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【集中連載】3連単はこう狙え!(1) 斎藤修

2011年8月 2日(火)

 いよいよ8月6日から、ばんえい競馬にも3連複・3連単の馬券が導入される。地方競馬の中でもばんえいだけが、この3連複・3連単の馬券に取り残され、かなりの年月がたっているだけに、待ちに待った導入といえるだろう。

 ただ地方競馬の場合、規模がそれほど大きくない主催者では、単に馬券の種類を増やせばいいというわけではないので難しい。馬券の売上げが分散してしまい、適正なオッズにならないことがあるからだ。たとえば、高知や福山では3連複・3連単の導入と前後して、早々と枠連を廃止してしまったし、高知では一時期、複勝をやめていた時期もある。

 ばんえい競馬では、馬連複を導入するときでさえも反対意見が多かったが、それは馬券の発売所が本場と専用場外に限られていた時代の話。ばんえい競馬でも、いまやネット投票(電話投票も含む)の発売が、総売上の3割近くを占めるようになった。おそらくこの割合はさらに大きくなるものと思われる。そうした中で、特にばんえい競馬はフルゲートが10頭と限られているだけに、高配当が期待できる3連単の導入は必然ともいえた。

 さて本題。ばんえいでの3連単は、トリガミ覚悟でボックスかマルチで高配当を狙いたい。

 地方競馬の、それも頭数の少ない競馬場では、3連単でもとにかく低配当が目立つ。3桁配当などもそれほどめずらしいことではない。そうしたところでの3連単の狙いは、フォーメーションで、いかに点数を絞れるかになる。

 しかしばんえい競馬では話は違う。平地の場合、単勝1.0倍や1.1倍という断然人気の馬が飛んでしまうことはなかなかない。ところがばんえい競馬の場合、断然人気の馬でも、たとえば第2障害で仕掛けるタイミングを間違えたり、膝をついてしまったりすれば、簡単に着外という場面もめずらしくない。それゆえばんえい競馬では、断然人気の馬がいたとしても、単勝元返しという配当を目にする機会はほとんどない。ようするに、平地の競馬に比べて不確定要素が多いのだ。それがばんえい競馬でのおもしろさでもあり、怖さでもあるのだが。

 4頭ボックス24点買いなら、その中に断然人気の馬が1頭いたとして、それが着外に飛んでも高配当をゲットできる可能性がある。1頭軸または2頭軸のマルチなら、断然人気馬が3着になっても馬券をゲットできる可能性はある。

 たとえば現実的な例としては、カネサブラックを考えてみたい。カネサブラックといえば、もともと安定した成績には定評があったが、今年2月以降6連勝と、圧倒的な存在となった。しかも、1トンのばんえい記念を勝ったかと思えば、700キロ台で争われるばんえい十勝オッズパーク杯も、今シーズンの勝利で4勝目となった。これほど幅広い負担重量で勝ち続けられる馬というのも、歴史的に見てもそう何頭もいない。

 陣営には申し訳ないが、次の馬券の狙いは、カネサブラックがいつ負けるか、だ。平地の競馬では、たとえばシンボリルドルフ、テイエムオペラオー、ディープインパクトなどのように、長きに渡って連戦連勝という馬がたまにはいる。しかしばんえい競馬の場合、それはほとんど不可能だろう。ばんえい記念などの定量戦を除き、勝てば勝つほど重量を背負うというばんえい競馬のシステム的な要因もあるし、先にも書いたとおり第2障害の駆け引きはやはり簡単ではない。

 というわけで今シーズンの古馬重賞では、カネサブラックが勝てばトリガミ覚悟、負ければ高配当という3連単を買い続けてみたい。

馬券おやじは今日も行く(第59回) 古林英一

2010年3月20日(土)

何故ばんえい競馬を失ってはならないのか?

 今年度のばんえい競馬情報局の小生担当分は本日をもって終了である。そこで、本日は、余は何故輓曳に肩入れする哉につひて開陳せむと思ふ(と、旧仮名遣いで書こうと思ったが、ワープロソフトで旧仮名遣いはたいへんなので無意味な努力はやめる)。

 先々週3月6、7の両日にわたり、東京大学を会場に、ヒトと動物の関係学会というまことにもって語呂の悪い学会が開かれた。英語表記は、Society for the Study of Human Animal Relations (HARs)となっている。Study of Human Animal Reltions を「ヒトと動物の関係学」と直訳しているわけですな。他に何か手頃な言葉はなかったんかいなとも思うが、そんなことはどうでもいい。

