勝ち星が特定の騎手に集中せずに、上位拮抗となっているのが福山競馬の特徴のひとつ。そのなかで楢崎功祐騎手が2 年連続でトップの座を獲得したのは大きな価値があるといえる。今年も目指すのは、3 年連続となるリーディングだ。
楢崎騎手は昨年のスーパージョッキーズトライアル(SJT)2010 の出場権を惜しいところで逃した。
楢崎騎手:昨年は、SJTの地区代表騎手が決まる日の前半戦で、その時点で勝利数がトップだった岡崎(準)さんと同じ勝ち星に追いついたんですが、後半のレースで離されてしまったんです。2009 年に出場したときは、第1ステージで2 戦とも人気薄の馬で大敗してしまって、そこで終わりでしたからね(その年は、第1ステージの下位2 名がフルゲート頭数の関係で第2 ステージに進めなかった)。そのときから「絶対にまた出場したい」と思っていましたので、出られないと決まったときは、すごく悔しかったです。
福山競馬所属の騎手が、他の競馬場で騎乗する機会はかなり少ない。しかしながら昨年は、フォーインワンで東海ダービーに遠征できた。
楢崎騎手:フォーインワンは気難しいところがあるんです。そのせいか、東海ダービーの時は普段より気負っていました。そういうところも含めて、まだ成長しきっていないと思うんですよ。それでも、生まれつき持っている荒い気性を競走のほうに向けられるようにはなってきました。
そのフォーインワンのライバルとして戦ってきたのがムツミマーベラスだ。
楢崎騎手:2 歳のときは確かにムツミマーベラスのほうが上でしたが、今でもそう思っている人がいることには残念な気持ちがありますね。(2010 年)12月の福山王冠のときは、ムツミマーベラスが全力を出してもこちらが勝っていただろうと思えるレースができました。だからこそ、マーベラス(5 着)はそのレースで鼻出血を発症しないでほしかったと思うくらいです。正月の福山大賞典では初の古馬重賞で2 着でしたが、心配だったのは2600mという距離だけ。ペースが一気に上がったところでもレースの流れに乗れましたからね。メドはつきましたし、まだまだ変わってくれることでしょう。
福山競馬場の所属騎手は2011年2月現在で17名(期間限定所属は除く)いるが、トップスリーの昨年の勝利数の差はわずか。まさに各騎手がしのぎを削っているという印象がある。
楢崎騎手:福山は特定の人にいい馬が集中するという傾向がありません。攻め馬をつけた人が実戦でも騎乗することが定着している感じなので、頑張ればチャンスがある競馬場だと思います。自分自身も「常にまじめに」という気持ちで、そして地道にやってきました。まあ、それが唯一のとりえといいますか。だから2 年連続でリーディングを獲れた秘密とか、特にないんですよ。それでも新人のころに比べれば、勝ち方を覚えてきたというところはあるかもしれません。福山競馬場で勝つためには、道中の位置取りがいちばん重要なんですが、そういったレースに対応する心の余裕が増えたことは確かですね。それと新聞をパッと見て、そのレースがどんな展開になるのか、だいたい分かるようにもなってきました。
楢崎騎手はデビュー12 年目の29 歳。騎手としてはまだ若いといえるが、下の世代もだんだん力をつけてきた。
楢崎騎手:三村展久騎手は特に腕を上げてきましたね。南関東での期間限定騎乗でも結果を残してきましたし。僕ももっと勉強したいし刺激もほしいので、他場で乗ってみたいという気持ちは強いですよ。でも南関東で乗るための条件である通算1000 勝はまだ遠いし、25歳以下という若手騎手枠にも入れないし、ちょうどエアポケットなところにいるのが歯がゆい感じです。
ただ、昨年はリーディングこそ獲りましたが、自分としてはふがいない1年だったんですよ。いま思えば、一昨年初めてリーディングを獲ったことで、余計な力が入っていたのかもしれません。調教師にも「あせるな」と言われたことがありますし。確かに昨年は自分が納得できるレースが少なかったように思います。だから自分としては、ほかの騎手がどうこうということはまったくなくて、勝とうが負けようが納得できる騎乗を増やすことを目標にしているんです。ゴールのない目標ですが(笑)。
そのためには、日々の仕事も重要だ。
楢崎騎手:開催日以外は、だいたい朝1時半に自宅を出て、2 時過ぎから調教を始めます。今は馬の数が以前より減ってしまったので、調教をつけるのはだいたい18 頭くらいですね。
それでも全部の調教を終えたら9 時くらいにはなります。この先も福山競馬が続いてくれるのか、という心配はありますが、競馬がある以上は精一杯やらないと、という気持ちで毎日を過ごしていますよ。
福山競馬場は日本一の小回りコース。そこで騎乗を続けていれば、技術も磨かれるに違いない。
