今週は真夏のスプリント決戦「クラスターカップ」ウィーク。毎年、お盆の頃に実施され、岩手競馬の恒例行事として定着している。今年は8月15日(日)、第10R(発走17時05分)。1着賞金が昨年より200万円アップされ、2008年(第13回 1着プライドキム)以来、1着賞金3000万円で行われる。
創設はOROパーク完成年の1996年。いきなりJRA、地方競馬全国交流でスタートしたのには背景がある。前身は早池峰賞。意外に知られていないと思うが、早池峰賞は年に1回、オープン特別で行われていた旧盛岡競馬場(緑ヶ丘)の名物レースだった。
盛岡1100mを舞台に毎年、お盆に実施。年に1回のオープン馬の短距離戦は非常に人気が高く、別名"電撃の5・5ハロン戦"と呼ばれ、個性派が毎年優勝。2000mが主流だったオープン重賞とは違う顔ぶれ(距離関係なしにエントリーした馬もいたが)がそろい、自慢のスピードを競った。
個人的にファンだったのが第9回、第10回を連覇したアカネプリンス。ボールドコンバタント(ボールドルーラー系)産駒で重賞では入着一杯だったが、早池峰賞で持てる能力=スピードをフルに発揮した。余談だが、当時の愛車を『アカネプリンス』号と名付けていた。もちろんアカネプリンスのスピードにあやかった。
その評判を受けて新盛岡競馬場(OROパーク)ダート1200mを舞台にクラスターカップが創設されるに至った。命名理由はJRA、各地方競馬場をスタークラスター(星団)のたとえ、地方競馬で唯一、ダートコースと芝コースを持つ岩手競馬が、星団をつなげる懸け橋になりたい―という想いを込めた。
昨今、コロナの影響で"クラスター"はあまりよろしくない意味で使われているが、創設当時は命名由来も含め、素晴らしいレース名と各方面から絶賛されたものだった。
なお、早池峰賞はその後も継続され、12月の短距離重賞、またクラスターカップへの道、岩鷲賞トライアルで実施されたこともあったが、2016年、「早池峰スーパースプリント」の創設に伴って発展的解消。早池峰賞は41年の歴史でピリオドを打つことになった。
レースにはそれぞれ歴史があり、いろいろな局面で姿かたちも替わることがある。クラスターカップ創設の秘話として読んで下されば幸いだ。
今週の岩手競馬
8月13日(日) メイン10R 「第3回いしがきマイラーズ」(盛岡芝1600m)
8月14日(月) メイン12R 「竜胆特別」(A級三組 盛岡ダート1600m)
8月15日(火) メイン10R 「第28回クラスターカップ」(JpnIII 盛岡ダート1200m)
7月24日(月)、第10R・B2二組(盛岡ダート1600m)で1番人気に支持されたエスペルトが7馬身差で圧勝。この勝利で管理する板垣吉則調教師は通算1000勝を達成した。
板垣吉則調教師は1996年、上山競馬でデビュー。與那覇アナウンサーいわく"柿ピー"の愛称で2000年、2001年と2年連続でリーディングジョッキーに輝いた。その後、上山競馬の廃止に伴い、2004年から岩手競馬へ移籍。2005年6月、通算1000勝をマークした。しかし体調不良のために2010年、調教師免許取得とともに騎手免許を返上。
調教師開業とともに白星を次々と積み重ね、2015年には127勝。岩手競馬の調教師最多勝利の記録を大幅に更新した。今回の調教師1000勝も史上最速での記録達成となった。
板垣吉則調教師「ここまでリーディング7回ですか。やはり勝負の世界、結果を出してナンボの世界ですからね。開業当時から勝ちにこだわることを考えてやっています。そう、数字と言うよりは結果にこだわっていきたいと思っているので、その結果が数字につながって1500勝、2000勝となっていってくれるなら嬉しいですね」
今年も7月25日時点でリーディングトレーナー首位に立っている板垣吉則調教師は岩手県競馬調騎会会長の重責も務め、多忙を極めている。
