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やっぱり馬が好き(第52回) 旋丸 巴

強面でエッチで無類の馬好きな凄腕調教師

 ばんえいジョッキーファイル、面白いな〜。友人を公の場で誉めるのはシャクだけど、友香さん、インタビューうまいじゃん。

 それにしても、あんなに赤裸々にジョッキーの姿を紹介してしまっていいのかしらん?と心配になって、友香さんに尋ねてみたら、「いいえ、あれでも全部は書いてないんですよ」だって。ばんえい界って、どれほど裏話があるんでしょーねぇ。う〜む

     *     *     *

 さて、そんなジョッキーファイルに対抗して、私も今回は厩舎関係者を取材しよう!と意気込んで、さて、誰を直撃しようかな〜。と獲物を狙っていた私の毒牙にかかったのは、じゃじゃ〜ん! 鈴木邦哉先生!

  鈴木先生は、ご存知リーディングジョッキー鈴木勝堤さんの実兄。ご自身も、クシロキンショウ(帯広記念)など数々の名馬を手がけ、本年6月27日には1000勝調教師となった名伯楽なのだけれど……。

 私にとって、邦哉先生は、「優しくて楽しい先生」。毎週のように競馬場でお会いしては、お茶なんぞを一緒に飲ませてもらうのだけど、東北イントネーションを残した柔らかい言葉遣いで、冗談を言ってはガハハ、と笑われる実に愉快な先生。

 「俺は不治の病にかかってるからなぁ。ん? 病名か? 病名は……スケベ病。がはははは!!」

 スケベか否か、残念ながら私はその実態を見たことは無いけれど、聞くところによると、ゴルフに行けば先生のファンのキャディーさんが御菓子を用意して待ち受けているとのこと。だから、相当、おモテになることは間違いないらしい。ただし、先生を待ち受けるギャディーさん達の平均年齢は……いや、みなまで書くまい。

 そんな陽気な邦哉先生だけれど、さて、しかし、一皮剥けば、この先生ほど真面目な調教師さんはいないのである。

 昭和29年、馬の里として知られる岩手県遠野の農家に生まれた邦哉先生は、幼少期から馬の世話をし、馬と共に木の切り出し作業のために山に入った。

 そんな姿を見た知り合いの馬主さんから、「そんなに馬が好きなら、ばんえい競馬っていうもんがあるから、そこで働かないか」と誘われたのが17歳の時。以降、四十年近く、馬一筋に歩んで来られたけれど、「一度だって故郷に帰りたいと思ったことはないな」というほど、このお仕事に喜びと誇りを持ってらっしゃるのである。

 厩務員時代も、少しでも多くの馬を見るために、休みを取っては馬市に出かけた。

 そうした研究熱心さが、調教師となった邦哉先生に名馬を発掘せしめる。ばんえい記念で、三度、史上最強馬スーパーペガサスと死闘を繰り広げたミサキスーパーだが、1歳のセリでは買い手が付かなかった「売れ残り馬」。

 「けどさ、朝から馬市に行って、ずらっと並んだ馬を見て歩いたんだけど、『これだ』って思ったのがミサキスーパーでさ。体は小さかったけど、なんとも言えん、いいマナコ(目)してさ。『この馬はどうしたって手に入れんきゃならん』と思ったよ」

 こうして馬主さんに買ってもらったミサキスーパーは、鈴木厩舎に入ったが、邦哉先生の見込み通り、調教を始めると素晴しい動きを見せた。

 「とにかくさ、あの馬が引くとソリが左右にブレないんだわ。普通の馬なら、歩くと、どうしてもソリを振ってしまうんだけど、あの馬は真っ直ぐに引くんだわ。それだけ四肢のバランスが良かったってことさ。そういう馬は滅多にいるもんでないよ」

 厩務員時代から寸暇を惜しんで馬を見続け、そこから生み出した「美学」。その美学が、ミサキスーパーという大器を射止た訳である。

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引退式でのミサキスーパーと鈴木勝堤騎手(2007年1月27日)

 そんな名調教師にも、一昨年、存廃問題は容赦なく襲い掛かった。

 「競馬がなくなったらどうしようとか言う前に、とにかく、この競馬を残さんきゃ、って無我夢中でさぁ」

 無類の馬好き、根底に真摯さを持つ邦哉先生だから、存続が叶った今も、服部義幸調教師、小林長吉調教師と共にファンサービスに奔走する。リッキーに続いて帯広市役所嘱託職員となったミルキーも邦哉先生の管理馬。今もミルキーと共に、イベントや保育所、学校へと飛び回る邦哉先生なのである。

 「とにかく、俺は、みんなの力で支えられてここまでやって来たんだ。だってよ、右も左もわからないアンチャンの時に、仙台空港から飛行機に乗ってこの世界に連れてこられてさ、それから、ずっと厩舎で暮らして来たんだもん。馬が好きで、ずっとこの道で来たんだもん。皆さんのお陰で、ばんえい競馬が続けられるっていうだけで有難いさ。それだもん、俺にやれることなら、何でもやる。いや、やらせてもらうさ」

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邦哉先生とミルキー

 先日、追突事故に遭われた邦哉先生。

 「止まってるところにぶつけられたから、車を降りて行ったら、相手は、小さい子を連れた若い母さんでな。『子供、大丈夫だったか?』って聞いてもブルブル震えて口がきけないんさ」

 黒塗りの大型車から、眉間に皺を寄せた邦哉先生が出てきたら、若い女性でなくても震え上がるだろう。

 強面で、ちょっとエッチで、しかし、無類の馬好き、競馬を心から愛する凄腕調教師の姿を見て、つくづく「ばんえい競馬っていいな」と思うのは、私だけではあるまいて。

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