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ばんえい名馬ファイル(5) アサギリ

2010年9月13日(月)

北見の鬼 アサギリ

asagiri.jpg
Photo●NAR

 「勝堤、今回からアサギリに乗ってくれ。(皆川)公二がホッカイリュウに乗らなければならないからな」。今は引退した渕上昭一調教師の指示だった。昭和62年の春、旭川競馬場。アサギリと鈴木勝堤騎手の出会いであった。

 のちに北見の鬼と呼ばれ、重賞競走優勝10回、史上5頭目の1億円馬に輝く名馬になるアサギリ。だがこの頃は、のちの姿が想像もできないほど、能力テストもレースぶりも平凡な馬だった。現在(※1)ばんえい競馬には35人の騎手が所属しているが、リーディング上位の10人が年間100勝以上の勝ち星を挙げるほど、ベテランの活躍が目立つ競馬である。

 毎年2~3人が難関の騎手試験をパスして騎手デビューするが、50勝と同時に10キロ減量がなくなり、それと同時に騎乗数も減るのが現状である。それほどベテランと若手では技術の差に開きがあるのも現実なのだ。大小ふたつの障害がある200メートルの走路を手綱と動作、気合い、ハミの掛け具合で1000キロもあるばん馬をゴールさせるのである。ベテラン騎手に騎乗依頼が多いのは当然のことだろう。

 鈴木勝堤騎手はばんえい競馬に入る前、水沢競馬で見習い騎手として厩舎にいて技術的にも光るものはあった。昭和60年代、現在(※2)3500勝達成の金山明彦騎手を筆頭に、2000勝の久田守騎手、1500勝の木村卓司騎手と花形ジョッキー勢揃いの時代に若手騎手がお手馬を貰ったのである。朝の調教、午後の運動と熱が入るのは当然のことだったろう。

 3歳デビュー時から華々しく活躍した馬で、後世に名を残した馬はばんえい界ではひじょうに少ない。史上初の1億円馬のキンタローでさえ3歳時、特別戦は未勝利である。3歳時に活躍すると、賞金の関係で4歳・5歳時に古馬との戦いとなるため、どうしても重賞で潰されてしまうことが多い。

 アサギリが初の重賞ウィナーに輝き、北見の鬼と呼ばれたのが平成元年、アサギリ5歳、北見競馬場で行われた全国公営競馬主催者協議会会長賞。現在の銀河賞である。2着のキタノプリンセスに6秒5の大差をつける圧勝だった。鈴木勝堤騎手にとっても初の重賞制覇である。

 『...各馬第2障害手前、さあこれからが正念場、カツラシンザンが1番手、ヒカルテンリュウも動いた、内から赤い帽子のアサギリも来た、ゼッケン番号3番のアサギリだ、強いアサギリが北見に帰ってきました、ゴールまであと10メートル、あと5メートル、アサギリだ、アサギリが突き放す...』実況アナウンサーの井馬博氏の名調子が北見競馬場に響く。

 「北見競馬場でアサギリが出走するレースは特別力が入りましたね。スタンドの熱気が3階の実況席まで伝わってきましたよ。スターホースでしたからね。でも、第2障害を降りた位置で勝ちが見えてましたから比較的楽なレースでしたし楽しみでもありました。最近は個性のある馬が少なくなったので寂しいですね」。冷静な実況アナウンサーを熱くさせた馬、アサギリ。

 43戦21勝、2着10回、3着2回、着外10回。アサギリの北見コースの成績である。北見の鬼と呼ばれて当然の成績だが、その鬼にもウィークポイントはあった。平均の勝ちタイムは2分30秒ほど。そう、濡れた砂の鬼なのだ。砂塵の舞い上がる乾いた砂ではあの豪快な差し脚は使えない。

