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ばんえいジョッキーファイル(17) 安部憲二

2008年11月14日(金)

第17回 頼れる兄貴、アベケン 安部憲二

 今回は、現在通算勝数799勝、800勝目前の安部憲二騎手です。

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--- 騎手になられたきっかけを教えてください。宮城県出身ですね。家に馬がいたとか。

 馬は近所にいたね。家にはいない。馬は中学になってからかな。(相馬の)野馬追にも出てた。
 子ども乗せて自分が足軽みたいにひっぱって。あと背中に乗せて歩いて。あれも登録しないと乗れないけど。

--- 野馬追! もともとサラブレッドなど軽種にも乗っていたのでしょうか。

 両方。近所で親父の先輩が農家をしていた。いい子じゃなかったから、親父から半強制的にやらされたみたいなところはあったけどね。そのうちに馬が好きになった。
 そんなことしつつ、北海道にはばんえい競馬というものがあると聞いて、じゃあひとつやってみますかと。
 (平地)競馬に行った方がいいんじゃないかっていう話はなきにしもあらずだったんだけど。あの頃小さかったからね。競馬場来た時152センチしかなかったから。58キロとかで。北海道に来てから成長して、現在に至る(笑)。
 本当に馬が好きじゃなかったら行かなかったと思う。

--- なぜサラブレッドよりばん馬を選んだのでしょうか。

 うーん……おとなしいし、大きい方が迫力もあるし。草ばんばやってもこっちの方が楽しかった。
 うちらの町(栗駒市)でも年2回草競馬やってたんだ。春と夏と。

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--- そして中学卒業後、厩務員になられました。騎手デビューは早くなかったですよね。

 厩務員10年やったんだよ。ブラブラしてたから……騎手じゃなくてもいいか、とかさ。いい子でなかったから。
 金山騎手の名言一言でよみがえった。「お前このままでいいのか」って。
 遊んでんのもいいけど、騎手になるんならやる、厩務員に行くなら行く、はっきりしなかったらやめたほうがいい。って。

--- それは金山さんが安部さんの実力を認めていたからでしょうか。

 いやーどうかなぁ。もう年も年だし、24とか25とか……。
 仕事はちゃんとしたんだよ。その分遊んだけど。じゃー真剣にやるかって。

--- そして騎手デビュー。勝負服はファンだったメジロライアンのデザインだそうですね。昨年のJRAデーではライアンの鞍上だった横山典弘騎手とコンビを組みました。

 ライアンってなんかさ、サラブレッドっぽくない馬だったの。ばんば馬みたいでしょ。頭モヒカンにして。かっこいいなこいつ、って。
 JRAの騎手とは前にもサッカーで何回か会ったことあるんだ。俺がチーム作って、ちゃんとユニフォーム作って中央の騎手と試合やってたんだ。岩見沢開催のとき、札幌行って。スーパー競馬(中央競馬の中継番組)にも出たんだ。
 そのあと懇親会やってしゃべったんだ。そういう活動してたこともある。未だにユニフォームある。

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--- そうでしたか。安部さんはいつも活動の中心にいますよね。

 目立ちたがりやなんだよな。結婚式でも発起人とかやったり。誰かが盛り上がったら盛り下がる。みんなが沈むと自分一人だけ盛り上がる。B型の特徴でねぇか(笑)。典型的にわがままチック。
 みんなめんどくさいからお前やれってだけで。おれ結構嫌いじゃないから。でも最近はだんだんめんどくさくなって(笑)。
 それでも、そういうことでみんなが集まってさ、ばん馬もいい方向に向くのかなって思うんだけどね。

--- 存続運動の時も中心になって活動されていました。

 俺らだって最初は高括ってたんだ。岩見沢がやめるってあたりから絶望感と共に、ああなったらもう開き直るしかないべって。一旦なくなったんだから、もし1%でも可能性があるんだったら、やるだけやってだめならしゃーないべ、みたいな。だからみんなに声かけて、札幌まで署名活動に行ったり。(札幌では)逆にね、そんなもんやめてしまえっていう人もいる。結果的にはさ、それが反響あったんだからな。今となれば、やらないよりはやったほうがよかったのかなって。あの時ラジオのインタビューにも出たんだから。「おきてる君」に入れたり、使えるメディアはどんどん使おうって。