話は前後するが、23日(日)、3歳・地方競馬全国交流「第11回ハヤテスプリント」(盛岡ダート1200m)が行われ、大井代表・スタードラマーが早め先頭に立ったクラティアラをきっちり差し切り、初重賞を手にした。
吉原寛人騎手「スタートで置かれないよう気をつけたが、互角で出ることができたので、いい位置を取れた。勝負どころで離され気味になったので届かないかと思ったが、直線の坂あたりの速力がすごかった。中間、暑かったので体調管理が大変だったと思うが、とてもいい状態に仕上げてくれたのも勝因です」
須田和伸調教師「この前(優駿スプリント)で一杯に仕上げたから、今回はその体調を維持できるかが課題だった。でも盛岡は涼しくて気候が良かったので、いい感じで臨むことができた。優駿スプリントの時はパサパサの砂でキックバックを嫌がっていたが、今日は良馬場でも水気が残っていたのが良かったと思う。この後は休養に入る。秋以降は古馬との戦いになるから、それに向けて準備をしたいと考えています」
須田和伸調教師は旧知の間柄だった。1990年代、JBC創設の話を聞き、毎年アメリカのブリーダーズカップを取材したが、須田和伸さん(当時は厩務員)も研修でブリーダーズカップにきて知り合った。今回は優勝インタビューでの再会だったが、自分のことのようにうれしかった。
今週の岩手競馬
7月30日(日)「第45回せきれい賞」(地方競馬全国交流 盛岡芝2400m)
7月31日(月)「第24回フェアリーカップ」(牝馬準重賞 盛岡ダート1800m)
8月1日(火)「第24回若鮎賞」(2歳 芝1600m)
先週9日(日)、3歳・地方競馬全国交流「第24回オパールカップ」(盛岡芝1700m)が行われ、単勝1・8倍の1番人気に支持されたラビュリントス(牝3歳 父キンシャサノキセキ)が4馬身差で圧勝。余裕の逃げ切りを決めた。
本田正重騎手「テンションがちょっと高くて引っ掛かりそうだったから、自然とハナに立つ形になった。道中は力んで走っていたが、余裕があったし、最後は緩めるぐらいの感じでゴールに入った。前回(橘ステークス)、1400mを使いましたが、そのぐらいの距離がベスト。1700mは気持ち長い気がしたので、できれば前に壁を作りたかったが、行く気を優先した。ここ2戦JRAの強いメンバーと戦って、馬自身も力をつけていると思います」
内田勝義調教師「JRA2戦を使った後は、このオパールカップを目標に態勢を整えた。今回、改めて盛岡芝適性の高さ、強さをお見せすることができた。次走は馬の状態を見ながら、オーナーさんと相談して決めたい」
ラビュリントスは川崎移籍後、2戦連続でJRA芝へ挑戦した。昨年、知床賞、芝交流・ジュニアグランプリを連勝。これで盛岡交流3戦3勝としたが、盛岡芝の適性は相当レベル。個人的にはOROカップを目指してほしいと思うが、選択肢の中には間違いなくあるはず。今後の動向に注目したい。
11日(火)は岩手版オークス「第37回ひまわり賞」(盛岡ダート1800m)。こちらも単勝1・1倍、圧倒的1番人気に支持されたミニアチュール(牝3歳 父ラブリーデイ)が大差で圧勝。転入後、無傷の7連勝を飾り、重賞6連勝。世代トップの実力をまざまざと見せつけた。
山本聡哉騎手「今日は絶対に勝たなければならないレースだと思って臨んだ。位置取りは出たなりだったが、出脚があるのでハナに立つことになった。道中の手応えも抜群。3コーナーで大丈夫だなと思った。2着の馬(ケープライト)も自分が乗っていた馬でしたし、東北優駿も強かったので、不安を持たずに乗った。前回、初めての盛岡だったダイヤモンドカップは最後で止まってしまったが、今日は1800mでもしっかり伸びてくれました」
佐藤祐司調教師「やはり左回りだとぎこちない面があるが、それで圧勝ですからね。改めて強い馬だと思った。次走は不来方賞へ直行予定。牝馬だが、牡馬クラシック三冠を取りたいと思っていますし、その先も視界に入っています」
