入場行進の花形のようでもあり、新聞と出走馬の間に視線を行き来させていれば目にも入らない存在でもある、それが誘導馬です。しかしどこの競馬場でも誘導馬は芦毛・白毛を中心にきれいな馬を使い、乗り役もフォーマルな出で立ちで目立つ存在であることは間違いありません。ところによっては誘導馬が折々の飾り付け?(クリスマスヴァージョンのメンコなど)をしてレースの盛り上げに一役買っていたりもしますよね。
昨年度まで岩手の誘導をほぼひとりでこなしていたのは、水沢農業高校乗馬部出身のK君。水農の乗馬部といえば全国大会の優勝者も出している名門で、現在の岩手競馬ジョッキーの中にもここの出身者が何人かいます。しかし彼の誘導は昨年度末で最後となりました。転職先はなんと!宮内庁!! 主馬班と言うのでしょうか?そう、あの「○○殿下ご成婚」などという時に馬車を御しているあの人たちですよ。すげっ!しかし本人は、「いやいや先輩方がたくさんいらっしゃいますから、最初はボロ取りからですよ。」と言っていました。
この時期に競馬関係の仕事を辞めるというと、「岩手競馬が見通し暗いから見切りをつけたんだろ」などと思われることもあるでしょうが、彼はそうではなく、何年か前から国家公務員試験に挑戦してしたのだそうです。
最後の誘導となった3月27日の11レースでは、気性の悪い馬が多かったため1頭も彼の後について行進をしないというオチまでつきましたが、気を取り直して ^^;) 新しい仕事場でも頑張って欲しいと思います。
もしかすると今はまだ幼い愛子さまや悠仁さまがパレードするときには、ワイドショーの画面のすみにK君が写るかもしれませんね。
もうひとつは悲しいニュース。岩手の誘導馬は白馬2頭でやっていましたが、そのうちの1頭、ロングシーマー号が急死してしまいました。
私はテシオの企画で、誘導馬体験を目標に乗馬の修行をしたことがあります。本番はより大人しい僚馬エイダイラビ号でコースに出たのですが、練習ではシーマー君に乗せてもらったこともありました。シーマーはラビよりも大きく、体もがっしりしていて若々しく力強い、とても元気な馬に思えました。時々は元気すぎて止まらなくなり、馬場の中をぐるぐる何周も暴走してしまうこともありました。そんなとき私は振り落とされまいと必死でしがみついていたのですが、そのとき感じたのは恐怖感だけではなく、スピードから来る爽快感と馬という生き物の躍動感が大きかったのです。ラビはとっても従順な良い子で初級者の私にはとても有り難かったのですが、シーマーからはそんなことを教えてもらいました。
14日土曜日の朝、いつものように午後の誘導に向けて準備をしていたロングシーマー号は、突然いつもは見られないぐらい暴れ始め、あれよという間に倒れて息をひきとってしまったそうです。そのときの話を聞くと、まるで脳溢血や脳栓塞で急死してしまう人間のようで、関係者がどんなに注意を払っていても防げなかったことだと思います。馬というのはあんなに大きくて力が漲っている生き物のようでも、頭部や心臓などの要因で案外突然に死んでしまうことがあります(特にサラブレッドは)。悲しいですがそれが馬なのですね。
先週の開催が終わった翌日、私は水沢の誘導馬厩舎に行ってシーマーのいた馬房にニンジンを供え、手を合わせて来ました。馬房にはちゃんとロウソクと線香立てが備えられていて、あとでシーマーのたてがみを場内にある馬頭観音に納めたそうです。
競馬場を去ってしまったロングシーマー号ですが、これからもずっと岩手競馬を見守ってくれているでしょう。
(文/写真・佐藤 到)
水沢1300mは走路に向かって右手のほう、ちょうどテレトラックスタンドの前あたりからの発走になります。
発走時間が近くなると係員が昇降機の付いた車両に登り、赤旗を振って出走馬に知らせます。すると待避所や走路上に散っていた出走馬が集まってきてスタートゲートの後ろで輪乗りを始めるのですが、水沢千三の場合はこれがスタンドの目の前で行われ、観客と出走馬との距離が本当に近いです。手を伸ばせば外ラチに届きそうなほどで、その外ラチのすぐそばまで人馬が輪乗りで回ってきますからジョッキーの表情や馬の気合い乗りが間近に観察出来るほど。耳をすませば騎手と沓(くつわ)をとる厩務員の会話も聞こえてくるかもしれません。ただ、このとき騎手や馬の様子から何か閃いても、馬券を買い足しに行くのはかなり急がなければならないと思いますが…
