
5月から岩手競馬の舞台は盛岡・オーロパークに移りました。ご存じのようにオーロパークは10年前に現在の場所に建設されたものですが、それ以前に競馬が行われていた旧盛岡競馬場は、盛岡の中心部に比較的近い、住宅街の隣にありました。
旧盛岡の特徴的なコースやそこで繰り広げられた名勝負については、いろいろなところで語られていますのでここでは書きません…。というかテシオ創刊と同時にこの世界に踏み込んだ私は、旧盛岡で競馬を見たという経験がないんですよ。実は学生時代、私は旧盛岡競馬場から割と近い場所にアパートを借りていまして、その気になれば歩いてでも行ける距離だったのですが、その頃は競馬というものを何も知らず出向く機会なく過ぎてしまいました。実際のところ当時の私にとっては、競馬というと日曜の夕方、ときどき周辺道路に大渋滞を引き起こすことのほうが印象強く、切実な問題だったのです。しかしあのとき詰まって動かない車の中にいた人たちの顔は、みちのく大賞典でトウケイニセイとモリユウプリンスの死闘を観戦し、競馬の醍醐味を堪能した満足げな表情だったのかもしれませんね。
前にも書きましたが、もっと早く競馬の魅力を知っていれば、と今は残念に思います。しかし現在のような厳しい状況において、一般人が競馬にどういうイメージを持っているか理解するのは大切なこと。競馬の面白さを知らなかった当時の自分をしっかり覚えておこうと思っています。
さて、新盛岡競馬場オーロパーク。ここを初めて訪れる方、とくにバスやタクシーで行こうとすると、なんだか自分がとんでもなく山の中に連れて行かれるような気分になって、道中とても不安になることでしょう。それほど現在の競馬場は市街地から離れたところにあります。これについては賛否評論ありますが、しかしその山の中を抜けて目にする立派で綺麗な競馬場の印象をより強めているとは思います。
北上山地の奥深くに分け入り、人里から遠く離れた山中に忽然と姿を現す巨大建造物。それはまるで、遠野物語に出てくる“迷い家”のような…とは言い過ぎですが(周辺には民家もありますし)、都会からこの地を訪れたファンや関係者の印象はこれに近いものがあるのではないでしょうか。
カメラマンの立場で言いますと、走る馬の背景に高層マンションや高速道路の高架が写ることが無く、春は新緑、秋は紅葉と四季の自然の山々がバックになるのがとても良いところです。これは岩手で撮影していると当然のように思ってしまうのですが、他所の競馬場に遠征して写真を撮るとはっきりと気付かされます。水沢競馬場にしても向正面の先は北上川の堤防で人工物はほとんど見えませんし、この点については岩手の競馬場は本当に恵まれた環境だなぁと思っています。
いわわししょう… 県外のほとんどの方は「ガンジュ賞」とは読めないのではないでしょうか? 岩鷲山(ガンジュサンあるいはガンシュウザン)とは、我が岩手県のシンボル、岩手山の古い呼び名なのです。岩鷲という名の由来は、春に山の積雪が解けて黒い地面が見えてくるとき、毎年決まって頂上付近に鷲が翼を広げたようなパターンが現れることにあります。このような「雪形」は全国に多くあり、各地で「これが現れたら田んぼに水を引く」などと農業の目安になったりもしています。そういえばJRAのレース名にもある福島県の吾妻小富士ではウサギの形が見られるといいますね。
岩手山は、分類で言えば成層火山に属し、あの富士山と同型の美しい裾野をもつ円錐状の山。しかし山体の西側に新火口が噴出したため、「南部“片”富士」と言われる女性的なボディラインと男性的な荒々しい山容をあわせもち、眺める方向によって大きく表情を変える山になっています。これがまた岩手山の魅力なのですね。ちなみに山岳信仰では岩手山は男の神様とされており、北上川をはさんで向かい側にある姫神山はその奥さん、そして南西の早池峰山は浮気相手との伝説があります。
