新しい年、皆さま、明けましておめでとうございます。
岩手は穏やかな正月を迎えました。というと普通は良いことなのでしょうが、これほどの暖冬となるとやはりどこか不安になってしまいます。夏の暑さにしろ冬の寒さにしろ、自然の中では無いほうが良いものなどは無く、過ごしやすいのを喜びつつも農作物への影響などを心配しなければなりません。以前聞いた話によると、岩手県内における家電やカメラなどの高額消費財の売り上げは、農作物の豊作凶作と少なからぬ連動が見られるとか。なんだかんだ言ってもやっぱりこの地域の経済基盤は農業が支えているのだなぁと思いました。やはり冬は凛として寒く、しっかりと雪が積もるのが本当なのでしょう。それに私たちも雪景色を楽しむぐらいの気持ちを持たないと、こんな寒さの厳しいところに住んでいられないというのもありますしね。
しかし競馬場にとっては馬場管理の苦労が減り、開催中止の心配をする必要もなくお客さんも来やすいということで大助かりです。苦しい時期のこの岩手競馬に、多少なりとも天の加護があったのかもしれません。
前回に続いて馬場管理のお話を。厳寒時には馬場が凍結するとは言いますが、もちろん舗装道路の凍結のようにツルピカになるわけではありません。そのかわり水分が砂を抱え込むように固まり、ゴロゴロとしたダマになって非常に走りにくい馬場になるんですね。この状態で無理に走ると馬の脚に負担が大きく怪我をしやすいので、固まりを砕いて砂に鋤(す)き込むように、係員が何度もトラクターで往復します。
そして日中、気温が上がってくると、今度はこの水分が解け出し日当たりの良い場所から次第に水が浮くようになってきます。これが水沢名物の「泥田のような馬場」で、実際に手や足先で触れてみると、たぷたぷとした柔らかいプリンかゼリーのような状態。迂闊に足を踏み入れると人間一人の体重でもずぶずぶと足首までハマってしまいます。馬にとってこれは「脚抜きのいい馬場」となり、レースタイムは速くなるというわけです。
しかし水浸しの馬場をそのままという訳にはいきませんから、浮いた水分を排水しなければなりません。この方法がちょっと面白いのですが、砂に溝を切るという手法がとられています。これは走路に対して横方向に、トラクターに装着した機械またはグラウンド整備に使う「トンボ」に幅広の鍬(クワ)の刃が付いたような道具を使って人力で、10cmぐらいの深さに何本も溝を刻んでゆくのです。すると両側の砂から水分が流れ込み、川のようになって走路脇の排水溝に流れて行くのです。この流れはまさに実際の川のミニチュアで、三角州や浸食崖、河原などが見られ、小学校の理科を思い出します。当然この川も実際の川と同じように大量の砂を運び去りますので、この手法を何度か施したら走路に砂を補充しなければならなくなります。
ファンの皆さんは、午前中の時計のかかる凍結馬場と昼からの田んぼ馬場という変化をよく読んで予想して下さいね。
(文/写真・佐藤 到)
ラストスパート中のみちのくレース岩手競馬。恒例の年末年始特別開催ですが、今年は曜日の関係から特にタイトで、29日から3日間の開催が一日の休みを挟んで3セット連続となっています。当然、出走馬も不足がちになるためこの間は一日10レースという日が多くなるようですね。本当はひとつでも多くのレースをファンの皆様に提供したいところなのでしょうけれども、この時期は体調面や馬場状態の影響で故障を発生しやすいですから無理はできません。
一方、休み無しのでづっぱりとなるのが我々報道も含めた関係者。このようなスケジュールのイベントに関わっていると、毎年、開催が一段落するまで正月が来たような気分になれません。私はこの原稿を30日に書いていますが、まだ年賀状の準備も終わっていないという状態です。あ、それは単に自分が怠けているだけなんですけどね。
しかし開催日にやって来て写真を撮る、という仕事をしている私はまだいいのですが、馬場管理を担当している職員はこの時期もっと大変です。気象業者から届く天気予報や天気図・レーダー図とにらめっこしながら、ハローがけの深さや凍結防止剤(環境への影響が少ない物だそうです)の散布量を調節し、場合によっては砂を入れたり削ったり。雪が降れば除雪と調整作業で徹夜になることもしばしばで、天候によっては元旦も関係なく仕事に追われるかもしれないそうです。彼らのおかげで私たちは楽しく競馬観戦できると思うと、本当に頭が下がりますね。
余談ですが、他の競馬場では馬場整備用にメルセデスベンツ社のウニモグという荒地作業車を使っているのを良く見かけますが、岩手では主に農業用の大型トラクターを使用しています。また積雪・凍結時用には、スキー場でもよく使われているピステンが登場することも。これらは全て岩手独自で考えた工夫なのだそうです。
さて桐花賞の結果はどうだったでしょう?みなさまは懐暖かく年を越せそうですか?