やはりこの近さが地方競馬の良いところなのでしょうね。一方の盛岡競馬場でも1800mがスタンド前からの発走になりますが、高低差もあって水沢千三ほどの近さはありません。そういう意味では地方屈指の施設を誇るオーローパークは、良くも悪くも地方競馬離れしているということなのでしょう。
ひととき輪乗りを行った出走馬は、時間が来ると発走係員の「は〜い、奇数番からいくよぉ〜っ!」という声が掛かりゲートの中へ誘導されて行きます。このとき枠入りを嫌がる馬は尾をとられ、尻にベルトをまわされてなんとかゲート内に収められます。(係員は大変でしょうが、これも見もの) そして全馬の体勢が整うと、いよいよ昇降機上の係員がレリーズを引き扉がオープン。ほんの一瞬、静寂が通り過ぎたあと、筋肉が弾け、砂が空に向かって蹴り上げられて馬たちがダッシュしてゆくのです。1300m発走地点はこれも至近距離で見られますし、馬群が1周してくればゴールへ向かって最後の競り合いも見ることが出来ます。
というわけでここは水沢のおすすめ観戦ポイント。レースのたびにパドックとこの場所を往復している慣れたファンも多いですよ。
(文/写真・佐藤 到)
この4月から、某国の国営放送連続テレビ小説で、盛岡を舞台とするお話が始まりましたね。みなさまはご覧になっていますでしょうか?見ていない方も多いと思いますのであらすじを書きますと、横浜でパティシエを目指す主人公は、婚約者の実家がある岩手・盛岡を訪れます。その実家は驚くほど大きな由緒正しき老舗旅館。婚約者の祖母でもある旅館の大女将が病に倒れ、主人公は急転直下、老舗旅館を継ぐために女将修行に励むことに…と、こんな感じです。
物語はまだ始まったばかりですが、初回スタート早々に主人公と婚約者が新幹線に乗り、盛岡駅を降りて駅前の北上川に架かる「開運橋」を歩くというシーンがオンエアされました。見慣れた風景も全国放送の電波に乗っている思うとまた違って見えますね。なんというか、自分の子供が発表会の舞台に立ったような(わたしはまだ子供いませんけど ^^;)そんな感じでしょうか。テレビに向かって「おいおい、なんで駅前のタクシー乗り場からじゃなくてわざわざ橋渡ってからタクシー乗ってんだよ!」とか、「岩手銀行中の橋支店の前を南に向かったのに、次のシーンで八幡宮を背にしてるなんてありえね〜、一体どこに向かってるんだ?」などと地元民ならではのツッコミを入れながらも、なにかワクワクするものがあるんですよね。
物語のほとんどを占め出演者が多く登場する旅館のシーンは、残念ながらほとんどがこのドラマシリーズ特有のスタジオセット、オープンセットでの撮影となるのでしょう。しかし盛岡市観光協会が発行している「ロケ地マップ」を見ますと、このあとも盛岡市役所対岸の土塀の通りや、宮沢賢治像のある材木町イーハトーブアベニューなどが登場するようです。それにしてもあの韓流スターまで山岸の中津川原に来ていたとは…一体いつの間に…
4月2日に放送された第1回は、初回視聴率としてはなんと歴代最低を記録してしまったとか。まぁ、大晦日の歌番組と同じで“国民みんなが見ています”という時代ではないですからね。仕方がないと思います。ともかく、これで岩手や盛岡への関心が少しでも高まってくれればいいのではないでしょうか。なにせ都会の人には「岩手の県庁所在地って岩手市?」とか「岩手と秋田はどっちがどっちかわからない」などと言う人までいるほど北東北は影が薄いらしいですから。ま、ここを読んで頂いている地方競馬ファンの皆様には、そんなひとはいないと思いますが。
※注 ドラマにも登場するこの場所は小岩井農牧株式会社の管理地であり、家畜伝染病予防の観点から立ち入り禁止になっています。ドラマのように牧草地に立ち入ることはしないで下さいね。
(文/写真・佐藤 到)
当ブログについて、3人交代で週イチ更新という予告をしたにもかかわらずほとんど更新することができず、誠に申し訳ありませんでした。