--- STVラジオの「おきてる君」ですね。留守番電話にメッセージを入れて流してもらう。

 結構移動中に聞いてる人多いんだよね。これ使えたらいいなって思って。留守番電話に入れるのって勇気いるから、夕方少し酒飲んでから思い切って。メッセージって30秒で切れるんだよね。3回入れたんだ。「続きです!」みたいな(笑)。ラジオ局の人もうまくつなげてくれて。ま、内容は……俺らは人間だから仕事は選ばなきゃ何か出来るけど、ばん馬はどこにも行けないみたいな話をして。ばっちり。感極まったり。上手なんだ俺そういうの(笑)。だから開き直ってさ。やるだけやってだめならあきらめもつくだろ。
 反響がすごかったね。地方の飲み屋のママから電話あって、「憲二くんちゃんと話せるんだね」って。なんぼバカ扱いしてんのよって(笑)。

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--- では思い出の馬を教えてください。

 初勝利(キンテイオー)は特別戦だったんだ。厩務員兼騎手やって自分で担当していた馬だから。その年ダービー取ったんだぞ(尾ケ瀬騎手騎乗)。
 あとは、初重賞のシンエイキンカイ。あの子もあんまりいい子でなかったから、なんか共感もってね。重賞とるようにまでなったから……いろんなこと教わった。障害行ったら回ったりしてね。横に逃げる力がすごいのさ。抑えきれないくらい。前に行く力をあまり出さないから、逃げる力を逆手に取ったら前に行くんじゃないかって。横じゃなく前に前に集中させるようにしたら、本当に前に行った。
 サダエリコ。やんちゃ姫。それをなだめつつ、叱りつつ。それがうまくつながった。重賞13とったのかな。そのうち俺10個。ダービージョッキーにもしてくれたし。特別力があるというよりはも、瞬発力がかなり勝ってる。バネ女みたいな。そのバネが痛んだ時期は全然だめだったね。
 もともと背中に乗られるのも嫌なんだ。一回(俺を)落とそうとして北見の柵にぶつかったことあるんだ。
 美人? スタイルはいいよね。牝馬っぽい体。出るところは出るみたいな(笑)。しっぽふってね。あのしっぽがレースの時邪魔くさいんだわ。手綱は挟まるし……。しっぽって意思表示だから、叩かれることに対して嫌がってはいるんだろうな。パドックも、乗られるから払いたいみたいな。
 今の期待馬すか。コウドウフジ。
 それと、スターエンジェルでばんえい記念を制したいなと。ひそかに期待を寄せています。内緒だよ(笑)。
 あの子はね、地道にじわじわ。高重量戦には力を発揮できると思う。その前の帯広記念と、期待しています。
 他にも、間に重賞とった馬とかいろんな馬いるんだけど……。

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サダエリコと

--- ゴール前、安部さんが追わないのに馬が前に進んでいるのをよく見ます。どのような技術なのでしょうか。

 ゴール際ってさ、平地競馬だってゴール付近までばちばち叩いている騎手っていないしょ。よっぽど追い上げている馬だったら叩くかもしれんけど。先頭である程度確信持てば流すしょ。
 ばん馬だって同じなんだよ。もういっぱいいっぱいになってんのに、叩(はた)かれたら反射的に嫌がって萎縮する。叩かない方が歩くのさ。いろんな先輩に教わったら、叩いてみたり、しゃくってみたり、すかしてみたりして、一番いいことを使えっていうんだけども。
 止まることもあるけども、馬がその時余裕かどうか、動きを見て、叩かないほうがいいのかな、みたいな。逆に叩くよりも起こす。すかして我慢したほうが。

--- すかす、しゃくる、とはどのような技でしょうか?

 すかすは、手綱を下げてハミを緩めるとことによって、馬があっ、と思う時にすっと出ることがある。不意打ちみたいな。
 しゃくるは、ハミを左右どっちかでひっぱられることで、またよみがえるみたいな。
 強い馬って騎手は楽なのさ。弱い方が人間疲れる。そう思わない? (強い馬は)一生懸命追わんでも、みんなに併せて行ける。
 馬は叩いて走るとは思わない。走りたいように気分よく仕向けるほうが懸命かな。叩いて走るんならさ、ばっちばち叩く人がリーディングになってるはず。
 騎手によっては、叩いてるように見えるけど叩いてないんだ。叩けば失速するってわかってるから。叩かないことがぼってない、ってことではない。レース全体で100%の能力を割り振りするには、ぼえ過ぎないことも大事だろうし。
 馬主にもよるし、気性で叩かないほうがいいときもあるし、考え方だと思うんだよな。だから慌てないわけではなけいけど、コンマ1秒でも勝ちは勝ちでしょ。無理して勝ったって、あと困んじゃねーかなとか。だったら自分の本来の能力でちょっとでも勝てば、次につながんじゃねーかなって思ったり。