私が岩手山に強い印象を受けたのは、受験を機に初めて盛岡を訪れ、岩手山と初対面したそのときです。3月のまだ冷たい風吹く中、地図を頼りに中央通りを試験会場へ向かっていくと、道の正面に、青空に真っ白く輝きそびえ立つ岩手山の姿が目に飛び込んできました。私の実家も蔵王山のふもと(旧上山競馬場の反対側です)でしたから雪山の美しさは見慣れているつもりでしたが、この景色はかなり感動しましたね。そして岩手山が盛岡の街なみと一体になり、欠かせない存在としてこの街の雰囲気がつくられていると感じました。
そのとき私は盛岡駅で列車を降りてまだほんの2〜3時間でしたが、駅前をとうとうと流れる北上川を渡り、そして街を見守るようにそびえる岩手山と向きあって、盛岡という街がすっかり好きになってしまいました。その後、私は念願かなって盛岡に住むようになり、そして様々な巡り合わせを経てこうして岩手競馬に深くかかわるようになりました。いま思えば、運命はあの白い岩手山からつながっているのだなぁと考えたりなんかして…。
(文・写真/佐藤到)
競馬場で写真を撮っていると、競馬ファンの方から時々、「それだけ馬を見ていれば勝つ馬がわかるでしょ?」と言われます。ところが情けないことに、これが私には全然わからないんですよ。
確かに私は10年の間、シーズン中は毎週欠かさず競馬場で馬を見ています。しかし被写体としてファインダー越しに馬を見ているときというのはピントや構図、露出にシャッターチャンスで頭が一杯になってしまい、馬自体の気配や脚さばきなどにはあまり神経がまわっていないようです。余裕がないというか、観察力の不足なのか。う〜む、このへんがいつまでたっても写真が上手くならない理由かもしれません。もともと動物写真家を目指していた私は「体温が伝わるような写真」を目標としているのですが、理想にはまだまだ届きませんね。これからも日々精進していきたいと思います。
もっとも走る前に勝つ馬がわかるぐらいになれば、馬券で生活した方がいいかもしれませんが…
また、よく「私も馬の写真を撮ってみたいけれど、なかなか上手に撮れないのでコツを教えて下さい」という質問をいただくことがあります。私もなかなか上手に撮れなくて悩んでいるほうなので、コツを伝授するなどという大逸れたことはできないのですが、思うことを少し書きましょう。
私たちカメラマンが持ち歩いている大きくて重いカメラやレンズを見て、「いや〜さすがプロはすごいね。私のは初心者向けだけど、これでも使いこなせなくて」と言う方がおられますが、これには誤解があります。よく聞く「使いこなせない」という言葉ですが、最近のカメラはとっても多機能に進化していて、ひととおりの撮影モードや、一度も使いそうにない便利機能がたくさん内蔵されています。これらを全部覚えて「使いこなす」のは土台無理な話で、自分が撮りたい被写体に必要な設定だけを覚えればいいのです。例えば競走馬を撮るなら、全自動モードで撮影することも可能ですが、シャッタースピード優先露出や連写モード、連続追尾オートフォーカスが設定できればより有利になります。ただしカメラによって機能の有無や設定のやり方が多少違いますので、詳しいお友達やカメラを買った販売店などで質問してみて下さい。
また、私たちプロが使っている大袈裟なカメラは、どんなに厳しい撮影環境下でも確実に良い写真が撮れることを目指して設計されています。特に競馬は雨や雪、あるいはナイターという環境下で被写体が速く動きますから、条件としては厳しい部類に入ります。その中で第一に壊れにくいこと、そしてなるべく失敗しないことを追求した結果、耐久性・信頼性実現のために大きくて重くなり、また高性能なオートフォーカスや高速連写機能が備わったハイスペック機でレンズも大口径で…という具合に私たちの腕や肩、腰に負担をかけるヘヴィな道具の出来上がりという訳です。しかしそれらを除けば「夜景モード」のような便利機能がついていない分、ファミリー向けカメラよりもむしろシンプルなぐらいなんですよ。