 北見開催は当時、春と秋の開催が多く、馬場はほとんどいつも濡れている状態で、アサギリにとっては絶好のコースだった。名馬は馬場も味方にしてしまったのである。

 「あの時、渕上先生が他の騎手に依頼していたら現在の僕はなかったでしょう。そりゃもちろん騎手は続けていたでしょうが、あの頃がいちばん苦しい時でした。新人でもなく、かといって乗り馬も多いわけじゃなかったですからね。何とかこの馬で、と思いましたが、今振り返ると逆でしたね。アサギリが僕を一人前の騎手にしてくれたんですよ。勝つ喜びも、悔しい思いも随分しました。先生にいつも言われていたのは、『アサギリの後ろに馬はいないと思え。相手は前にいる馬だけだ』ということでした。僕が乗っている間は確かに後ろから差されたことはなかったですね。3歳の頃からコンビを組んでいましたが、北見記念2連勝のあと、レースの出走に関して関係者の間に意見の相違がありまして、9歳の春から僕の手を離れたんです。その年の北見記念で、僕は服部厩舎のキクノコトブキでアサギリの北見記念3連覇の夢を破り、騎手だけ3連覇を達成したんですが、正直複雑な気持ちでしたね」

 鈴木勝堤40歳、8月1日現在、通算990勝。平成11年度、まもなく1000勝ジョッキーの仲間入りである(※3)。

文/小寺雄司

(馬齢は当時の旧年齢で表記)
※1,2:1999年当時
※3:鈴木勝堤騎手は2010年9月13日現在、通算2,296勝。

アサギリ
1985年3月28日生 半血 牡 青毛
父 半血・リウリキ
母 半血・宝姫
母の父 半血・タカラコマ
北海道中川郡豊頃町 宝田健一氏生産
競走成績/143戦41勝(1987~94年)
収得賞金/102,512,000円
主な勝鞍/89年全国公営競馬主催者協議会会長賞(北見)、91年地方競馬全国協会会長賞(北見)、91年ばんえいグランプリ(帯広)、91年北見記念(北見)、92年地方競馬全国協会会長賞(北見)、92年ばんえいグランプリ(岩見沢)、92年北見記念(北見)、93年ばんえいグランプリ(岩見沢)、94年ばんえいグランプリ(岩見沢)、94年北見記念(北見)


月刊「ハロン」1999年9月号より再掲

今週の見どころ(9/11~9/13)

2010年9月10日(金)

 9月12日(日)の第9レース終了後(19:05ころから)には、現役調教師による模擬レース・トレーナーズカップが行われます。8月には現役調教師(元騎手)によるばんえい十勝マスターズカップが実施されましたが、今回は厩務員出身など騎乗経験のない調教師も参加します。また、この日は、ばんえいYOSAKOIナイトとして、十勝管内で活躍するよさこいチームによる演舞も披露されます。ぜひ帯広競馬場へお越しください。

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 9月11日(土)のメイン第11レースは秋風特別(オープン・A1級決勝混合・20:00発走予定)。9月5日第10レース(オープン-2組)と6日第10レース(A1級-1組)の上位馬による一戦です。
 注目は、前走A1級-1組の勝ち馬ニシキユウ。もともと暑い季節に良績がありますが、持ち前の先行力をフルに生かしたレースで近3走1、2、1着と絶好調です。加えて、今回は別定重量の加増がない最軽量700キロだけに中心は動きません。
 前走オープン-2組勢はやや精彩を欠いている近況の馬が多いですが、格下相手のここはブザマなレースはできないところ。
 ホクトキングは、決め手上位の勝ち馬ホッカイヒカルを、離れた位置からコンマ3秒差まで追い詰めての惜しい2着。6月の旭川記念で4着など実績上位は明らかだけに、相手関係的に好勝負必至でしょう。
 もちろんホッカイヒカルも、前走のようにスムーズなレースができれば引き続き上位が狙えそうです。

 9月12日(日)のメイン第11レースはポテト特別(オープン-1組・20:05発走予定)。アオノレクサスが回避し、9頭立てとなりました。
 前走の道新十勝川花火大会特別(オープン-1組)で5着に敗れたフクイズミに再度期待します。この馬が第2障害をクリアしたとき、勝ったカネサブラック、2着に入ったナリタボブサップは残り20メートルに達しようかという位置関係で、なすすべもありませんでした。障害次第の面はありますが、決め手ではオープンでも随一。引き続き負担重量では有利だけに、今度こそ差し切りを期待します。
 相手は、もちろんカネサブラックナリタボブサップ。特にナリタボブサップは一時の不振から完全に脱却しました。
 地力強化著しいホクショウダイヤ、ひと開催空けリフレッシュしたニシキダイジンも怖いところです。

