第13回 燃える闘魂の魅せる騎乗 尾ヶ瀬馨
今回は、先日岩見沢記念をフクイズミで制した尾ヶ瀬馨騎手です。
--- 岩見沢記念優勝、おめでとうございます。今までいろいろな馬に乗ってきたと思いますが、フクイズミは中でも乗り方の難しい馬でしょうか?
難しいといってもオープンまで来た馬だからね。俺は好きだけどね、ああいう差し馬。
悪く言えば気ままっていうかさ……。いろいろあるんだけど、2障害に来るまでに自分の気持ちのいいように走らんかったら障害に向かっていかない。
力がないわけじゃないからな。
前回から気持ち的にちょっといい状態に入ってたんだ。かなり気持ち前向きだったの。さらにその前(8/31とかちえぞまつ特別)は流れ早くてさ、ハイペースでおっつけ通しのレースだったから、だいぶ馬も気分害して。
--- そうでしたか。ゴール前差した瞬間というのはわかるものですか?
わかるわかる。あれだけ走ればわかる。
追い込みと逃げなら追い込みの方が好きだな。このくらいで差せるとか差せないかとか、乗ってて面白いしょ。
馬場が重かったらゴール前でも止まるしょ。それで頭が入れ替わるのもばんえい競馬のいいところだよな。
そのかわり苦情は来る。そういう馬って全責任騎手にかかるから。
フクイズミは神経使う。ハイトップレディ(98年ばんえいオークス、ばんえいダービー、98年、99年、01年ヒロインズカップなど重賞8勝)もそうだったよ。山(第2障害)悪かったけど降りたら速い。
フクイズミ
--- そうだったのですね。それでは思い出に残る馬を教えてください。
まず最初に重賞獲ったキンテイオーね。2年目でダービージョッキーだぞ。
1年目は、馬はいたんだけどさすがにダービーは乗せてくれなかったんだ。
--- 重賞勝ちの欄に書かれていた「ばんえい優駿」は、今のばんえいダービーのことなのですね。現在も「キン」とつく馬が多くいますが、同じオーナーなのでしょうか?
違うよ。みんなキンってつけたら走ると思ってつけてくれって、ただそれだけで。
あと……スーパージャンディって馬がいたんだ。オープンも走ったんだけど、山で止まったら横の方に脱線するの。それを調教して調教して……。
障害降りたらゴールへはちゃんと走るの。で、差してくんの。それがおもしくてよ。結構稼いだんだぞ。
フクイズミみたいな感じだったんだ。
あとは大臣賞(ばんえい記念)だよな。
--- 今年3月のばんえい記念、ダイニハクリュウも頑張りました。
しんどかったわ。オープン馬じゃないから、周りからはゴールできないべ、なんて言われていたんだ。なんとかしてゴールまで行ったけど。今まで山上がれなかったオープン馬もたくさんいたんだから。無事にゴールまで行ってくれって……。
最初に(ばんえい記念で)乗ったのはヤマトニシキって馬で、3年目かな。
山行ったら遭難するような気持ちだ。山越えれない、って。心細くなる。それでもコツコツと、少しずつ上がっていく。普通なら味わえないレースだ。
2008年3月23日 ばんえい記念
--- では騎手になったきっかけを教えてください。すぐにはばんえいの世界に入らなかったんですよね。
親父が調教師(尾ケ瀬富雄調教師・元騎手)やってるし。馬好きだし騎手にもなりたかったけど、高校出てから札幌で仕事して。社会勉強っていうか……。競馬の世界も特殊だからね。ハタチになってからでいいかなって。
--- ご自宅も札幌ですからね。20歳を過ぎてこの世界に入りましたが、尾ケ瀬厩舎の厩務員になられたのでしょうか?
そのときは谷内厩舎。親父まだ騎手やってたからね。キンタロー(ばんえい記念3勝など、史上初の賞金収得額1億円を達成した名馬)乗ってる時期だ。
俺、入って2年くらいで親父は騎手やめて調教師になった。
騎手試験? 勉強しないで受けるんだもん……4〜5年かかったよ。
初騎乗の日2勝したんだよね。2戦目と最終勝ったの。
--- 初日から結構乗られていたんですね。そして騎手1年目は日本プロスポーツ大賞の新人賞を受賞されました。
あれ獲得賞金順なんだ。オートレースで俺より賞金高かった選手がいたんだけど、制裁受けて俺になった。俺、特別レース獲ってたから。あの頃、公営競技で地方競馬が受賞したのはじめてなんだよな。
その時中央競馬で受賞したのが藤田伸二。
--- JRA Dayのライデンロックとのコンビですね(笑)。
さて、尾ヶ瀬騎手は人気でも確実に勝つイメージがあります。馬の特徴などはどのようにして見分けるのでしょうか。
いやぁ、そうでもないぞ。あきらめないことかな?
(レース前に)落ち着きすぎてるやつもいるからね。それは気合いれてやらなきゃ。
馬は1回乗ればだいたいわかるよ。はじめて乗る馬でも稽古で乗るからね。この馬来るな、って。
番外編はいるけどね。攻め馬ではぐいぐい行っても本番で走らない馬とか。
逆に本番に強い馬いるよ。練習ではなんもわかってねぇような馬が、ゲート開いてからものすごい手ごたえあるな、って。そういう時は万馬券になるんだよな。ハハハハ。
昔からよく言ったべ。馬と女は乗ってみないとわかんないってよ。
--- ……。それを覚えて馬に乗るわけですね。
ではプライベートについて教えてください。趣味はなんでしょうか。
ゴルフ、温泉! 温泉治療だ。
動かしてるうちはいいけど、レース終わると緊張解けるのと、体も張るんだ。
--- メインレースを勝った時に、勝利者インタビューをしている大濱さんが持っている紙を見ているのが気になります(笑)。
いや、そんなこと……ないよ。カメラ見すぎても都合悪いから下向いて。照れてんだ。アップでこんな顔見てもよ。……質問してる人の方向かないとな。
--- 幕について教えてください。砂王と書かれていますね。
旭川の競馬好きなファンの方が作ってくれた。砂に強い王様にって意味じゃねぇのか?……違うのか?
--- そうだと思います(笑)。では最後に、ファンに一言お願いいたします。
生のばんえい競馬をまず見てほしい。
迫力が違う。(馬場が)重かったら止まったり、山も一気に越えないで、止まって、バイキ、よいしょよいしょって。
ばんえい記念はぜひ見てほしい。
好きな言葉は闘魂。普段の強気なレースもそうですし、話した時の雰囲気もその言葉がぴったりだと感じました。
質問にも一旦考えてからわかりやすく説明してくれる頭の良さはさすがトップジョッキー。信頼が置けるなぁ。
そしてふと見せるお茶目な一面にも、親しみを感じたのです。
取材・文・写真/斎藤友香