ことし4月からお付き合いいただいたオッズパーク「テシオブログ」もあっという間に8ヶ月。誤愛読、…もとい御愛読いただき誠にありがとうございました。今年度年明けの1・3月開催、そして来年度も岩手競馬とテシオをよろしくお願いします!
(文/写真・佐藤 到)
またしても遠征競馬の難しさを味わうことになってしまいました。13日に川崎競馬場で行われたダート2歳馬の頂点競走、全日本2歳優駿GIに岩手から参戦したパラダイスフラワーでしたが、残念ながら9着。私も撮影+応援に現地へ行きましたが、若干入れ込み気味だったせいなのか、いつもの力強さをまったく出せずに終わってしまいました。
期待を膨らませて応援する私たちはついつい忘れがちになってしまいますが、競走馬という生き物にとって、何処ともわからない場所に連れて行かれ見知らぬ環境の中で競馬をするというのは大変なこと。西に東に飛び回り、どの競馬場でも力を出し切って戦える馬のほうがスゴイのであって、実力の半分も出せないのが当たり前といえば当たり前なのだ。ということを改めて教えられた先週と先々週でした。
ところで勝ったフリオーソ。この馬、馬っけは出すわヒンヒンいななくわでとても力を発揮できる状態には見えなかったのですが、それであの強い競馬で勝ってしまうのですからとんでもないですね。岩手の馬たちもこのぐらいの精神的タフさを身につけないと全国で結果を出すのは難しいということなのでしょう。もちろん、パラダイスフラワーもサイレントエクセルも、そしてオウシュウクラウンもまだまだこれからの馬。次の大舞台ではきっといいところを見せてくれるものと信じています。
さて先週の水沢競馬は時折、大粒の雪に見舞われました。といってもまだまだ本格的な雪降りではなく、地面がうっすらと白くなる程度でしたが、こうなるといつ開催が中止になるような天候の日があるやもしれません。冬の岩手競馬は、走路整備が追いつかないぐらいの降雪で人馬の安全が確保できないとき、視界不良により安全および競走の公正が確認できないときは主催者の判断で中止となります。皆さま、水沢本場にお出かけの際は公式ホームページ等の告知をご確認の上、出発して下さいね。
下の写真は18日(月)のメインレース、エクセレント競走のゲイリーエクシード。レースは菅原勲騎手騎乗のチュードサンデーが9ヶ月ぶりの白星を挙げましたが、先行有利の馬場でゲイリーエクシードもよく追い込んでクビ差の2着となりました。私の撮影ポジションからはどちらが前でゴールしたか判断しかねるので1・2着馬両方撮ったのですが、鉛色の空から降る白い雪と、その中を駆ける芦毛の馬体が照明に包まれ、なかなか雰囲気のある写真になりました。関係者には惜敗の写真を公開してしまって申し訳ないのですが、きれいに撮れたということでお許しを。
(文/写真・佐藤 到)
サイレントエクセル残念でした。満を持して挑戦の船橋・クイーン賞GIIIでしたが、手応え無く結果10着。どうやら輸送が堪えたようで、前日入厩してからもカイバをほとんど食べなかったそうです。逆に言えば実力で劣っていた訳ではありませんから、今後、環境の変化に耐性ができれば、とも考えられる結果でした。
それにしても遠征ってやつは難しいですね。サイレントエクセル自身、2歳のときには新潟や門別への遠征を平気でこなしていたのですが、成長と共に賢い馬になって、地元のレースでは力を発揮できるようになった代わりに、周囲の状況にはちょっと神経質になってしまったのかもしれません。今後、牝馬グレードに再挑戦するにしても、舞台はいずれも南関の競馬場。板垣騎手も「大井はモノレールの音がうるさいからなぁ…」と気にしていました。サイレントエクセルには精神的な強さを身につけ、全国の競馬ファンにその実力を見せつけて欲しいと思います。
