11月27日に伝えられたニュースで、ばんえい競馬の廃止が決定的となってしまいました。我らが岩手競馬も岩手のアイデンティティーのひとつだと私は思っているのですが、ばんえい競馬が無くなるということは、日本全体にとっても重大な損失と言えるでしょう。なにしろ開拓の歴史に根ざすこの競走形態は、世界にひとつしかないというのですから。
人間という生き物は、速い乗り物を手に入れるとどうしても競走してみたくなるらしく、馬にしろ自転車・自動車にしろ、世界中のどんな地域に行ってもその乗り物さえあれば必ずレースをやっています。しかしどういうわけか馬の『ちからくらべ』はあまり流行っておらず、プロフェッショナル競技として成立しているのは北海道のばんえいが世界唯一とのこと。人間だったら重量挙げやアームレスリング大会などは世界中で行われているのに、不思議ですね。
と、こんなことを書いている私ですが、実際にばんえい競馬を見に行ったことは一度もありません。オッズパークの動画配信でレースの模様は見ることが出来ますけれども、あの画面は競走の流れを見るのにはいいのですが重種馬の迫力は残念ながら伝わって来ませんね。やはり現地に行って馬の息づかいを感じないと、ばんえいの魅力を味わうことは難しいのかもしれません。オーロパークでも行われている輓馬の草レースなら馬たちの必死な目つきや、そりを馬体に繋いでいる金具が発するガッシャンという音を間近で見聞き出来てすごい迫力ですよ。アマチュアの大会であんなにスゴイのですから、ばんえいの馬たちはどれほどなのでしょうか。もしばんえい競馬が、岩手がオフシーズンとなる1月下旬過ぎにもやっているのなら、一度は必ず見に行きたいと思います。
帯広は企業スポンサーなどの支援に一縷の望みを託しているようです。世界に名だたる大企業がいくつもあるこの国で、手を挙げてくれるところはないのでしょうか。世界遺産にでもなれば官民あげての保存運動となるのでしょうか。なんとか存続への逆転サヨナラホームランを期待したいところです。
今年8月27日に行われた、東北輓馬競技盛岡競馬場大会の様子
話は変わりますがここで宣伝とお詫びをさせて下さい。大変お待たせ致しましたが、「岩手競馬マガジン『テシオ』vol.42冬の岩手競馬特集号」が明日発売になります。前号で予告した発売日から大幅遅れとなってしまいましたが、これは先日発表された岩手県競馬組合の改革計画案関係記事を掲載するため。いま目を逸らすことの出来ない重要な問題ですから、どうしても今号に入れなければと判断させていただきました。読者の皆様には大変ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでしたが、最新号をよろしくお願いします。
(文/写真・佐藤 到)
先週は、寒くなってきたぞ〜という話を書きましたが、今のところ盛岡や水沢ではまだ雪は積もっていません。寒さの方も土曜は冷え込んだのですが、その後は一進一退という感じ。
とはいえ馬上でもろに風を浴びる騎手らは、徐々に寒さ対策が重装備になってきました。しかし寒ければ好きなだけ厚着すればよいファンの皆さんや我々カメラマンに比べて、あまりにも薄着なジョッキーたち。防寒装備といってもアンダーシャツにタイツ(ももひき?)、フェイスマスクと手袋ぐらいではないでしょうか。いくら馬の背中が暖かいとはいっても、これで寒風の中を疾走するのですからほとんど裸同然と言っていいでしょう。
私も冬の屋外で仕事をする人間ですから、「集中すれば寒さを忘れる」というのは理解できます。しかし例えばレース前、返し馬の間やゲートに集合がかかるまでの時間などは本っっ当に寒いでしょうね。私はスタートまでの待ち時間に、指先や体を無駄に動かして凍えないようにしていますが(水沢に来たら、走路脇でヘンな動きをしている私を見ても気にしないで下さいね)、鞍上ではそういう訳にもいかないでしょうし。
ところで先の開催で、ひとりだけ手袋をしていないジョッキーが目にとまりました。それは、水沢の山本聡哉騎手。あまりにも冷たそうなので騎乗後に聞いてみると、「素手のほうが手綱も鞭も持ちやすいですからね。このぐらいの寒さならまだ大丈夫です。でも本当に寒くなったら手袋しますよ」と言っていました。この先、聡哉君がどこまで頑張るか見守りたいと思います。
そういえば、96〜97年に短期免許を取得し岩手で騎乗していた日系アメリカ人のスコット・サイトウ騎手は、どんなに寒くても素手でレースしていました。彼もやはり「手綱の感覚を大切にするため」と言っていたと思います。