 今年のシンポジウムテーマのひとつが「牛を語る」であった。このシンポジウムで、東京大学東洋文化研究所の菅豊教授が「ヒトと牛と地域社会」と題して講演をおこなった。これがめちゃくちゃ面白い話であった。この先生、文化人類学が専門らしく、新潟の闘牛を通じた地域社会のあり方を研究テーマにしているのである。単に研究テーマにしているだけではない。自ら闘牛のオーナーとなり、闘牛の開催時には法被を着てみずから手綱をひいて出場するという御仁なのである。この小さな写真ではわかりにくいが、この学会の学会誌25号の表紙右下の小さな写真が菅先生の闘牛出場時の勇姿である。

 われわれ経済学者はつい経済効果が云々なんぞということをいう。もちろん、経済効果は重要である。闘牛の経済効果も確かにあるが、しかし闘牛を支えている根底にあるのは地域のアイデンティティや文化を守ろうという地域住民の自然発生的な意思なのだというようようなことを菅先生は述べていた。

 そもそも闘牛は自分ちの牛自慢からはじまったらしい。ここらはばんえいと全く同じである。だから、本来、闘牛の牛には固有の名前がないのだそうだ。屋号が四股名なのである。小生が昔徳之島に行って闘牛の話を聞いたときもそういっていた。徳之島の闘牛の番付も「××兄弟号」とか「喫茶○○号」などと記載されていた。牛は家を代表しているわけである。馬には名前がついているが、ばんえいという競技は馬と共に生きる人々が自分の馬を自慢するためにはじめた競技であるから、似たようなものだ。

 闘牛は牛のオーナー飼育者のみならず、それぞれの立場の人がそれぞれの役割を担ってお互いが結びつきあって成立しているのだそうだ。それが地域社会のひとつの紐帯となっている。中越地震の後、自分の家よりもまず牛舎を建てた人もいるそうな。闘牛はいわば地域の誇り・シンボルなのである。

 さて、わがばんえいを考えてみよう。確かに元々は闘牛と同じようなものだった。だが、騎手や調教師が専業化し、「近代化」(あくまで「 」付きの近代化だけれど)するにつれ、地域社会との関わりが希薄化していった。馬券さえ売れて収益が上がればいい。そうした方向を辿った行き着く先が存廃問題だった。

 小生は、ばんえい十勝と名を変えた意味をもう一度訴えたい。世界で唯一のばんえい競馬は十勝の文化でありアイデンティティのシンボルであるべきなのである。「自治体の財政支出が怪しからん」なんぞと言いたがる人も多い。こうした意見は、例えていえば、「爺さん婆さんは銭儲けしないからわが家には要らない。さっさとあの世に行ってくれ」と声高に叫ぶようなものである。

 スケート場が怪しからん。ばんえい競馬も怪しからん。確かに、ごく短期的な経済合理性からいうとそうかもしれない。では、これらを排除した十勝に、そして北海道に何が残るのか? フロンティアスピリットなんぞは遠い昔に失われ、日本中どこにでもあるような町がそこにあり、特に何かを語れるものもなく、そんな町に愛着や誇りをもって育つ子供がいるだろうか?

 スキーやスケートの一流のプレイヤーを身近に見て育ってこそ、自分は北海道の出身だといえるのではなかろうか。日高で育った子が長じて他の土地で働くようになったとしよう。「北海道の日高で生まれ育ちました」と自己紹介すると、他の土地の人は「日高って馬のいっぱいいるところでしょ? 乗ったことあるの?」と尋ねるでしょう。「一応小学校で乗馬の時間があった。僕は下手だったけど」くらいのことは言ってほしい。いや言えるようになるべきなのである。

 大阪の子は学校から帰ったら吉本新喜劇を見て育つのである(少なくとも小生はそうだった)。「僕の生まれ育った十勝・帯広にはばんえい競馬っていうのがあって、サラブレッドみたいなか細い馬じゃなくて、すごい象みたいな馬がすごいレースをやるんだ。僕も橇に乗っけてもらったりしたけど、本当にすごいよ」くらいのことをいえるようになってほしい。そうして世界に散っていった子たちが帯広を広めてくれるのである。ひいてはそれが観光にもつながっていくのである。

 そのためには、馬券の収支や経済効果だけに話を矮小化するのではなく、ばんえいを応援する人たちがそれぞれの立場で、それぞれのやり方で、それぞれの役割を果たして行くことが重要なのだと小生は思う。

