ばんえい競馬のサプライズ
ばんえい競馬が北海道遺産に指定されたおかげで、全国の、しかも競馬にあまり関心のなかった人までもが、我らが競馬場を訪れるようになって、誠に結構。私も「ばんえいは初めて」という知人を案内する機会が増えた。けれど、そういう人々は必ず、目を丸くして叫ぶのである。「競走中に馬が立ち止まる!」と。ばんえいファンにとって、障害前で馬が立ち止まって一息つくのは当然。だけれど、全力疾走の平地競馬しか知らない人々にとって、これは刺激的な光景であるらしい。
私も、二十年前、初めてばんえい競馬を見た時は驚いた。ただし、私が驚いたのは「騎手が馬に飛び乗る姿」。平地競馬の騎手は誰かに足を持って鞍上に押し上げてもらう。けれど、ばんえいの騎手は右足を振り子のように振り上げて、自力でスルリと、あの巨大な重種馬にまたがるのだから、いやー、格好いい!
そんな私が、つい最近、またしても、ばんえい競馬で喫驚したことがあって、当ブログの斎藤さんに馬場内を案内してもらった時のこと。レース用のソリは、トロッコやトラクターによってスタート地点にセットされるのだが、スタートラインに正確に合わせる最後の「調整」を行うのは、何と人力。係員が数人、ソリに付けた綱を「せーの」と引っ張ってソリをスタートラインに合わせるのである。
「アナログで、いいでしょ」と斎藤さんは笑ったけど、いやー、コンピューター時代の現代に、こんな「技」が残っていたとは。
けれど、近年、私を最も驚愕させたのは、今年2月、ばんえい記念の日に帯広競馬場に押し寄せた観客だった。当日は記録的大雪にも関わらず大盛況。それだけでも驚異だったのだが、その面々の多くが知り合いだったのである。いや、生産者や馬仲間なら驚きもしないけど、競馬とは無関係と思われた人々とも対面して、魂消ること、しばしば。中に、猫背、髭面、作業服の貧相な男性がいて、挨拶はしたものの誰だったか思い出せない。苦悶の末に思い出したそれなる男性の正体は……近くの病院の院長先生。いやはや、どこかの国の首相なんかより、ずっとサプライズに満ちた、ばんえい競馬なのでした。