大柿騎手(22歳)といえば、『園田プリンセスカップ』(昨年9月22日)で初重賞制覇を成し遂げた表彰台で、恋人にプロポーズをしたことで一躍有名になった騎手です。
竹之上:まずはプロポーズに至った経緯を教えてくれる?
大柿:もうそろそろ彼女と結婚しようかなぁと思ってたころで、そんなことを調教中に北野(真弘騎手)さんに話してたら、「お前今度重賞で勝てそうな馬がおるやろ。その表彰式のときにしたらどうや」って言われたんです。
なんと、あの衝撃プロポーズは、北野騎手の発案だったのです!
レースの前の週、騎乗するアスカリーブルの話を訊きに行ったとき、神妙な顔で大柿騎手がにじり寄り「実はそのことで相談が...」と言ってきたのです。「もし勝ったら、当日来る彼女に表彰台からプロポーズをしたいんですけど、そんなことをしてもいいですかね」と。
竹:ええがな、前代未聞やけど、やってみたらええがな。って言ったけど、あかんって言ってらどうしてた?
大:どんな形でもプロポーズはしようと思ってました。結果的に表彰台で伝えることができて良かったです。でも、あのときはめっちゃ緊張しましたよ。
竹:そうやな、若手騎手が初重賞制覇するわけやし、嬉しくてたまらないか、涙を見せるかっていうのが相場やけど、ガチガチになって青ざめてた感じやったもんな。
大:あの日は乗り鞍自体があのレースだけだったので、朝からレースのことばっかり考えてました。内枠だったので、初めて砂をかぶる競馬になったらどうしようと不安になっていました。だから勝ったあとはホッとするところなんですけど、まだこのあとやることがあるんやと思ったら、めっちゃ緊張してきて...。
「こんなぼくですが、結婚してください!」と直球のプロポーズ。もちろん成功して、3月3日に入籍。3月30日に挙式の運び。多くの人が見届け人になったわけやから、絶対に幸せになるように!
竹:甘い新婚生活が待っているところやけど、6月から南関東の船橋で期間限定騎乗することが決まってるんやね。
大:そうなんです。でも、彼女には早い段階から遠征に行くってことは言ってましたから、納得してくれてます。それより、自厩舎(山口浩厩舎)の方が気がかりで...。だから先生になかなか言えなかったんです。
竹:厩舎に迷惑がかかることを心配したの?
大:調教している馬の数は、西脇トレセンの中でもかなり多くやっている方だと思います。だから、ぼくが船橋に行っている間、誰かに負担がかかるわけじゃないですか、それがあるので先生からお許しが出ないんじゃないかと思ったんです。
竹:でも先生は許してくれたんやね。
大:意外にあっさりね(笑)。「何かつかんで帰ってくるんやったらええよ」って。
竹:いいこと言ってくれるねぇ。
大:「調教がしんどくなるなぁ」って冗談で言われましたけどね(笑)。ただ、調教がしんどくなるのは事実なので、だから3ヶ月まで遠征できるんですが、2ケ月の申請にしたんです。うちの厩舎のことを考えると、それが限界かなと。
船橋での所属厩舎は天下の川島正行調教師の息子さんである川島正一厩舎となりました。
大:うちの厩務員さんが大井の関係者と親しいから聞いてみると言ってくれてたんですが、話がまとまらず、最後の切り札として取っておいた、川島正太郎(船橋騎手)に直接電話をして頼んでみたんです。ぼく彼と同期なんですよ。
竹:ええカードを残してたなぁ。そういえば、アスカリーブルは川島正行厩舎に移ったんやね。ひょっとして騎乗依頼があったりして。
大:それはないでしょう。あったら嬉しいですけどね(笑)。でも、川島正一厩舎にも、うちの厩舎にいたプレミールサダコがいるんですよ。何かの縁かなぁって思いますね。
竹:アスカリーブルが『ユングフラウ賞』で強い勝ち方したよね。どう見てた?ずっとこっちにいて乗り続けたかったとは思わない?