 十勝・帯広の人たちに訴えたい。あなたたちはどんな町を、地域をつくりたいのですか? 何の変哲もなく、そこで育った子供たちが世界のあちこちで、ただ寒かったとだけしか語ることのできない町をつくりたいのですか? 小生が地域経済学科の教授(知らない人も多いだろうが、恥ずかしながら実はそうなのである。ついでにいうと、札幌大学でも地域経済論なる講義をやったりしている)だからいうのではないが、地域づくりとか、町起こしというのは、どこかでやっていた祭をパクって企業の広告を集めることではないと思う。他にない文化があって、それをベースにしてこそ、真の地域づくりなのだと思う。

 ばんえい競馬の厩舎関係者のみなさんにも訴えたい。あなたがたは他に代え難い技能の持ち主なのです。あなたがたがばんえいと共に生きる覚悟があるならば、住民税の納付だけでなく、地域の発展に貢献しうる希少な資源であるという自覚をもっていただきたい。

 そして、ばんえい競馬情報局の読者のみなさんにもついでに......ついでにというのも何ですが、訴えたい。自分自身も含めてであるが、出来るだけ多くの人にばんえいを宣伝しよう。馬券も買おう。例え、自分の買った馬がゴール前で止まり、「大口のばかやろー!」とテレビの前で叫んでも、大口騎手はとってもいい人です。何度裏切られても、やっぱり乗り替わりの大口は買いましょう。小生、Aiba石狩の場立ち予想会では大口騎乗馬はほぼ毎回推奨してるんだからねっ! その分、裏切られたときの怒りも......。

 とまあ、なぜか、最後に大口騎手への熱い応援(?)になったけど、そういうことです。ご愛読多謝!

 なお、3月22日午後6時半から帯広市のとかちプラザ・レインボーホールでばんえいシンポジウムを開催します。お友達、お知り合い、ご親戚、その他何でもお誘い合わせの上、別にお誘いあわせでなくお一人でも構いませんので、お越しくださいましm(_ _)m

 詳しくはNPOとかち馬文化を支える会のブログをご覧下さい。一緒にばんえいを語りましょう。

やっぱり馬が好き(第61回) 旋丸 巴

2010年3月 4日(木)

やっぱり「ばんえい」が好き

 雑誌、ネット上で、ご存知の方も多いでしょう。そうです、ついに、ついに、ばんえい競馬でも一口馬主=ばんえいファンドが始まったのですよ!

 馬券以外でも、遠方の方にも、ばんえい競馬を楽しんでもらうには、このファンドの導入が絶対に良い! と3年前から叫んでいた私としては、今回、シルクホースクラブが、ばんえい競馬に参入してくれたことに感謝感激。全力をあげて応援しちゃうのである。

 何しろ、ばんえい競馬の場合は馬代金がメチャメチャ安い。今回のシルクホースクラブの募集馬も150万円から200万円程度になる予定、とか。預託料だって月15万円程度だから、100口で割れば馬代金が15000円前後、月の預託料が1500円程度。だから、本当に子供のお小遣い程度で遊べる。

 あ、でもね、勿論、これに比例して、賞金もバカ安。だから、ローリスク、超ローリターンであることも事実。純粋に「自分の持ち馬」として遊んでもらう、ということになるのよね、ばんえいファンドの場合。

 ただし、ばんえい競馬は平地競馬に比べて出走回数も多いし、競走馬として活躍する期間も長いから、濃厚に長く楽しめる。また、今回のシルクの場合は、能力検定にうかった馬からセレクトするのだから、未出走で終る可能性は限りなくゼロに近い。

 という訳で、すっかりシルクホースクラブのPRをしちゃったけれども、しかし、決して一企業を応援するわけではなく、ばんえいの繁栄を望んでいる私だから、こうも申し上げたいのである。

 他の会社も、是非、ばんえいでファンドを売ってくださいませよ~、と。

     *     *     *

 という訳で、ファンドの参入で新展開をみせる我らがばんえい競馬。この他にも、年頭から始まった5重勝式や、須田鷹雄君達が頑張って呼びかけてくれている「ふるさと納税」など、来年度は一味違うぞ、ばんえい競馬!

 あ、でも、今まで通りの魅力もタップリなばんえい競馬。今回は写真が少なかったから、最後に、ばんえい競馬で活躍する人馬の、素敵な素顔の写真も掲載しておこう。

 まずは、ばんえい記念3連覇の王者トモエパワー......の寝姿。頂点に立つ馬も馬小屋では、こーんなにリラックス。

tomoepower.JPG

 同じく松井厩舎のコーネルフジ君は、不思議な一発芸の持ち主。訪問客が来ると、やにわに首を下げて、ワラを頬張り、はい、この通り。

konelfuji.JPG

 「え? 私へのプレゼント?」なんて調子に乗って、ワラをいただこうとすると、不機嫌になるコーネルフジ君なのです。

 愛すべきは、馬のみにあらず。ばんえい競馬の魅力の半分は騎手さんにあり、と私は確信している。嘘だと思うなら、この工藤篤騎手の姿を見よ!

kudo.JPG

 それでも、未だ不十分なら、この安部憲二騎手の姿を見よ!

abeken.JPG

こんな楽しい馬や騎手さんが溢れているんだもん......

