あ゛ーっ!悔しいですね。実力があるのは間違いないのに、どこか歯車が噛み合わずにそれを発揮できない。本来の力を信じているだけに、歯がゆい想いがつのります。
何の話かって? フランスはパリで行われた柔道ワールドカップですよ。この大会は各階級1人・計7名の団体戦で争われ、これに柔道発祥の地のメンツをかけて臨んだ日本チームでしたが、女子が準々決勝でフランスに敗れ3位。男子はなんと初戦で、こちらもフランスに敗北を喫し敗者復活戦にまわったものの、今度は3位決定戦で韓国に完敗しメダルを逃してしまいました。特にオリンピック金メダリストの野村選手が明らかに調整不足。チーム全体の流れを担う先鋒でつまずいてしまったのが大きかったと思います。
ほぼ同期間に開催されていたシンクロナイズドスイミングのW杯では、日本は全種目メダルを獲得したものの(これでも相当スゴイことですが)、完璧な演技を見せたロシアには全く歯が立たない状態。F1では鈴木亜久里が率いる日本チーム「スーパーアグリ」が現実的な目標である最下位脱出さえままならず、WRC世界ラリー選手権ではスバルが長いトンネルから抜け出せずにいます。もちろんサッカーのW杯もでしたが、このごろ私が応援する勝負事はなかなか良い結果になりません。なんかこう、夢の中ではしっかりと掴んだ勝利が指の間をすり抜けていくような感じ。心の底から応援した選手の勝利の笑顔を見て、私もすっきりとした気持ちになりたいものです。
さて、フェイントはこのぐらいにしてオウシュウクラウンです。どうも本調子ではなかったようで(本ブログ9/19参照)、掲示板を外す7着という結果に終わってしまいました。調整も順調、「パドックでは良く見えたんだけどね」という声も多く聞かれ、これがいわゆる“見えない疲れが溜まっていた”という状態なのでしょうか?しかし忙しいローテーションの中で遠征したジャパンダートダービーであの走りを見せたのに、前走から1ヶ月おいてじっくりと仕上げたはずの今回がこうなってしまうとは… 馬って本当に難しいですね。
一方、実力を存分に発揮したのは牝馬サイレントエクセルでしょう。彼女の健闘で我ら岩手のファンも多少は溜飲を下げることが出来ました。地元でレースを見ていない方が馬柱だけ目にすれば、この馬は牝馬同士では連勝しているけれど男馬とGIの舞台で競ってはどうか?と思っても無理ありません。地元のトラックマンでさえ予想紙の印はあまり回せませんでしたが、しかしサイレントエクセルの勝ちっぷりを生で見ている我々には、煌めきというかオーラというか、すごく迫力があって大物感がビシビシと伝わってくる感じなのです。この調子で成長を続け、2001年のJRA福島・ラジオたんぱ賞GIIIでネイティヴハートに次ぐ5着に入着した、セイントリーフをも超える存在になって欲しいですね。
それにしても、サイレントエクセルが勝馬から首+1馬身半の着差。オウシュウクラウンが100%の力を出していればサイレントエクセルの2〜3馬身前にいたと思われ……いや、タラレバは止めましょう。あのメイセイオペラもダービーグランプリ10着からGIへの階段を登りました。今はただオウシュウクラウンの実力を信じ、復活を祈ることにします。
(文/佐藤 到)
今度の週末からは再びの盛岡開催。そしていよいよダービーグランプリがやってきます。いやぁ〜、今年はなんとも言えぬ期待と緊張感。なんといっても統一GIとなって初めて地元馬優勝が現実のものとなる可能性が出ていますからね。
その馬の名は皆さんもうご存じでしょう。そう、オウシュウクラウン! 本番を目前に控えた今、陣営も小林俊彦騎手も、そして馬自身も岩手の期待を一身に背負って巨大なプレッシャーと戦っていることでしょう。だからあまり勝て勝て言ったり書いたりしたくないのですが……、あ゛ーっっ、でもやっぱり勝って欲しい!と言っちゃいます。岩手はメイセイオペラ、トーホウエンペラー以来のヒーロー出現を待ちわびています。トニージェントが届かなかったグレードタイトルの夢を、ほんの少し時代が早すぎたトウケイニセイの分まで、オウシュウクラウンが叶えてくれることを信じましょう!