楢崎騎手:ここはきれいなフォームで騎乗したら、馬が動かないコース。距離があってもレースの中身は忙しいですから、末脚で一気にということもできません。僕が見ていていいなあと思う騎手は、安藤勝己さんと岩田康誠さん。こぶしで馬を押すところや、レースの流れに乗る技術などですね。それと福山は、騎手同士で騎乗について話をするとかがあまりないんですよ。騎手全員が集まるということもほとんどありません。その意味では、各騎手の間にいい緊張感があるように思います。
子供のころから「ものすごく負けずぎらい」だったという楢崎騎手。話をしている限りではそういう風には見えないのだが、「それを表に出さないようにしているんです。勝負ごとには特に熱くなってしまうタイプなので......。典型的な" 破滅型"の性格かもしれません」とのこと。ちなみに楢崎騎手が指名するライバルは、「少し離れたところにいるのが、かえっていいんでしょうね」という、高知所属の宮川実騎手。しかし地元には、数字で迫るライバルがたくさんいる。そんな状況でも2 年連続で獲得したリーディングの座は今年も当然、明け渡さないつもりだ。
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楢崎功祐(福山)
ならざきこうすけ
1982年1月29日生まれ みずがめ座 O型
広島県出身 外山清彦厩舎
初騎乗/ 1999年10月23日
地方通算成績/ 6,734戦743勝
重賞勝ち鞍/福山大賞典、瀬戸内賞、福山ダービー
2 回、福山王冠、ヤングチャンピオン2 回、ファ
イナルグランプリ、クイーンカップ2 回、福山3
歳牝馬特別2回、金杯、キングカップなど14勝
服色/胴黒・黄のこぎり歯形、そで青
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※成績は2010 年2月21日現在
(オッズパーククラブ Vol.21 (2011年4月~6月)より転載)
※インタビュー / 浅野靖典
「10年に一度の天才ジョッキー現る!!」と2002年デビューからメディアに大きく取り上げられ、地元広島テレビにもスタジオ生出演で話題をまいた池田敏樹騎手。クールでひたすら野性的な騎乗ぶりでスタンドに興奮を誘う若き勝負師。デビュー9年目を迎える27歳の夢はリーディングジョッキーだ。
あれから何年経つのかな?福山のジョッキーとしては初のテレビ生出演。そして翌年には、あの柏村武昭さんがキャスターで高視聴率をマークした「テレビ宣言」にも取り上げられ、池田敏樹の名が広島県内に知れわたった。懐かしいね...。
池田騎手: ボクは天才でもなければ、それほど騒がれるほどの器じゃないと思ってたので不思議な感覚でしたね。それでもメディアが取り上げてくれたことで励みになったし、奮い立つものを体で感じましたね。あまりというか、しゃべりは全然苦手なので冷や汗の連続でしたね(笑)。
あの時は私(樋本デスク)も競馬記者からみたジョッキー、池田敏樹のすべて!!そんなタイトルでテレビ出演させてもらった。池田くん、ありがとう(笑)。それとデビュー2年目になんと福山のジョッキーとしては初の海外遠征をやってのけた。とにかく強烈なインパクトだった。
池田騎手: あれはマカオ・タイパ競馬場の「第12回マカオ見習騎手招待」だったですね。あの時は1週間滞在し、攻め馬をこなし、週末がいよいよレースでした。結果は第1戦が確か4着で、2戦目が着外でした。勝てませんでしたけど、自分にとってはいい経験になりました。
1週間滞在してたった2戦とはもったいないね。それでも池田騎手をひと回り大きくするキッカケとなったのでは...。海外遠征での面白いエピソートでもある?
池田騎手: 英語が難しくて戸惑ったのは確かですね。英語が自由自在にしゃべれたらいいなって実感しましたね。中学校の時、もう少し英語をしっかり勉強しておけばよかったです(笑)。それにできれば数多く乗りたかったのも本音です。次にこんなチャンスが訪れればフル回転したいところですが...。
福山以外で乗ってみたい競馬場といえば?ジョッキーのほとんどがJRAなんだけど、池田くんもそうなのかな...。
池田騎手: 地方競馬の騎手にとってJRAは夢の世界ですからね。地方競馬では過去に高知、荒尾で乗ったことはありますが、その2競馬場しかないんです。チャンスがあればどこでも行って乗りたいですね。とりあえず園田なんか、いいじゃないですか。
池田騎手といって真っ先に思いつくのが天才娘ムツミマーベラスだね。自分自身、これまで乗って最高だったのはやはりマーベラスかな?それともアラブ最後の交流重賞を制したフジノコウザン?