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--- ではプライベートについて教えてください。

 最近はね、魚釣り。海。一緒に行くのは……藤野さん。
 「そうですね」って何よ。セットみたいに言うな。細川、大口、山本さん、岩本利先生とか。現地でだいたい合流するんだけどね。
 たまにゴルフ。運動だ。減量は大丈夫。

--- では、いつもファンサービスをしてくれている安部騎手、メッセージをお願いします。

 迫力あるレースを見てほしい。
 ばんえい特有の、こういうでっかい体でかわいい目をした馬が一生懸命走る姿を。
 本当は現場で見てくれればいいんだけど、来られない人にも。

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 何もわからなかった私に気さくに声をかけてくれた安部騎手。そのお陰でこの世界が大好きになりました。そのような人は私の他にも多いと思います。
 でも普段は憎まれ口ばかり叩いて、黙っていればかっこいいのに……いや、かっこいいんですよ。とても。
 トップジョッキーなのにいつもイベントに参加したり、豚汁を配ったり、署名を集めにあちこち飛び回ったり。ちょうど2年前、北見で見た疲れた横顔、それでもレースでは相変わらずの魅せる技。この人をずっと騎手でいさせたいと思いました。
 今でもばんえいを盛り上げようとあちこち飛び回っている安部騎手。ついていきますぜ、兄貴!


取材・文・写真/斎藤友香

今週の見どころ(11/15〜11/17)

 今週の日曜、11月16日には牝馬オープンによるレディースカップが行われます。当日は、ばんえい十勝レディースデーとして、女性の方は帯広競馬場への入場料が無料になるほか、ライブスタジオ見学ツアーなども行われます。ぜひ競馬場へ足をお運びください。

 11月15日(土)のメイン第11レースは七五三特別(混合500万円未満)。500万円、400万円条件の近走好調馬が揃い激戦が予想されます。
 グレートサンデーは、トップハンデだった前開催の秋陽特別(500万円未満)を障害先頭から押し切って勝利。課題の障害が安定している今なら、前走からプラス5キロでも連勝でオープン復帰を決めてくれるでしょう。
 秋陽特別では障害で崩れて人気を裏切ったキングシャープミスターセンプーも、それまでの安定ぶりを考えれば、巻き返してきて不思議ありません。
 前開催の深秋特別(400万円未満)で後続を離して一騎打ちを演じたコブラダイオーイッスンボウシや、最軽量魅力の4歳馬コーネルフジも上位争いに加わってきそうです。

 11月16日(日)のメイン第11レースに第25回レディースカップ(4歳以上8歳以下牝馬オープン)が行われます。フクイズミの720キロからペガサスプリティーアドバンスクィーンの680キロまで上下40キロのハンデ差がつきました。
 岩見沢記念を制したフクイズミの実力が断然ですが、40キロ差なら堅実な末脚を持つペガサスプリティーに十分チャンスが見込めるはず。近3走は、4歳牝馬重賞クインカップ2着、オールカマーで1、2着と充実。特に前走はオープン一線級を相手にしての好走だけに評価できます。
 エンジュオウカンは約1年5カ月の休養明け後、2連勝中と完全復活をアピール。06年ヒロインズカップなど重賞4勝の実績馬だけに、ここも注目を集めそう。もちろん格上的存在のフクイズミ、障害巧者トカチプリティーも有力です。

 この日の第10レースは第21回南北海道産駒特別。石狩、後志、渡島、檜山、胆振、日高管内及び北海道外産の2歳馬によるオープン戦。確たる中心馬がおらず混戦模様です。
 実績でいえば5キロ加増の3頭が優勢。なかでもA級下位で安定した成績を残しているソトガハマモリウチ、10月19日の2歳A-5戦で同馬を退けて優勝しているヤクモリキマルがアタマひとつリードでしょう。