話は変わりますが、このダービーGPというレース、2000年の第5回まで11月に行われていたことを覚えていらっしゃいますでしょうか。11月の盛岡といえば冬は目の前。天気の変動が激しい時期ですから、気圧配置によっては思いっきりな寒波に襲われることも珍しくありません。実際、98年のダービーGPが予定されていた日には、なんと朝から雪が降り続き(!)昼ごろには2〜30cmの積雪が。ついに主催者は5レースで開催打ち切り、ダービーGPの延期を決定せざるを得ず、わざわざ高知からやってきたカイヨウジパングも出直しとなったのでした。このときダート三冠に王手がかかっていたウイングアローは、小回りの水沢に変わった翌月のレースで、身追い込み届かず3/4馬身差の惜敗。マイケル・ロバーツ騎手騎乗のナリタホマレが戴冠となったのでした。
今年のダービーGPには、そのウイングアローの産駒、サイレントエクセルも出走します。この馬も、さすがにオウシュウクラウンとの直接対決ではかなわないものの、3歳牝馬としてはズバ抜けた能力を見せており、このメンバーでどこまでやれるのか、大変楽しみな存在です。
というわけで岩手の競馬ファンにとってはいやがおうにも盛り上がる今年のダービーGP。フサイチリシャールの参戦もあって岩手だけでなく全国の競馬ファン注目の的となりそうですが、9月とはいえ天気によってはかなり寒くなることもあります。さすがに98年のように降雪ということはないと思いますが、関東以南から本場にお越しの方は、念のため寒さ対策を万全に。
1998年ダービー・グランプリ/優勝・ナリタホマレ
(文・写真/佐藤到)
既にご存じの方も多いと思いますが、メイセイオペラが韓国済州島での種牡馬生活を始めることになりました。これについて、ややもすると馬産地日高からの“都落ち”のように感じる人もいることでしょうが、私はそうは思いません。日本で生産する競走馬の配合を考えるとき、最大最高の目標は日本ダービーをはじめとする中央GIと誰もが考えるでしょう。日本の競馬は良くも悪くもJRAが中心。一方、ダートで行われている韓国競馬では、既に日本から輸入されたメイセイオペラ産駒が好成績をあげており、種牡馬としての評価が高まっているそうです。それに、盛岡競馬場でオーナーの小野寺さんとレンタル先のキム氏が対面した際、私もカメラマンとして同席させていただいたのですが、キム氏は、メイセイオペラが岩手の、そして地方競馬のヒーローであることをとても良く理解しようとしていると感じました。
望まれて赴くなら、それは種牡馬としての花道。これは嬉しいニュースです。
さてもうひとつ、岩手にとって嬉しいニュース。もう一頭の“岩手の雄”トーホウエンペラーが、地方競馬のファーストシーズンサイヤーでリーディング1位になりました!(8月29日現在・日本軽種牡馬協会調べ)これは同じく今年、初年度産駒がデビューしたナリタトップロードらを抑え、種牡馬全体でも14位に入る立派なもの。エンペラー自身が血統に裏打ちされたブライアンズタイム産駒ですから、走る仔が出るぞとは引退時から言われていましたが、期待以上の好成績です。
岩手ではこれまで4頭のトーホウエンペラー産駒がデビューを果たしており、残念ながら未だ勝ち星は上げていませんが、今後の活躍に期待して良いでしょう。この4頭、間もなく発売される「テシオ」でも取り上げていますが、こちらでも彼らの写真をご覧に入れたいと思います。応援の意味を込めて、いつもよりちょっと大きめのサイズでどうぞ!
先の日曜日、盛岡競馬場において「東北輓馬競技盛岡競馬場大会」が行われました。これは昨年、競馬場の芝コース内側にある補助走路を利用して輓馬のコースを造成し、岩手県競馬組合の主催で開催したもので、去年は2回行われましたが今年は初めての実施になります。
東北には、まだ個人で馬を飼っている方が少なからずいらっしゃいまして、なかでも輓馬を持っている人たちは、各地の草大会に積極的に参戦しています。みなさん日曜日の早朝、馬運車に馬と家族と食事の用意を乗せて東北各地どこへでも行くんですね。
輓馬競技・馬力大会は青森・岩手・秋田・宮城・山形などで行われていて、コースは北海道のばんえい競馬同様、直線200mの馬場に障害と呼ばれる山が作られます。他の会場は河川敷などで行われているところが多いので、砂や泥が深くなることがありますが、オーロパークのコースは本走路と同じ堅い路盤の上に浅く砂が敷いてあり、また障害もひとつなので、タイムの出る高速コースのようです。しかしそれでも最大1t近い重荷を曳く馬たちは、3mほどの高さの山を苦しみながら、引き手の掛け声に励まされ、鞭に気合いを入れられながら越えていきます。その時の馬の形相といったらホントに必死な顔で、見ているとこちらも自然と力が入ってしまいますよ。