池田騎手: フジノコウザンも記憶に残る馬でしたが、やはりムツミマーベラスですね。マーベラスでのベストバウトは福山ダービーから約2カ月後の福山チャンピオンシップだったですね。ダービーを勝ったフォーインワン、高知枠から出走した赤岡さんのリワードシャンヴルを相手に5馬身勝った時は快感の一語でしたね。スタートからゴールまで最高の乗り味で一生記憶に残るレースだったですね。
池田くんにとってムツミマーベラスとは?ダービーが故障明け2戦目(中6日の連斗)という厳しいローテで結果2着。そして鞆の浦賞、福山王冠が鼻出血という不運に泣いての完敗続き。まともなら3冠獲っていたのでは...。
池田騎手: ジョッキーになって乗った馬の中ではとにかく別格といっていいほど魅力的なランナーです。残念ながらアクシデント続きでクラシックのタイトルはひとつも獲れませんでしたが、その走りは天才的といっても言い過ぎではないでしょう。今後のことは未定ですが、もう一度マーベラスを背に福山はもちろん、全国のファンにも天才的な走りをお見せしたいですね。
ところでインタビューするジョッキーにはすべて聞いているのだけど、騎手になろうとしたキッカケは...。
池田騎手: 体が小さいのが一番の理由です。それに小学校か、中学校の頃、たまたまテレビで競馬中継を見てジョッキーのカッコよさに憧れを持っていました。騎手になってよかったと思います。
その憧れていたジョッキーになった池田騎手。尊敬するというか、目標とする騎手は?ジョッキー以外でも構わないけど...。
池田騎手: 素晴らしいジョッキーが沢山いるのでお手本にしたいとは思いますが、ボクの場合、やはり尊敬するのは末広先生ですね。人間的に素晴らしいですし、思いやりのある方で包容力がたまらないですね。もちろん厳しい面もありますが、レースで損ねても先生のアドバイスで失敗を成功につなげるよう、常に反省を心がけています。
オールラウンドプレイヤーの池田くんだけど、好きなタイプの馬は?ムツミマーベラスでの騎乗を見ていると追い込みが得意といった印象を受けるのだけど...
池田騎手: 先行でも差しでもタイプにこだわりはありません。やはり自在に動ける馬がレースはしやすいですね。いずれにしてもどんなタイプでも臨機応変に対応して乗るだけです。
池田くんが勝ったレースの写真なんだけど、笑顔で映ってる写真がまだ一枚もない(笑)。勝っても嬉しくないのかな?と毎回感じるのだけど、実際はどうなの...。
池田騎手: そりゃ、嬉しいですよ。ただ嬉しいと言うよりもホッとするという気持ちでいっぱいなんです。だから顔に出ないんだと思いますよ。やっぱり勝ったら最高ですよ
一昨年、今年と連続4位。ここ2年はいずれも80勝台を突破して大器全開のムードが漂う池田くん。いよいよリーディングジョッキーの栄光が見えてきた。今年は狙ってるじゃないの?
池田騎手: もちろんリーディングジョッキーはひとつの目標でもありますが、意識したことはないですよ。1勝、1勝の地道な積み重ねが、リーディングジョッキーへと繋がるわけでボクは一戦一戦を完全燃焼することだけを心がけています。ひとつでも多く勝てるようがんばるだけです。それしか言えません。
インタビューも終盤に近づいてきたけど、ちなみに好きな食べ物はなに?和食系、それとも洋食系...。
池田騎手: ボクは餃子が大好物なんです。餃子を食べると活力が湧いてきますね。気分もパワーアップしますよ。アルコールはたしなむ程度で毎日は飲みませんが...。
最後に池田騎手を応援してくれているファンにメッセージを...。
池田騎手: やはりレースの日に大勢のファンの方が詰めかけてくれると励みになりますね。ボクを応援してくれてるファンの皆様の期待に応えられるよう、これからも全精力を傾けるだけです。ご声援、よろしくお願いします。それに東日本大震災で被災された皆様方にはオッズパークさんのサイトを借りてお見舞い申し上げます。一日も早い復興を祈るだけです。
近い将来、福山の代表ジョッキーとして背負って立つ逸材だけあって沈着冷静。一戦入魂の精神がひしひしと伝わってきた。次代を担う若き勝負師の素顔は実にさわやかだった。
※インタビュー / 福山エース・樋本デスク