  11月17日(月)のメイン第11レースは初雪特別(300万円未満)
 注目はホクショウドラゴン。前々走は障害に苦戦したもののすぐに立て直され、勝ち馬ニシキタカラからコンマ3秒差3着。前走は好位から抜け出して勝利するなど、近7走の300万円未満で5勝、3着2回と抜群の安定感を誇ります。今回はトップハンデ725キロですが、引き続き上位争いの期待が高まります。
 相手は負担重量有利な3、4歳勢が有力。ライデンロックは前走ばんえい菊花賞は障害で転倒し最下位も、もともとは障害巧者だけに巻き返しが見込めそう。ばんえい菊花賞2着のホクショウジャパン、先行力が武器のアアモンドヤワラ、300万円未満で堅実駆けのホッカイヒカル、6連勝と勢いに乗るギンガリュウセイらが候補です。

やっぱり馬が好き(第52回) 旋丸 巴

2008年11月13日(木)

強面でエッチで無類の馬好きな凄腕調教師

 ばんえいジョッキーファイル、面白いな〜。友人を公の場で誉めるのはシャクだけど、友香さん、インタビューうまいじゃん。

 それにしても、あんなに赤裸々にジョッキーの姿を紹介してしまっていいのかしらん?と心配になって、友香さんに尋ねてみたら、「いいえ、あれでも全部は書いてないんですよ」だって。ばんえい界って、どれほど裏話があるんでしょーねぇ。う〜む

     *     *     *

 さて、そんなジョッキーファイルに対抗して、私も今回は厩舎関係者を取材しよう!と意気込んで、さて、誰を直撃しようかな〜。と獲物を狙っていた私の毒牙にかかったのは、じゃじゃ〜ん! 鈴木邦哉先生!

  鈴木先生は、ご存知リーディングジョッキー鈴木勝堤さんの実兄。ご自身も、クシロキンショウ(帯広記念)など数々の名馬を手がけ、本年6月27日には1000勝調教師となった名伯楽なのだけれど……。

 私にとって、邦哉先生は、「優しくて楽しい先生」。毎週のように競馬場でお会いしては、お茶なんぞを一緒に飲ませてもらうのだけど、東北イントネーションを残した柔らかい言葉遣いで、冗談を言ってはガハハ、と笑われる実に愉快な先生。

 「俺は不治の病にかかってるからなぁ。ん? 病名か? 病名は……スケベ病。がはははは!!」

 スケベか否か、残念ながら私はその実態を見たことは無いけれど、聞くところによると、ゴルフに行けば先生のファンのキャディーさんが御菓子を用意して待ち受けているとのこと。だから、相当、おモテになることは間違いないらしい。ただし、先生を待ち受けるギャディーさん達の平均年齢は……いや、みなまで書くまい。

 そんな陽気な邦哉先生だけれど、さて、しかし、一皮剥けば、この先生ほど真面目な調教師さんはいないのである。

 昭和29年、馬の里として知られる岩手県遠野の農家に生まれた邦哉先生は、幼少期から馬の世話をし、馬と共に木の切り出し作業のために山に入った。

 そんな姿を見た知り合いの馬主さんから、「そんなに馬が好きなら、ばんえい競馬っていうもんがあるから、そこで働かないか」と誘われたのが17歳の時。以降、四十年近く、馬一筋に歩んで来られたけれど、「一度だって故郷に帰りたいと思ったことはないな」というほど、このお仕事に喜びと誇りを持ってらっしゃるのである。

 厩務員時代も、少しでも多くの馬を見るために、休みを取っては馬市に出かけた。

 そうした研究熱心さが、調教師となった邦哉先生に名馬を発掘せしめる。ばんえい記念で、三度、史上最強馬スーパーペガサスと死闘を繰り広げたミサキスーパーだが、1歳のセリでは買い手が付かなかった「売れ残り馬」。

 「けどさ、朝から馬市に行って、ずらっと並んだ馬を見て歩いたんだけど、『これだ』って思ったのがミサキスーパーでさ。体は小さかったけど、なんとも言えん、いいマナコ(目)してさ。『この馬はどうしたって手に入れんきゃならん』と思ったよ」

 こうして馬主さんに買ってもらったミサキスーパーは、鈴木厩舎に入ったが、邦哉先生の見込み通り、調教を始めると素晴しい動きを見せた。

 「とにかくさ、あの馬が引くとソリが左右にブレないんだわ。普通の馬なら、歩くと、どうしてもソリを振ってしまうんだけど、あの馬は真っ直ぐに引くんだわ。それだけ四肢のバランスが良かったってことさ。そういう馬は滅多にいるもんでないよ」