今回の大会には、岩手、青森、宮城から合計39頭が参加しました。これは昨年に比べちょっと少なめですが、同日に青森県のつがる市でも大会があって分散したことを考えれば、たくさん集まったのではないでしょうか。また今回は初の試みとして、「人間馬力大会」が同時開催されました!人間馬力大会とは男性が4tトラックのタイヤ、女性は軽自動車用のタイヤを曳いてコースを走るというもので、お昼休みのアトラクションとして行われ、当日飛び入りで募った参加者21名が障害に挑みました。これには観客も大ウケ…だったようです。
「ようです」と書いたのは、筆者が見てはいないから。この日は日曜日で、水沢競馬場では通常通り競馬を開催しているため、私はオーロで輓馬のはじめ3レースだけを見たら、急いで水沢に移動しなければなりませんでした。う〜む、残念。
もちろん競走馬が走る隣で輓馬をやるわけにはいきませんし、仮にやるとすれば観客はスタンドから輓馬を見ることになってしまいます。盛岡競馬場大会では、お客さんは開放された芝コースから間近で観戦することが出来ましたが、スタンドからでは輓馬の魅力である障害を越えるときの馬の息づかいを感じられません。当然、防疫の問題等もありますし、仕方のないことなのでしょうね。
このようなイベントを開催することによって競馬の売り上げも、少々でも確実に伸びるそうなので、これからも毎年、輓馬競技が開催されると良いですね。もちろん通常業務の傍ら輓馬の準備をする職員は大変だと思います。しかし、実はスタッフの中心となっているのは、自らも輓馬を持ち各地の大会にも参加しているSさん。熱心なSさんならきっとやってくれることでしょう。
先日、近々発売される「テシオ」Vol.42に掲載する記事の取材のため、盛岡市内にある「塩釜馬具店」をお訪ねしました。
このお店は大沢川原という、盛岡の中心街・大通りからわずか300mほどしか離れていない場所にあります。しかしこの近辺は、一方通行の狭い通りが幸いしてか新しい店舗は少なく、農作業の道具を製作する鍛冶屋さんや、おそらく大正時代からの姿そのままで営業を続けている旅館、その名も「大正館」などがあり、ぶらりと歩くだけでも何か懐かしさを感じるところ。塩釜馬具店さんも、正面こそ入り口をアルミサッシにするなど改装が施されていますが、ちょっと中を覗けば、相当に古い板張りの店内がいかにも歴史を伝えるという感じです。
実は塩釜馬具店は、私が十数年前に盛岡に越してきたときから気になっていて、「おぉ〜っ、今でも馬具屋さんがあるなんてさすが南部だなー」と感心して見ていました。その後、何かの縁があったのか私は競馬カメラマンという形で馬に関わるようになり、テシオに企画を提案して、このたび取材をお願いすることになったのです。
詳しくは本誌のほうを読んで頂きたいと思いますが、わずか1ページの記事では書ききれなかったことが沢山ありました。その中のひとつは、本誌でもちょっとだけ触れた「熊よけの鈴」。
熊よけ鈴とは、登山者などが熊とばったり出くわさないために、歩くと音がするように体やザックに付けておく鈴で、塩釜さんが本業の馬具の他に作っている製品のひとつ。やはり馬自体が激減している現在、馬具だけでは商売が成り立たないのだそうですが、いわば副業的製品が「職人の技で手作りされた逸品」ということでTVなどでも紹介され、大変な人気になっています。実際、私が取材をしている間にも関西から観光ツアー中の団体が大型バスで店舗前に乗り付け、愛犬用にとハーネスなどを買い求めて行きました。
さてその熊よけ鈴。“土台”と呼ばれるベースの部分が上質の牛革で出来ており、とてもしっかりしています。これにトロイカ鈴という、もともとはシベリアでオオカミよけに使われていたという鈴が2つか3つ付くのですが、この厚みのある真鍮製の鈴が大変いい音を奏でます。近いもので言えば南部鉄器の風鈴でしょうか。とても深みのある優しい音色なのです。そしてこの鈴は飛行機の機体組み立てにも使われていたという“沈頭鋲”でしっかりと取り付けられるのですが、これを狭い“鈴口”から道具を差し込んで留める技術が、いまはもう出来る人が少なくなっているのだそうです。お値段は4500円からですが、この音色と職人の技をこの手に出来るなら、その価値は十分あるでしょう。私もとても気に入ってひとつ買いました。今はこれを腰につけて登山に行くのが楽しみです。
現在、店頭で黙々と作業するご主人の孝さんは、一度は県外に出て大学へ進学・卒業した後、Uターンして家業を継いだといいます。私事ながら筆者の実家も祖父の代からの駄菓子屋でして、私自身「跡取り息子」なのですが、自らの夢のために勝手をさせてもらい今の道を選びました。
南部の歴史を背負った伝統の職人さんと、近所の小学生が10円玉を握ってやってくる駄菓子屋ではその重みが違うとはいえ、塩釜馬具店の年季の入った柱や床は私の実家と同じ色をしており、いろいろと考えさせられる取材となりました。