第20回 200mを計算しつくした一匹狼 松田道明
今回は、ニシキエースで牝馬三冠を達成した松田道明騎手です。
え〜。俺いいよ、飛ばして。
--- お願いします。騎手になられたきっかけを教えてください。実家は夕張で、馬がいたんですよね。
そんなこと聞くのかい。親はメロン農家。馬飼ってたけど、今はもういないもん。
(岩見沢に)小さい時行って……競馬が好きで、ばんえい競馬に来ました、でいいべ。
--- 高校時代は柔道部で、好成績を残されたとか。
いや、生徒会。
--- ……生徒会、ですか…?
役員やって。学校祭とか、体育祭とか。
柔道は怪我してマネージャーで……。
--- そうでしたか……。では、勝負服について教えてください。吉田勝己さんと同じ勝負服ですね。
(夕張の自宅)そばに社台ファームがあるから。社台ファームのように馬を、って。
サインがかわいらしいです
--- 騎手になりたくてばんえいの世界に入ったのでしょうか。
そうそう、騎手になりたいなって。馬も管理するの好きだし。
--- 思い出に残っている馬は誰でしょうか。アキバオーショウ、カネサブラックなどたくさんいると思いますが、転機になった馬などはいますか?
いない。
……サカノタイリン。(編集部注:サカノタイソンではありません)
--- サカノタイリン? なぜでしょうか。
(レース中)ひっくり返った。転倒して引退して、かわいそうだなって思って。
--- そうでしたか。で、では、プライベートは何をされていますか?
温泉。
--- 十勝川とかですか? オススメを教えて下さい。
十勝川は時間がある時に。
オススメ……やっぱり、かんの温泉(鹿追町然別峡)。鹿来て一緒に入ったり。周りにいたりね。
--- スタンドでは娘さんを見かけます。競馬に興味があるそうですね。かっこいいとか言われますか?
フフフ。女の子3人。いやー、競馬場に入るのはやめさせたいんだけど……。
馬がかっこいいって。この馬が強いとか、今度この馬乗った方がいいとか、この馬、障害をまとめたら勝てるとか、そういうコメントしてくれるね。
--- 期待の馬を教えてください。まずは2歳。
アオノレクサス。小さい馬だから今年でなくても体ができてこれば。
3歳はニシキエースな。あれはもう……体も大きいし、メス馬では最近にない力強いもの持ってるし。オトコ馬といいレースしてほしいなって。
カネサブラックか? あの馬は勝負勘がいい馬で、パンチのきいた自在な優れた筋肉持ってるっていうか。特別大きな力でなくて、瞬発的なキレがある。珍しいくらい柔らかい筋肉してるよね。引っ張り方とか柔らかいし、バランスがいいから上に飛ばないで前に低い姿勢で飛ぶよね。重心低いっていうのは荷物を引くのには優れてるよね。
--- 目標を連対率3割と出されていましたが、目標通り達成されていて素晴らしいですね。
そうでもないよ。
ばんえい競馬は本命が負けやすいと言われるし、なるべく印のあるときは2着まで残るように。
馬に対して一番状態のいい乗り方をしようと思って冷静にって心がけているんだけど、どうしても騎手の加減や精神的な部分でに左右されて、人気だとなかなか勝ちずらいっていうか……。
ま、そういう数字(連対率3割)を残すためにチャンス狙ってる。
--- どのように研究されるんですか? ビデオとか見たり?