 厩務員時代から寸暇を惜しんで馬を見続け、そこから生み出した「美学」。その美学が、ミサキスーパーという大器を射止た訳である。

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引退式でのミサキスーパーと鈴木勝堤騎手(2007年1月27日)

 そんな名調教師にも、一昨年、存廃問題は容赦なく襲い掛かった。

 「競馬がなくなったらどうしようとか言う前に、とにかく、この競馬を残さんきゃ、って無我夢中でさぁ」

 無類の馬好き、根底に真摯さを持つ邦哉先生だから、存続が叶った今も、服部義幸調教師、小林長吉調教師と共にファンサービスに奔走する。リッキーに続いて帯広市役所嘱託職員となったミルキーも邦哉先生の管理馬。今もミルキーと共に、イベントや保育所、学校へと飛び回る邦哉先生なのである。

 「とにかく、俺は、みんなの力で支えられてここまでやって来たんだ。だってよ、右も左もわからないアンチャンの時に、仙台空港から飛行機に乗ってこの世界に連れてこられてさ、それから、ずっと厩舎で暮らして来たんだもん。馬が好きで、ずっとこの道で来たんだもん。皆さんのお陰で、ばんえい競馬が続けられるっていうだけで有難いさ。それだもん、俺にやれることなら、何でもやる。いや、やらせてもらうさ」

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邦哉先生とミルキー

 先日、追突事故に遭われた邦哉先生。

 「止まってるところにぶつけられたから、車を降りて行ったら、相手は、小さい子を連れた若い母さんでな。『子供、大丈夫だったか?』って聞いてもブルブル震えて口がきけないんさ」

 黒塗りの大型車から、眉間に皺を寄せた邦哉先生が出てきたら、若い女性でなくても震え上がるだろう。

 強面で、ちょっとエッチで、しかし、無類の馬好き、競馬を心から愛する凄腕調教師の姿を見て、つくづく「ばんえい競馬っていいな」と思うのは、私だけではあるまいて。

ばんえいジョッキーファイル(16) 竹ケ原茉耶

2008年11月 7日(金)

第16回 ニコニコ笑う弾丸娘 竹ケ原茉耶

 今回は、小さな体でパワフルな騎乗を見せる竹ケ原茉耶騎手です。

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--- 竹ケ原騎手は青森出身ですね。お父様が馬主で、同郷の西弘美騎手の紹介でこの世界に入られたとか。
 家に馬もいたそうですが、子どもの頃から馬の手入れをやったりとかしていたのですか? 馬力大会に出たりとか。

 部活やったりして忙しかったから……、たまにたてがみ編んだり。
 馬力大会は一緒について行った。一回くらい出たかな。後ろ(馬を後ろから追う役目)だったけどね。

--- 部活は柔道で、全国大会にも出られたんですよね。始めたのは小学校くらい?

 うん。柔道と馬と、ちょうど同じくらいからのはじまりだから。
 最初はね、小さい大会でも大きい大会でも優勝したらポニー買ってくれるって約束でやったんだけど、買ってもらえなかった。(他の人に)売られちゃって。
 欲しいポニーがいたんだ。売られて何日もしないうちに優勝して、やったー、買ってね、って見にいったら、もういなくて。

--- 残念……。そして高校を出てから騎手になられましたが、騎手になりたいと思ったのはいつ頃でしたか。

 中学校くらいから。本当は高校行かないで競馬場に行きたかったんだけど、それは止められて。

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--- 体を鍛えるために高校で柔道を続けていたわけではなかったのですね。
 馬が好きで騎手になろうと思ったのでしょうか? 犬も好きだとか。

 馬って限ったことじゃないけどね。動物は何でもOKだけど、馬とか犬とか猫とかハムスターとか、そばにいるようなのがいい。
 犬ねー。獣医になろうと思ったんだけど、小学校の時に無理な頭だなって自分で気づいてやめて(笑)。トリマーも考えたけどあまりにもみんなが『将来の夢』とかに書くじゃん。面白くないなー、何か変わったので動物で、って考えたら競馬場がいいかなって。
 今は犬を2匹飼ってる。そのほかに1匹実家に置いてる。

--- 柔道をやってこられたことは、騎手に役に立ったのではないでしょうか。

 体力的なものもそうだけど、精神的なものの方が大きいかな。
 中学校でも高校でも、強いところ選んで行ったから厳しくて。練習中笑うことなんか出来ないし。それだけの練習やってこれたんだからって思うから。体力的なものだったら別に柔道じゃなくてもよかったのかもしれないけど。

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--- そして競馬場に入られて。試験に受かったのも早くなかったですか?

