ばんえい競馬の考え方
競馬の世界に「テンよし、中よし、終いよし」という言葉がありますね。スタートのセンス、道中の折り合い、末脚の確かさ、などなど、そういうものが揃っている馬は名馬だ、というたとえです。
ばんえいでは、“テン”を第2障害まで、“中”を第2障害のクリア、“終い”を、第2障害を降りてからゴールまで、と考えればいいでしょう。
まずは“テン”。常に先行して、レースの主導権を握ることが理想です。第2障害に早めに到着できれば、その分だけ息を整える時間を長く作れますし。当然、逃げ馬が主導権を握るわけですが、たとえハイペースで逃げる馬がいても、遅れず付いていける馬、というのが「テンよし」ですね。
次に“中”。これはもう、第2障害をいかにスムーズに越えられるかにかかっています。確実な登坂力に加え、障害に向かっていく気合い、騎手の指示に忠実にこたえる素直さ、なども要求されます。障害の上手な馬、「中よし」の馬は成績もいいはず。だからこそ、第2障害はばんえいの勝負どころ、実況の井馬サンの言う「ばんえいポイント」なのです。
そして“終い”。“テン”や“中”で無理をしたり、手間取ったりしていたら、“終い”は必ず甘くなります。第2障害を降りてからもしっかり歩ける馬、“終いよし”でなければいけません。
でも、この3つの条件をすべて兼ね備えている馬なんて、なかなかいません。全盛期のスーパーペガサスはそうでした。どんな馬場状態、どんなソリの重さでも、常に先行できる脚があり、障害は先頭、あるいは2、3番手で必ずクリア。降りてからもしっかりゴールまで歩き通す。強い馬でしたよ。何とかもう一度復活してほしいですね。
それはさておき、3拍子揃わない馬はどうするか。とにかく、障害はスムーズに越えなければ話になりません。“中悪し”は勝負にならないと考えておきましょう。“テンよし、中よし、終い今イチ”という馬は、第2障害をクリアするところまでに貯金を作ること。先手先手の走りで第2障害を迎え、他の馬が追いついてきたところで、先に障害へ挑みます。なるべくスムーズに越えて差を広げておくのです。他の馬が障害で手間取ってくれれば大チャンス。これが、逃げ馬のパターンです。
次に“テン今イチ、中よし、終いよし”の馬。これはもう、第2障害まではマイペースを守り、それで障害をスムーズに越えて、前の馬が末を甘くして失速したところをとらえるしかありません。こういう馬が第2障害まで無理に先行集団に付いていこうとすると、たいがい障害で手間取ります。あくまで、こういう馬の存在を先行馬が怖がって、ちょっとオーバーペースになってくれることを期待する。フツウの競馬にもいる、レースを自分で作れない追い込み馬は、こういうタイプの馬です。ただ、差し馬の中には、先行馬を突っつくことができる馬もいます。そういう馬を、“テン今イチ”と言っていいかどうか。それができれば、かなり強い馬ってことになるでしょう。
ここまでのことを考えながら、レースを見てください。きっと、ばんえい競馬が見えてくるはずです。北海道で発売されている専門紙「馬」と「競馬ブック」には、第1障害、第2障害手前、第2障害越えの時の位置取りと、第2障害まで、第2障害越え、第2障害を降りてからゴールまでの所要タイムが載っています。これを見れば、各馬の「テン、中、終い」が一目瞭然。レース検討には大いに参考になります。残念ながら地方競馬全国協会のホームページで見られる出馬表には、これらの数字が入っていません。これは改善すべき点ではありますが。
で、馬場水分とソリの重さでタイムが早くなったり遅くなったりすることを加味しながら、予想を組み立てていくのです。考えることが平地の競馬よりたくさんある、と言えるかもしれませんが、芝、ダート、距離、競馬場など、様々に条件が変化する中央競馬を予想されているみなさんだったら、どうってことないファクターの数だと思いますよ。
そうそう、騎手の腕はレースに大きな影響を及ぼしますね。あるジョッキーに聞いたのですが、出走メンバーの中に目標にできる軸馬がいると、レースを組み立てるのが楽になる、とのこと。その馬を負かすにはどうすればいいか、となるからだそうです。その馬の“テン”、“中”、“終い”にはどういう特徴があるのか。“終い”がちょっと甘ければ、じっくり付いていけば交わせる、とか、“テン”は今イチでも“終い”はピカ一という馬を封じるには、“テン”を心持ち速いペースに持っていって、そこまでに相手になし崩しに脚を使わせ、“終い”のキレを鈍らせる、とか。このレースで、どういう駆け引きが展開されるのか、それを考えるのが、ばんえい競馬の楽しさでもあるわけです。駆け引きに長けた、あるいはそういう揺さぶりに動じない、冷静な騎乗ができるジョッキーが名手と言えるでしょう。
軽種競馬を血統で予想しているみなさん、ばんえい競馬には、血統作戦を突き詰め、それを披露した人がいません。人知れずやっている人はいるかもしれませんが、まだ公になっていないようです。無責任な言い方ですが、みなさんがそれぞれに調べてみてはいかがでしょう。種牡馬別、馬場水分別、コース別に統計を取ってみれば、何か特徴的なものが浮かび上がってくるかもしれませんから。どなたか、その結果をご披露いただければ、それは他の血統派の方にも、大いに参考になると思いますよ。スミマセン、今のところ私はそこまでの研究をしていませんので。
ということで、まだまだ書き足りないことは多いのですが、今回はこのくらいにしておきます。折りを見て、この続きを書こうと思います。ではまた。