存廃問題で岩手に激震が走ったことは皆さまも各メディアやネットのニュース等でよくご存じと思います。この間、編集長は存続派の力になろうと関係者や有識者の間を飛び回っていたらしく、テシオ編集部のある社内ではほとんど姿を見ませんでした。また、よこてん氏は当テシオホームページ内にあります自身のブログに県議会の経過を詳しくアップしておりますので、そちらもご覧下さい。
ところで、県外の方々にはこのニュースはどのように伝わったのでしょう?一般の人の耳には入ったのでしょうか?私の地元・宮城県の友人からは「岩手競馬廃止だって!?」(廃止が決定した訳ではない段階での早とちりでしたが)というメールが届きましたので、なんらかの報道はあったようですが、私が全国放送のニュースを見ている間には一言も触れられていませんでした。またインターネット上でも、岩手競馬に関心を持つ方は積極的にニュースを探してお読みになったでしょうが、例えばポータルサイトのトップ画面にあるニュースのような形で一般の人が受動的に目にする機会はほとんど無かったように思います。
もしかして、益田から続く一連の地方競馬廃止にはもう慣れっこになってしまい、たとえ岩手のような規模の大きな競馬場が消滅しても、もう一般大衆の関心事にはなりえない。そういうことなのでしょうか?
まぁこれでもし本当に廃止となっていたら、債務処理負担で財政的に苦しくなった自治体を「第二の夕張」などと言って報道したのでしょうが…
一方県内では、ローカルニュースで毎日のように長い放送時間を割いて大きく取り上げられていました。その中で、街頭インタビューを行って県民の意見を聞くというのをどの局もやっていたのですが、多く言われたのは「ギャンブルなのに県税を投入するのはけしからん」というものでした。歴史的に馬を愛し続けてきたはずの岩手県民でさえこれなのですから、やはり競馬へのマイナスイメージは相当根深いものがあります。そういう私も、テシオの撮影を始める以前は競馬には近寄りがたい感覚を持っていました。
多くの人は幼いころから“ギャンブルは悪”というイメージを刷り込まれ、「ギャンブルなんてやっちゃぁ、わがんねよ。だって競馬で会社を潰したり、首吊った人もいるんだがらな!」と言い聞かせらる家庭が多いでしょうから無理もありません。しかし皆さんならお解りになっているように、何度か競馬場に足を運べば、競馬は素晴らしい観戦型スポーツであり、人と動物が力を合わせる美しさがあり、馬を育てる沢山の人達のロマンがあることが分かってくるはずです。金を賭けるのは競馬を楽しむことの一側面でしかありません。問題は広く多くの人に、いかにしてギャンブルへの抵抗感を減らし競馬に興味を持つきっかけを持ってもらうか。これは永遠の課題となるでしょう。
また、インタビューにこのように答えたご婦人もおりました。「赤字の競馬なんかやめて早く他の仕事を探せばいい。どうしても続けたいなら他の地方に行けばいいんですよ!」と。この方はもし自分の主人や息子が競馬関係者だったなら、同じ事を言えるのでしょうか?自分の大事な人が競馬に携わっていたらと想像するだけでも、そんなことは言えなくなると思うのですが…
このご婦人だけでなく、「俺は競馬やらないから関係ない」という声も多くあり、このような競馬と直接間接で関わりがなく関心も薄い人たちが、いきなり巨額の税金投入を聞かされればおいそれとは賛成できない気持ちも当然と言えるでしょう。しかし、彼らが少しでも競馬に関心を持ち、僅かでもそこに生きる人や馬のことを想う気持ちを持ってもらうことが出来たなら、世論はもっと違ったものになるかもしれません。
岩手では馬が身近にいることを、競馬が岩手の誇れる文化であることをもっとたくさんの人々、特に岩手県民に理解してもらうことは、この先とても重要なことだと思います。
20日の競馬議会で、岩手県競馬の存続が正式に決定しました。とりあえず開幕を目前にしての廃止という非道な事態は避けられました。しかし赤字を出さないことを大前提とした以上、背水の陣での開催が続いてゆくわけです。相当な改革を求められると思いますが、この先も岩手で競馬が営まれていくかどうかはこの一年にかかってきます。
これからの生まれ変わった岩手競馬にご注目下さい。
(文/写真・佐藤 到)
p.s.