 早くない早くない。4年かかったかな。2回学科で落ちて……一般教養でばかり落ちて(笑)。
 3年目で学科受かって、2次はその年一人も受からなくて。その次の年にうちら世代3人(浅田・藤島)受かったの。

--- では思い出の馬を教えて下さい。初勝利はお父様の馬、ヤマトハンターでしたね。

 ハンターはね、肌馬(繁殖牝馬)にしてる。実家に置いても周りに種馬いないし、(忙しくて)お産も見れないからって預けてるんだけど。
 来年ハンターの仔っこがテストに来るんだよね。
 あとは去年まで競馬場にいたアローモーション。
 自分で(調教)やって乗ってたんだけど、馬小屋のちっちゃい隙間から覗いてね、鼻鳴らして呼ぶんだわ。人や車の音で誰かわかって、ここの戸が開いたら茉耶が出てくるって知ってるから、エサもらえると思ってすごい呼ぶし。

--- かわいい〜。アローモーションもお母さんになったのですね。

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ブーツには、勝負服とお揃いのピンクの☆が

--- ところで、今年谷あゆみ厩舎に移籍されてからの活躍は目覚しいですね。

 ウフフ……。あゆみちゃんはジョッキーやったことないから技術的なことはわかんないかもしれないけど、他のことでも色々勉強になること教えてくれる。
 馬っていうか……人間関係のこともそうだし。周りの人間関係気遣ってくれたり。

--- 調教師のサポートが、積極的な騎乗を伸ばしているのでしょうか。竹ケ原騎手の騎乗は強気なイメージがあります。

 行けない馬も確かにいるんだけど、馬主でも、自分とこの親も、行ってだめならしょうがないけど、行かないで負けるのが……って人だからそれに合わせて乗ったり。

--- 性格はお父様似なんですね。競馬場にレースを見に来られますか?

 来ない来ない。(自分の馬を見に)春のテスト時期と、あと誰かの祝賀会とかの時にちょっと長めにいたり。私の騎乗? あー全然。

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--- パドックであの大きな馬の上に騎乗するのが、すごいですよね。

 うんうん。あれ、あゆみちゃんと茉耶しか出来ないんだわ。他の人とちょっと乗り方違うしょ。飛び乗りではない。惰性つけて乗ることが出来ないからよじ登る。ロッククライミングってよくいわれる。
 リッキーで練習したの。普段はぼへーっとしてるんだけどね、口固いからハミきかなくなったりするんだ。おとなしくなかった。

--- そこらの厩務員より腕力がある?

 そんなことない。それなりに大きい人多いし。
 トレーニング? 昔ほどしていない(笑)。

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--- ではプライベートについて教えてください。休みの日は何をしていますか?

 休みね。外に出たらお金かかるから部屋で。普段時間なくて大したもの作れないから、ちょっと時間かかるようなの作ってみたり。料理ね。好きではないけどよくやるかな。片付けるの嫌いだけど。あー、お菓子とかはね……ここオーブン持ってきても置くとこないから。
 得意料理? ないね。だいたいは作れるけど……あるので作るくらいで。お母さん仕事して帰り遅かったから、うちの兄ちゃんがわりと教えてくれた。
 買い物に行っても犬の物くらいしか買わない。金かかるとかいいながら犬の服はいいの買ってね(笑)。私がおしゃれしてもね、見せるところないからね。

--- ある食材で何でも作れるのは得意な証拠ですね。
 では女性ジョッキーということで、男社会の中で大変なことを聞きたいのですが、特に気にしていないかな? 逆に楽とか、女の子同士がいいとか。

 どうだろ……昔から女の子らしくなかったからわかんないけど。ここにいたら下ネタに困るけどね。困った顔したらつけあがるから、こっちから話に乗るんだわ(笑)。
 ここはね、女の子同士っていっても女の子じゃないでしょ。気も強いし。キヨ(佐藤希世子騎手)でしょー、あゆみちゃんでしょー、由紀、由佳(皆川調教師の娘姉妹)……(笑)
 女の子っぽい子も入ってはくるけど、すぐやめる。

--- では最後にファンに一言。また、これから騎手になりたいという女性にアドバイスはありますか?