逆に言えば、晴天で十分に明るい恵まれた条件下なら、一般的なカメラでも良い写真が撮れるかもしれないということ。もし競走馬のカッコイイ写真を自分で撮ってみたいと思ったら、結果を気にせずたくさん写してみてはいかがでしょうか。もしかしたらその中にビシッと決まった傑作が撮れているかもしれません。
具体的な設定などについては、また次の機会にでも書きたいと思います。あるいはもし盛岡や水沢で私を見かけたら、興味のあるかたは気軽に声をかけてみて下さい。
(文・佐藤到)
昨日20日の記事ので、「水沢競馬場桜並木の一般開放」についてお伝えいたしましたが、本日、岩手県競馬組合の方から期間延長のお知らせが届きました。当初予定されていた22日(土)〜24日(月)に加え、28日(金)〜30日(日)にも行うことになりました。これに伴い、体験乗馬会と焼き肉会が23日から30日に変更になっていますので、ご来場を予定の方はご注意下さい。詳しくは岩手競馬公式ホームページをご覧下さい。
急な変更ではありますが、Yahoo!天気情報によりますと岩手県地方は21日現在、県南端の一関市でようやく「咲き始め」の表示。このままの気温で推移しますと今週末の水沢ではまだ花が開かないと思われ、30日であればちょうど満開の桜の下を馬に乗って散歩できるのではないでしょうか。
ゴールデンウィーク前半に花見をお考えの方は、ぜひおいで下さいませ。
(文/佐藤到)
今回はお詫びとご連絡から。
先週木曜の私の投稿で、作家・脚本家の倉本聰氏のお名前を、誤って表記してしまいました。ご本人様及び関係者の皆様に謹んでお詫び申し上げます。
同じ投稿で「詳細未定」とお伝えした、水沢競馬場桜並木開放が4月22〜24日に正式決定しました。焼き肉セットの販売と体験乗馬会も例年通り実施されるようで楽しみです。詳しくは岩手競馬公式HPをご覧下さい。
多くの競馬ファンは「そういうものだ」と思っているのでしょうが、地方競馬からこの世界に入った私にはどうしても違和感があり、慣れるまで多少の時間を要したものがあります。それは「JRA騎手の勝負服が変わること」。
ご存じのように中央競馬では勝負服は馬主で決まっていて、騎乗のたびに違うデザインの服を着用しますよね。一方、地方の騎手は、JRA所属馬や海外で騎乗しない限りジョッキーごとに決まった服を着用し、パンフレットなどでは画像あるいは「胴黄、赤たすき、袖緑」などと言葉によって勝負服セットで紹介することも多くあります。自然と勝負服は騎手のイメージと結びついて記憶され、有名なところでは全国を股にかけて活躍を続ける内田利雄騎手が胴桃に白星という勝負服、加えてゴーグルやステッキ、さらには私物までピンクで統一し「ミスターピンク」と呼ばれていたりします。
地方競馬のジョッキーは、教養センターを卒業するまでに所属する競馬場へ勝負服のデザインを提出します。多くの新人騎手は、所属予定厩舎での研修期間中に調教師や厩務員に相談しながら考えるそうで、またこのとき競馬場によって使用できる色・柄などに制限があるため3通りぐらいの候補を出すのだそうです。こうして、例えば山本聡哉騎手は研修で岩手に来ていたときに見た、マーキュリーカップを勝ったミラクルオペラの騎乗服を参考に(バーレーンの国旗ではないそうです)、皆川麻由美騎手は、師匠・千田知幸調教師が騎手時代に着た勝負服の柄を女性らしいピンクにアレンジして、とそれぞれ思案の末決定しています。
私個人の感想としては、これに関しては地方のほうがいいなぁと思っています。レースで同じ服の人がいないので遠目にも位置取りがわかりやすいし、やはり菅原勲騎手はクールな青、陶文峰騎手は心のふるさと中国を表す赤に黄星といった具合にファンがイメージしやすく親しみがわきます。これはもう勝負服がジョッキーの『顔の一部』と言っていいのではないでしょうか。
一方、馬主を示す中央の勝負服には馬の冠名がわかるというメリットがありますし、上位のジョッキーはテレビや新聞雑誌で素顔を露出する機会が多くキャラクターが良く知られていますから、あちらはそれでいいのかもしれませんね。
(文・写真/佐藤到)