大:別に思いませんね。移籍はしょうがないことですから。それより、デビューから乗せてもらって無傷の4連勝で重賞制覇させてもらったんですから、すごく感謝しています。結婚にも繋がりましたしね(笑)。とにかくアスカの活躍は素直に嬉しいです。
デビューから5年目を迎える大柿騎手。初年度に16勝。2年目には50勝(リーディング12位)を挙げる大活躍。しかも騎乗回数は群雄割拠の兵庫において、新人としては破格の842回という騎乗数。これはその年の39名中、5位の記録だったのです。
しかし、その後は23勝、29勝と落ち込み、今年は2月23日現在、まだ2勝。乗り数も大きく減少傾向にあり、完全に伸び悩みといえる状況です。
大:はい、完全に伸び悩んでいます。デビューした頃はうまくいくことが多かったのですが、最近は...。周りの人からは下半身が不安定やと言われるんです。とくに理(おさむ・下原騎手)さんには厳しく指摘されますね。
竹:いくら先輩でも、本当は賞金を取り合うライバルなわけやし、アドバイスしてくれるってありがたいね。
大:本当に理さんには技術面でいつもいいアドバイスをもらっています。それから、精神面では北野さんにケアしてもらってますね(笑)どちらも面倒見のいい優しい先輩です。
竹:いい先輩に恵まれてるね。それで、新人のときにできたことが、いまできないのはどういうところだと思うの?
大:デビューしたての頃の方が、騎座がしっかりしてたんだと思います。教養センターでやってた鍛錬が効いていたんじゃないでしょうか。あのときの教官で杉山先生って方がいたんです。その先生に毎日課せられていた下半身強化のトレーニングがキツかったんですけど、すごい効果があったんです。
いまでも行き詰ると、杉山先生に連絡してアドバイスをもらっているという大柿騎手。その声に触れ、初心に帰ることに、はたと気付かされます。
竹:またそのトレーニングを始めたんやね。
大:毎日ってわけじゃないですけど、徐々に始めています。初心を思い出して、もう一度立て直そうと。そんな時期に南関東への遠征話も入り、結婚して家庭を築いていくわけですから、もっとしっかりせなあかんと思ってきたのです。一からやり直すぐらいの気持ちで頑張ります!
竹:最後に、今後の目標を聞かせてくれる?
大:技術としては理さんのようなレースができるようになりたいですね。ロスなく立ち回って、馬をスムースに動かすんですよね。それと、自厩舎の馬には全部乗りたいです。先生に「全部お前に任せる」って言われるぐらい信頼される騎手になりたいです。
竹:もうない?
大:本音を言えば、兵庫は川原さんや木村さん、学(田中騎手)さんなど、本当にすごい人たちばかりですよね。すごく勉強になるんです。だからこそ、ここでトップに立ちたいって、やっぱり思いますよね。
竹:うん、その言葉が欲しかった!南関東でも頑張ってな!
大:はい!何か見つけて帰ってきます!
これから彼の騎乗ぶりの変化に期待しましょう。南関東での活躍にも期待しましょう。そして次に目標を訊いたときに、すぐさま「トップを獲りたい!」と言える逞しさが備わっていれば、兵庫県競馬の未来は明るいものとなるのです。
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※インタビュー / 竹之上次男
写真:齊藤寿一
昨年は初の重賞制覇を達成し、リーディング3位と大きな躍進を遂げた、高知の永森大智騎手。デビュー9年目を迎えた今年、ついに覚醒を果たした赤い彗星は、さらなる高みを目指します!
赤見:昨年は初重賞制覇に年間100勝達成と、素晴らしい活躍でしたね。
永森「ありがとうございます。雑賀先生はじめ、本当に周りの人たちのおかげです。ちょっと勝ち過ぎたかな~と、今年プレッシャーもありますけど」
赤見:初の重賞制覇だった『黒潮菊花賞』、振り返るといかがですか?
永森「実はそのちょっと前に、重賞で1番人気に乗って負けてるんですよ。『珊瑚冠賞』で【ギンガセブン】に乗せてもらったんですけど、10着と惨敗して...。
その時、重賞は当分勝てないのかな、まだまだ遠いのかなと思ったんです。
『黒潮菊花賞』は8番人気の【リワードレブロン】に乗せてもらって、逃げてる宮川実騎手の馬が強かったのでついて行こうと思ってました。
勝負所に来ても手ごたえええぞと思って、馬の気分に任せて行きたい時に行かせました。
勝った時はホッとしたというか、やっと勝ったな~って感じでした。
【ギンガセブン】のこともあったので、嬉しさ倍増でしたね」
赤見:周りの方も喜んでくれたんじゃないですか?
永森「本当にそうですね。雑賀先生は、普段は勝ってもあんまり喜んだ感じでは迎えてくれないんですけど(苦笑)、この時はすごく喜んでくれました。
それが僕にとってすごく嬉しかったんです」
赤見:雑賀先生といえば、昨年は年間265勝を挙げて、地方競馬最多勝記録を塗り替えましたね。
永森「すごいですよね。先生は厳しいですけど、尊敬してます。デビューから色々お世話になってるし」
赤見:雑賀厩舎所属になったきっかけは何だったんですか?