ビデオは特別な時しか見ない。
レースでは自分が本当にこのレースでケンカする馬はどれかってことをまず見つけて。
2分かかるレースで、自分の馬が(障害降りてからゴールまで)30秒の足持ってるとしたら、障害をためて上げるまで25秒でまとめれば、(障害手前まで)1分5秒かけて持ってくれば2分の勝ち時計出せるってことだ。
でも計算してきたことをレースの中で忘れちゃうときがあるの。自分に本命ついたら負けられないって思って感情むき出しになって。
2歳のレースでよくあるんだけど、勝つ力のないような馬をわざと(障害に先に)行かせるしょ。それにひっぱられて(本命馬が)負けちゃうことがあるしょ。それをわざとやるやつもいるワケよ。おれらもわざとやるし。
プロは乗った時の勘と、常に周りを見て、一(障害)越える時に自分は何番目か、あいつはどこにいたとか、ここで攻めてやろうとかさ、そういうことを、パッと一瞬のうちに考えて……。
--- 200mの間にものすごい計算! これが成績につながっているのですね。
馬が行こうとした時にタイミングが合うのと、行きたいやつを1回止めて下げちゃうのとでは全然違うよね。少しでも負けた時はそのロスが響いてくる。一回のレースでは大したことないんだけど、何百回も乗るとそれが確実に現れる。
成績につなげるには、騎手がいい馬乗ること。1年間に1頭で2勝すれば70頭で140勝できるし、20頭しか乗ってないなら40勝しかできないし。
--- 松田さんはたくさん乗ってますからね。
俺はもう年だからね、もう若い人らに任せて……。
そんな難しい競技でないのさ。
カロリー与えて、教えて、調教して、馬の素質を引き出すだけだから、いい馬を持たなきゃなんない。
騎手はいかに上手にいい馬に乗りつけるかってことさ。そういう競技だから。
悪い馬をなんぼ優秀な調教師や騎手がやったって……。
俺は乗り方については調教師の言うようにする。馬主さんから指示を受けた時にも、程度があるから。
馬主の馬であって、ファンの馬でもあるんだってことをまず説明する。この馬は半分ファンの馬なんだって。馬券を買ってこの馬を楽しみにしてくれてる人の前で、俺は馬主の言った乗り方はちょっと無理があると……俺はそう言うよ。そうでないと、俺の乗り方に不満もってファンが馬券買えないべさ。ファンいるかわかんないけど……。
--- いますいます(笑)。 すごい理論の展開にまたファンが増えますよ。理論通りに馬を操るコツを教えてください。
まじめな馬は直してでもまっすぐに行こうとする気持ちがあるけど、ずるい馬は気持ちがずれたら逃げちゃう。そのタイミングをはかってハミをかけて(障害を)上げてやる。
もともと馬って止まる動作が得意でないのさ。我慢があまり上手でないの。走るのは得意なんだけど。(平地)競馬は止まらないからいいのさ。ばん馬なら叩いて行かしてるのを止めるしょ。そこまで見極めれるように馬を仕込むったらかなり上手に乗らなかったら。
(カネサ)ブラックは以前(障害で)ひっくり返ったしょ。それを直すのに反復練習するわけさ。次に馬と俺のハミ呼吸を整える。そしたら余分な力使わないし、膝折りそうになったときも興奮してないから、(障害で膝)折らなくなるわけさ。折っても起きる。ハミ(の種類)変えたって、感度いい馬ほど痛さを覚えるから。
(ニシキ)エースもそうだ。昔は飛びついたりひっくり返ったりゲート出遅れたりしたけど、あれを直すのも同じことで、軽い荷物で俺のハミ触り覚えさせる。
手綱の動作っちゅうのは、馬を操作する基本中の基本。俺は叩く動作が右、(手綱の)動作は左手でやるんだけど、馬の頭の先と周りだけ見て、次にどっちに行くかなって思ったらハミ押さえてぼ(追)ったり、この馬叩いたら逃げるなと思ったら、いち早く逆ハンドル切ったり。
慣れるまで、時間かかるんだ。
以前、写真を撮っていた私に「プロになる気あんの?」と話しかけてきた松田騎手。プロ意識の高さに、話しかける時はいつも緊張しています。
今回もとても細かい理論に圧倒! レースのようにペースを乱されてしまった私です。
勝利に貪欲すぎて悪役になることもあるけど、そんな松田騎手の存在がばんえいを楽しませてくれています。馬券でも信頼しています。
そんな松田騎手でもオークスは緊張したとインタビューで答えていましたね。ダービーも楽しみです。
取材・文・写真/斎藤友香