新潟競馬廃止に伴い笠松での再出発を決めてから8年、初めて年間100勝を挙げ、笠松リーディング3位で2010年を終えた向山牧騎手。笠松所属の現役騎手の中で唯一"競馬場廃止"を経験してるからこそ言える本音などを聞きました。
坂本:騎手になろうと思ったきっかけを教えてください。
向山:うちの親父が厩務員をやってたんですよ。で、子供のころから手伝ったりなんかしてたんですよ。
で、競馬とか見てるじゃないですか。それで『騎手ってかっこいいなぁ』って思って、まぁなれたらなろうかなって思って、試験受けたら受かったんで、騎手になったみたいなもんです(笑)。
坂本:騎手に憧れてた時と、実際に騎手になってからのギャップは?
向山:うぅん、それは別になかったけどね。勝ったときはホントうれしいし、なってよかったなと思う。
坂本:今までで一番印象に残ってるレースは?
向山:印象に残ってるレースですか? 結構あるんですけどね......デビューしたときに、まったく勝てなかったんですよ、十何戦くらい。で、そんなときにたまたま乗ったのがすごいいい馬だったんですよ。
本当は僕が乗る馬じゃなかったんだけど、主戦騎手が別の馬に乗ることになってて、ちょうどその厩舎をずっと手伝ってたこともあって『乗せたげるよ』って。ほんとに何にもせずに勝ったんですよね。
それから、その馬にずっと乗せてもらえて......まぁ、その馬に勉強させてもらったっていうか、ちょっとはうまくなったかなって思いますね。だから、この初勝利のときのレースが一番印象に残ってますね。
坂本:向山騎手といえば、新潟から移籍してきたわけですが......
向山:移籍っていうか、まぁ潰れたからね(苦笑)。
坂本:その新潟が廃止になるって聞いたときはどう思いましたか?
向山:長い間やってましたからね。もうちょっと何とかならないのかって思ったんですけど。(馬券が)売れないんじゃ仕方ないですからね。悲しかったですよ。
坂本:笠松に行こうって決めたのは?
向山:それはね、安藤勝己さんがいろいろやってくれてて、僕は本当は南関東に行きたかったんですけど、年齢制限でダメだってことで、ここしか僕の行くとこないんじゃないかなぁっていうのもあったんですよね。
坂本:笠松に来てみて印象は?
向山:結構みんないい人たちだったんで、それなりにすぐ溶け込めましたね。
坂本:乗った感じは?
向山:全然関係なかったですよ。僕、三条とかでも乗ってたんで、小っちゃいとこは全然気にならなかったですよ。
むしろ、乗りやすかった。三条のほうがもっとコーナーがきついですからね、ほんと急カーブみたいな感じでしたから。笠松のほうが乗りやすいですね。
坂本:笠松所属騎手で通算で2500勝を超えている騎手は向山騎手のみ。そしてその勝ち鞍をどんどん伸ばしていけるのには、周りのサポートの力も大きいですか?
向山:それはもう。ま、最初のころはあまり乗ってなかったですけど、だんだんと乗せてくれる厩舎も増えてきたんでね。
坂本:今後についての目標とかはありますか?
向山:今後ですか......その前に競馬場がどうなるかでしょうね。ま、ここで普通にやっていければ、3000勝くらいは狙っていきたいですけどね。
坂本:やっぱり、競馬場が存続していかない限りは......
向山:だからね、ほんとにそこが大事なんですよ。競馬場がこんな変なミスばっかり(レース中に走路整備車両が侵入した件)してるから、なおさらじゃないですか。
僕たちも賞金下げられても一所懸命やってるんですから。協力もしてるし、だから土台となる競馬場にはもっとしっかりしてほしいですよ。あんないい加減なことやってたら、潰れるのも目に見えてますよ。ミスしたらそこの会社の責任、で片づけるんじゃなく、競馬場側にも監督責任はあるんだから、競馬場側もそのあたりを重く受け止めてほしいし、一層の努力をしてほしい。
一度経験してるからこそ、人一倍『潰したくない』という思いが強い向山騎手。今がまさに正念場の笠松競馬を盛り上げるべく、今年もまたその剛腕ぶりでファンを魅了します。
※インタビュー / 坂本千鶴子
11月1日に通算1000 勝を達成したのが鈴木恵介騎手。ここ数年で急ピッチに勝ち星を量産し、今年度もばんえいリーディングトップの座を守る大活躍。ファンからも絶大なる信頼を集めている。
昨年度(09 年4月〜10 年3月)は前人未到の年間200 勝を達成した。
200という数字を意識したのは11月頃ですね。その前の年度が173 勝で終わって、それまでの年間最多勝記録に1つだけ届かなかったんですよ。だから昨年のシーズン当初174 勝が最初の目標でした。それがある程度見えてきたとき、次の目標を200 勝にしたんです。ただ、その数字が近づいてからは冷静さを欠いたというか、ムダに力が入ったレースがいくつかありましたね。
それでも着実に勝ち星を積み重ね、シーズン終了まであと2日に迫った3月28日に大記録達成となった。
いやあ、本当にホッとしましたね。肩の荷が降りたな、そんな感じがありました。改めて振り返ると200 勝って本当に大変ですよ。周囲はまた今年も、という目で見ているようですが、競馬は自分だけの努力で結果が決まるわけではないですし、継続するのは難しいことだと思います。
その年間200 勝を達成したあとに臨んだばんえい記念では、惜しくも3 着という結果。勢いに乗っての初制覇とはならなかった。