3月21日の高知競馬で行われた全日本新人王争覇戦で、岩手の山本聡哉騎手が見事優勝しましたね。岩手ジョッキーによる制覇は村上忍騎手以来2人目。村上騎手は、現在ではリーディングトップ3に入る実力を身につけて活躍しています。聡哉君、暗いニュースが飛び交ったこのタイミングで嬉しい知らせを届けてくれましたね。実況の「みちのくに届いたか岩手の希望!」にも泣かされました。
記録的に暖かで、まるで春先のような冬を過ごした岩手ですが、いよいよ3月。ホントの春がもうすぐそこまで来ていますね。このあいだは“バッケ“(ふきのとう)が地面から顔を出しているのを見つけてしまいました。早いです。この調子で一ヶ月ぐらい季節が早まってやってくるのではないでしょうか。昨年4月のこのブログに、テレビでよくある「入学式に満開の桜」という図式は東北以北ではイメージ出来無いということを書いたのですが、今年は岩手あたりでそんな構図が見られるかもしれません。
さて、2月26日には盛岡と水沢で競馬場に春の訪れを告げる「安全祈願祭」と「調教開始式」が行われました。盛岡・水沢両競馬場には、馬たちの健康を願い、また事故や故障などで不運な運命をたどった馬たちを供養するため「馬頭観音」の石碑が建てられています。この日は朝9時から競馬組合の職員や調教師・騎手・厩務員などたくさんの関係者が碑の前に集まり、神主さんを招いて祭事がとりおこなわれました。
そういえばこの行事、3月の追加開催が初めて実施された昨年には行われませんでした。今年の参列者のなかには「去年はこれをやらなかったからあまりいい年でなかったのかも…」と漏らした方がいましたが、みな心のどこかでは、「今年は拝んだからきっといい年になる。いや、なって下さいよ」と思っていたのでしょうね。
神主さんはその後、業務用の1BOXカーに乗って本走路を一周。ところどころで下車しては御神酒を振りまき、特にスタンド中央では入念に拝んでいました。
お清めが終わるといよいよ馬たちの調教が始まります。このときいつも決まって真っ先に姿を現すのは、桜田勝男厩舎の所属馬。今日も桜田浩樹調教師補佐と佐々木忍騎手が、桜の花に「勝」の一字が入った厩舎の馬服でばっちり決めた2騎にまたがって先頭コースインしました。例年の調教開始の日にはコース上の雪を除雪して走路を確保するのですが、今年はその必要も無かったと思われ、いつもより多めの十数頭の馬が次々と走路に出て元気に駆け始めました。中には久しぶりの広い走路に興奮したのか暴れ出してしまう馬もいましたが、馬も人も2ヶ月ぶりのダートコースの感触をしっかりと味わったようです。
(文/写真・佐藤 到)