しかし普通は手が凍えてしまったら、その感覚も無くなってしまうのですが…やはりジョッキーというのはすごい人たちでなのですね。
毎度テシオブログをお読みいただき有り難うございます。木曜担当のカメラマン佐藤でございます。このごろ、「あれ、見ましたよ」と声を掛けられることが増えてきました。自分では odds park で一番どーでもいいコーナーのつもりで書いているのですが……まぁ先週のように突然、真面目なことを書いたりもするので、呆れずにアクセスして下さいませ。私も気を引き締めて書き続けたいと思います。
ところで日曜日の12日、岩手ではとうとう平地でも雪が降りました。前日の土曜は雨ながらも暖かい日だったのですが急な冷え込み。今朝はもう盛岡市内にほど近い東西の山までも雪化粧し、いよいよ冬がやって来ます。
毎年の事ながら、この時期の話題は「いつ車のタイヤを交換するか」。今年、私の車は昨シーズンから履きつぶしのスタッドレスなのですが、丸一年使って夏も越え、相当すり減ってしまいましたから全然効かないだろうなぁ。――ここで南国からアクセスしている方々に、念のため解説をいたしましょう。降雪・凍結地域の自動車は、冬は当然のごとく冬タイヤに履き替えます。しかしここでタイミングが問題で、早めに交換しておけば急に雪が降っても安心なのですが、降らなければ、柔らかいスタッドレスタイヤが乾燥路面を走るうちに摩耗してしまいます。効きを長持ちさせるためにはなるべく氷雪のない路面を走りたくないのですが、かといって交換を我慢していると、急に雪が降り積もった際に身動きがとれなくなってしまうというジレンマがあるのです。実際、去年は11月に降った初雪がいきなりのドカ雪で、ガソリンスタンドはタイヤ交換の客で長蛇の列。丸一日を棒に振った人も多かったとか。
また、2〜3シーズン使用するとスタッドレスタイヤは摩耗して滑りやすくなり、冬タイヤとしての寿命を終えますが、まだ普通のタイヤとしては使えます。そこで春が来てもそのまま交換せずに履き続ければノーマルタイヤを1年間使用せずに済み、夏タイヤの寿命を1シーズン伸ばすことが出来るという訳です。まぁ北国ならではの工夫というか常識があるのですな。
話は戻りますが、先の日曜日には地方全国交流の南部駒賞が行われ、北海道から2頭の2歳馬が参戦。コスモバルクで有名な田部和則調教師も「こっちも随分寒いねぇ〜」とおっしゃっていました。
しかし私たちカメラマンにとっては、手が凍える寒さも辛いですが日暮れが早いほうが大問題なのです。冬至も近い今の季節、今日の盛岡での日の入り時刻を調べますと16時20分となっています。しかし実際のところ、天気が悪い日なら午後4時には薄暗くなってしまいますし、西側の空をスタンドの建物が覆っている水沢競馬場のゴール地点はなおさら。
みなさんも経験があると思いますが、暗いところで写真を撮ると、シャッタースピードが遅くなって動く被写体はブレて写ってしまいますよね。それでも友達や家族のスナップ写真ならフラッシュをたけば良いですが、競走馬にフラッシュ光を浴びせるのは厳禁。しかも彼らは時速50〜60km/hで走ってくるのですから、撮影には相当な悪条件と言えるでしょう。
考えてみると、ホッカイドウ競馬は11月9日で今年度の開催を終了。JRAも札幌・函館でのレースは来夏までありませんから、いまは水沢が日本一暗い薄暮下で行われている競馬なんですね。たまに京都や九州で行われているメインレースの映像を見ると、「同じ日本なのに何であんなに明るいんだろう?」と思ってしまいます。
結局どうするかというと、岩手にはナイター設備もありませんので、私は唯一明るいゴール線上(写真判定カメラ用の照明が点灯されます)を通過する瞬間を狙って撮ることにしています。したがって、これからの季節は下の写真のような画を皆様のお目に掛けることが多くなることでしょう。
それでもデジタルカメラの技術が進歩して、高感度設定でもフィルム時代以上にきれいに撮れるようになったので、だいぶ楽になってはいるんですけどね。
先週末で“今年度の”盛岡開催が終了しました。はい、“今年度の”を強調させていただきます。
岩手競馬の存廃問題についてこの場で私が語るのはどうかとも思いますが、この機にちょっとだけ言わせて下さい。今は存続を信じているファンや関係者誰もが、心の底にこの問題が重く澱んでいます。当然、私も例外ではなく、普通に使われる「最後の盛岡開催」という言葉や、北上川大賞典の場内告知CMがやけに哀愁漂う作りだったことなど、ちょっとしたことに胸がズキッと痛んでしまいます。