永森「僕は特に騎手に憧れてたってわけじゃないんですけど(笑)。
中学の時に職場体験学習があったんですよ。
たまに競馬は見に行ってたし、動物も好きだったし、ちょうどいいなと思って。
広報の方から紹介されて、雑賀厩舎に3日間お世話になりました。
初めて馬に乗せてもらって、周りの人からも良くしてもらって。雑賀先生が、「騎手にならないか」って言ってくれたんです。もともと人がしないような仕事をしたいと思ってたし、迷いなく決めました」
赤見:まさに運命の出会いでしたね。
永森「そうですね。今考えても、雑賀厩舎に入れて良かったです」
赤見:そして昨年の覚醒ですけど、一番大きな要因はなんだと思いますか?
永森「精神的なものですね。これが一番大きいです。今までもチャンスはもらってたけど、どうしても1度きりなんですよ。勝負の世界だから当たり前のことなんですけど、そこを気にし過ぎていたんです。
結果出せなかったら乗り替わりやとか思って変に緊張したり、先生が見て納得するようなレースをしようとしてて。
リーディング上位の人だったら納得する乗り方でも、僕がしたら全然ダメだったり、そういう空回りが多かったんです」
赤見:そこからどうやって抜け出したんですか?
永森「それは色んな要素がありますけど、まずは金沢での短期騎乗ですね。2007年に雑賀先生が「行ってみるか?」って言ってくれて、その頃乗り馬もあんまりいなかったんで、思い切って行くことにしました。
先生の知り合いの赤間亨厩舎に行ったんですけど、それまで遠征とかしたことなかったんで、かなり不安でしたね。
周りはいい人ばかりだったけど、最初の頃は全然上手くしゃべれなくて...。そんな時、吉原寛人騎手が調教の時とかによく声をかけてくれて、遊びに連れてってくれたりしたんです。それで周りの人とも話せるようになりました。吉原騎手の存在は大きかったですね。
レースもけっこう乗せてもらって、いくつか勝たせてもらいました。赤間先生はいつも、「好きに乗ってええよ」って言ってくれて、自分で考えてレースして結果が出せたことが自信になりました。
高知に帰ってきた時、(赤岡)修次さんや倉兼さんが金沢のレースを見ててくれたみたいで、「あんなにいいレースが出来たんだから、高知でも出来るんじゃないか」って言ってくれました。その言葉も自信に繋がりましたね」
赤見:2009年には、福山でも短期騎乗してますよね?
永森「その時は檜山龍次郎厩舎にお世話になったんですけど、先生の息子さんが怪我してしまって、調教する人が足りなくてお手伝いのような感じで行くことになったんです。
まだ高知と本格的に交流が始まる前で、この時も最初はしゃべれなかったけど(苦笑)。嬉さんが、高知の西川さんや中西さんと同期で、すごく良くしてくれました。それで周りとも打ち解けたし、色んな厩舎に乗せてもらって、すごく勉強になりました」
赤見:2つの短期騎乗がいいきっかけになったんですね。
永森「そうですね。時期も良かったんだと思います。地元で勉強して、悩んでからの遠征だったので、いい収穫があったんだと思ってます」
赤見:今はかなりいいスパイラルなんじゃないですか?
永森「前は意見を言っても誰も聞いてくれなかったけど、今はけっこう聞いてもらえるようになりました。認められるってほどではないですけど、自分がこう乗りたいとイメージ出来るようになったし、そういう乗り方をしても納得してもらえるっていうのは大きいですね」
赤見:今年に入ってもいいリズムで勝ち星を挙げてますね。
永森「そうですね。昨年は3位だったので、恐れ多いですけど今年は2位の倉兼さんに勝ちたいと思って乗ってます!」
赤見:1位の赤岡さんは?
永森「もちろん、いつか抜きたいです! 何年後かわからないけど抜きたいですね。
修次さんはやっぱり、何かが違うんですよ。一緒に乗ってて本当に上手いなって思うけど、上手いっていうだけじゃない何かがある。その何かが今の僕にはわからないんですよ。
それがわかった時が、修次さんを抜ける時なんじゃないかと思ってます!」
赤見:何年後かのリーディングジョッキー宣言☆楽しみです。
それでは、高知競馬のPRをお願いします!
永森「今の時期は全国的に見てもナイター開催はないので、1年通してのナイターは大きいと思ってます。
本場に来てもらうのが一番だけど、インターネットなどでも今は見ることが出来るので、高知のレースを見てもらえたら嬉しいです」
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※インタビュー / 赤見千尋