 やっぱり、ばんえいが好き!

馬券おやじは今日も行く(第58回) 古林英一

2010年2月 6日(土)

極寒の北海道より

 全国津々浦々のばんえいファンのみなさん、お元気ですか?
 全国的に冷え込んでいます。北海道はここ数日、年に1度あるかないかという寒さになってます。小生の住む札幌は最高(最低じゃないですよ!)気温がマイナス8度とか9度になってます。こんな日は外に出ず、自宅で競輪競馬三昧というのが理想なのですが、なかなかそうもいきませんわなあ。

 極寒の帯広では熱戦が続いています。これから、チャンピオンカップ、イレネー記念、そして頂上決戦・ばんえい記念とビッグレースが続きます。降りしきる雪のなか、馬の息が真っ白になる光景も、冬のばんえいならではの光景です。ぜひ、帯広で生の熱戦を見ていただきたいと思います。競馬場のスタンドの中は案外暖かいですよ。

 さて、催し物のご案内です。
 2月26日とかちプラザ(帯広駅近く)で、日本馬事協会&NPOとかち馬文化を支える会による「馬事知識普及セミナー」を開催いたします。
 講師は、帯広畜産大学の河合先生、旋丸さん、それに小生です。これは、基本的には、昨年1月にわが北海学園大学を会場におこなったものと同じです。

 小生の演題は「北海道の馬と競馬の歴史」です。昨年、札幌でやったときは、特にばんえいを中心にした話ではありませんでしたが、今回は会場が帯広ですので、札幌でやったときよりは、ばんえいに力点を入れて話させてもらおうと思ってます。

 ばんえい競馬に力点をいれるという話の関連ですが、小生、昨年あたりから、競馬以外の公営競技(競輪、競艇、オートレース)の歴史をぼちぼち勉強しています。そこで改めてわかったことは、競馬はもちろんですが、他の公営競技も必ずしも当初から自治体の銭もうけが第一義にあったわけではないということです。結果的に、その部分だけが残ってしまったというのが正しいようです。

 例えば競輪です。今の日本経済における自転車産業は、はっきりいってしまえば、規模的にみれば取るに足りない産業です。ところが、第二次大戦前においては重要な輸出産業だったわけです。それが第二次大戦ですっかり衰退してしまう。第二次大戦後の戦後復興のなかで、自転車産業の復興というのは、決して競輪をやりたいがための方便でも何でもなかったのです。実際、各地につくられた自転車振興会は、自転車メーカーや流通業者が大きな役割を果たしています。競艇やオートレースも、当初は当該産業の振興は決して空念仏ではありません。

 こうして改めて公営競技の歴史を見てみると、競馬の目的というのも、もっと柔軟に考えるべきではないのかと思うのです。実は、競馬法には、「競馬の目的」を明示した条文がありません。「自治体財政への寄与こそが競馬の目的だと法的に定められている」などという人が少なからずおりますが、これは厳密にいえば間違いです。競馬法に定められているのは収益の使途に対する制約条件です。なぜ、こんなことになっているのか。小生は法学者ではありませんので、法律論はともかくとして、競馬とはそもそも何なのか、どういうものなのかを、原点に立ち返って考えるきっかけになればと思っております。

 サテライト石狩(Aiba石狩)や帯広競馬場でいい加減な場立ち予想やっているおっさんではありますが、小生、本業は学者でありますからして、たまには学者らしいこともしないとねえ...。それにしても、小生の場立ち予想って、本当に当たりませんねえ。自分でも呆れます。みなさん、言いたくはないけど、小生の良心にかけて敢えて言います。小生の推奨する買い目をはずせば、的中率は絶対アップしますよ...うう、情けない(T_T)

やっぱり馬が好き(第60回) 旋丸 巴

2010年1月20日(水)

小さな巨人・カネサブラック

 NARグランプリ2009の「ばんえい最優秀馬」にカネサブラックが選出されて、そりゃそうでしょう、何たって昨今のブラックの活躍は凄いもんね。と言いつつ、この黒馬の成績を改めて調べてみたら......。

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(写真提供:斎藤友香氏)