私のような田舎生まれの田舎育ち生粋の田舎者にとって、東京は仕事や遊びで訪れることはあっても、決して長く住めるところではありません。今回も船橋の行き帰りに都内を少し歩きましたが、交差点や駅で他人の動きを予測し、ぶつからないように神経を張り巡らして行動するということが負担なんですよね。2〜3日間だから平気で歩き回っていますが、もしこれが毎日となったら神経が参ってしまうのではないでしょうか。このような人間を「田舎モン」と見下す人種もいるでしょうが、最近は田舎暮らしに憧れる「都会人」の方も多いそうですね。もし仕事や子供の通学のしがらみがなければ、今すぐにでも田舎に引っ越したいと考えている人も多いのではないでしょうか。
以前、東京の雑誌社の方と宮城の田園地域で撮影をしたときのことですが、田んぼの中で車を降りたときその方は、「すげぇ〜静かだ。全然音が聞こえない」と感動していました。それほど遠くないところで耕耘機のエンジン音やカラスの鳴き声がしているのに、です。よほど普段の騒音に包まれた世界とのギャップがあったのでしょう。やはりどっちを向いても人、どこまで行っても人工物という環境は、人間という動物にとって根本的に負担なのではないでしょうか。そして競走馬も、それを敏感に感じ取ってしまうのかもしれません。
そういえば某TV番組のアイドルグループが農村生活を営む企画や、某局のお金をかけずに田舎暮らしをしている「貧乏さん」を紹介する番組は毎回高視聴率を獲得しているそうですね。実は私も毎週見ています。都会と田舎、果たしてどちらが「豊かな暮らし」なのか…その基準は確実に変化しているようです。
(文/写真・佐藤 到)
ついに!今年もやって来ましたよ雪景色。きれいですよね〜好きですよ雪景色。もう何も言うことはありませんね。
ということで今週はこの辺で。また来週〜\(^O^)/
……と、そういうわけにはいきませんか。ダメ?…ですよねぇ。実はこれを書いているのは月曜の深夜。水沢で皆川麻由美騎手が初の特別制覇をしたシルバーステッキ賞を撮影し、盛岡に帰って夜中に書いた原稿を木曜日にアップしてもらっています。明日は列車に乗って南を目指し、船橋競馬場で行われるクィーン賞へ前日入り。いよいよサイレントエクセルが牝馬グレード競走へ殴り込みです。相手も牝馬路線の常連や中央クラシック組、それに昨年の全日本2歳GIでアテストを負かした馬もいて手強いですが、しかし岩手のファンならご存じのようにサイレントエクセルの強さも相当なもの。どんなレースになるのか、楽しみでなりません。
これがアップされる時点では結果が出てしまっているんですよね。そう考えるとちょっと複雑ですが、3日前の時空に存在している私は、そろそろ休ませて頂きます。
あ、でももうひとつだけ。月曜のメインレース・シルバーステッキ賞は、若手騎手が抽選で決定した騎乗馬を駆って腕を競う名物レースですが、これを現在、岩手競馬の紅一点・皆川麻由美騎手が見事な逃げ切りで制しました。普段からとっても明るい麻由美チャンは、いつも顔文字の(^^)←これそっくりな笑顔をしているのですが、このときばかりは半分、嬉し涙の号泣状態が混じって複雑な顔に。でもすぐに「やったぁー!!うれしいぃーっ!!良かったぁぁぁぁ!!」と弾けました。
そういえば先月、荒尾競馬場で開催されたレディースジョッキーズシリーズでは、2戦を終えて5位というポジション確保に加え、その日の2レースで勝ち星をあげるオマケつき。先日11/27には12番人気のミステリーチューンを2着に導き、百万馬券の片翼を担ぎました。いま彼女なりにノッてる皆川騎手、今週末はLJS第2ラウンドの高知へと向かいます。ライバル達は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの山本茜騎手をはじめ強力ですが、逆転を祈ってみなさんも応援して下さいね。
(文/写真・佐藤 到)