県税のカネ食い虫は潰せ−過去には県財政に多大な貢献をしてきた−現状赤字の公営ギャンブルに存在価値はない−潰すのにも巨額のカネが必要で借金だけが残る……
とかく経済で語られることが多い存廃問題。それはもちろん大事なことですが、私は岩手の文化について考えずにはおれません。私は県外の出身なのですが、小学生の時、教科書で見た「南部曲がり家」は、人と馬が支え合って暮らす馬産地岩手のイメージを強烈に印象づけました。時代が移り形は変わりましたが、岩手競馬は岩手と馬の繋がりをイメージさせる最後の砦なのではないでしょうか。私はチャグチャグ馬コという祭りも大好きですが、年に一度開催される祭りよりも、毎週やってる馬コ競走の力は大きいと思います。
こう言うときっと「文化やロマンでメシが食えるか!そんなものにカネはかけられない」という反論が起こるでしょう。そこで誤解を恐れず極論をぶつけます。「平泉の文化財にはお金を使っても誰も反対しないでしょ」と。断っておきますが、日本歴史上において平泉の存在価値の大きさは良く分かっていますし、岩手県民として私も誇りを感じています。それと同じように、「岩手と馬」について県民みんなが誇りを持って欲しいと思うのです。
“今年度の”盛岡最後のレースが終わり薄暗くなってきた夕方、きっとファンも関係者も、口には出さずとも「これで最後にならないでくれよ。なってたまるか」そう思って家路に着いたことでしょう。来年も必ずここに帰ってくる…私もそう信じて競馬場を後にしました。
振り返ると、東の山から満月近い月が昇っていました。
先週の続報になりますが、トーホウエンペラー産駒の岩手2つめの白星が記録されました。10月30日JRA認定ホープフル競走で、陶文峰騎手が乗ったナイトタイムが序盤の先行争いから抜群の手応えを見せ、直線抜け出して1着。さらに、4馬身離れて外目を追い込んだ沢田盛夫利騎手騎乗のトーホウバルカンが2着に入りました。
カメラマンの私は、ゴールの瞬間はファインダーの視界しか見えなくなるので、トーホウバルカンがどこまで浮上したかわからなかったのですが、ゴール後、カメラから目を離して2着と知りました。なんとエンペラー産駒ワンツーフィニッシュ!拍手!! ちなみにナイトタイムが6番人気、バルカンは12番人気でした。これにとどまらず、今後もどんどん強くなっていって欲しいですね。
ファインダーの話が出たついでに。
私がゴール写真を撮るとき、ゴール前数十mからファインダーに勝馬を捉えシャッターを切り始めるわけですが、このとき2頭、またはそれ以上の馬が内外離れて接戦状態のときは非常に悩みます。馬体を併せて追い比べというときと違ってもう一方の馬は完全に視界から外れてしまうので、カメラを構えたあとは脚が止まっているか伸びているか全くわかりません。結果、時には撮っていた馬が負けていたということも…これって、カメラマンとして非常にショックで悔しいことです。
横方向からゴールの瞬間までを見ているスタンドの方には、「1馬身も差があったじゃん」とか「完全に脚色が上回ってたよ」などとよく言われるのですが、コース脇で、走り来る馬群の正面に近い位置から見ていると、近くに来ないとなかなか分からないものなのです。特にコース幅が狭い水沢はより真正面から見ることになり、モニター画面もゴール位置からは見えないので難しいです。直感的に「こっちだ!」と決めて撮るという、一種の“ギャンブル”をしなければならないのも、二度とない瞬間を撮影するカメラマンの宿命と言えるでしょう。
…これ↑ちょっと美化しすぎですな。まぁ、以上はいちカメラマンの“言い訳”なのですけれど、以前このブログで紹介した記念写真屋のOさんの場合はもっと大変だそうです。彼の写真を注文するのは優勝馬の馬主さんですが、人によって「ゴール板を通過する瞬間がいい」とか「負かした馬も後ろに写っているように」とか希望がまちまちなのだそうです。しかし1人のカメラマンが1台のカメラで撮っている限り誰もが満足というのは無理な話。さらにはハナ差でゴールした2頭の外の馬が勝った場合、斜め方向から撮影しているため2着馬の鼻の方が前に出て写りますが(下写真参照)、「これじゃ負けてるようだ」と不満に思う方もいるとか。
そう思うと、ある程度は自己満足でいける雑誌カメラマンのほうが気が楽だなぁと思いました。
この写真は状態の一例です