 来てください、馬券買ってください……かな?
 うーん。騎手になりたい子ねぇ。
 内面鍛えとけよ、だね。普通だったら会社で嫌な奴いても家に帰ったらいないけど、ここは絶対顔を合わせないなんてできないし。特殊な世界だからね。


 騎乗ぶりからみて、どれだけパワフルなのかと取材前からちょっとびびっていたのですが、かわいい!!
 良く笑うし、笑い方も「ガハハ」じゃなくて「ウフフ」なんですよね。
 頼られつつ、かわいがられつつ厩舎村で生活しているのでしょうね。こういうかわいらしい肝っ玉母さんタイプの女の子が一番モテるんだよなぁ〜。
 「姉ちゃん頑張れ」と馬券を握り締めているおじさんを見ると本当に頼もしく感じます。取材前に買った馬券でも穴馬を持ってきてくれました。
 高いかけ声が力強く場内に響くのが嬉しいのです。


取材・文・写真/斎藤友香

今週の見どころ(11/8〜11/10)

 11月3日の開催を終えてのジョッキー・リーディングは、藤本匠騎手が98勝を挙げトップを独走しています。
 これまでのシーズン最多勝は00年に坂本東一騎手(現調教師)がマークした173勝ですが、藤本騎手がこのままのペースで勝ち星を重ねていけば、金字塔を打ちたてる可能性もありそうです。

 11月8日(土)のメイン第11レースに、クラブツーリズムカップ(オープン)が行われます。
 注目は4歳馬アローファイター。前開催の霜月特別でオープン昇級後初の連対。障害に苦戦した前々走オープン(9着)から巻き返しました。引き続き重馬場が予想され、前走の勝ち馬不在のここは今季初勝利のチャンスです。
 相手筆頭は霜月特別4着のスーパークリントン。9月の休養明け初戦は、休む前より50キロ近く体重を減らしており最下位でしたが、馬体が戻ってくるとともに成績も上向きです。こちらも今の馬場状態は向きそうで、さらに前進が見込めるでしょう。
 タケタカラニシキは近3走のオープン、オールカマーで2、2、3着と好調維持、トモエパワーの底力にも期待したいところです。

 11月9日(日)のメイン第11レースはレーシングカップ(オープン)
 中心はやはりカネサブラックです。約2カ月の休養明け後3走はオープン2勝、岩見沢記念2着。前開催を回避してここへの出走となりました。次開催(11月30日)に控える北見記念へ向けて落とせない一戦でしょう。
 実績上位のミサイルテンリュウ、逃がすと怖いニシキダイジン、障害巧者ヤマノミント、この重量ならスピードが生かせるホクショウダイヤらによる2着争いがし烈となりそうです。

 この日の第10レースは第15回北央産駒特別。空知、上川、留萌、宗谷管内産の2歳馬によるオープン戦です。
 メンバー中唯一、2歳A-2での連対実績があるライトアームの軸不動です。一線級相手では逃げてゴール前で捕まるレースが続いていますが、この相手関係なら負けられないところでしょう。
 相手筆頭はスターオブドリーム。10月12日の2歳A-3で、逃げ粘るライトアーム(1着)を好位での障害クリアからコンマ8秒差まで追いつめた脚は見どころがありました。
 オープン特別に出走経験のあるジャングルソングも上位争いできそうです。

  11月10日(月)のメイン第11レースは、2008クラブツーリズムカップ(混合500万円未満)。500万円条件の3頭に400万円条件のカップオーが挑む構図です。
 500万円条件の大将格は登坂力上位のトウリュウ。ここは格下馬相手の混合戦だけに、先手を奪っての押し切りが濃厚です。
 キングファラオは決め手自慢、キタノカイザーはここ2走は大敗もそれまでオープン混合、混合500万円未満などで8戦連続掲示板確保の実績があります。
 一方、カップオーの持ち味は先行力。障害しだいのところはありますが、今季、オープン勝入混合2着、勝入混合500万円未満で2連対の実績はここでもヒケを取りません。500万円条件馬との5キロ差を生かしたいところでしょう。

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