヴイゼロワンの陣営からは“この馬はダービーを勝つために連れてきたんだ”と言われて。そういう馬に自分を信頼して乗せてくれて、そして勝つ事ができましたからね。
横川:少しレースを振り返りましょう。道中は先行策、ハカタドンタクらライバルと見なされた馬たちを後ろに置いての戦いになりました。
高松:自分の考えではライバルを前に見ながらがいいのかなと思っていたのですが、相手の行き脚がそれほどでなくて、一方自分の馬は抜群のスタート。だったらヴイゼロワンのリズムを崩さないようにしようと。
横川:その先行策から積極的に動いて直線は自ら先頭に。
高松:それもあくまで馬のリズムを守って、ですね。スムーズな流れを作って自然に加速させてやるのがヴイゼロワンには一番いいと思って乗っていましたから、あそこはそれまでの流れのまま動いていった形です。
横川:最後の直線ではハカタドンタクが迫ってきて、いったんは前に出られたりもしました。あのあたりはかなりヒリヒリしたんじゃないですか?
高松:そうですね。これで負けたら“お前の仕掛けが早かったから”と言われるかもしれない…そう思わないでもなかったですけど、でも自分の馬の手応えはずっと良かったし、そこまでも思った通りに進んできていた。相手はずっと脚を使い通しで上がってきていたのが分かっている。それでもし交わされ突き放されたりしたとしたら、それはあっちがバケモノなんだ…。腹は括っていましたね。
横川:これで重賞は3勝目ですが、“ダービージョッキー”はやはりちょっとこれまでとは喜びの質が違うんじゃないかと思うけど?
高松:なんというか、少し時間が経ってから“こんな大きな出来事だったのか”と感じましたね。
横川:それはどんな事で?
高松:たくさんの人にネットやメールとかでメッセージを貰ったんですよ。もちろんいままでもいただく事はありましたが、今回はその数が段違いだったんです。それもこれまでにもいただいていた人ばかりでなく、初めての方なんかからもたくさん。自分は、正直それほど手放しで喜んではいなかったんです。自分のキャリアからすれば満足しちゃいけないですから。でももの凄くたくさんの方から祝福されて、自分はこんなにたくさんの人に支えられていたんだ…と改めて実感しました。
横川:今年は騎手生活10年目。区切りらしい勝利になったのでは?
高松:10年という区切りは、自分ではあまり気にしてないです。いや気にした方がいいのかもしれないけど、騎手としてまだまだだなと感じているから“10年やって上手くなった”とか“騎手としてのポジションが固まった”とかは思ってないですね。毎年同じように挑んでいるつもりですよ。
横川:でも今年は既に重賞2勝。順調なスタートを切ったように見えるけども
高松:今年は、そうですね、ここ何年かの中では、なんというか腹が据わったというか競馬に向かう気持ちが違う…とは自分でも思っていますね。
横川:それはどういう点で?
高松:今年の1月1日にケガをしちゃって、自分的にはちょっとキツいケガだったんですね。前もケガでシーズン終盤を棒に振ったこともあったけど、気持ち的には今年の方が数段重かった。いろいろ悩んだんですが、そんな中で馬に乗れる、レースに出ることができるのが自分はやっぱり好きなんだ…と再確認できたように感じるんです。
横川:“騎手・高松亮”的には2年前もけっこうなピンチだったと思うけど(※2011年終盤、高松騎手はケガで戦列を離れていたが、治療休養中に所属厩舎が解散してしまった)、あの時よりもキツかった?
高松:あの時もピンチでしたね。鎖骨を折ったんですが、あれだけ大きなケガをしたのは初めてだったからショックもあった。でも今年は、気持ち的にはあの時以上だったかも。ケガをしてしまうとどうしてもゼロからの再スタートになるんですが、今年はゼロよりもさらに“どん底”で、そこからはい上がっていくしかないのか…という気分でしたから。ただ、さっきも話したようにそれで逆に吹っ切れたというか。いい意味で悩まなくなりました。変なことで悩んでる場合じゃないだろ、って。
横川:そんな今年の“騎手・高松亮”はどんな目標を立てている?
高松:通算500勝が間近。とりあえず手近な目標なのでこれはしれっと達成しておきますよ。あとは年間100勝。毎年言っている目標なんですけどね。
横川:100勝というのはリーディング上位を争うために…ということ? 最終的に1000勝とか2000勝とかまで辿り着きたいから、そのための最低ラインだ…とかそんなことなの?
高松:ん~。それもないことはないけど、ちょっと違うんです。この先、自分で考えていることがあって、100勝達成はそのために必要なことなんですよ。
横川:んん~。気になるなあ。それは100勝できたらその理由が明らかになるの?
高松:いや、明らかにしないですよ。話さないと思います(笑)。
横川:気になるけど、100勝達成した時の高松騎手を見たら理由が分かる…ということにしておこう。それから高松騎手は過去によく他地区で期間限定騎乗していましたが、またどこかに行かないのか?と楽しみにしているファンも多いと思いますが。
高松:ここ2年くらいはケガのせいもあって行けなかったし来年もまだちょっと時間が取れそうにないんですけど、行きたい気持ちはあります。それに行くとなったら腰を落ち着けてまとまった期間乗りたいですからね。また行きますよ。
横川:楽しみにしています。
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※インタビュー・写真 / 横川典視