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ばんえいジョッキーファイル(9) 阿部武臣

第9回 努力と自信が呼び込んだ結果 阿部武臣

 今回は、今年に入って活躍が目立っている阿部武臣騎手です。

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--- 騎手になられたきっかけを教えてください。生まれは宮城県古川市ですね。きっかけは、近くで行われている馬力大会でしょうか?

 そう。古川でもあったし。近いから山形、岩手とか多かったかな。青森は遠かったからあまり行かなかった。
 じいさんが馬使って山で材木屋やってて。それでも俺が物心ついた時は同じ町には5頭位しかいなかったから……。
 初めて(馬力大会に)参加したのは小学校6年くらいかな。内地ってそりに乗らないで、口もってやるじゃない。中学生くらいから口持ちをやってた。
 中学生になってからかな、ばん馬で周っている家畜商を見て、周りの人にはじめてばんえい競馬があるって教えてもらった。

--- 宮城県出身の騎手は多いですよね?

 3人。(阿部騎手の他に安部憲二騎手、村上章騎手)でも3人もいたら多い方だよね。
 高校出てから、馬やるんだったら本場の北海道で勉強してからって思って。
 最初、騎手試験受けて受かれば騎手になれるって知らなかったから。2年目から試験受けて5年かかった。勉強しないで遊んでばっかいたから(笑)。

--- この頃は騎手試験を受ける人がたくさんいてレベルも高かったですからね。それにしても、家に戻って馬をするつもりで北海道に来られたのですか!
 では、思い出に残る馬を教えてください。

 まず、初勝利の馬(カツエコマ)と重賞の馬かな。

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2006年ばんえい記念(980キロ!)キタノコクホーのラストラン 

--- 重賞はキタノコクホー(02年銀河賞)と、記憶に新しいホッカイヒカル(08年柏林賞)ですね。

 キタノコクホーはね……厩務員の時から馬主さんと知り合いだったんだよね。
 町の飲み屋で会ってさ。良く行く飲み屋さんで、マスターが「こいつ内地から来て、遊んでばっかりいて騎手も受かんねーんだ」なんてしゃべってね(笑)。
 それから騎手になって、10キロ減(減量特典)なくなって乗れなくているときに、その馬主さんがさ、「俺は騎手がころころ変わるの好きでないからお前どうだ」って話が出てきて。(その馬主さんの馬が)2頭いたんだよね。ダイサンホウリュウっていう馬に最初乗してもらって。
 その頃、キタノコクホーってたまたまひっぱってなかった(結果が出ていなかった)んだよね。その頃ポンと乗せてもらったら、ぐあっと行って、それからずっと乗せてもらった。
 ホッカイヒカルは、ちょうど馬場が最適だったんだ。

--- それを読んだレースをしたのは騎手の腕ですよね。それを含めてここ最近ご活躍ですが、今までと違うと感じる点はありますか?

 余裕持って乗れてる。慣れてきて、辺りがよく見える。最初の頃は慣れた慣れたって言っても、周りの馬を端から端まで見れるようにはならない。
 それがこの人はどう乗ってるかとか、外からレース見ているのと同じ目線で見れるようになったかな。
 馬の癖を前より考えるようになったし。(自分が乗っている馬を)他の人が乗ってたらこの騎手はこうやってるとか、乗らない馬でもあの騎手はどうやって勝つのかな、って。
 1頭1頭の能力と、騎手の癖とか考えていくわけでしょ。この馬場だったらこうだとか、この馬はこのくらいの動きするから、とか。
 そうでもしないと勝ち鞍挙げていけないんじゃないかな。
 ビデオも見るし、あとは坂本さん(東一調教師・元騎手)にいろいろ聞いて。

--- 坂本調教師には、騎手時代からアドバイスをもらっていたのですか?

 やっぱりヨメさん(坂本騎手の娘さん)もらってから。
 アドバイスは……ちょっとしたことかな。他の騎手がやらないようなこととかを少しずつ。
 頭(1着)取っても怒られるし。あれじゃだめだっていうのはしょっちゅうあるからね。そうなってくれば、自分も考えて乗るようになるからさ。頭取っても面白くないっていうのあるからね。もうちょっときれいに勝ちたいとか考えて乗るようになる。

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--- 坂本厩舎所属で阿部騎手の乗る馬の中に、ファンの多いイケダガッツがいます。個性的なレースをする馬ですが(第1障害を1頭だけ遅れて通過するも、道中挽回して第2障害下では他の馬に並ぶ)、なぜでしょうか?

 レースでも走らない馬っているしょ?
 ああいう馬でも練習すれば走るんだよね。なんかの拍子に走ることが嫌になったとか……。
 イケダガッツももともとは走ったんだろうけど。それでも頑張ってるほうだよね。でももう年かな?
 ファン多いよね。独特だからね。あの体型で(笑)。

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イケダガッツ

--- 趣味を教えてください。

 魚釣り結構好きだね。海に行く。
 家族とか、騎手仲間とか。家は旭川だけど子どもはちっちゃいから競馬場にいるよ。4歳と2歳。家族サービスしつつ。
 最近日中暇な時間ができてきたから。今では厩舎の仕事はあまりやらない。

--- 騎手でも厩舎作業される方としない方とがいますが、ある程度乗れてくると厩舎作業はしないものなのでしょうか?

 うん、間に合わなくなるし。無理してやればやれるけど、乗る方に専念したいよね。それはみんな思ってる。
 乗れないとき、忙しい思いして厩舎作業やってたから……。

--- そうなのですね。坂本家族と一緒に出掛けたりするのでしょうか?

 坂本さんとはご飯食べるくらいかな。逆に、俺行かないで孫だけ連れてってもらって。
 もう孫にべったりなんだわ。初孫だしね、すごいよ(笑)。

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坂本東一調教師と

--- ところで、武臣騎手はいつもさやわかですよね(笑)。短い髪の騎手が多い中髪をなびかせて…

 茶髪だしね。年甲斐もなく(笑)。

--- いえいえ、素敵です。羽賀研二さんに似ていると言われませんか?

 羽賀研二ね! 言われる。最近また言われだした(笑)。昔から言われたんだよね。

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--- ところで、武臣さんって珍しい名前ですよね。由来は?

 死んだばあさんがつけた。どういう意味か聞いたことないんだけどね。

--- 武臣騎手は騎手の方からはタケと呼ばれていますが、テレビで「ばんえいの武」と言われていましたよね。どう思います?(笑)広めてみていいですか?

 (笑)いいですよ。


 とても楽しそうに競馬の話をするのが印象的でした。充実しているのでしょうね。写真を選んでいても以前と今年では表情が違うなぁと感じます。
 長い間の陰の努力が実を結び、自信と余裕という新しい武器を身につけたイケメンジョッキーに、あらためて惚れ惚れしてしまうのです。


取材・文・写真/斎藤友香

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