 
 9月13日(月)のメイン第11レースは初秋特別(A2級決勝混合・20:00発走予定)。9月4日第9レース(B1級-2組)と6日第9レース(A2級-2組)の上位馬による一戦です。
 前走B1級-2組を含め2連勝中の4歳牝馬ヒマワリカツヒメに期待します。牝馬らしい切れ味が武器で、前々走はオープン経験馬ハヤテショウリキをしりぞけて、前走では2番手から抜け出し突き放す圧巻の勝利を収めています。古馬混合の特別は初挑戦ですが、馬体重1120キロ前後の巨漢だけに、負担重量増も苦にしないでしょう。
 相手も4歳勢が有力。前走A2級-2組勝ちのフクドリは、4歳の通算収得賞金順で10番目(前開催終了時点)。来週日曜日(9月19日)の4歳重賞・銀河賞への出走を確実なものとするために、ここで賞金を加算したいところです。
 前走B1級-2組では逃げ粘れず4着だったギャンブラーキングや、前走A2級-2組で僅差3着スギノハリアーらも展開次第では首位をうかがいます。

今週の見どころ(9/4~9/6)

2010年9月 3日(金)

 9月5日(日)のメインには、ゴールデンホース賞が行われます。ばんえいでは芦毛馬限定戦として、夏に白夜賞、冬に白馬賞が行われていますが、このゴールデンホース賞は栗毛馬による限定戦です。過去2回とも優勝しているバンゼンが今年も出走で、3連覇なるかに注目が集まりそうです。

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 9月4日(土)のメイン第11レースは日本一寒い町!陸別町杯(A2級-1組・20:00発走予定)。ライデンヒーローが回避して9頭立てとなりました。
 前走の樹海特別(B1・B2級決勝混合)で6着(1番人気)だったトモエエーカンに再度期待します。第2障害でのロスが響いたかたちですが、末脚はしっかり伸ばしていました。それまでの7戦中6戦で勝ち星を挙げていた勢いからすれば、巻き返して当然。初のA級でもまったく格負けしません。
 相手は、同じ前走で逃げ切ったトウリュウ、僅差4着だったキョウエイボーイが有力。前走はトモエエーカンより、それぞれより5キロ、10キロずつ重かったのが、今回はそれぞれ5キロ軽い、同重量と恵まれました。前走同様、障害力を生かした早め勝負でトモエエーカンをけん制したいところです。
 コマクインは勝ち切れないレース続きですが、スピードを生かせる軽馬場は願ってもない舞台でしょう。
 近2走で1、2着と復活してきた感があるハヤテショウリキは、逆に軽馬場では狙いを下げたいところ。追走で一杯になってしまう危険性があります。

 9月5日(日)のメイン第11レースはゴールデンホース賞(20:00発走予定)。3歳以上栗毛馬選抜による一戦。重量区分では、オープンから320万円未満まで。カイセテンザンが回避し9頭立てとなりました。
 中心は4歳馬キタノタイショウ。開幕からオープン(重量区分)に格付けされ苦戦が続いていましたが、前走のオープン-2組特別で今季初勝利を挙げました。多くが格下の今回は連勝の期待ができそうです。
 馬場がどれだけ乾くかにもよりますが、軽めの馬場になれば、相手は、このレース3連覇を目指すバンゼン。逆の馬場状態なら実績上位スーパークリントンが浮上してきそうです。
 ただ、負担重量差が最大50キロもあることから、3歳のテンマデトドケや、4歳牝馬ワタシハキレイズキワタシハスゴイらが食い込む可能性もありそうです。

  9月6日(月)のメイン第11レースは銀河の森特別(B1級-1組・20:00発走予定)。メンバー10頭中、減量がある3・4歳が7頭もおり、ハイペース必至です。
 中心視したいのはホクショウバトル。前走のばんえい大賞典は8着でしたが、それまでB2級-3組、B1・B2級決勝混合と2連勝していました。古馬混合の特別は今回が初挑戦ですが、前走で680キロを経験しており、675キロは苦にしないでしょう。
 前開催の樹海特別(B1・B2級決勝混合)で、今回のメンバー中最先着の3着に追い込んだヤマトチカラや、この条件の特別で上位入着の実績がある障害巧者のインフィニティー、ばんえい大賞典で5着とホクショウバトルに先着しているトレジャーハンターらが相手でしょう。

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