あのばんえい記念は、まさに夢を見ましたね。1トンを引っ張っているのにナリタボブサップが第2 障害をひと腰で登りきったときには、乗っている自分がビックリしました。そのあとはなんとかゴールまでもってくれと思いながら追ったんですが、やはり1トンですからね。1回止まってしまったら、もういい脚は使えません。それにあのときは1、2着馬がとなり同士で競り合う形。ボブサップは少し離れたコースでしたから、その分もあったと思います。それにしてもばんえい記念を勝つのは難しい。少しずつ近くには来ているんですが......。
しかし、あのときのレースぶりは観客に強烈な印象を残した。今年こそと期待するファンは多いはずだ。
その通りだと思います。でも今シーズンは砂も入れ替わりましたし、障害の高さも変わりました。だからまた一から挑戦という気持ちで臨むつもりですよ。
鈴木恵介騎手は今年でデビュー13年目だが、ここ5 年間で700 勝以上。一気に急上昇という感がある。
新人のときは、そこそこ乗れたしそこそこ勝てたんですよね。でも減量期間が終わってからは、どちらもサッパリ。それが3 〜4年続きました。イライラしましたし、実は騎手に向いていないんじゃないか、とも思いましたね。でもそんな時期にふと『自分の気持ちが新人のままだな』と思い当たったんです。デビューの頃はいろんな人が気にかけてくれることで、ある程度は回っていきます。そのことに気づいたとき、他力本願の気持ちを忘れて調教や作業を一所懸命することに決めたんです。そうしたら少しずつ騎乗依頼が増えてくれました。でもそこで心がけたのは、すぐに結果を出そうと考えないこと。短気な性格を出さず、普段から冷静に。そして馬を怒らないように。その思いは今も続いています。
ばんえい競馬で多くのファンが注目するのは第2 障害以降だが、本当の勝負どころはその前にあるのかもしれない。
まずパドックで馬に乗るときが最初の勝負。直接またがりますから、そのときの自分の気持ちが馬に簡単に伝わってしまいます。だから馬場入場で人馬の呼吸をチェックするのは重要だと思います。
そして200メートルをどう組み立てるのか、というのが次の勝負。ぼく自身が念頭に置いているのは、第2 障害の下に着くまでに、どれだけ馬に負担をかけずに勝てる位置をキープできるかということ。つまりペース判断ですね。そのためには他馬の能力の把握が重要です。その正確さが結果に結びつく大きな要素なのかもしれません。
わずか200メートルの競馬だが、奥深いのがばんえい競馬の面白さ。新人騎手がいきなり活躍する例が少ないのも、経験がモノを言う競技の特性なのだろう。
それは大いにありますね。ばんえいのレースは馬に息を入れさせることが重要ですが、人も息を入れる必要があります。それが体でなんとなく理解できてきたかな、と思えたのは最近ですよ。本当にどこまでいっても勉強です。結果は良くてもレース内容に納得いかないこともありますし。
しかし競馬ファンのなかで、馬ソリに乗ったことがある人はほとんどいないはず。その ため、観客には競技の奥深さが、なかなか伝わりにくい面がある。
レース中も「叩け!」とか「早く仕掛けろ!」というお客さんの声がよく聞こえるんですよ。何で止まるんだと(笑)。でも、そういうのに惑わされてはダメですね。
ぼくはレースの前に自分の乗る馬を調教するとき、馬が自分の声を聞き分けてくれるようにと思いながらやっています。もしかしたら、馬を動かすには叩くよりも声のほうが重要かも。声をかけたら動いてくれることって、けっこうあるんですよ。
考えることや実行することの多さが、ばんえい競馬の難しさなのかも。となると、普段 から平地競馬以上の努力が必要だ。
ナイターの時期も昼間開催の時期も朝のスタートは同じ2 時。だからナイター期間は寝るのも30 分とか、本当に仮眠です。それだけにシーズンが終わったときは、3月までよく頑張ったなあという達成感でスカッとした気持ちになります。でもその前にばんえい記念があるんですけどね。本当にそれは1年を締めくくる大きな目標です。
最近はパドックで「無理するな!」というような声がかかることがあるらしい。
「ぼくが来たら配当が安いかららしいです。でもそんなことを言われたら、『よおし、勝ってやる』と逆に火がつきますよ」
短気で負けず嫌いというのは、ばんえい競馬においてはマイナス要素。しかし鈴木恵介騎手はそれを制御する術を知っている。となると、彼の天下はしばらく続いていくことになるのかもしれない。
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鈴木恵介(ばんえい)
すずきけいすけ
1976年10月7日生まれ てんびん座 AB型
北海道出身 服部義幸厩舎
初騎乗/ 1998年1月10日
地方通算成績/ 7,995勝1,017勝
重賞勝ち鞍/帯広記念、ホクレン賞、黒ユリ賞、 ポプラ賞、ばんえいダービー、ばんえいグランプ リ、北斗賞2 回、天馬賞、ばんえい菊花賞、クイ ンカップ2回、ヒロインズカップなど18勝
服色/胴白・紫蛇の目ちらし、そで白・桃3本輪
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※成績は2010 年11月18日現在 (オッズパーククラブ Vol.20 (2011年1月~3月)より転載)