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馬券おやじは今日も行く(第25回)  古林英一

ばん馬の人たち~獣医さんの巻~

 昨今、北海道では、ばんえい競馬の存廃をめぐる報道が新聞紙上を賑わしている。特に、道内最大手の新聞(名指ししてるようなもんだわな)の掲載する記事数が多いのだが、どうも今ひとつよくわからん報道なのである。これは小生の当て推量なのだが、どうも競馬の法制度的仕組みをまったく理解していない記者が、市役所かどこかからリークされた情報をよくわからないままに書いているような印象である。おかげで、小生は心穏やかならざる日々を送っているのである。

 さて、このコラムでは、これまでも、小生の気の向くまま、ばんえいの周辺をちょこちょこ紹介してきたが、今回は獣医さんを紹介する。

 映画「雪に願うこと」に、突然倒れた馬のもとに獣医さんが駆けつけるシーンがある。映画に登場する獣医さんはひげ面のワイルドな先生である。そういえば、獣医さんって、映画やドラマではたいていワイルドな風貌で描かれますわなあ。

 「実際のばんえい競馬の診療所の所長さんは?」というと、これが、映画の獣医さんとは大違い、映画の獣医さんよりはるかにさわやかでスマートな好男子なのである。

 競馬場には馬主会が経営する診療所があり、この診療所の所長が森田獣医師である。まだ32歳とお若いが、すでにばん馬を相手に8年のキャリアがある。

061014  岩見沢の診療所にお邪魔したとき、ちょうど笹針治療の最中であった。笹針とは、ご承知の方も多いだろうが、馬体のあちらこちらにメスを入れ、静脈血を放出させる施術である。知識として知ってはいたのだが、小生も見るのは初めてであった(写真は笹針治療中の森田所長)。

 森田所長は「軽種とばん馬は別の動物だ」という。それはばん馬の疾患が軽種のそれとあまりにも違うからだ。ばん馬の疾患の9割は蹄の病気だそうだ。これには理由がある。ばん馬の馬力はあの巨体あってのものである。したがって鍛えながら巨体をつくっていくのである。体をつくるためには高カロリーのエサが必要である。高カロリーのエサを食ってしっかり運動することであのたくましい馬体がつくられるのである。だが、高カロリーのエサを投与し続けると蹄葉炎の発生確率が高まる。これは、喩えて言えば、糖尿病が力士の職業病であるというのに近いものがある。森田所長によると、高カロリーの濃厚飼料やストレスが胃腸障害を引き起こし、それが蹄に影響するのだそうだ。

 獣医師として重要なことは「決断のための知識」であると森田所長はいう。家畜は口をきくことができない。「何が原因なのか」「誤診のおそれはないのか」、常に自問自答しつつ、果敢に診断を下さざるを得ない。直るのか直らないのか、仮に直るとしても高い費用のかかる手術が必要かもしれない。安楽死を選ばざるを得ないこともあろう。馬主にこれらすべてのことを短時間に納得してもらわねばならない。この精神的な負担が大きいと森田所長はいう。果敢な決断を下すためにはそれだけの知識と経験が必要だ。

 「ばん馬の獣医としては自分は日本一だ」と森田所長は自負する。ばん馬を専門にしている獣医は殆どいない。日本一であるという自負は、日本一であらねばならないという使命感の裏返しでもある。セカンドオピニオンのない世界なのである。

 獣医さんの目から見た強い馬とはどのような馬かと尋ねてみた。馬券オヤジとしてこれはぜひ聞いておかねばならないところである。筋肉のつきかたとか内臓の強靱さといった馬体そのものに関わる答えを小生は予期したのだが、森田所長の答えは実に意外なものだった。「“意志力”の強い馬が強い」というのが森田所長の答えであった。確かに、スーパーペガサスの走りっぷりを見ると、2障害を越えてゴールに向かう直線の足取りはいつもしっかりしている。これは類い希な意志の力なのかもしれない。

 「気合いと根性じゃあっ!」。これは小生が大学時代世話になった先輩の口癖だ。確かに馬でも人でも最後は気合いと根性であろう。自分でいうのもなんだが、学者として小生はせいぜい「170万円下」(未勝利と言わないあたりが自分への甘さである)である。下級条件に甘んじてしまったのは、やはり「気合いと根性」が欠落していたからである。あらためて「スーパーペガサスに脱帽!」なのである。

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