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やっぱり馬が好き(第44回) 旋丸 巴

名手の引退

 名手・坂本東一騎手が本気で恐怖の表情を浮かべたのは、12月30日、「坂本東一騎手・千葉均騎手引退セレモニー」でのことである。

 千葉騎手は病気療養中で欠席されたものの、坂本騎手の登場に観客は大興奮。花束を持って駆けつけたファンで表彰サークルは満杯。柵の回りも観客が鈴なり。と熱気に包まれたセレモニーで、しかし、若手騎手達が「胴上げしましょう」と言った瞬間、坂本騎手の表情がこわばった。

 「いいよ、やらなくて! このメンバー、本当に危険だってばぁ!」

 抵抗する坂本さん。しかし、そこは、日頃、巨漢馬を自在に操る豪腕騎手さん達。坂本さんを、ひょいと持ち上げると、そのスリムな体躯を中空高く舞い上がらせた。

 帯広競馬場に響く、坂本騎手の悲鳴!

 「わ~! やめれ~!」

華麗なる「坂本ジャンプ」
坂本 東一

 蝶のように舞い、蜂の様に刺す。正に坂本騎手のレース振りは、この通り。直線、ここぞという勝負どころで見せる華麗な「坂本ジャンプ」は美技中の美技。現役最年長ながら、昨年度ばんえい記念を制覇するなど、まだまだ華麗なる坂本ジャンプは健在。2600勝を達成し、現役最多勝記録を更新中。

 これは、以前、某団体に頼まれて書いた騎手紹介だけど、かほど華やかな坂本東一騎手が昨年末をもって引退されてしまった。調教師試験に合格されての勇退だけれど、寂しいのである、心底。

 坂本さんについては、拙欄でも何回かご紹介したけれど、生涯勝利数2681勝は現役最多勝。歴代ランキングでも、「ミスターばんえい=金山騎手」に次ぐ史上2位の堂々たる成績なのである。

 いや、しかし、勝利数は、この偉大な騎手さんの魅力のほんの一部でしかない。前述「坂本ジャンプ」など、大きなアクションで馬を追う、その姿は、ばんえいファンは勿論、ばんえいを知らない人々にも強いインパクトを与えた。しかも、そうした果敢な勝負師である反面、勝負が終われば、にこやかな笑顔で観客の心を魅了。殊に子供に対する優しさは格別で、色白、面長、切れ長の目、という精悍な面立ちが、しかし、幼い子を見ると一瞬にして柔和な笑顔に変貌する。

 バックヤードツアーに参加した子供に、坂本さんが、わざわざ歩み寄って「応援してね」と握手しているところを間近で目撃したことがあるけれど、この名手から滲み出る自然な温かさは、一種独特の雰囲気を醸して、余人の真似できるものではなかった。

 昨年、念願のばんえい記念制覇を果たした坂本騎手。その時の勝利馬トモエパワーが、今季に入って長らくのスランプの後、9月30日、ようやく岩見沢記念を勝った時には、勝利騎手インタビューで曰く

 「いや、調教師が『いつ勝つんだ、いつ勝つんだ』って、うるさくてね」

 かような、お茶目なコメントでファンを爆笑させた。

 共に引退した千葉均騎手も、馬に頭部を蹴られるなどの大事故に遭い、近年は体調を崩しがちであったにも関わらず、通算2106勝を挙げた名手。派手ではなかったけれど、その職人芸とも言うべき騎乗は、正に「いぶし銀」の技であった。

 そんな、格好いい、優しい、時に、お茶目な坂本さんと、いぶし銀の職人=千葉さんが引退してしまうなんて……。
 
 明けてお正月、競馬場で出会った友人がポツリと一言。

 「本当に、坂本さんも千葉さんもいないんだね」

 そんなこと言われて、思わず目の奥が熱くなってしまったけれど、いやいや、リーディングジョッキー鈴木勝堤さんを初め、百戦錬磨の名手が居並び、NAR新人賞獲得の西謙一騎手など未来のスターも登場した、ばんえい界。坂本さんの華麗さを、千葉さんの渋さを、それぞれに継承してくれるだろう。

 だから、寂しくったって、悲しくったって、私は……、私は……、泣かないぞ~! ひっくひっく。

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坂本東一騎手引退記念レース

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