牝馬の岩手牡馬クラシック三冠制覇は史上初の快挙。今回のレースパフォーマンスを見れば不来方賞=盛岡ダート2000mも問題ない印象。佐藤祐司調教師のコメントには入れなかったが、"その先"とは今年で終止符を打つダービーグランプリ。まずは三冠制覇へ万全の態勢で臨むことになる。
今週の岩手競馬
7月16日(日) メイン11R 「スプリント特別」(オープン 盛岡ダート1000m)
7月17日(月) メイン12R 「第27回マーキュリーカップ(メイセイオペラ記念)」(JpnIII 盛岡ダート2000m)
7月18日(火) メイン12R 「第46回桂樹杯」(オープン 盛岡芝1700m)
6月20日(火)は今年で51回目を数える岩手競馬の最高峰「第51回一條記念みちのく大賞典」(水沢2000m)。何度もお伝えしたが、優勝馬の馬名は盛岡、水沢をメインに往復する馬運車に刻まれる。昨年の覇者ステイオンザトップ号は昨年から走り始めている。
ふと思い、いつからみちのく大賞典を見ているんかな―と調べてみたら第9回、イチコンコルドオウが優勝した時からだった。鞍上は現調教師・伊藤和元騎手。当時は中央の元スターが主役を演じてきた。スリーパレード、テルノエイト、ハシクランツ(アメリカ・ワシントンDCインターナショナルにも挑戦)、ボールドマックス、サクラハイデン。オールドファンなら覚えている馬も多いはず。元中央の大物が転入すると、ライバルも意地になって元中央馬を岩手入りさせた。
その流れを変えたのはトウケイニセイの叔父トウケイフリート(第16回=1988年)だが、岩手デビュー馬が一気に頭角を現したのはスイフトセイダイ、グレートホープだった。
スイフトセイダイは2歳時から"東北の怪物"と言われ、第4回ダービーグランプリで初優勝をもたらした。以降も積極的に遠征を試み、東京大賞典はあのロジータの2着。JRA・オールカマー(5着)にも挑戦した。
地元に戻れば当然、圧倒的な強さを誇ったが、スイフトセイダイに挑戦状を叩きつけたのがグレートホープだった。おばあさんは天皇賞馬クリヒデ。父がノーザンダンサー系ノーザリー。岩手の主要重賞でスイフトセイダイと何度も激突したが、いつも屈服。それでも"スイフト越え"の目標をあきらめず挑戦し続け、2度目のみちのく大賞典(第19回=1991年)でついに同着。スイフトセイダイに挑戦9度目で初めて肩を並べた。
しかし以降は完膚なまでに叩きのめされたが、3度目のみちのく大賞典(第20回=1992年)で悲願の"スイフト越え"を果たした。今でも鮮明に覚えている。2頭は徹底的にマークし合い、直線は馬体をぶつけながら一進一退。最後はスイフトセイダイが根負けして3着(2着はホワイトシロー)。グレートホープはスイフト挑戦12度目にして、ついにスイフトセイダイを破った。
このスイフトセイダイvsグレートホープの戦いが岩手競馬の一大転換期。馬券だけではなく、スポーツにまで昇華した。もちろん1着スイフトセイダイ、2着グレートホープは枠連(当時は馬連もなかった)は200円以内。それでも通常より約1・5倍のファンが競馬場を訪れ、ライバル対決を楽しみ、そして興奮した。自分もその一人。両馬とも盛岡競馬場所属だったので、攻め馬の状態を目の前で見た。
以降、トウケイニセイ、モリユウプリンスのTM対決。またメイセイオペラは史上初の3連覇達成の偉業を達成した。なぜメイセイオペラはみちのく大賞典にこだわったのか。高額賞金もさることながら、故佐々木修一調教師は厩務員から調教師になった叩き上げ。みちのく大賞典の重みを誰よりも知っていた。
第45回、第46回を連覇したエンパイアペガサスは5年連続でみちのく大賞典へ挑戦。第47回、第48回は3着の屈辱を味わったが、第49回を見事優勝。メイセイオペラ以来のみちのく大賞典3度制覇の偉業を達成した。
