愛しのペルシュロン
犬の世界では、最近は「雑種」という言葉を使わないらしい。「ミックス」と称するというのだけれど、うーん、何だか欺瞞的だなぁ。
馬の世界での雑種、もとい、ミックスは何と呼ばれているか、というと、ご承知の通り「半血(はんけつ)」というのですね。
ばんえい競馬に供される馬は、主にブルトン、ペルシュロン、ベルジアンといった品種の馬を基礎にして生産されていて、ペルシュロンは持久力に富み、ブルトンは瞬発力に優れ、ベルジアンはスピード豊か、と各々、品種別に特徴があるのだけれど、近年は、それら各品種の優秀性をうまく取り合わせた半血の生産が盛ん。手元の資料によれば、平成15年の出走全馬739頭のうち、半血は726頭。実に98%が半血馬なのである。
反対に純血馬は年々減少。ペルシュロンについて言えば、純血ペルは平成15年には3頭。ペル系5頭を加えても、8頭と極めて少数派でしかない。けれど、そんなペルシュロンが、今、生産界では密かに再注目されている、という。
先年、大活躍したサカノタイソンの父・武潮は純ペルであるし、アサギリ、フクイチ、そして、ばんえい初の1億円馬キンタローも、みんなペル系。生産者の中に、ペル系見直しの風潮が広まっても不思議はない。
かく言う私もペルシュロンのファン。気品ある容姿が素敵で、数少ない純血馬が登場した時など無条件で馬券を買うほどである。
だから、昨年、書店で『死を呼ぶペルシュロン』(晶文社)という本を見つけた時には「重種馬の本なんて珍しい」と飛びついた。そして、そして、実際、この本には正真正銘ペルシュロン種の馬が登場するのだが……。殺人現場にペルが立っていた、という、それだけの話で、期待して読んだ私は愕然とさせられた。もっとも、結末ではペルシュロンがテーマを暗喩していて、「さすがに欧米の馬文化は深い」と感心させらもする。
馬について過度の期待は禁物だけど、ばんえいとミステリーが好きな方には、いいかも。