 昨年の通算成績12戦8勝! 勝率、何と66.7%、連対率なら実に83.3%! しかも、これが常に一線級で戦いながらの戦績なのだから、びっくり仰天。

 体重1040キロ前後という、決して大きくない体躯で、第2障害にかじりつくような、這いつくばるような、あの姿を思い浮かべると、この成績は感動的。

     *     *     *

 という訳で、そんな怪物的強さを発揮しているカネサブラックのことが、もっと知りたくなったから、デビュー時から手綱を取っていた大河原騎手に、カネサブラックの話を聞きに行った。

 「あの馬の生まれた牧場が旭川競馬場の近くにあってね。だから、生まれて何日も経たないうちに見に行ったんだけど、生まれた時から小さかったね。小さかったけど、いい皮膚してたし、目に力があったから、これはいい馬になると思ったよ」

 目に現われていた精神力の強さは調教を始めた当初から発揮された、という。

 「好奇心が凄く旺盛な馬でね、1度教えたら、次の日、同じことを繰り返す必要がなかったね。それだけ教えやすい馬だったってことさぁ」

 そんなカネサブラックが、しかし、第1回の能力試験は不合格。

 「小さい頃は無理をさせない、っていうのが、うちの先生(服部調教師)の方針だから、体の小さいブラックには1回目の能力試験は『コースを見せる』だけだったんだわ」

 その能試の日、周囲から『今年のテスト馬の中で、どの馬が一番強い?』と尋ねられた大河原騎手は、即座にカネサブラックの名前をあげたという。テスト不合格、しかも、体の小さなカネサブラックだったから、この言葉を聞いた人たちは一様に苦笑。中には、「何で、あんなドサンコみたいな馬が?」と嘲笑をあらわにした人もいた。

 「あの馬のこと誉めたのは勝堤(鈴木勝堤騎手)だけかな(笑)。調教で、ちょっと乗ったんだけど『この馬、良くなるなぁ』って。背は低かったけど、全体のバランスが抜群。千代の富士みたいだった、って言えばわかるかなぁ」

 2人の名騎手の予言通り、2回目の能力試験を難なく突破すると、デビュー戦を皮切りに、どんどん勝ち星を重ねたカネサブラック。イレネー記念の出走を辞退して、じっくり育てられたことも今日の強さに繋がった。

 カネサブラックの転厩で、今はライバル馬の手綱を取る大河原騎手だけれど、

 「今、一番強いのはこの馬だろうね」と、カネサブラックの能力を絶賛する。ただし、それだけ、この馬の資質を知る大河原さんであれば、口にこそ出さないけれど、ばんえい記念での打倒ブラックの秘策を着々と練っているに違いなく......。

     *     *     *

 「とにかく一生懸命な馬だからね。だから、小さな体でも、あれだけのことが出来るのさ」という大河原騎手の言葉を紹介するまでもなく、ばんえいファンなら、どんな重量を課せられても懸命に坂を登るカネサブラックの、あの健気で真面目な姿に感動されているはず。

 という訳で、カネサブラック感動物語で本編を終えようと思ったのだけど、そこは「つむじ曲がりの旋丸」。ちょっとお茶目なブラックの姿も、ご紹介しておくのである。

 一昨年の秋以降、ブラックが所属しているのは名門・松井厩舎。私は、この厩舎にちょくちょくお邪魔するので、時間があれば必ずブラック君にも御挨拶申し上げるのだけれど、額に流星どころか小さな星さえもない「真っ黒クロ介」の彼は、厩舎の暗闇におとなしく佇んで......、しかし、彼の馬房を訪問すると、やおら近寄って、私の顔をくんくんと臭うのである。そうして、次の瞬間、真っ黒な唇を盛大にめくりあげてフレーメンをする。

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 フレーメンというのは、牡馬が牝馬の匂いをかいだ時の発情反応。私の魅力は、人のみならず、ブラック君の心まで妖しく乱して......なーんて言うことがあるはずもなく、ブラックは、性別、人相を問わず、訪問する人であれば誰であれ彼であれ、顔の匂いをかいではフレーメンをする。そうしておいて、さして興奮する訳でもなく、ただ、顔の匂いをかいではフレーメン。即ち、これ、彼の癖であり、彼の得意技であるそうな。

 私の魅力にブラック君が誘惑されたんじゃないのか、ちぇっ、と残念無念ではあるけれど、厩舎では人の顔の匂いをくんくんかいでは上唇をめくりあげている小さな真っ黒クロ介君が、しかし、一旦、レースに臨めば、一回りも二回りも大きなライバルを向こうに廻して、白星を重ねまくる。

 そんな小さな巨人・カネサブラックに惚れた~!!

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