駆け足でみちのく大賞典の歴史を紹介したが、地方交流、ダートグレードがスタートしても「一條記念みちのく大賞典」は今も昔も、今後も岩手競馬の最高峰。その一片をご理解いただけただろうか。
今週の岩手競馬
6月18日(日) 「ウィルテイクチャージ特別」(C1級 水沢1600m)
6月19日(月) 「スプリント特別」(オープン 水沢1300m)
6月20日(火) 「第51回一條記念みちのく大賞典」(オープン 水沢2000m)
先週5月28日、3歳重賞「第11回イーハトーブマイル」(水沢1600m)は、1番人気に応えてケープライト(父ジャスタウェイ)が優勝。昨年、若鮎賞に続いて重賞2勝目を飾った。
ケープライトは今シーズン、牝馬重賞・あやめ賞から始動したが、マイナス15キロで出走。休み明けだったにもかかわらず大幅体重減。馬体に張りがなく、結果も7着。前途に暗雲が立ち込めたが、以降は立て直しに専念。続くダイヤモンドカップはプラス8キロ。まだまだ物足りない印象だったが、それでも5着確保で実力の片りんをのぞかせた。
それから1ヵ月後、イーハトーブマイルに照準を合わせて調整。今回は輸送のない地元競馬も要因だったと思うが、プラス14キロの433キロまで回復。パドックでも気合いが乗り、本来の張りも取り戻していた。
パドックは最終チェック場所だと改めて思った。おそらく、あやめ賞と同じ状態だったら勝利することができなかった。みなさん、我々の予想、想定は2日前確定。当時の気配をチェックすることはできない。パドック解説も一部、担当させてもらっているが、あれ?太いな、とか、あれ細くなったな、と思ったケースは多々。同様に気合い、歩様の変化にも気づくことがある。発売締め切り前に必ずパドック気配をチェックしてほしい。
本題に戻りたい。山本聡哉騎手「今日の馬場は内枠が有利。外枠を引きましたからね。強気に行くと外を回らなけばならないので、前半は控えた。マークしたのは逃げたときのリスレツィオ、あとは状態が良く見えたタイセイヴィゴーレを見ながらレースを進めた。前にいたマツリダワールドも成長しているのを感じていたが、渋太く粘っていた。それでも(ケープライトが)きっちり差し切ってくれた。今回はあやめ賞以来、久々にまたがったが、ようやく調子が戻ってきた。きゅう舎スタッフが頑張って立て直してくれました」
続いて佐藤浩一調教師「無理に使わず我慢した甲斐があって、ようやく本来の体を取り戻してくれた。攻め馬でもパワーを感じるようになっていたから、今日はやれると思って臨んだ。次開催に東北優駿がありますが、ローテーションもきついのでスキップすると思う。おそらく昨年のトーセンキャロル(ひまわり賞、OROオータムティアラの牝馬二冠を獲得)と同じステップになるでしょうね」
言うまでもなく牝馬は非常に繊細。調子を維持するのに苦労するし、立て直すのはさらに大変。ケープライトは東北優駿の選択肢もあるが、佐藤浩一調教師のコメントどおり、スキップする可能性が非常に高い。
それにしても山本聡哉騎手の重賞制覇数の多さには舌を巻く。2023年度開幕のスプリングカップ=ミニアチュールを皮切りに、赤松杯=グローリーグローリ、留守杯日高賞=ワイズゴールド、栗駒賞=ゴールデンヒーラー、ダイヤモンドカップ=ミニアチュール、あすなろ賞=グローリーグローリ、そしてイーハトーブマイル=ケープライト。5月21日、シアンモア記念以外は重賞を総なめにしている。5月時点で重賞7勝は間違いなく岩手競馬の新記録。今週の早池峰SSではカタナに騎乗する。3連覇を狙うキラットダイヤは強力だが、果たして結果はどうなるか。
今週の岩手競馬
6月4日(日) 第8回早池峰スーパースプリント(オープン 水沢850m)
6月5日(月) 初夏特別(A級一組 水沢1600m)
6月6日(火) 撫子特別(A級三組 水沢1600m)